Sakana AIやバーティカルAI「RUTILEA」など大型調達ーー国内スタートアップ17社資金調達振り返り(9月2~6日)

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国内スタートアップの調達状況をまとめてお届けする。先週は16社のスタートアップが資金調達を公表し、1社が上場承認を公表した。グローバルの振り返り含め、資金調達関連の話題はまとめも含めてこちらでも確認できる。

概要ざっと:Sakana AI の1億米ドル超のシリーズ A 調達

ではまず個別の話題の前に全体を解説してみる。AI 技術への投資が引き続き強い関心を集めており、先週は Sakana AI の1億米ドル超のシリーズ A 調達や RUTILEA の86億円のシリーズ D 調達(デット含む)に注目が集まった。Sakana AI はやや別格として、RUTILEA については特定産業に特化したバーティカル AI への期待が高いことを示した。

次に、宇宙やエネルギーなど、長期的な視点で社会インフラを変革する技術への投資が見られた。AstroX の小型衛星打ち上げ用ロケット開発や Zip Infrastructure の自走型ロープウェイ、elleThermoの未利用熱エネルギーの電力変換技術などの話題は引き続き、時間のかかる技術への注目が薄れていないことを示すチェックポイントとして注視している。

さらに、医療や金融など、従来型産業のデジタル化を推進するスタートアップへの投資も継続している。Brace やユーリアのヘルスケアテック、スマートラウンドの未上場株式セカンダリ市場構築の取り組みなどは、どんどん先行プレーヤーが市場を刈り取っているため、そのテーマがニッチ過ぎていないか注意が必要だ。

投資家の動向で今週は金融機関の動きが目立った。三菱 UFJ キャピタル、SMBC ベンチャーキャピタル、みずほキャピタルなど、メガバンク系のベンチャーキャピタルが複数の案件に参加している。調達額の分析に目を向けると、幅広い規模の資金調達が行われていることが分かる。Sakana AI の1億米ドル超や RUTILEA の86億円といった大型調達がある一方で、Livetoon の5,000万円や Beff の2億円など、比較的小規模な調達も多く見られた。

ここ最近シリーズ Aを前後する「プレシリーズ A」などのラウンドが増えてきた。elleThermoの3.6億円、AstroX の4億円、ドローンショー・ジャパンの5億円など、この辺りのラウンドの調達額もそれなりの規模になっているため、ラウンド自体がどういう位置付けなっているのか気になる。

テクノロジー、AI領域

Sakana AI、RUTILEA、リチェルカ、M2X、Beff、オルツ(上場承認)

では、個別の各領域について振り返りをしていこう。最初はテクノロジー・AI 分野における資金調達の動向に焦点を当てる。この分野で注目を集めたのは、Sakana AI、RUTILEA、リチェルカ、M2X、Beff の5社とオルツが新たに上場承認を公表した。

Sakana AI は1億米ドル超のシリーズ A 調達を実現し、同時に NVIDIA との提携を発表した。同社の技術的優位性は、自然にインスパイアされた持続可能でエネルギー効率の高い AI 技術にある。NVIDIA との提携により、最先端の GPU 技術へのアクセスを得て、効率的な基盤モデル開発のための新技術の考案を進める予定だ。

中央省庁や自動車産業向けのバーティカル AI 事業を展開するRUTILEA は、86億円のシリーズ D 調達を実施した。同社の特徴は、精度の高い AI をすぐに使える状態で提供することにある。生成 AI と基盤モデルを活用してデータ不足の問題を解決し、ゼロコード化により AI 導入プロセスを簡素化している点が技術的な強みだ。

生成 AI 対応の SCM(サプライチェーンマネジメント)SaaS「RECERQA」の開発を進めるリチェルカは、1.3億円のシード調達に成功した。RECERQA の技術的特徴は、AI を活用して複雑な SCM 業務を効率化する点にある。従来の ERP システムとは異なり、BtoB 領域でも BtoC と同等のユーザーインターフェースや処理速度を実現し、日々のオペレーションから自動的にデータを蓄積する仕組みを構築している。

