企業のリアルな生成AI活用を促す「法人GAI」——生成AI、成長の方程式/ギブリー 取締役 山川雄志氏 #ms4su

本稿は日本マイクロソフトが運営するスタートアップインキュベーションプログラム「Microsoft for Startups Founders Hub」による寄稿転載。同プログラムでは参加を希望するスタートアップを随時募集している

既に日常生活にも浸透しつつある生成AIテクノロジーですが、明らかな成果を出すために活用するには、知識やデータとの組み合わせが欠かせません。今回のシリーズでは、生成AI技術の活用によって、ビジネスやサービスに革新的な成長をもたらそうとしているスタートアップの事例を取り上げます。

今回紹介するのは「デジタル大国として日本を再生させる」というミッションを掲げるギブリー。HR、マーケティング、業務改革の3つの領域で、法人向けに事業を展開しています。同社は生成AIの登場で、さらに顧客への支援の幅が広がったとのこと。どのように生成AI技術を活用しているのか、ギブリー取締役の山川雄志氏に聞きました。

生成AI活用で業務改革を支援する「法人GAI」

Image credit: Givery

ギブリーでは生成AIが話題になる前から、AIや自然言語処理領域で技術を提供してきました。2023年からは生成AIをコアとしたSaaSプロダクトと、そのプロダクトを活用した顧客向けコンサルティング・研修トレーニングなどのサービスやカスタマイズとの両輪でサービスを提供しています。

山川氏が管掌するOperation DX部門はAIによる企業の業務改革を担当。2023年には「法人GAI」というプロダクトをリリースしました。法人GAIは、ChatGPTにも使われるAIモデル「GPT」を使用した、法人向けの生成AI活用プラットフォームです(GAIは汎用AIの意)。

1年前にGPTが登場した当時は「便利だけれども、入力内容が学習に再利用されるおそれがある」という理由で利用を禁止する企業もありました。後に開発元のOpenAIの規定が変わり、APIを使えばデータが学習に使われなくなったことから、私たちもプロダクトの開発を一気に進めました。

その後、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」のリリースに伴い、そちらを活用するようになりました。同時に最初は別のクラウドサービスで開発していた法人GAIも、マイクロソフトのさまざまな技術との連携を考慮して、2023年6〜7月ごろにAzureへと環境を移行しています。(山川さん)

法人GAIは現在約350社が導入し、数万人のエンドユーザーが業務で利用。2023年11月には、マイクロソフトの「Azure AI Search」を活用することで、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」と呼ばれる自社データ参照による情報検索を組み合わせた文章生成機能も追加されました。この機能により、例えば「就業規則や労務関連情報など社内にある膨大な情報を参照して、有給休暇の取得方法などの特定の質問に適切に答える」といったことを可能にしています。

一般向けのChatGPTと異なり、法人GAIでは会話の履歴などからユーザーの使用状況を確認できる管理機能、セキュリティを強固にするためのシングルサインオン、IPアドレス制限など、法人が安心して使える環境を基本機能として用意しています。

現在は、金融機関、自動車・製薬・食品などのメーカー、大手商社、コンサルティング企業、大学など、多様な業種の企業・組織の生成AI活用を支援しているというギブリー。クラウドサービスをSaaSとして利用することがセキュリティ上、困難な顧客には、法人GAIを顧客のAzure環境で動作するよう、開発を支援。マイクロソフト側の顧客担当とも連携しながら、顧客の環境に合わせた開発を実施しているそうです。

業務フィットが活用のカギ、プリセットでユーザー支援

独自データとGPTの推論技術により最適な利用者環境を実現
Image credit: Givery

ギブリーでは、経営層に対しては生成AIの利活用の戦略策定、各社で使える技術の調査分析や施策検討を伴走型で支援。現場への法人GAIの導入が決まれば、業務で使えるプロンプトをつくる「プロンプトエンジニアリング」のトレーニングも顧客企業の従業員向けに実施します。そのほか、RAGデータのクレンジングによるAI活用の運用改善や、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)によるプロンプト開発もサポートしています。

また、AIに詳しいエンジニアやコンサルタント等の人材のマッチングなどもサービスとして提供。一般のエンジニア向けに生成AIエンジニアリング研修も実施しています。

一般にChatGPTなどの生成AI環境を社内に展開したとしても、利用率は5〜10%ほどにとどまります。プロンプトの業務活用を支援することで、部門によっては7割と大幅に利用率がアップする例も出てきています。

