AIスタートアップ米投資は全体の35%に(CB調査)——グローバルスタートアップ資金調達まとめ(9月2~6日)

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TechDaily は筆者が毎日実施しているテックニュースの斜め読みをまとめたもの。グローバルで気になる資金調達、テックトレンド、スタートアップニュースをまとめて共有する。しばらく不定期更新でお送りします。

みなさま、こんにちは!今週もグローバルでのテック資金調達についてまとめをお送りします。トレンドチェックにお役立てください。

引き続き中心は生成 AI ですが、OpenAI は有料課金のビジネスユーザー数が100万人に達したと 発表しました。昨年8月にビジネス向けの ChatGPT Enterprise などがリリースされてから今年4月に60万人、そこから4カ月で100万人達成ということで加速度がついています。ちなみに無料の ChatGPT が今年8月時点で2億人ユーザーを記録しているそうなので、併せて覚えておくと何かの役に立つかもしれません。

一方、その OpenAI 共同創業者もインパクトのある資金調達を発表しました。元 OpenAI のチーフサイエンティストである Ilya Sutskever(イリヤ・サツキーバー)氏が設立した Safe Superintelligence(SSI)の話題です。SSI は 10億ドル以上の資金調達を完了したそうで、この資金調達には、NFDG、a16z、Sequoia、DST Global、SV Angel などの著名な投資家が参加しています。

相変わらず生成 AI 関連はお金かかりますね。

ということで全体感知る上で Crunchbase が調査結果を公表していました。2024年の AI 関連企業への投資は米国のスタートアップ投資全体の35%を占め、過去最高の割合を記録したそうです。この数字は、2023年に OpenAI が100億ドルの Microsoft 主導の資金調達を行った際の記録を塗り替えているそうです。

もう少し詳しく見てみると、2024年に入り、5つの AI 関連企業が10億ドル以上の大型資金調達ラウンドを実施していて、中でも5月にイーロン・マスク氏の xAI が実施した60億ドルのシリーズ B ラウンドが頭一つ抜けてる感じです。

Crunchbase のデータによると、AI 企業への投資は純粋な AI 技術開発企業だけでなく、特定の業界や用途に AI を適用する企業にも広がっているみたいですね。例えば、メールセキュリティに特化した Abnormal Security、航空・旅行業界向けの自動意思決定システムを開発する Flyr、AI を医療文書作成に応用する Abridge などがあります。

筆者が毎日やってるテック調達チェックでも、こうしたバーティカル系は確実に調達に成功しています。

では、ここからは各業界ごとにまとめた調達の話題です。最初は AI 関連から。

AI・機械学習分野では、複数のスタートアップが革新的なサービスを展開し、大規模な資金調達に成功している。

その中で注目されるのが、You.com が展開する AI 駆動の検索・生産性プラットフォームだ。複数の AI モデルを単一のプラットフォームで提供し、ウェブアクセス機能を強化している同社は、5,000万ドルのシリーズ B 資金調達を完了し、エンタープライズ向けの「生産性エンジン」の開発に注力している。

Georgian が主導し、Nvidia や Salesforce Ventures も参加したこの資金調達により、You.com の累計調達額は9,900万ドルに達した。VentureBeatによると、同社は2021年の設立以来、10億件以上のクエリを処理し、1月以降500%の収益成長を達成しているという。

一方、開発者向けのモデル不可知なオープンソース AI エージェントの構築を目指す All Hands AI も注目を集めている。TechCrunchによれば、同社は500万ドルのシード資金を調達し、開発者の日常的なタスクを自動化する AI エージェントの開発を進めている。

Menlo Ventures が主導したこの資金調達には、Y Combinator、COTU Ventures、Rebel Fund も参加したとのことだ。All Hands AI は、OpenHands というオープンソースプロジェクトを通じて、開発者のルーチンワークを効率化する AI エージェントの開発に取り組んでいる。

My Drama

エンターテイメント分野でも AI の活用が進んでいる。My Drama は、短編ドラマアプリに AI 駆動のチャットボット機能を導入し、視聴者がキャラクターと深く交流できる機能を提供している。例えば「The Shy Beauty and the Billionaire Beast」の Jaxon や「Love Captive to a Mafia Boss」の Hayden といったキャラクターとチャットできる。

