社内問い合わせ対応をTeamsに集約するAIヘルプデスクを提供——生成AI、成長の方程式/PKSHA Workplace 大西正人氏・山本健介氏 #ms4su

本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

既に日常生活にも浸透しつつある生成AIテクノロジーですが、明らかな成果を出すために活用するには、知識やデータとの組み合わせが欠かせません。今回のシリーズでは、生成AI技術の活用によって、ビジネスやサービスに革新的な成長をもたらそうとしているスタートアップの事例を取り上げます。

今回紹介するのは、社内従業員の問い合わせへの応対をMicrosoft Teams上で実現するナレッジマネジメントシステム「PKSHA AIヘルプデスク」(以下、AIヘルプデスク)を提供するPKSHA Workplace(パークシャワークプレイス)です。

AIソリューションやAI SaaS各種を開発・提供するPKSHA Technology(パークシャテクノロジー)のグループ会社として企業や組織のワークスタイル変革を支援するPKSHA Workplaceは、生成AIをどのようにプロダクトに取り入れているのでしょうか。同社執行役員 兼 Workplaceビジネス本部本部長の大西正人氏、執行役員 兼 Workplace開発本部本部長の山本健介氏に聞きました。

ハイブリット型AI × 有人の3ステップの対応で幅広い問い合わせに対応

PKSHA Technologyは2012年、東京大学松尾研究室発のスタートアップとして創業。国産アルゴリズムをコア技術として、大手企業向けにAIソリューションを展開してきました。近年はソリューションのうち、パッケージ化が可能なものをAI-SaaSとして提供しています。

そのPKSHA Technologyの傘下にあるPKSHA Workplaceは、従業員向けのエンプロイーエクスペリエンス領域に特化した製品・サービスを開発・提供。現在注力するAIヘルプデスクは、Microsoft Teams上で動作する、社内ヘルプデスクのDXを促進するソリューションです。

人事、経理、情報システム、営業企画など、社内から多数の問い合わせを受ける部門では、マニュアルの未整備やナレッジが蓄積されていないことから苦情が発生するケースや、対応が属人的になるケースが多々存在します。対応窓口も、内線電話、メール、Teamsのチャットなどの混在が多く、一本化できていないのが実情です。

AIヘルプデスクは、全ての社内問い合わせのコミュニケーションをTeamsで完結。問い合わせへの対応を生成AI含めて、3ステップで提供しています。

PKSHAには従来から独自開発の自然言語処理アルゴリズムを使った、問い合わせに一問一答で回答するFAQを主体したAIチャットボットがありました。ただ、それだけでは整備・運用面で負荷が大きくなります。そこでAIヘルプデスクでは、Microsoft Azure OpenAI Serviceを活用しています。第1ステップでは精度の高いFAQによって質問に対応し、第2ステップでは生成AIがマニュアルなどの社内ドキュメントに基づく要約・引用で回答を補助、それでも解決しない場合は有人で対応するというかたちを取っています。

3ステップのアプローチにより、精度が高く、カバレッジの広い問い合わせ対応が可能となります。

FAQ、ドキュメント検索、有人応答の組み合わせで社内問い合わせに対応

また、コミュニケーション履歴がログとして蓄積され、そのデータから新しいナレッジが生み出されてFAQを提案・作成するので、さらに対応自動化の幅が広がっていきます。問い合わせの自動化だけでなくその結果の可視化や、問い合わせを受ける前に従業員へあらかじめ通知を配信する機能、「プロアクティブチャット」も備えています。

PKSHA AIヘルプデスクの対応フロー

金融機関などでは問い合わせの内容が幅広く、生成AI単体で回答するのは難しい部分があります。AIヘルプデスクを実際に導入した金融機関では3つのステップにより、FAQで40%強、生成AIで30%、有人チャットで30%弱といったかたちで、問い合わせへの網羅的な対応を可能にした例もあります。

これは私たちが持つ自然言語処理アルゴリズムとマイクロソフトのアルゴリズムを活用し、それをソフトウェアに応用できる開発力と実装力があったからこそ実現した仕組みです。(大西さん)

3つのステップは、生成AIの「ハルシネーション」対策にもなっています。ハルシネーションとは、生成AIが不確かな情報をもっともらしく生成する現象です。

社内文書をもとにした自動回答システムで誤った情報を提供しては、困るシーンが多々あります。例えば経費申請で違う手順が案内されれば、社内でトラブルになりかねません。

ですから3ステップの最初では、私たちがもともと有するAIエンジンを使い、特定の質問に決まった回答を出せるようにしています。また、生成AIが生成した答えが不確かな場合は、詳しい知識を持つ担当者につなぐ仕組みを入れて、生成AIの持つハルシネーションのリスクを回避するよう工夫しています。(山本さん)