AIの活用は業務にフィットしていなければ、十分な効果を発揮できません。一方、一度適切に導入されれば、企業全体の生産性が大幅に向上する可能性があります。全国規模で多くの営業の方が働く大企業などでは、1つの効率的なワークフローが全員に適用されることで、生産性の飛躍的な向上が期待できます。(山川さん)

法人GAIには、プロンプトを簡単に呼び出せるテンプレートやプロンプトレシピといった独自機能も搭載されています。ギブリーが作成したさまざまな職種や業務向けプロンプトの中から、多くのユーザーに利用され、成果が出ているものをピックアップし、アップデートしたプリセットを提供しています。

プリセットがあるとなしとでは利用率が大きく変わってきます。日常のワークフローにフィットしたプロンプトをたくさん用意しています。トップセールスのメールの書き方をプロンプトにして新人でも使えるようにしたり、心理的ストレスが伴うカスタマーサポートの謝罪メールの作成などにも対応したり、業務生産性の向上がさまざまな領域の現場で起きています。(山川さん)

生成AIは〝試す〟フェーズから〝成果を出す〟フェーズへ

ギブリーOperation DX部門の皆さん
Image credit: Givery

ギブリーでは、生成AI登場以前から自然言語処理の領域で事業を展開しており、その経験が生成AI導入の際の〝土地勘〟として役立ったと山川氏はいいます。

自発的にクリエイティブな返答が可能な生成AIにより、事業機会が大きく拡大し、スタートアップながら、大手企業やコンサルティングファームと肩を並べて仕事をする機会が増えています。新しい技術の登場でマーケットが動いたタイミングで先頭に立ち、スピード感を持って取り組めたことが大きかったと思います。(山川さん)

今後ギブリーでは、営業・人事・マーケティングなどの職種に特化し、より業務にフィットしたサービスを提供できるような機能拡張を予定しています。リリースされたばかりの「Copilot for Microsoft 365」についても、法人GAIを利用するユーザーによる大量のデータやノウハウを組み合わせて、企業がより効果的に活用するためのサポートを行う予定です。

また、組織や業務に特化した専用環境の構築や、Copilotをカスタマイズする「Copilot Studio」の活用支援も実施。コンサルティングやトレーニング研修を引き続き行うほか、Copilot for Microsoft 365の活用支援・研修については、マイクロソフトとの連携により、従業員の生成AI関連スキルやリテラシーを評価するアセスメントプログラムやeラーニングコンテンツの提供も予定しています。

生成AIは多数のメール送信自動化や同時多言語翻訳など、不可能だったことを実現し、オペレーションの改善に大きなインパクトを与えます。生成AIの業務への導入は不可逆です。導入による変革に備えて、企業はスキルトランスファーや組織のアップデートを行う必要があります。今年はその過渡期として、そのための下準備を確実にすることが重要です。(山川さん)

日本マイクロソフト Digital Startups & ISV 事業本部 Account Directorの金光大樹氏

日本マイクロソフト Digital Startups & ISV 事業本部 Account Directorの金光大樹氏は、ギブリーとの取り組みについて、次のように話しています。

ギブリーは、生成AIの利活用にいち早く取り組んでいます。さらに、以前から手がける自然言語処理技術やRAG技術による情報取得にも長けていて、日本語も精度高くチューニングされており、エンタープライズの顧客から高い評価を受けています。業務に寄り添ったサービス展開がギブリーの特徴で、エンタープライズ顧客のエンドユーザーに対し、各業務や業態、役職ごとのユースケースに合わせてカスタマイズして提供できるのはギブリーならではのものだと思います。

マイクロソフトとしては注力するCopilot for Microsoft 365の定着を図るためにも、ギブリーと連携しているところで、既にギブリーで提供されているCopilot for Microsoft 365の研修サービスは大企業からも好評を得ています。ギブリーとの協業により、多くのエンタープライズ顧客に生成AIによるAIトランスフォーメーションが実現できればと考えているところです。(金光さん)

GPTの公開から1年。これまでは企業が取りあえず生成AIを試すフェーズでしたが、これからはそこで得られた知見を業務にフィットさせて成果を出しに行くフェーズが始まると山川氏はいいます。

Copilot Studioを活用したい顧客企業の業務適応支援などもあると考えています。AI関連の知見を持つ人材は不足しているといわれていますが、私たちはHR事業を通じて、現時点で数百人単位のAIに強い人材を抱えており、こうした人材を企業とマッチングして、その企業のプロダクトをつくろうとしています。AI人材のCopilotへのスキルトランスファーを進めながら、マイクロソフトの環境を利用する多くの企業にアプローチしていきたいです。(山川さん)

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