20億円調達のACROVE 、220名規模に急成長した「Z世代」企業の新・ EC 戦略

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ACROVE が新たな20億円を調達

総合 EC 支援事業を展開する ACROVE は9月12日、総額約20億円の資金調達を実施したことを発表した。この資金調達は、シリーズ C ラウンドとして行われ、第三者割当増資と金融機関からの融資によるもの。同社の累計調達額は約38億円に達した。

増資を引き受けたのは新規投資家として、ブーストキャピタル、 Global Catalyst Partners Japan 、ごうぎんキャピタル、愛知キャピタルが参加した。融資面では、新規にみずほキャピタルが加わり、既存の大和ブルーフィナンシャルも引き続き支援を行う。

同社の説明によると、このラウンドではブーストキャピタルと、 Global Catalyst Partners が共同リードのような形で主導した。 Global Catalyst Partners は日本の事業承継や少子高齢化などの社会課題に注目し、 ACROVE の事業モデルに共感を示したことが投資につながったという。

また、大和ブルーフィナンシャルとみずほキャピタルの融資枠は、主に M&A の際の機動的な資金需要に対応するためのものになる。

ACROVE は、 EC を基盤とした二つの主要サービスを展開している。 EC 売上最大化を実現する一気通貫の販売支援「コマーストランスフォーメーション事業( CX 事業)」と、ブランドと事業の育成を目的とした M&A や事業承継型 M&A を実現する「 EC ロールアップ事業」。特に EC ロールアップ事業では、事業開始約2年で16件の M&A を実現し、そのうち6件が事業承継型 M&A となっている。

今回調達した資金は M&A 資金および体制拡充、 EC を基盤とした売上向上支援におけるエコシステム確立のための人員採用、自社の EC データ分析プラットフォーム「 ACROVE FORCE 」の機能拡充に充てる予定。

創業6年の軌跡

ACROVE の創業は2018年。サイバーエージェント・キャピタルがこの創業期を支援し、2022年6月に実施したシリーズ A ラウンドで5億円を超える資金調達に成功した。このラウンドはニッセイ・キャピタルがリードし、博報堂 DY ベンチャーズ、日本郵政キャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが参加した。

ACROVE の事業の特徴でもあるロールアップ EC は、主に Amazon や楽天上でレビューが良く成長が見込まれる収益性の高いブランドを買収し、商品調達やオペレーションの効率化、マーケティングの強化により、さらなる成長を目指すモデルである。

組織にも特徴がある。2023年4月の時点で、 ACROVE の特徴として平均年齢が27歳程度で、20代が8割を占める若手中心の組織であることが挙げられる。第二新卒の入社が多く、代表の荒井俊亮氏も1996年生まれの「Z世代」組織だ。同社は心理的安全性の確保や、組織と個人目標の調和と合意を重視した組織運営を行っている。

2023年10月にはシリーズ B ラウンドで11億4,000万円の資金調達を実施した。この調達は第三者割当増資と融資によるもので、日本郵政キャピタル、静岡キャピタル、 SMBC ベンチャーキャピタル、広島ベンチャーキャピタル、りそなベンチャーキャピタル、大日本印刷、ベクトルの7社が新株を引き受けた。また、静岡銀行、あおぞら企業投資、大和ブルーフィナンシャル、東日本銀行が融資枠で参加した。

このタイミングでのインタビュー時点では、通期50億円の売上が見込まれていたが、 EC 支援に加えてロールアップ EC による非連続な売り上げの拡大がみられるようになっていた。今回はそれを受けてのシリーズ C ラウンドで、特に楽天やヤフーなどで要職を務めた小澤隆生氏創業のブーストキャピタルの共同リード参加が、2年で16件の M&A を成功させた同社への期待を表したものになっていると言える。

足元の CX 事業、実は二桁億円規模で黒字化

ACROVE の事業は、主にブランドの EC 売上を最大化する支援事業( CX 事業部)と M&A による EC ロールアップ事業の二本柱で構成されている。確かにロールアップ EC は買収毎に売上が階段状に成長するため、目立ちやすい。

