119億円販売、NOT A HOTELが独自暗号資産を販売へーー”NAC”登録へ向けGMOと協議開始

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メディア向け説明会が開催されたNOT A HOTELのNFT会員向け拠点(場所は秘密)。

ニュースサマリー:ホテルブランドの開発・運営を手がけるNOT A HOTELは11月7日、独自の暗号資産となる「NOT A HOTEL COIN(NAC)」の販売開始に向け、検討を開始したことを発表した。イニシャル・エクスチェンジ・オファリング(IEO)と呼ばれる手法で、暗号資産取引所のGMOコインとの間で新規暗号資産販売検討に関する覚書を締結したことを受けてのもの。

日本国内においては、実質的に金融庁の登録を受けた暗号資産交換業者が用意するホワイトリストやグリーンリストに掲載されている暗号資産のみが取引可能になる。今回のNACについても、審査を経て承認された場合にのみ一般売買が開始となる。時期や審査の承認見込みなどについては未定。

NACはNOT A HOTEL100%子会社のNOT A HOTEL DAOが手がける。NACが承認された場合、ユーザーはNACを取引所で購入することができ、そのNACをNOT A HOTEL DAOに一定期間預ける(ステーキング)することで二つの権利(報酬)を得ることができるようになる。ひとつはNOT A HOTELへ宿泊できる権利で、もうひとつがNACを受け取れる権利。これらの権利はステーキングしている期間は受け取ることができるので、NACを預けたまま、何度も宿泊権利を得ることもできるようになる。詳細は今後、ロードマップやホワイトリストなどを通じて開示される予定。なお、株式会社の形式で設立された同社は今後、自立分散型の運営組織へ移行することも検討される。

一方、NOT A HOTEL DAOでは集まった資金を、NOT A HOTELの所有権や新規開発にかかる土地の購入に充てる。これらの資産を活用して得られた収益をNACユーザーに還元することで、ステーキング時の宿泊権やNAC報酬を実現するとした。保有する資産の状況はアプリでいつでも確認することが可能となる。

NOT A HOTELの創業は2020年4月で4期目を迎える。現在のオーナー数は337名でNFTを通じた分散型の権利購入者は350名。販売総売上は119億円に達した。現時点で7拠点が開業・販売開始しており、北軽井沢の「KITAKARUIZAWA IRORI」群馬県みなかみ町の「MINAKAMI TOJI」、石垣島の「ISHIGAKI」などが開業に向けて準備を進めている。

建設に入った「KITAKARUIZAWA IRORI」。全てCGで販売してから建築に入る。

話題のポイント:僕らの濱渦伸次さんがまたやってくれました。独自トークンの販売です。まだまだ協議開始したばかりなので承認されるかどうかは全くわからないですが、メディア向けの説明会で話を聞いた感じだと結構細かく設計を進めている印象でした。

暗号資産とかWeb3とかそういう文脈で語るとわかりにくいですが、クリプトやブロックチェーンを使ってこれまであった仕組み(特にREIT・不動産投資信託)をうまくアップデートしている印象がありました。本稿では濱渦さんたちが何をやりたいのか、どこを目指しているのかを中心に解説してみたいと思います。

8億円売ったNFT会員権の問題

NFTをさらに細分化したNAC

トークンの販売目的は大きくは二つで、ひとつは資金調達、もうひとつはユーザーの細分化です。NOT A HOTELはどうしても富裕層ビジネスに見えるので(現時点では実際そうですが)投資家・金融機関からドンと借りて建物建てて、お金持ちさんに売って・・と考えがちなんですが、どうも濱渦さんはそれだけで考えてないんですよね。以前の取材でも度々、この件はコメントしています。

