僕らは別荘を民主化するーーNOT A HOTELの地域貢献インパクトと「NFT会員証」の手応え(3)

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NOT A HOTEL 代表取締役の濵渦伸次さん

前回からのつづき。ようやく全貌を表したNOT A HOTELについて、宮崎県青島にオープンした「NOT A HOTEL AOSHIMA」の現地レポートをお届けしました。NOT A HOTELのモデル、スマート化された理由、NFT会員のアイデアなど、既存のテック・スタートアップとは一線を画す内容だったと思います。本稿では会見の合間を縫って時間を作ってくれた濵渦伸次さんに開業の手応えをお聞きしてきました。

30年間の「空白地」が復活した

一通りのお披露目会見を終え、ビール片手に取材場所にやってきた濱渦さんは私にひとつ、写真を見せながらこの場所の話から始めてくれました。

「隣にホテル(※青島グランドホテル)あるじゃないですか?あれより古い、めちゃくちゃデカいホテルが建っていて、それがこの廃墟に30年間放置されていたんです。それを取り壊し、さらに前の会社が事業撤退してしまい、ずっとこの空き地のままだったんです。ほら、木が1本も生えてないでしょ。それを掘り返して土を変えて植物を植えたんです。システム投資じゃなくて植物に4億円も投資しました(笑」。

お披露目会には宮崎市の清山知憲市長や副知事さんなど地元の方が70名ぐらい来られていたのですが、みなさんやはりここが30年間の「空白地」であったことに触れられており、地元への貢献を濱渦さん含めて喜んでいる様子が印象的でした。テック・スタートアップにはなかなか見られない光景です。

30年間空き地だったNOT A HOTEL AOSHIMA

ーー多くの方がやってこられてましたね

濱渦:とにかく地元にかっこいい施設を作りたかったんです(笑。

ーー笑。実際に建ててみて、どうですか、場所の感覚は。思った通りでしたか

濱渦:ちょっと外れているけど、魅力的な場所はかなりあると思っています。普通のホテルって観光の一等地にしかできないんですが、今回の宮崎や那須などでいい土地を探していくと、地元の人が応援してくれるんです。今日もたった6室のオープンにこれだけの人たちが集まってくれました。

大事にしてるのは到着から30分以内、空港や新幹線の駅からの時間が大事だなと思っていて、空港に着いて1時間と言われるとちょっと考えてしまう。ここも空港から車で15分ぐらい。那須も新幹線で1時間、そこから車で30分です。なので今は都心から車で2時間以内を重点的に作りたいと思っています。実は石垣島も空港から車で10分なんですよ。

ーーその一方で建てただけでなく、ビジネスとしての足元が手堅いのも濱渦さんの特徴ですよね。見通しはどのようなものですか

濱渦:僕ら全部でここに30億円ぐらい投資しているんですね。那須が大体20億円ぐらいで、なんだかんだ合わせて60億円投資してるんです。エクイティで20億円集めて販売で47億円売りました。初年度、今期上半期で47億円が計上されていて、今期だけで数億円の利益が出ています。

事業開始の初年度から黒字にするとやってきたんですが、ちゃんと地元にも貢献できた。土地を買ってもちゃんと利益が出るのは、全部「バズ」で売ったからなんです。通常、こういう会員制リゾートで販売経費は10%程度なんですが、僕らはそれが0.6% ぐらいなんです。だから原価率が高くてもそれが完売するとちゃんと利益が出るモデルになっているんです。

垂直統合モデルで「1,000名体制」も視野に

70名ほどの地元の方と報道陣が詰めかけた

ホテルを建てただけでなく、NOT A HOTELのモデルでは利用者の見込みもついてくるのが特徴です。分譲を購入したオーナーはプライベートはもちろん、ビジネスでの利用もあるでしょうし、なにより使わない時にホテルとして出すこともできます。筆者はホテル利用における雇用創出がどの程度になりそうか尋ねてみました。

ーー地元貢献のひとつとして雇用がありますが、どういう人たちが働くことになりますか?

