令和トラベルがシリーズAで48億円調達などーー国内スタートアップ14社資金調達振り返り(9月9~13日)

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国内スタートアップの調達状況をまとめてお届けする。先週は14社のスタートアップが資金調達を公表した。グローバルの振り返り含め、資金調達関連の話題はまとめも含めてこちらでも確認できる。

先週公表となった、本誌注目のスタートアップの調達総額は約120億円に達し、そのうち約4割を 令和トラベルのシリーズ A ラウンドでの48億円が占めている。この大型調達には三井住友銀行、SMBC ベンチャーキャピタル・マネジメント、グローバル・ブレインが運用する SMBC-GB グロース1号投資事業有限責任組合がリードインベスターとして参加しており、コロナ禍に「旅行」という事業領域でスタートアップした同社の思惑がピタリとはまったことを証明した。

ステージ別に見ると、GAZAI のシード期の1億円から ルクサナバイオテクのシリーズ C1の2.4億円まで、幅広い段階の企業が資金を調達している。特にプレシリーズ A からシリーズ B の企業が多く、CrowdChem の2.9億円CONOC の2.3億円などが含まれる。

投資家の構成では PKSHA グループからの出資が複数の案件で見られる。例えば、GAZAI への投資や CrowdChem への出資などがある。また、パナソニックは FastLabel に対してシリーズ B 延長ラウンドで出資を行い、大手企業のオープンイノベーションへの取り組みが引き続き話題となった。

業種別では、AI・データ分析分野が最も活発で、FastLabel、LocationMind、CrowdChem、GAZAI などが含まれる。環境・エネルギー・宇宙・化学分野も注目を集めており、JOYCLEパワーエックス将来宇宙輸送システムiPEACE223 などが資金調達に成功している。デット活用も進んでおり、LocationMind は13.7億円の調達のうち約4.5億円をデットで調達するなど、エクイティとデットを組み合わせる傾向が見られる。

では今週も動向をおさらいしてみたい。

物流と建設業界の DX

デジタルトランスフォーメーション(DX)領域では、毎週、業界特有の課題に焦点を当てたバーティカルのサービスが資金調達に成功している。今週は物流と建設だ。

物流・サプライチェーン管理(SCM)分野では、Azit がモノフルとセイノーホールディングス系ファンドから資金調達を実施した。同社は AI を活用した物流・SCM 領域の DX 支援を行っており、既存サービス「CREW Express」の名称を「DeliveryX」に変更した。DeliveryX は、AI を活用して物流・SCM 領域の課題解決を目指すサービスで、マーケットプレイス(AI 配送手配)、AI 自動配車、AI 配車計画、AI 配送管理などの機能を提供している。

DeliveryX の特徴的な機能として、マーケットプレイス機能では全国47都道府県での配送体制構築を最短翌日から可能にしている点が挙げられる。また、「Uber Direct」や「Wolt Drive」など、約20万台の配送ネットワークを利用できる点も強みとなっている。さらに、プロフェッショナルサービス「DeliveryX Professional」では、DX 戦略設計から BPO・システム開発まで一貫して支援する機能を提供している。これらの機能を組み合わせることで、短期間での配送生産性向上を実現するとしている。

建設業界向けの DX サービスでは、CONOC が2.3億円のプレシリーズ A 延長調達を実施した。同社は「CONOC 業務管理クラウド」を提供しており、3年で導入企業数が500社を突破した。このサービスは、建設業界に特有の課題に焦点を当てた設計となっており、現場管理と業務管理を一元的に行える点が評価されている。

CONOC 業務管理クラウドの具体的な機能としては、現場とオフィスの業務を一体化させ、効率的に処理することで長時間労働の負担を軽減することを目指している。例えば、現場監督が撮影した写真や作業日報が、リアルタイムでクラウドにアップロードされ、オフィスのスタッフがすぐに確認できる機能を提供している。これにより、従来手作業で行われていた業務プロセスを大幅に効率化し、無駄な時間を削減することに寄与している。

引き続き好調な AI 関連

AI 関連はしばらく止まることはないだろう。

FastLabel は、シリーズ B のエクステンションラウンドの1st クローズでパナソニックくらしビジョナリーファンドから数億円相当を調達した。これにより、シリーズ B 全体の合計調達額は12.5億円、設立からの累積調達額は約19.5億円に達した。FastLabel のサービスは、Data-centric AI 開発に必要なデータ収集・生成からアノテーション、モデル開発、MLOps 構築までの全工程を支援している。同社は2020年1月の創業以来、教師データ作成代行やアノテーションツールの提供を主力事業として展開してきた。

