完全再利用可能なロケット「Nova」を開発、宇宙スタートアップの新旗手Stoke Space

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「Nova」
Image credit: Stoke Space

宇宙市場にロケットを主体的に開発する民間企業が参入してから20年以上の時間が経過しました。代表的な企業として Elon Musk 氏が率いる SpaceX や Jeff Bezos 氏が設立した Blue Origin、日本にもアジア初の商業宇宙港「北海道スペースポート」の中心として超小型衛星打ち上げ用の小型液体燃料ロケットを開発するインターステラテクノロジズなど、世界中に多くのプレイヤーが存在します。

宇宙開発から宇宙ビジネスへの動きが本格化する中で、輸送コストは常に話の中心です。宇宙旅行にせよ、新しい衛星を上げるにせよ、ISS(国際宇宙ステーション)に行くにせよ、宇宙への移動手段がボトルネックとなっていては話が進みません。

打ち上げコスト100分の1を目指して、再利用ロケット「Falcon 9」の商業化を達成したのが SpaceX でした。最大の特徴は、打ち上げ後に第1段のブースターを指定の場所に着陸させて回収し、繰り返し再使用できるという点です。2015年12月22日に、地上の着陸場にブースターを着陸させることに成功し、2016年4月8日にはドローン船への着陸にも成功しています。

当然、SpaceX が達成した再利用ロケットの実現は偉業です。しかし、今回紹介するスタートアップは、この偉業を超えて、完全再利用可能のロケットの実現を目指しています。

現在、Facon 9の打ち上げではブースターの再使用が当たり前となっており、民間企業やアメリカ航空宇宙局(NASA)や国防総省なども、自分たちの衛星の打ち上げを同社に委託する際、ブースターの再使用による打ち上げを認めています。

特に NASA は、かつては再使用はリスクがあるとし、有人宇宙飛行においては新品のブースターでのみ飛行を許可する方針でしたが、その後、考えをあらため、再使用機体での打ち上げを認めるようになり、今年4月の星出彰彦宇宙飛行士らを乗せたクルードラゴン宇宙船(Crew-2)の打ち上げで、実際に再使用ブースターが使われました。

ワシントン州を拠点とするロケットスタートアップ Stoke Space は、宇宙産業における再利用可能なロケットの開発をしています。SpaceX の一部再利用ではなく、完全に再利用可能なロケット「Nova」の開発を目指している点が特徴です。同社は今月、新たに1億米ドルの資金を調達したと発表しました。この資金調達は、Industrious Ventures がリードし、多くの著名投資家が参加しています。

Image credit: Stoke Space

2019年に設立された Stoke Space は、これまでの短い期間で、再利用可能なロケット技術の開発における重要な進展を遂げてきました。同社は、これまでに合計で約1億7,500万米ドルの資金を調達しており、その中には2021年12月にクローズした6,500万米ドルのシリーズ A ラウンドも含まれています。

今回新たに調達した1億米ドルの資金は、初のロケット「Nova」の開発に使用される予定です。このプロジェクトには、第一段のエンジンと構造、第二段の軌道バージョンの開発、そしてフロリダ州ケープカナベラルでの打ち上げインフラの構築が含まれています。

Stoke Space は、再利用可能なロケット技術の開発において、独自のアプローチを採用しています。数週間前には、同社はロケット推進プロトタイプ「Hopper2」の低高度打ち上げを成功させました。Hopper2は、約30フィート(約9メートル)まで飛行し、15秒後に成功裏に着陸しました。この成功は、再利用可能なロケット技術の実現に向けた大きな一歩となりました。

Stoke Space の共同創設者で CEO の Andy Lapsa 氏は、完全に再利用可能な上段と宇宙車両の開発が、同社の旅の最初のステップであると語っています。彼は、再利用可能な第二段階の技術を確立することが、全体のロケット開発の鍵であると考えています。そして、その基盤が確立されれば、車両の残りの部分の開発も進めやすくなるとの見解を示しています。

「Hopper2」と Stoke Space の皆さん
Image credit: Stoke Space

Lapsa 氏は、2025年までに軌道に到達することを目指すと明言しており、そのための準備として、現在は第一段のエンジンのコンポーネントレベルのテストと構造の構築に取り組んでいます。彼は、完全な軌道機の開発が急速に進行していると述べており、内部的な目標として設定している2025年よりも前に、実際の打ち上げが行われる可能性も示唆しています。

Stoke Space の取り組みは、宇宙で人類の活動を拡大し、新しいフロンティアを探求するための重要なステップとなる可能性があります。宇宙産業における再利用可能なロケット技術の開発は、コスト削減や環境への影響の軽減など、多くの利点をもたらすと期待されています。Stoke Space のような企業がこの分野での研究と開発を推進することで、その可能性が現実に近づくことは間違いありません。

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