製造現場の設備保全業務のデジタル化を推進するM2X は、3億円のシリーズ A 調達を行った。同社の技術的優位性は、モバイルと AI を活用した設備保全業務のオールインワンソリューションにある。従来のアナログな業務プロセスを刷新し、設備トラブルの迅速な把握と対応、部品在庫管理の効率化、図面や過去履歴の容易な検索などを実現している。

次世代電池開発の分野では、Beff が2億円のシード資金を調達し、AI 技術を活用した開発支援サービス「Virtual Factory Platform(VFP)」の開発を進めている。VFP の特徴は、独自開発のデータベースと大規模言語モデル(LLM)関連技術を組み合わせ、電池開発に関する幅広い情報をチャット形式で提供できる点だ。これにより、初歩的な質問から高度な技術探索まで、様々なニーズに対応できる。

また、AI 開発のオルツが東証グロース上場を目指すことが明らかになった。同社は個人のデータを集積して作り出すデジタルクローン技術による P.A.I.(パーソナル人工機能)の研究開発を行っており、会議や講演などの自動文字起こしツール「AI GIJIROKU(AI 議事録)」が堅調な成績を収めている。想定時価総額は約170億円規模とされている。

モビリティ・インフラ

AstroX、Zip Infrastructure、MaaS Tech Japan

続いてモビリティ・インフラ分野における資金調達の動向に注目する。AstroX、Zip Infrastructure、MaaS Tech Japan の3社が資金調達を実施した。ここでは技術的な特徴も一緒に見てみたい。

宇宙ビジネスの新たな可能性を切り開こうとしているのが、AstroX だ。同社は4億円のプレシリーズ A 調達を実施し、小型衛星の打ち上げ分野に参入する。AstroX の技術的特徴は、ロックーン(Rockoon)方式と呼ばれる気球からの空中発射方式を採用している点にある。この方式により、高頻度かつ低価格での衛星打ち上げを目指している。調達資金は2025年度中の宇宙空間到達を目指したロケット開発に充てられる予定だ。

地上の交通インフラに革新をもたらそうとしているのが、Zip Infrastructure である。同社は3.1億円のシリーズ A1調達を実現し、自走型ロープウェイ「Zippar」の開発を加速させる。Zippar の技術的優位性は、各車両が自力で走行可能な点にある。これにより、急斜面や複雑な地形でも効率的な輸送が可能となる。また、既存のモノレールと比較して、建設費や建設期間の大幅な削減、無人運転による運転士不要などのメリットがある。

都市交通のデジタル化を推進するMaaS Tech Japan も新たな資金調達を実施した。同社は住民参加型 MaaS ソリューション「Noluday(のるでぃ)」を展開している。Noluday の特徴は、目的地情報の検索や配車予約などの交通サービスに加え、利用者のアンケート調査やデータ分析といったダッシュボード機能を搭載している点だ。これにより、地域の交通課題の解決と効率的な公共交通の運営を支援している。

エネルギー・環境/エンタメ

elleThermo/ドローンショー・ジャパン、Livetoon

続いて、エネルギー・環境分野ではエネルギー・環境分野では、東京工業大学発のスタートアップ elleThermoが、3.6億円のプレシリーズ A 調達を実現した。同社は未利用の熱エネルギーを電力に変換する「半導体増感型熱利用発電(STC)」技術を開発している。STC の特徴は低温度帯での発電が可能な点で、恒温槽の熱を利用した Bluetooth 通信や鉱山の熱を使ったリチウムイオン電池の充電などの実績がある。今後は40℃付近の環境下で利用可能な発電技術の確立を目指し、データセンターや家電など多様な分野での実用化を視野に入れている。

エンターテインメント・メディア分野では、2社の資金調達が公表された。

ドローンショー・ジャパンは5億円のシリーズ A 調達を実施した。同社は LED ライトを搭載したドローンによるエンターテインメントショー「ドローンショー」を展開している。今回の調達資金は、世界市場展開を見据えた低価格機体の開発に注力する予定だ。ドローンショーは新しい形のエンターテインメントとして注目を集めており、国内外での需要拡大が期待されている。