LocationMind は、シリーズ B ラウンドの2nd クローズで約13.7億円を調達した。この中にはエクイティ約9.3億円、デット約4.5億円が含まれる。LocationMind は、80カ国以上の位置情報を取り扱い、人・自動車・船舶・衛星画像などの様々な様式のグローバル位置情報ビッグデータの分析を提供している。同社の AI 事業では、これらの位置情報を活用した分析ソリューションを提供している。また、宇宙事業では、測位信号自体にセキュリティ対策を施す特許技術を用いた次世代の GNSS セキュリティサービスを展開している。

CrowdChem は、プレシリーズ A ラウンドで2.9億円を調達した。このラウンドは PKSHA Capital がリードし、ANRI、HIRAC FUND、QR インベストメントが参加した。CrowdChem の「CrowdChem Data Platform」は、独自に収集したデータを基に、材料特性値の予測やレコメンド機能を提供するシステムである。特に、リチウムイオン電池分野などの各産業で、プロセスや装置情報を組み込んだ機械学習モデルを構築し、電極の構造から電解質の組成、サイクル試験の結果に至る一連の流れを分析できる点が特徴である。

çは、シードラウンドで1億円を調達した。このラウンドは PKSHA アルゴリズム2号ファンドがリードし、台湾の Shiny Chemical Industrial(勝一化工)が参加した。GAZAI は、テキストプロンプトを入力することで、ストーリーやキャラクターを自動生成することができるサービスで、特にマンガや webtoon の制作を支援することに特化している。ユーザーは自ら制作した作品を SNS で共有し、創作活動を楽しむことができる。また、エンタープライズ事業では広告代理店やゲーム会社、webtoon プロダクション、VTuber プロダクションなど、クリエイティブワークを行う企業向けに専用プランを提供している。

AI 領域のファンドレイズで PKSHA の存在が目立つ。令和トラベルへの出資でも今回、大きな存在感を示した。

環境・エネルギー・宇宙・化学分野の技術革新

今週もグリーンやディープテック系の話題が多かった。

JOYCLE は、「運ばず、燃やさず、資源化」する小型アップサイクルプラントを軸とした分散型インフラの構築を推進している企業で、デットを含む約1.7億円の資金調達を実施した。このラウンドには、ANOBAKA、中部電力ミライズ、三友環境総合研究所、鎌倉投信、寺田倉庫、ZOZO 創業者の前澤友作氏などが参加した。JOYCLE は2024年3月にデータ管理プラットフォーム「JOYCLE BOARD」を発表しており、全国各自治体の特徴に応じたごみ処理問題の解決に向けた実証実験を進めている。同社の取り組みは、ごみ処理問題の持続可能な解決を目指しており、特に小型アップサイクルプラントによる現地再資源化に焦点を当てている。

パワーエックスは、電気自動車(EV)向けの超急速充電器「Hypercharger」を開発・提供する企業で、シリーズ C1ラウンドで24.6億円を調達した。このラウンドには戸田建設、SMBC 日興証券、Frontive Holding、Spiral Capital、ちゅうぎんキャピタルパートナーズ、その他金融機関1社、従業員持株会らが参加した。Hypercharger は昨年秋に量産が始まり、すでに60台以上が出荷されているという。パワーエックスは、大型蓄電池の製造・販売も行っており、日本国内での生産を強化している。また、電力供給事業や、再生可能エネルギーを活用した電気運搬船「バッテリータンカー」の開発も進めている。

将来宇宙輸送システムは、再使用可能な単段式宇宙往還機(SSTO)の開発を行っている企業で、直近のラウンドで3.6億円を調達した。このラウンドにはみやこキャピタル、Angel Bridge、SMBC ベンチャーキャピタル、MOL PLUS(商船三井の CVC)などが参加した。同社は2040年代までにこの技術を実現することを最終目標とし、まず2028年までに再使用型人工衛星打上げ用ロケットの開発を進める計画だ。将来宇宙輸送システムが実現を目指す「高速二地点間移動(Mach-speed point-to-point city carrier)」は、宇宙空間を経由して大陸2地点間を高速で移動する手段で、この移動が実現すると、地球上のどこでも90分以内に移動できるようになるという。

iPEACE223 は、バイオエタノールを原料としたバイオプロピレン製造技術の実用化に取り組む企業で、プレシリーズ A ラウンドで2.3億円を調達した。このラウンドには日本化薬とユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)が参加した。iPEACE223 は三菱ケミカルが開発したエチレンからプロピレンを製造できるゼオライト触媒技術を活用し、バイオエタノールからプロピレン(化学品原料)やプロパン(燃料)を製造するプロセスの開発に注力している。この技術により、従来の石油化学原料から製造されるエチレンやプロピレンに比べ、CO₂排出量を削減できると期待されている。