同社は4月の立ち上げ以来、100万ユーザーを獲得し、300万ドルの収益を上げているとされる。My Drama は、ElevenLabs、Stable Diffusion、OpenAI、Meta’s Llama 3 などの複数の AI モデルを活用し、コンテンツ制作の効率化とユーザーエンゲージメントの向上を図っている。

さらに、独立したアプリ「My Imagination」を通じて、よりパーソナライズされた会話体験を提供する計画である。AI を活用したコンテンツ制作により、My Drama は従来の制作方法と比較して大幅なコスト削減を実現している。同記事は、例えば、家事のシーンの制作コストを8,000ドルから AI 活用により100ドルに削減することに成功していると報じている。

フィンテック・金融サービス分野では、新興市場を中心に調達の話題が届いている。

インドを拠点とする Drip Capital は、中小企業向けに運転資金を提供するフィンテック企業である。TechCrunchによると、同社は1億1,300万ドルの資金調達に成功した。特に国際貿易に関わる中小企業に焦点を当て、クロスボーダー取引における資金調達の課題に対応している。

インドの輸出業者を主な顧客としつつ、米国や中東などの他の新興市場にもサービスを拡大している。同社のアプローチは、インドの中小企業が直面する国際取引における資金調達の困難さに対応したものとなっている。

アフリカ市場では、ガーナのデジタル貸付プラットフォーム Fido が注目を集めている。同社は3,000万ドルのシリーズ B 資金調達を完了した。この資金調達には、オランダの起業家育成銀行 FMO やグローバルインパクト投資マネージャーの BlueOrchard が参加している。

TechCrunch の取材に対し Fido の共同創業者である Alon Eitan CEO は、サブサハラアフリカの人口の大部分が銀行口座を持っていないか、十分なサービスを受けられていない状況を背景に、多くの顧客にとって Fido が金融サービスとの初めての接点となっていると述べている。ガーナとウガンダで事業を展開し、アフリカ特有の金融包摂の課題に取り組んでいる。

中東・北アフリカ(MENA)地域では、Cercli が企業向けの給与管理や HR プラットフォームを提供している。TechCrunchによると、同社は400万ドルのシード資金を調達した。共同創業者の Akeed Azmi は、地域の大手テクノロジー企業での経験から、給与管理の非効率性と高いコンプライアンスコストという課題を認識し、Cercli を立ち上げたという。

MENA の固有の労働法や規制に対応したソリューションを提供している点が特徴的である。

東南アジア市場に目を向けると、シンガポールを拠点とするデジタル SME 貸付プラットフォーム Validus が挙げられる。同社はインドネシアの企業支援のために5,000万ドルのデット資金を調達した。東南アジア地域の中小企業に特化したサービスを展開しており、特にインドネシアの企業支援に注力している。

また UAE を拠点とする中小企業向けフィンテック企業 Ziina も急速な成長を遂げている。TechCrunchによると、同社は2,200万ドルの資金調達に成功し、UAE を中心とした湾岸地域の特殊な金融ニーズに対応したサービスを提供している。

新興市場における金融サービスのデジタル化と、中小企業向けの金融サービスの拡充というトレンドが順調に加速している。特に、こうした地域では従来の銀行システムでは十分にカバーできていなかった層へのサービス提供に注力している点が特徴的である。

クリーンテック・再生可能エネルギー分野では、環境課題の解決に向けた革新的な技術を持つスタートアップが、大規模な資金調達に成功している。

米国の C-Zero は、天然ガスを使用してゼロエミッションの水素を製造する技術を開発している。TechCrunchによると、同社は1,800万ドルの資金調達を進めている。C-Zero の技術は、既存の天然ガスインフラを活用しつつ、クリーンな水素生産を可能にすることで、エネルギー転換を加速させることを目指している。

欧州では、ドイツの Reonic が注目を集めている。このスタートアップは、ヒートポンプや太陽光パネルなどのグリーンテクノロジーの小規模設置業者を支援している。同社は1,300万ユーロ(約1,400万ドル)の資金調達に成功した。

