創業2年で60億円投資「NOT A HOTEL」がいよいよ船出、規格外スタートアップの誕生を振り返る(1)

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敷地内のレストランLDK

ニュースサマリ:あのNOT A HOTELがいよいよオープンの日を迎えた。ホテルブランドの開発・運営を手がけるNOT A HOTELは10月3日、宮崎県青島にて「NOT A HOTEL AOSHIMA」の竣工披露式典を開催。昨年9月に物件権利が販売されたもので、2棟に分かれた6室が報道陣や関係者に披露された。

NOT A HOTELはアプリで自宅とホテルを切り替えし、貸し出すこともできる「ホテル兼住宅」物件。1カ月単位からの「シェア買い」が可能で、物件オーナーはリゾート物件を最大12人で分割できるほか、自宅・別荘として使わない期間をホテルとして貸し出せるため、保有資産を無駄なく活用することができる。また、ホテル利用する側のユーザーには会員制度として「NFT会員権」が用意されており、この会員証を保有するユーザーは1年に一回、ランダムに割り当てられた日に滞在することができる。さらに使わない場合はNFTとしてマーケットプレイスで別の人に譲ることもできる。

NOT A HOTEL AOSHIMAは、最も小さい140平米の物件で1カ月単位の価格は2580万円から。既に完売しており、ホテルとしてのオペレーションは合弁会社として設立した「NOT A HOTEL MANAGEMENT」(※)が担うことになっている。

※補足:同社広報の説明によると、合弁会社として設立されたNOT A HOTEL MANAGEMENTは現在、NOT A HOTELの100%子会社になっています。追記の上、補足させていただきます。

話題のポイント:実際に現地で取材してきました。結論から言うと想像以上でした。本稿ではNOT A HOTELという奇跡的なスタートアップのこれまでと現地での体験、濵渦伸次さんに聞いた今後の展開に分けてお届けします。

NOT A HOTELを立ち上げた「ヤバい」面々

一般的な受付がないため、レストランLDKが敷地内の中心的な存在感を示す

現地写真と共に、まずはこれまでの歩みを過去の記事と併せて振り返りたいと思います。

NOT A HOTELの創業は2020年4月。創業者の濵渦さんは2007年にSaaS型コマースプラットフォーム「アラタナ」を創業した人物です。2015年にZOZOに企業売却してグループ入りし、子会社役員を経て2021年3月に退任、翌月の4月に同社を創業しました。濱渦氏以外にも個人投資家のほか、ANRI、GMO Venture Partners、SMBCベンチャーキャピタルが初期の出資者として事業に参加しています。

NOT A HOTELは別荘の「所有」とリゾートホテルの「宿泊」を組み合わせることで、空室の無駄がでない別荘/ホテルを実現しようというものでした。分譲している別荘を使わない日に他人に貸し出せば「稼働率100%」のリゾートホテルができていいじゃん、というわけですね。アイデアは極めてシンプルですが、それを実現するとなると話は別です。

創業時の濱渦さんは不動産事業経験ゼロ、過去のスタートアップとしての経歴をみても、大型の調達をバーンとかましてデカく突っ込むようなタイプの起業家ではありません。どちらかというと静かにコツコツ積み上げて静かに狂った感じに燃えていくタイプ、そういう印象を持っていたのを思い出します。

立ち上げの破茶滅茶ぶりはこちらの過去インタビューをご一読いただくとして、何よりすごいのは何も建っていないアイデアだけの段階で、那須や宮崎に16万坪の土地買うという話に乗った投資家たちです。さすがの金融機関もトラックレコードがあるとはいえ、濱渦さんの勝負に乗ることはできなかったそうなのですが、そこを支えた投資家はさすがというか、濱渦さんは折に触れてANRIは「いい意味でヤバかった(笑」と振り返っています。

2年で60億円投資、この勝負のゆくえ

NOT A HOTELの客室

さて、そんな船出のNOT A HOTELですが、特徴を整理すると次のようなものになります。

  • スマホアプリでホテルと住居を切り替え可能、空いてる時は貸し出せる
  • スマホで買える分譲物件、12カ月のシェア買い可能
  • CGだけで完売、ショールームなしの完全デジタルネイティブ販売モデル
  • スイッチなしのスマートホテル、NFT会員証も販売開始
  • 福岡にはフランチャイズ展開のモデルも、などなど。

現在販売されている物件の販売はすべて完了していて、調達金を合わせた約60億円を那須・青島の2拠点に投じました。完売しているので創業2年目ながら通期は黒字化しているそうです。

訂正補足:記事初出時に通期黒字化と記述しましたがまだ期中で正しくは「事業開始初年度の通期黒字見通し」です。訂正して補足させていただきます。

特にデジタル化を徹底的に進めたことと、スタートアップ的な話題性で広告宣伝費を物件価格の1%以下に抑えられたのは経営的にもプラスだったとお話されていました。周囲の人気や今後の需給バランスを考えてもしばらくこの状況は続くのではないでしょうか。

アイデアから2年半。実際にできたNOT A HOTELは当初の想い通り「普段は別荘、空いてる日はホテルで貸し出す」を実現していました。当初の理想であった、余すことなく物件を活用しまくる最適化こそがデジタル化の恩恵でもあります。そしてこのコンセプトをよく表現したプロダクト、それがNFT会員証のアイデアになります。

NFT「ならでは」を取り込んだ一手

敷地内にはサウナやプールなどが設置される

この辺りの言語化は、利用が始まって数値が出てからにしたいのですが、改めてNFT会員証のアイデアは彼らにとって大きなプラスになるのではと感じています。例えば稼働率100%のリゾートホテルを目指すとして、所有者が使わない時のホテル利用者を「集客する問題」が出てきます。観光シーズンや週末はよいとして、不人気の日程はどうしても出てくるはずです。これをどう埋めるか。ここにNFT会員証のアイデアが効いてくるのです。

この会員証は非常に上手い設計で、宿泊できる日をランダムに提示するようになっているんですね。保有者は1年に一回、この日に泊まってよいという日がアプリ上で提示されるわけです。ロマンチックな演出ですが、NOT A HOTEL側にもこの方法にはメリットがあります。それが不人気な日程で生まれる「空室在庫」のコントロールです。

会員証はNFTとしてトレードが可能になっているので、保有者は空室をマーケットプレイスで他人に譲ることが可能です。購入者は宿泊チケットとしての価値はもちろんNFT資産としての側面もあります。つまり、トレードが活発になれば自然と空室稼働率も改善する、というNFTコミュニティの仕組みを用意したのです。

詳しい仕様は以前の記事を参照いただくとして、NOT A HOTELは複雑なマーケットプレイスを開発する必要もなく、また、47年間続く会員証のメンテナンスもブロックチェーンに委ねることで実現したのは特筆すべきことではないでしょうか。もちろん、思惑通りにことが進むかどうかはこれからですが、実際に購入した人たちの顔ぶれを見た濱渦さんはかなりの手応えを感じたと力説していました。

では、続いて現地のロケーションからスマート化された体験についてレポートしたいと思います。

次:宮崎・青島5,500坪に現れた「NOT A HOTEL」現地レポート、スマート化の理由とホテルとの切り替え(2)

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