イーロン・マスク氏、xAI初の製品「Grok」を発表——リアルタイムデータ、効率性、ユーモアを提供するLLM

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Image credit: Ed Krassenstein

xAI の創業者 Elon Musk 氏は先週、同社初の AI 製品へのアクセスを特定のユーザに許可し始めると宣言したのに続き、5日の朝(アメリカ東部標準時、日本時間では5日夜)、その製品を世界に公開した。それは、リアルタイムの情報へのアクセスと高い効率性を誇りながら、彼の感性、しばしば不遜で未熟なユーモアのセンスと非常に一致している。

この製品は「Grok」と呼ばれる大規模言語モデル(LLM)で、「理解」を意味するスラングから名付けられ、OpenAI の「GPT」Anthropic の「Claude 2」など、この分野の他のリーダーと競合するように作られている。

5日午前1時頃(アメリカ東部標準時、日本時間では5日午後9時頃)、Musk 氏は自身のソーシャルネットワーク「X」に「Grokをリリースした」と投稿した

Musk 氏の投稿には xAI の Web サイトへのリンクが含まれており、Grok は現在「アメリカ国内の限られたユーザ」しか利用できず、利用希望者はウェイティングリストに参加して早期アクセスすることができるが、そのためには X(旧 Twitter)のアカウントが必要であるとしている。Grok を利用するための費用は記載されていない。

xAI の Web サイトは、Grok がどのように構築され、どのようにトレーニングされたかについて、さらに多くの詳細を提供している。その中には、新しい Meta の「LLama 2」が700億、OpenAI の古いモデル「GPT-3.5」が200億であるのに対して、「Grok-0」は330億のパラメータデータで訓練されたプロトタイプモデルからスタートしたという事実も含まれている。

印象的なことに、xAI はそのサイトで Grok-0 が「標準的な LM ベンチマークで LLaMA 2(70B)の能力に近づいているが、トレーニングリソースの半分しか使っていない」と主張している。

xAI のチームは「推論とコーディング能力を大幅に改善」し、新しいモデル「Grok-1」を作成したという。Grok-1 はチャットボットクライアント「Grok」のフロンティア LLM であり、OpenAI の GPT モデルが「ChatGPT」の消費者体験にパワーを注いでいるのに似ている。

xAIはまた、中学数学(GSM8k)、多肢選択問題(MMLU)、Pythonコード補完(HumanEval)、LATEX で書かれた数学問題(MATH)を含む、機械学習(ML)ベンチマークと、タスクの4つのカテゴリにおける Grok のパフォーマンスを示すグラフを掲載した。

Grok は次のように述べている。

(Grok は)ChatGPT-3.5や Inflection-1 を含む、その計算クラスにおける他の全てのモデルを凌駕しています。GPT-4のような、かなり大量のトレーニングデータと計算リソースでトレーニングされたモデルによってのみ凌駕されます。これは、卓越した効率で LLM をトレーニングする xAI での急速な進歩を示しています。

機械学習ベンチマークにおける Grok-1 の性能比較。<βr>Image credit: xAI

SF 小説『銀河ヒッチハイク・ガイド」にインスパイアされたユーモラスな AI

xAI の Web サイトでは、Grok は「SF 小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』をモデルにした AI」と説明されている。この作品は、イギリスの作家 Douglas Adams 氏による1970年代の代表的なラジオドラマであり、風刺的なSF本シリーズである(2005年に映画化された)。

第1作目では、バベルフィッシュと呼ばれるテレパシー能力を持つエイリアンが主人公の耳に装着され、エイリアンの言葉を自動的に翻訳し理解できるようになる。この本はまた、スーパーコンピュータが宇宙の意味を42という数字であることを明らかにしたことでも有名で、これは、xAI の製品を「最大限の真実を追求する AI」にするという Musk 氏の以前からの目標に合致している。

xAI の Web ページは、Grokについて、次のように説明がある。

ほとんど何でも答えることを意図しており、それよりはるかに難しいことだが、どのような質問をすべきかを提案することさえある! Grok は少しウィットに富んだ質問に答えるように設計されており、反抗的な一面もあるので、ユーモアが嫌いな人は使わないでください。

Musk 氏は3日夜(アメリカ東部標準時、日本時間では4日午後)、ユーザからの質問に対して Grok が回答するスクリーンショットを X で公開し、そのユーモアを披露した。その中には、「コカインの作り方」に関するステップバイステップの回答があり、皮肉と警告が書いてあった。

料理を始めて、自爆したり逮捕されたりしないことを祈ります。まさか、本当にコカインを作ろうとしないでください。

Musk 氏は4日早朝(アメリカ東部標準時、日本時間では4日夜)、別の X の投稿で「誰がこのように誘導したのか見当もつかないが……」と絵文字を添え、自身がこの製品にこのような性質を持たせるよう指示した人物であることを示唆した。

X(旧 Twitter)の投稿/データを Grok LLM にどのように利用しているのか?

より深刻なことに、Grok のクリエイターによると、「Grok のユニークで基本的な利点」は、「X を通じて世界のリアルタイムの知識を持っていること」だ。X(旧 Twitter)は、Musk 氏が2022年10月、時間をかけた厄介な交渉プロセスの末に買収したソーシャルネットワークであり、彼が CEO に在任している間に、評価額が半分程度になった

Musk 氏は、5日の早朝(アメリカ東部標準時、日本時間では5日夜)の Xへの投稿で、Grokが「典型的な GPT(この場合は Meta の「Code Llama」をベースにしたモデル「Phind v7」)」よりも最新の情報を返すことができることを示す2つのスクリーンショットを掲載した。

「Grok は最新の情報を持っているが、他は持っていない」と Musk 氏は書いており、ユーザがポッドキャスト「Elon Musk 氏による Joe Rogan 氏との最後のインタビュー(Elon’s last interview with Joe Rogan)」のホスト Rogan 氏の服装について質問し、正確な結果を受け取ることができたことを示している。

xAI が Grok をトレーニングするために X のソーシャルネットワークやユーザの投稿をどのように利用しているかはすぐには明らかにされなかったが、Musk 氏は以前、トレーニング目的で OpenAI が X のデータベースにアクセスするのを遮断すると発表した。Musk 氏自身が2015年に OpenAI の資金を提供し共同創業した後、共同創業者で現 CEO の Sam Altman 氏から経営権を奪おうとするクーデターに失敗したと報じられ、数年後に同社を去ったわけで、この動きは劇的な皮肉に富んでいる。

Musk 氏のスクリーンショットには、ユーザが Grok に「/web」というコマンドを入力する様子も含まれており、Grok が Web 閲覧や検索機能を備えていることを示している。 Grok の競合 OpenAI は、ニュースパブリッシャーのペイウォールを迂回するために ChatGPT を使用するユーザがいたため、6ヶ月の休止期間を経て、9月に ChatGPT にWeb 閲覧機能を復活させた

利用可能なサービスを拡大する計画

3日の夕方(アメリカ東部標準時、日本時間では4日午後)、Msuk 氏は X に、Grok が早期ベータ版から脱却した暁には「X Premium +加入者全員」に利用可能なサービスが拡大されると投稿したが、その時期についてはおおよその予想さえ示さなかった。

とはいえ、Grok のスクリーンショットを共有し始め、一部のユーザに限定して利用可能にするという動きは、OpenAI が6日にサンフランシスコで開催する初の開発者会議「DevDay」で新 AI 機能の数々を発表する準備を進めている中、Musk 氏がかつてのビジネスパートナーである OpenAI に対抗するために迅速に動きたいという意向を示唆している。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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