濱渦:ここは地元との協定でレストランをやる必要があったりするので他の場所とは少し雇用の状況が変わりますが、通常であれば1部屋に1人から2人ぐらいの配置ですね。それと去年、10人で上場するって言ってたんですけど、全力で謝りたくて。去年7人だったのが今、90人ぐらいになってます。1年半でそれだけ組織人員を増やすスタートアップも少ないと思うんですけど、今は清掃スタッフも含めて内製化していこうと思ってるんです。

ーー地元の企業と合弁ではじめたホテル運営会社を子会社化した件ですね。なぜ方向転換したのですか

濱渦:体験をよりよいものにするために「垂直統合」するのが本当にイノベーションだと思っていたんですが、実は、この件で大きかったのはNFT会員証なんです。僕ら、オーナーさんに販売しているじゃないですか。47億円分を販売したのはいいけれど、じゃあ使われない場合にどうするんだという課題があって、そこをNFTが埋めてくれたんですよ。

NFT会員証はあくまで利用権で、それで日付指定をするのが面白いポイントになっています。これを僕らは「偶然を旅する日に変えよう」というコンセプトで提供したのですが、ビジネス的に言うと日付をこっち側の裁量で埋められるので稼働率を上げることができるんです。それだったら垂直統合した方がいいよね、ということで運営のスタッフもすべて内製化する判断をしたんです。

隣には海の家「ビーチパーク」が広がる

NOT A HOTELのレポートでも書きましたが、この別荘はホテルへの転用ができることで「私物問題」というちょっと変わった課題を持っているんですね。オーナーさんが私物を入れておくオーナークローゼットはありますが、そもそも置き忘れたりすることは確実にあるでしょう。そういう場合、そこの清掃スタッフが対応することになると思います。

こういった対応をするスタッフが外部の事業者の場合と内製化されたチームでは、やはり体験は随分と変わってくるはずです。濱渦さんは内製化を進めることで、ドミナント的にある一定エリアを集中的に広げることも可能と話していました。これを地域ごとに日本全体で展開する。10人で上場すると言っていた濱渦さんですが、スタッフまで全て内製化すれば1,000名規模の体制もすぐに見えてくるかもと笑顔で話していました。

NFT会員証の手応え

NOT A HOTELのNFT会員証

今回のレポートでは全編に渡ってNFTのアイデアについて触れてきました。結果がまだ出てない状態であるものの、フィジカルな権利と紐づいて実際に実行したケースは国内ではここだけだと思います。NOT A HOTELのアイデアをさらに確固たるものにしたNFT会員証について濱渦さんは意外な効果を教えてくれました。

ーーNFT会員証の手応えは?

濱渦:表現が難しいんですが、需要が「深い」。そして競合がいない。こんなに面白いマーケットってあるんだと思ってて、この前、NFT会員の方を集めてNFTのリビールパーティー(※)やったんですよ。名刺交換させてもらうと、本当に一般のサラリーマンの方とか、市の職員の方とかいろんな方がいらっしゃったんですね。NOT A HOTELを分譲で買っていただいてるオーナー層って本当に一部の方々だと思うんです。

※リビール:絵柄などが表示されるNFT独自のイベント。これによって価値が左右されるプロジェクトもある

けれど、このNFTをやったことでめちゃくちゃ広がったんです。それとこの振れ幅が面白い。NOT A HOTELを利用できる権利って150万円(NFT会員証・47年間毎年1回、1日ホテルとして利用ができる)から上が6,980万円(1カ月のシェア購入の最高額)まで幅ができたので、ここの間をちゃんと埋めていけばマーケットってものすごく広いなと思ったんです。

ーー宿泊利用からNFT会員、分譲までグラデーションができた、と

濱渦:僕らって富裕層向けビジネスじゃないんですよ。僕ら「すべての人にNOT A HOTELを」というミッションを掲げていて、今回、見ていただいたMasterPieceって7億2,000万するんです。まずはそれを12分割にして5,900万にしたら別荘を持てるという「別荘の民主化」をやったんです。そしてさらに150万円のNFTは47年間泊まれるので、1泊にすれば大体3万円ぐらいになるじゃないですか。宿泊できる場所もランダムだし日付もランダムだけど、あの場所に3万円で泊まれる可能性があるわけですよね。

青島の観光にどのような影響が与えられるのか

ーーさらに別荘の民主化が進む

濱渦:旅行って今まで「資産」として考えたことってなかったと思うんです。一般的なラグジュアリーホテルって稼働率が10%とかしかないんですよ。例えば1泊30万とかするような部屋も稼働率が1割だったら残り9割のコストを負担してることになるわけです。僕らは1泊を3万円にする代わり、稼働率を100%にする。一番小さい部屋でも200平米あって、それが3万円換算で利用できる。そういう体験を作りたかったんです。

ということで3回に渡り、NOT A HOTELの現地レポートをお送りしました。実はまだまだ次の一手が待っているのですが、その内容はまた次回ということで、引き続きこの稀有なスタートアップの話題をお届けしていこうと思います。

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