しかし堅調に成長し、彼らの足元を支えているのはブランド支援事業だ。現在約170社の顧客を抱えており、その内訳は首都圏が4割、首都圏を除く関東を含めた地方が6割となっている。この事業の売上は二桁億円を超えており、事業単体で利益体質になっているという。

荒井氏によると、実は ACROVE の事業計画には M&A による成長を過度には組み込んでいないという。というのも、この CX 事業があるため、他のロールアップ企業とは異なり、 M&A を行わなくても既存事業の成長で計画達成が可能になっているからだ。 M&A の予算は設定しているものの、あえて流動的な扱いにしているという話だった。

ACROVEのコア戦略の中核はやはりテクノロジーだ

そして今回調達した資金は M&A や人材採用に充てられるのだが、中でも注目したいのがこの CX 事業の核となるシステム開発、 EC データ分析プラットフォーム「ACROVE FORCE」の機能拡充への投資だ。現在のシステムは Amazon 、楽天、ヤフーなどの主要 EC プラットフォームのデータを統合し、分析やサジェストを提供する機能が中心となっている。これにより EC を展開する企業はどの商品をどのように売ればよいか把握することができる。

一方、この機能をさらに拡充し、今後は、 PL や BS (損益計算書や貸借対照表)の管理機能や在庫管理システムの内製化など、より包括的な EC マネジメントツールへの進化を目指しているというのだ。これにより、 EC ビジネス全体を一元管理できるシステム、つまり経営も含めた包括的な EC プラットフォームへと進化しようという意図が見えてくる。

若手にとっての成長機会

ACROVE の人材戦略は、急速に拡大する事業構造に適応できる柔軟性と、多様な事業領域をマネジメントできる能力を重視している。荒井氏は、特に事業責任者の採用に注力していると話していた。従業員数については、連結ベースで220名に達している。このうち、ブランド支援事業( CX 事業)に携わる人員は70名ほどで、全体の三分の一近くを占めている。 EC ロールアップ事業で約30名、残りはブランド譲受などで連結となった子会社のメンバーになる。

そして昭和世代の筆者にとってまぶしいのが、Z世代中心のメンバー構成になっている点だ。特に若手人材に対する機会の提供で、実際に第二新卒で入社した社員が短期間で成長し、子会社の社長を務めるケースも出ているという。これは ACROVE 独特で、自社の CX 事業以外にも、買収した企業の経営陣として活躍する道があるからだ。

荒井氏は、 EC ビジネスが商売の基本を学ぶ上で理想的な環境であると話していた。実際、彼も最初はプロテインの販売から事業を開始している。販売、在庫管理、商品企画、開発など、ビジネスの基礎となるスキルを幅広く習得できる点は EC ならではだろう。

事業戦略: EC 3.0の実現に向けて

ではここから ACROVE はどのように成長するのだろうか。その戦略として荒井氏は「 EC 3.0」を提唱する。その核心は、 EC における販売、在庫管理、顧客管理、商品開発などの機能を自社・他社含め分散させつつ、それらを横断的に管理するプラットフォームを構築することを意味する。他社の EC 支援を手掛けつつ、ロールアップ EC も実施する ACROVE ならではの考え方だ。

楽天などのモール世代、BASEのようなストアフロントタイプの第二世代に続いて、このACROVEが手がける第三世代は分散化したECをデータで統合するモデルと言えるだろう。

この戦略の特徴は、単なる販売チャネルの多様化にとどまらない。従来は大規模な実店舗や高額な広告費が必要だったため扱いづらかったニッチな商品や、個人・小規模事業者が取り扱う商品にも適した販路をデータ・ドリブンに提供する。これにより、今まで埋もれていた需要と供給をマッチングさせ、新たな市場を開拓することを目指している。