一方、AI を活用して IP キャラクターのコンテンツを制作する Livetoon は、5,000万円のシード資金を調達した。同社の特徴は、AI メタヒューマン技術を用いて IP キャラクターがファンと直接つながるライブコマース体験を提供している点だ。この技術により、IP を保有する企業はショート動画プラットフォームへの対応やプロモーションコスト、多言語対応の課題を解決し、より多くのファンにリーチすることが可能になる。

ヘルスケア/フィンテック

Brace、ユーリア/スマートラウンド

つづいてヘルスケアおよびフィンテックにおける資金調達に移ろう。ヘルスケア・医療分野では、2社の資金調達が注目を集めた。

矯正歯科のデジタル化を推進する Brace は、ANOBAKA や著名矯正歯科医らからシード資金を調達した。同社は一般歯科医向けに矯正治療をオンラインでサポートする「b-ortho」と、矯正歯科専門医向けのプラクティスマネジメントソフトウェア「b-align」を提供している。b-ortho は専門的な矯正治療を受けられない地域や人々に、オンラインでの診断と診療サポートを提供し、b-align は予約、会計管理、診断情報の一元化を実現する。この資金調達により、両サービスの開発と営業・マーケティング強化を進める予定だ。

一方、即時尿検査サービスを開発するユーリアは、1.2億円のプレシリーズ A 調達を実施した。同社のサービスは東京大学との共同研究から生まれ、スマートフォンを活用した簡便な尿検査を可能にしている。わずか3ステップで検査が完了し、誰もが手軽に自身の健康状態を把握できるようになることを目指している。調達資金は事業拡大と組織強化、特に CTO 候補やエンジニアの採用に充てられる予定だ。

フィンテックでは、スマートラウンドが金融大手3社と資本提携し、未上場株式のセカンダリ市場構築に向けて協議を開始すると発表した。みずほフィナンシャルグループ、三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券、野村ホールディングスとの提携により、未上場スタートアップの株式を取引するセカンダリマーケットの構築を目指す。この動きは、スタートアップの成長期間の長期化に伴う未上場株式の流動性ニーズの高まりに対応するものだ。

SaaS・企業向けサービス/ソーシャルコマース

パートナーサクセス/チッピー

最後は SaaS・企業向けサービス分野およびソーシャル・コマース分野をおさらいする。SaaS・企業向けサービス分野では、パートナーサクセスが4億円のシリーズ A 調達を実施した。同社が提供する「PartnerSuccess PRM」は、BtoB 流通の75%を占める代理店チャネルに特化した SaaS だ。代理店管理、情報共有、コミュニケーションを一元管理する機能を持ち、直近の月間経常収益(MRR)は前年同期比449%成長を記録している。

PartnerSuccess PRM の特徴は、金融業界向けサービスの強化やマルチプロダクト展開にある。今回の調達資金は、これらの機能強化に加え、AI や独自アルゴリズムの研究開発にも投資される予定だ。特に、地方銀行などの金融機関への導入を推進することで、代理店連携管理の新たな市場開拓を目指している。

ソーシャル・コマース分野では、チッピーが1.5億円のシード調達に成功したことが注目を集めた。同社が開発・提供するのは、スマートフォンを通じて応援や感謝の気持ちを送ることができるソーシャルギフティングサービス「Chipee(チッピー)」だ。

Chipee の特徴は、店舗の専用 QR コードをスキャンすることで、店員やサービススタッフに「チップ」を送れる点にある。このデジタル形式のチップは、スタッフが現金化することも可能だ。さらに、スタッフは自分に対する感謝のメッセージやチップの履歴を確認できるため、モチベーション向上につながるという。2024年4月のβ版リリース以来、Chipee は飲食店やフィットネスジム、カルチャースクール、自治体など100店舗以上でのトライアル導入を実施している。

ということで今週もざっと国内スタートアップの話題を振り返った。また来週もお送りする。

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