建築士やデザイナーのペインを解消、建材サンプルおまとめ取り寄せ「Material Bank Japan」が正式公開

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「Material Bank Japan」
Image credit: Design Future Japan

近年、2024年問題に関連してロジスティクスの逼迫が叫ばれているが、それでも、Amazon や楽天は、一定条件下であれば、商品を翌日には配達してくれる。これを可能にしているのは、全国各地に配置されているロジスティクスセンターの存在だ。筆者は先日、たまたま出張中に愛用しているプロテインを切らしてしまい Amazon で発注したところ、いつもとは違うセンターから配送され、翌日には宿泊先の受付に届いていた。つまり、同じ商品でも、在庫のある最寄りのセンターからの配達が自動的にディスパッチされる。

B2C については、こうしたロジスティクスの工夫のおかげで翌日配送は一般的になりつつあるが、アスクルなどの事例を除けば、B2B でこれを実現するのは難しい。おそらく、B2B となると SKU が多くなり過ぎるので、超ロングテールな商品のバリエーションについて、複数のロジスティクスセンターで在庫を持つのは採算に乗りにくいからだろう。しかし、B2B であっても、客は頼んだらすぐに製品を手に入れたい。これを建材サンプルの世界で実現したのが Material Bank だ。

Image credit: Design Future Japan

Material Bank はアメリカでスタートしたサービスで、一昨年に1億米ドルを調達した際 GB Universe が取り上げている。日本にも参入しないのかなと思っていたところ、昨年末、Design Future Japan(以下、DFJ)が「Material Bank Japan(以下、MBJ と略す)」を始めた。DFJ を創業したのは、NTT データでエンジニアやコンサルタント、ソフトバンクの社長室でグループの戦略企画に携わった中沢剛氏だ。DFJ の前、中沢氏はオンライン接客の UsideU(2021年6月、ヒト・コミュニケーションズが買収)で CIO を務めた。

DFJ は、アメリカの Material Bank からは出資を受けているものの、ベンチャーキャピタルからの調達の有無を含め、詳しい資本構成については非公開とのことだった。おそらく、この種のサービスの場合、特定の企業からの出資を受けていることが明らかになると、その競合社をプラットフォーム参画に呼び込みづらいことがあるので、そうしたケースを懸念しての配慮だろう。同社が十分に成長したときか、上場するときには、必然的に開示されることになる。

Material Bank Japan の建材サンプルの詰め合わせ
IImage credit: Masaru Ikeda

さて、MBJ のサービスだが、基本的にアメリカで提供されているサービスの日本版だ。建築士、空間デザイナーなどは、建築主から建設やリノベーションの注文を請け負うと、設計と同時に、実際に使う建材の吟味を始める。建材にはカタログは存在するものの、テクスチャー、重み、耐久性、つや感などは実物を見る必要があるため、メーカーに建材サンプルの発送を依頼することになる。すると、各建材メーカーからバラバラにサンプルが届くことになる。この状況は、ロジスティクス面から言っても非効率極まりない。

そこでメーカー各社にプラットフォームに参加してもらうことで、異なる複数のメーカーからの建材サンプルをまとめて建築士やデザイナーの元に届けるのを実現したのが MBJ だ。メーカーから MBJ が倉庫に預かった建材サンプルを、メーカーに代わって MBJ がまとめて発送するため、梱包や配送などで生じる環境負荷は従来の7割程度カットできる。10月12日時点で、200ブランド5万SKU以上の建材サンプルを扱っている。筆者が8月に取材した際、β版に参加している建築士やデザイナーは1,000名程度とのことだった。

中沢剛氏
Image credit: Design Future Japan

アメリカにはアーキテクトやデザイナーが11万人いるのですが、その過半数が Material Bank を使っています。彼らの現在の取扱ブランドは500くらい。我々は、アメリカの Material Bank が持っているシステムやノウハウをすべてシェアして使えるようになっています。

日本にはアーキテクトやデザイナーが20万人います。あらゆるものがデジタル化されていく中で、建築デザインの世界では、実物を目で見て手で触ることが、デザインプロセスに含まれているのは大きい。サンプルはデジタル化できないからと半ば諦め、そこからペインが解決されないまま来てしまいました。

我々のサービスは、アーキテクトやデザイナーの声を拾い上げられるものになりました。(中沢氏)

MBJ ではアメリカ本家と同様、建築士やデザイナーは費用を取られることなく、サンプル建材を請求できる。ビジネスモデルとしては、MBJ がマーケティングの代行と建材サンプルの代行発送を請け負っていることによるメーカー側からの収入だ。MBJ に参加すれば、建材メーカーは極端な話、自前の倉庫やショールームを省くことができる。場合によっては、カタログの制作やセールス人員の配置も節約できるだろう。従来の販売方式にかかっていたコストと天秤に掛け、MBJ の方が割に合うと判断するメーカーは増えているようだ。

MBJ の最大のバリューポジションは B2B 向けのキュレーションという機能であり、間接的には環境問題への配慮を、MBJ はもとより、プラットフォームに参画するメーカー各社も謳うことができる。さらに MBJ が特徴的なのは、スタートアップビジネスにありがちな「競合と戦う」という構造がどこにも存在しないことだ。メーカーは手間とコストが減り、建築士やデザイナーは便利になり、結果として地球環境にも今までより良い影響を与える。どこにも敵を作らないイノベーションに出会って、久しぶりに感動を覚えた。

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