大手企業を中心に幅広い業種・部署の業務で活用

AIヘルプデスクは現在、大手企業を中心に数百社で導入され、幅広い業種や部署で利用されています。

BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)企業のアルティウスリンクでは、情報システム部門でAIヘルプデスクを導入。社内の電話受付を完全に撤廃し、複雑な問い合わせ以外はAIヘルプデスクで完結させる環境を構築しました。

また、パナソニックグループ全体の経理業務を担当する部門では、グループ従業員からの問い合わせをTeamsに集約し、AIヘルプデスクで効率化を実現。国土交通省中国地方整備局でも、電話対応の削減を実現しました。

大西氏は「生成AIの出現により、ナレッジマネジメントの前提や枠組みが大きく変化した」として、今後PKSHA Workplaceが目指す展開について、次のように話しています。

営業資料などの文書検索・作成・更新といったプロセスも、「探すより生成した方が速い」という世界になりつつあります。そんな中、私たちは独自AIやマイクロソフトの技術を活用し、AIによる“あるべき”ナレッジマネジメントプラットフォームを作っていければと考えています。

将来的には、AIがよりプロアクティブ(主体的・自発的)に従業員をサポートし、エンパワーメントにつなげる仕組みを目指しています。リアクティブにもプロアクティブにもAIの利活用が進み、データが蓄積されれば、HR領域や各業種・部署に特化したソリューションやプロダクトを幅広く展開できるのではないかと思います。(大西さん)

Teamsベースのプロダクトを中心に互いに密に連携

AIヘルプデスクをMicrosoft Teams上で動作するアプリケーションとして開発していることは、アドバンテージになっていると山本氏は語ります。

働く人々が日常的に使用し、身近に触れるTeams上にあるので、通知にもすぐ反応してくれるようなコミュニケーションツールを開発しやすいのです。

また、Azureをアプリケーションの開発プラットフォームとして使用しているため、マネージドサービスの多さ、Teamsとの連携やチャットボット開発の容易さにより、開発も加速しました。生成AIもAzure OpenAI Serviceを利用するので、ネットワークまわりやセキュリティの観点でも連携がしやすく、安全にGPTを扱えます。

さらにマイクロソフトからの支援で、GPTだけでなく、我々独自のLLM(大規模言語モデル)の開発も現在進んでいます。社内の問い合わせやコールセンター対応をするには、現在のGPTのレスポンス速度や長文への対応には、やや課題があります。これを私たち独自のLLMやAI技術とマイクロソフトの支援とによって、適切に対応できるようなAIを開発していきます。(山本さん)

日本マイクロソフトの技術支援により応答の速いLLMを開発

大西氏はビジネスやマーケティングの面でも、マイクロソフトとの連携が役立っていると次のように述べています。

マイクロソフト様とは良いかたちで密に連携しており、頻繁に共同でセミナーやイベントを実施し、それぞれの技術やソリューションをご案内しています。例えばセミナーでは、AIヘルプデスクを使ったMicrosoft Teamsの利活用促進や、コミュニケーションのデジタル変革(DX)の事例を紹介しています。

AIヘルプデスクそのものが、Microsoft 365やTeamsの利活用を進める側面もあるため、顧客を紹介いただいて、一緒に提案する機会もあります。(大西さん)

日本マイクロソフト パートナー事業本部 クラウドパートナー開発本部 シニアビジネスディベロップメントマネージャーの矢ヶ部大海氏

日本マイクロソフト パートナー事業本部 クラウドパートナー開発本部 シニアビジネスディベロップメントマネージャーの矢ヶ部大海氏も、「社名にもあるとおり、PKSHA Workplaceはマイクロソフトが推進するワークスタイル変革、働き方改革のテーマに沿って、同じ方向を向いてアプローチしてきた企業だ」として、次のように話しています。

コロナ禍以前から労働人口減少という課題に対し、より生産性を上げるというテーマのもとで連携を進めてきたことは大きなポイントです。プロダクトもTeamsと連携したアプリケーションを展開され、マイクロソフトと連携してきました。

AIをコア技術とし、従来から日本語の精度の高いAIを提供している点でも評価されている企業です。マイクロソフトはプラットフォームやプロダクトは提供していますが、日本のユーザーのニーズにより適切に応えるには、こうしたパートナー企業のサービスや技術力が不可欠です。TeamsやAzure、Azure OpenAI Serviceといった、マイクロソフトのテクノロジーを活用した技術開発にコミットいただけている企業だと考えています。(矢ヶ部さん)

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