この概念を実現するため、 ACROVE は戦略的な M&A を展開している。食品や小物家電、ファッションといった分野はもちろん、先日グループ入りした Digital-Free という会社の買収により、 Adobe Commerce を使用した自社 EC サイトの構築サービスを提供できるようになった。これにより、従来のモール関連のソフトウェアだけでなく、より幅広い EC ソリューションを顧客に提供することが可能になる。単なる EC 支援にとどまらず、 EC に関連する様々なサービスを総合的に提供できる体制を構築しつつあるのだ。

ロールアップ EC の失敗例

ところでこのロールアップ EC という手法、別に目新しいものではない。ただ、こと「スタートアップ」という成長戦略に当てはめると数年前、ある方法が話題になった。

それが世界最速で「ユニコーン(10億ドル評価)」へと上り詰めたと謳ったスタートアップ、 Thrasio (セラシオ)のことだ。 ACROVE と同じく2018年創業の同社は、 Amazon を中心にブランドを買い集め、一気に企業価値を膨らませた話題のモデルとして当時注目を集めた。

しかし彼らのバリューを支えていた株高環境が終わり、 Thrasio は IPO を延期した2021年のシリーズ D ラウンドの資金調達を最後に話題から遠ざかる。同社はこれまでに34億ドルの資金を VC などから調達していたのだが、最近では破産の危機についても言及があるなどうまくいかなかったケースとして筆者は記憶している。

ただこれはエクイティで買収をするという方法を取ったからだ。 ACROVE はここまで書いた通り、足元の事業が大きな違いになっている。では ACROVE のようにスタートアップが M&A を成功させるためにはどうしたらいいのだろうか。先日開催した勉強会で荒井氏はその件について経験を共有してくれている。

スタートアップ M&A の成功要因

スタートアップが M&A を成功させるためには、戦略的なアプローチと実践的なスキルの両方が必要だ。勉強会で語られた ACROVE の荒井氏と小澤隆生氏の知見を基に、その方法を探ってみる。

まず、荒井氏は「小さく始める」ことの重要性を強調していた。 ACROVE は創業から2年間で16件の M&A を実施したが、これは一朝一夕に達成されたものではない。経験を積みながら徐々に案件の規模を拡大していくアプローチを取ることで、リスクを抑えつつ M&A のスキルを磨いていったという。

一方で、魅力的な案件に対しては「即決する」迅速な意思決定も必要である。荒井氏は、このスピードと慎重さのバランスを取ることが M&A 成功の鍵だと指摘していた。さらに、 M&A を継続的に実行していくためには、組織全体が M&A に前向きな文化を持つことも重要だ。小澤氏は、定期的に M&A 案件を検討する習慣を組織に根付かせることの重要性を語っている。

M&A の成功には、買収後の統合プロセス( PMI )も重要になる。 ACROVE はデータドリブンな PMI を実践しており、グループ全体のデータを一元管理し、リアルタイムで各社のパフォーマンスを把握・分析できるシステムを構築している。これにより、迅速な意思決定と効果的な施策実行が可能となっている。

都内で開催されたサイバーエージェント・キャピタル主催のクローズドの勉強会。登壇した「Boost Capital」小澤隆生氏(写真左)と、EC ロールアップで急成長している ACROVE の荒井俊亮氏(写真右)

資金調達とバリュエーションも、 M&A 成功の重要な要素である。荒井氏の経験によると、 ACROVE は当初エクイティで調達した資金を使用し、その後に融資も活用するようになった。スタートアップにとって M&A 最大の難関はおそらくここだろう。一般的な金融機関による融資は相当ハードルが高いため、投資家をいかに説得できるかがポイントになる。

また、 M&A を成功させるためには、経営者自身の関与が不可欠である。荒井氏は、 M&A の交渉や意思決定に経営者が直接関与することの重要性を強調していた。特に事業承継案件では、若手経営者であることがプラスに働くケースもあるという。実際、二年で実施した16件の内、6件が事業承継型 M&A となっている。

小澤氏も荒井氏のようなケースを「極めて稀」と評していたが、そもそもスタートアップで成功するということ自体、稀なチャレンジなのだ。新たにスタートアップによる M&A という手法で成功しつつあるケースが出ている以上、研究の価値は大いにあるのではないだろうか。

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