Reonic は、欧州の REPowerEU 計画に沿って、2027年までに1,000万台のヒートポンプを追加導入するという目標に貢献することを目指している。同社のソフトウェアは、小規模な設置業者の作業プロセスを効率化し、再生可能エネルギー技術の普及を加速させることを目的としている。

環境保護の分野では、フランスの Calyxia が画期的な技術を開発している。このクリーンテックスタートアップは、マイクロプラスチック汚染に取り組んでおり、3,500万ドルの資金調達を完了した。Calyxia は、マイクロカプセル技術を用いてマイクロプラスチックの放出を防ぐソリューションを開発している。この技術は、世界的な問題となっているマイクロプラスチック汚染の解決に向けた重要な取り組みとして注目されている。

ここからは企業向けのソリューションだ。

サロンやスパの運営支援に特化した Mangomint は、業界特有のニーズに応えるソフトウェアを開発している。TechCrunchによると、同社は3,500万ドルのシリーズ B 資金調達を完了した。Mangomint の創業者らは、美容・ウェルネス業界向けの統合ソフトウェアの必要性を認識し、予約管理からテキストコミュニケーションの自動化まで、包括的なソリューションを開発した。

同社のサービスは、中小規模のサロンを主な対象としており、クライアントの予約から販促メールの送信まで、業務プロセスの自動化を実現している。

一方、グローバルな労働環境の変化に対応しているのが Oyster だ。この企業は、分散型ワークフォースに特化したペイロールおよび HR プラットフォームを提供している。同社は5,900万ドルのシリーズ D 資金調達を完了し、企業価値を12億ドルに引き上げたそうだ。

Oyster は、リモートワークの普及に伴い増加している分散型ワークフォースの管理課題に対応している。特に、新興市場の労働者への支払いを容易にすることに注力しており、180カ国以上にまたがる従業員の雇用、給与支払い、福利厚生の管理をサポートしている。

ソフトウェア開発の分野では PHP ウェブアプリケーションフレームワークを開発している Laravel が Accel が主導する5,700万ドルのシリーズ A 資金調達を完了した。Laravel Cloud は、開発者がアプリケーションを容易にデプロイできるプラットフォームであり、サンドボックス層は無料で、コンピューティングは1時間あたり1セント、データベースは4セントで利用可能となる予定だ。また、トラフィックがない場合はアプリケーションが休止状態になり、料金が発生しない仕組みを導入している。

大手企業の動きも活発だ。Salesforce は、データ管理企業の Own を19億ドルの現金で買収すると 発表した。Own は2015年に OwnBackup として設立され、企業向けの自動バックアップや災害復旧などのデータ保護ツールを提供している。

特に Salesforce のアプリケーションデータのバックアップに強みを持ち、その後 AWS や Microsoft ホスティングの SaaS アプリにもサービスを拡大している。この買収により、Salesforce は顧客データの保護と管理に関するソリューションを大幅に強化することができる。

ゲーム業界では、Odeeo がユニークなアプローチで注目を集めている。このスタートアップは、ゲーム内音声広告のグローバル展開を目指しており、VentureBeat の報道によると、500万ドルの資金調達に成功した。Odeeo のプラットフォームは、ゲームプレイを中断せずにオーディオ広告を挿入することができ、ゲーム開発者に新たな収益化の機会を提供している。

同社の技術は、ゲーム内の自然な瞬間(レベルの切り替わり時やロード画面など)に広告を配置することで、ユーザーエクスペリエンスを損なわずに広告効果を最大化することを目指している。

企業支出管理の分野では、Paylocity が企業支出管理スタートアップの Airbase を3億2,500万ドルで買収すると 発表した。Airbase は、企業の支出管理、予算策定、支払い処理を一元化するプラットフォームを提供している。

この買収により、Paylocity は HR および給与管理ソリューションと企業支出管理を統合し、中堅企業向けにより包括的な財務管理サービスを提供することが可能になる。特に、従業員の経費精算から企業全体の予算管理まで、幅広い財務業務を一つのプラットフォームで管理できるようになる点が注目される。

Image Credit:LukasAntonio QuagliataPixabay

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