バイオ・ヘルスケア

この分野では、革新的な技術開発や新たな医療アプローチを提案する企業が資金調達に成功している。

ルクサナバイオテクは、シリーズ C1ラウンドで2.4億円を調達した。このラウンドには DCI パートナーズ(大和企業投資傘下の創薬・再生医療分野特化 VC)、東北大学ベンチャーパートナーズ、大阪大学ベンチャーキャピタルが参加した。同社は、アンチセンス医薬の開発に取り組んでおり、大阪大学薬学研究科教授の小比賀聡氏らが発明した人工核酸技術「ルクサナ XNAs」を基盤としている。この技術は、RNA への強い結合力を持つアンチセンス核酸を創出し、医薬品開発の成功確率を高めることが期待されている。ルクサナバイオテクは、中枢神経領域における安全性と有効性の知見を得ており、その成果は武田薬品工業とのライセンス契約や、フランスの医薬品メーカー Servier との共同開発案件にも活用されている。

THE PHAGE は、プレシリーズ A ラウンドで資金調達を実施し、累積調達額は4.4億円に達した。このラウンドはジェネシア・ベンチャーズがリードし、ビジョンインキュベイト、ケイエスピー、明治、TOPPAN ホールディングス、みずほキャピタル、未来創造キャピタル、メディヴァが参加した。THE PHAGE は、食後血糖値の予測 AI による健康提案サービスを開発している。同社のサービス「グルコースフライト(glucose flight)」は、個々の生体情報を解析し、個別最適化された生活行動を提案することで、ユーザーの主体的な血糖管理を促進する。医療従事者に対しては、患者の生活リズムや食事スタイルに合わせた栄養指導をサポートする機能も提供している。

大型調達の背景

先週は二つ、筆者注目の資金調達が公表された。

令和トラベルによるシリーズ A ラウンドでの48億円の大型調達は、同社の急速な事業成長が主要因となっている。スマートフォンアプリ「NEWT」を通じて海外旅行ツアーパッケージを簡単に購入できるサービスは、特に Z 世代を中心に支持を集めている。具体的には、顧客の約6割が29歳以下となっており、デジタルネイティブ世代のニーズを的確に捉えている。

事業成長の詳細を見ると、今年の7月や8月の単月では前年比5倍程度の伸びを示すなど、急速な成長を遂げている。この成長の背景には、市場の回復とサービスの拡充がある。NEWT のリリースから現在まで、取り扱いツアー本数は4.5万本に達し、対応エリア数も67エリアまで拡大している。これにより、顧客の選択肢が大幅に増加し、多様なニーズに応えられるようになった。

また市場についても近隣国への旅行需要の回復が顕著で、韓国などは2019年比で8割から9割程度まで回復している点も大きい。円安や地政学的不安で戻りの悪い欧米についても、視点を変えれば成長の余地が大きいともいえる。顧客層については既存の海外旅行経験者が NEWT に切り替えてきた層が約6〜7割を占め、残りの3〜4割が海外旅行サービスを初めて利用する新規顧客となっているそうだ。

さらに、生成 AI への投資拡大やグローバル展開計画など、今後の成長戦略も投資家の関心を引いた要因として語られていた。詳細はロングインタビューの記事をご覧いただきたい。

M&A による事業成長戦略

もう一つがロールアップ EC 事業で一気に成長株への仲間入りをした ACROVE だ。

シリーズ C ラウンドで同社は20億円の大型資金調達を実施した。増資を引き受けたのは新規投資家として、ブーストキャピタル、Global Catalyst Partners Japan、ごうぎんキャピタル、愛知キャピタルが参加した。融資面では、新規にみずほキャピタルが加わり、既存の大和ブルーフィナンシャルも引き続き支援を行う。

ACROVE の事業モデルは、EC 売上最大化を実現する一気通貫の販売支援「コマーストランスフォーメーション事業(CX 事業)」と、ブランドと事業の育成を目的とした M&A や事業承継型 M&A を実現する「EC ロールアップ事業」の二本柱で構成されている。

CX 事業は現在約170社の顧客を抱えており、その内訳は首都圏が4割、首都圏を除く関東を含めた地方が6割となっている。この事業の売上は二桁億円を超えており、事業単体で利益体質になっている点が大きい。一方、EC ロールアップ事業では、事業開始約2年で16件の M&A を実現し、そのうち6件が事業承継型 M&A となっている。

ACROVE の M&A 戦略の特徴は、小規模な M&A から始め、経験を積みながら案件の規模を拡大していく点にある。また、データドリブンな PMI(買収後の統合プロセス)を実践しており、グループ全体のデータを一元管理し、リアルタイムで各社のパフォーマンスを把握・分析できるシステムを構築している。

また、平均年齢が27歳程度で、20代が8割を占める若手中心の組織であることも特徴のひとつとして挙げられる。この若い組織構成が新たな EC 戦略をドライブさせる要因になっている印象を受けた。こちらも詳細は記事に記したのでぜひご一読いただきたい。

ではまた来週。

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