宇宙でのヒト生殖に挑戦するSpaceBorn United、低地球軌道で動物を使った懐胎実験を計画中

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SpaceBorn の ARTIS ミッションを率いる David Cullen 氏

人類が月面に着陸した1969年からはや50年が経過しました。1998年から活動している、さまざまな分野で科学研究を行う微小重力と宇宙環境の研究所である国際宇宙ステーション(ISS)や、2000年に入ってから前澤友作氏をはじめ20人弱の人が宇宙旅行に行くなど、これまでも地球外活動は頻繁に行われてきました。

しかしこれからは、SpaceX の CEO Elon Musk 氏が2030年には火星に基地を作ると発言したことや、アラブ首長国連邦(UAE)が2117年までに火星に街を作り、人類を居住させる計画があること明かしたことからも、生活の基盤となる場所として宇宙を見る時代がやってくることは間違い無いでしょう。

居住するとなると、大気や気温、食糧、そして住居など人間が生きていく上での根幹を抑えられるかは重要です。アメリカ航空宇宙局(NASA)やESA(ヨーロッパ宇宙機関)や民間企業も、今はまだこの部分に中心的に研究を行っています。しかし、今生きている人間が生活を継続できるという条件だけでは移住が現実的とは言えません。人間は宇宙で繁殖が可能なのか。この疑問に答える必要があるのです。

今回紹介するオランダのスタートアップ SpaceBorn United は宇宙の繁殖の方法を開発するディープテックスタートアップです。CEO の Egbert Edelbroek 氏は、7年前に体外受精(IVF)のドナーとなった経験から生殖技術に興味を持ち、これが宇宙でも機能するか解明するために2017年に SpaceBorn を設立しました。現在、19人の専門家と協力して、宇宙での妊娠の全工程を可能とするための研究・開発をしています。

宇宙での生殖には宇宙放射線や胚の発育における微小重力の影響などの課題が多く存在します。これに対して同社が目指す解決の方針は至ってシンプルで、地球と同じ環境を作り、人間の生殖細胞を宇宙に送って受精させ、人工重力を使用して発展させようとしているのです。そのために宇宙での倫理的および医学的リスクを考慮した IVF の小型化バージョンと胚培養器を開発しています

同社の CD-ROM サイズのプロトタイプは、マイクロ流体技術を利用しており、回転させることで、成功した胚の発育にとって重要な要素である地球のような重力を再現できるだけでなく、IVF に必要な機器を大幅に削減することができるものとなっています。

同社は当初、火星の部分的な重力での人間の胚の発育の実現性を探求していたましたが、地球上の IVF 技術の向上に焦点を当てるようになった結果、現在のプロトタイプに辿り着きました。このプロトタイプは、近い将来宇宙に打ち上げられる予定で、ARTIS(宇宙での補助生殖技術)ミッションの一連として、宇宙で動物を懐胎するための技術を低地球軌道に送る計画が発表されました

今後行う必要のある人間の胚を使用した実験には、多くの議論が起こるでしょう。研究の進行には、国際的な法的・倫理的基準の遵守が求められるなど規制上の障壁や技術的な課題があるものの、同社の研究と開発は人類が宇宙における長期的な生活を確立するための重要なステップとなるでしょう。

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