ーー宿泊利用からNFT会員、分譲までグラデーションができた、と

濱渦:僕らって富裕層向けビジネスじゃないんですよ。僕ら「すべての人にNOT A HOTELを」というミッションを掲げていて、今回、見ていただいたMasterPieceって7億2,000万するんです。まずはそれを12分割にして5,900万にしたら別荘を持てるという「別荘の民主化」をやったんです。そしてさらに150万円のNFTは47年間泊まれるので、1泊にすれば大体3万円ぐらいになるじゃないですか。宿泊できる場所もランダムだし日付もランダムだけど、あの場所に3万円で泊まれる可能性があるわけですよね。(僕らは別荘を民主化するーーNOT A HOTELの地域貢献インパクトと「NFT会員証」の手応え(3)

この「民主化」っていう言葉が鍵で、この時の取材でも濱渦さんは一般的なラグジュアリーホテルで稼働率10%で30万円するんだったら全部稼働させて1泊3万円にした方がいいじゃんと言及しているんです。住む場所も同じ考え方で、別荘で空いてる期間があるんだったらそこを埋めた方が効率が良いと。それをいろんな手法で実現しようとしているのが彼らなんです。

そこで最初に取り組んだのが分割所有(シェア買い)で、その次がNFTでした。会員権としてNFTを発行し、NOT A HOTEL側で空いている部屋をランダムな日程で会員に提供するというもので「空室を埋める」という点では成功したようです。実際、119億円の総売上の内、約8億円はこのNFT会員権だったそうで、この実績からGMOコインと今回のIEOに向けた協議が始まったというお話でした。NFTの考え方や仕組みについてはこの辺りの記事ご覧ください

ただ、このNFT会員権、年1日だけ泊まる権利を47年間に渡って販売するという「宿泊チケット」みたいな考え方だったので、価格もNAH(白いカード)で125万円、NAHE(黒いカード)が475万と、まとめて一般家庭が購入するにはやや高額だったんですね。そこでさらに「住の民主化」を進めるため、今回の暗号資産ではこれをさらに細分化して流動性を持たせる展開にした、というわけです。

暗号資産の方がよい理由と投機筋の課題

NACホルダー向けにDAOコミュニティも構築される予定

冒頭にも触れましたが不動産投資の情報をお持ちの方であれば、このスキームがREIT(不動産投資信託)などに似ていると思われたかもしれません。投資家から集めた資金を不動産に投資して収益を分配する方法です。NOT A HOTELのNACは集めた資金で新規開発・物件運用をした利益を宿泊権利やNACとして還元するのでスキームとしてはREITを暗号資産でアップデートしたと考えてよいでしょう。

REITとの違いは株式にも似た要素を持っている点です。

ユーザーがNACを購入すれば資本がNOT A HOTEL側に入り、新規物件を建てることができます。NOT A HOTELのオーナーやNFT会員、NAC保有者は宿泊できる場所が増えるので全体の資産価値は向上します。また、これまで暗号資産で曖昧だったトークンあたりの利益についてもNOT A HOTELはP/Lの構造を事業として持っているので算出が可能になります。つまり、時価総額に根拠(株式の場合は一株あたりの利益とPERを掛けた総額)が出ると同時に、還元の原資も説明がつくことになるわけです。

さらに暗号資産なので取引所で交換ができます。初期のホルダーはステーキングした報酬として宿泊権利や還元されたNAC分を上乗せできると同時に、増えた時価総額のタイミングで売却も可能です。この辺りは株式の優待や配当、売買とよく似た構造です。おそらく、現在の暗号資産・ビットコインのように短期の値動きというよりは長期、数年から10年単位でのホルダー向け商品となることが予想されます。

ちなみに気になるのが投機筋の介入です。NACがあまりに値上がり・値下がりするボラティリティの高い状態になると、NACにペッグされている宿泊権利という「リアル資産」の調整が難しくなります。この辺りについて濱渦さんは、一定数の流動性を持たせるために必要と説明しつつ、場合によって焼却(バーン)などの手法で調整するというお話でした。ちなみにこのNAC、上限のない無限発行で新規に発行する場合は希釈化しますから、都度説明会などの開示をする予定ということです。

本件については別稿で濱渦さんのインタビューも掲載しますのでご期待いただければ。

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