Startup Island TAIWAN、日台イノベーションサミットを17日から開催——日本市場開拓への意気込みをマネージングディレクターに聞いた

Startup Island TAIWAN マネージングディレクターの Amanda Liu(劉宥彤)氏
Image credit: Startup Island TAIWAN

本稿は、「Startup Island TAIWAN」による寄稿転載「台湾特集2024」の一部。Startup Island TAIWANは、9月17日から東京で「日本・台湾イノベーションサミット」を開催する。

台湾政府が推進するスタートアップ支援ブランド「Startup Island TAIWAN」は2022年から年に一度、「日本・台湾イノベーションサミット」を開催している。3回目となる今年は、9月17日から東京・有楽町のTokyo Innovation Baseで開催される予定だ。

Startup Island TAIWANは今年、今までになく日本市場での存在感を高めようとしていて、それを如実に表しているのが2024年内に予定されている東京オフィスの開設だ。Startup Island TAIWANはこのオフィスを拠点に、日本企業とのパートナーシップ強化や台湾スタートアップの日本進出支援に乗り出す。

日台スタートアップサミットを前に準備に奔走するStartup Island TAIWANのマネージングディレクターAmanda Liu(劉宥彤)氏に話を聞くことができた。彼女は「日本市場開拓には忍耐強さが必要」と指摘しながらも、両国のスタートアップエコシステムの連携に意欲を示した。

台湾の技術力をグローバルにアピール

Startup Island TAIWANは台湾の政府官庁である国家発展委員会(NDC)が主導する政府横断的なブランドだ。Liu氏によると、その使命は「台湾のテクノロジーソリューションを海外市場に展開し、グローバル市場での台湾企業の確立を支援すること」だという。

台湾は「テックアイランド」として知られています。半導体やサプライチェーンに強みがありますが、それだけではありません。AIの時代において、半導体はあらゆる産業で重要になっています。私たちは単にスタートアップを宣伝するだけでなく、台湾全体の技術力をアピールしたいのです。(Liu氏)

Startup Island TAIWANのスローガンは「Together, Go Big」。Liu氏は、台湾は常にパートナーであり続けることで、日本の企業や組織と適切なパートナーシップを築き、一緒に市場開拓や事業展開をしていきたいと語る。

特に注力しているのが日本市場だ。2021年から毎年「日本・台湾イノベーションサミット」を開催しており、来週にも東京で同イベントを予定している。このイベントでは、台湾のスタートアップだけでなく、10社以上の日本のスタートアップもピッチを行う予定だという。

当初は日本市場で何ができるのか、具体的なアイデアがありませんでした。どのようなステークホルダーがいて、どのようなエコシステムの風景があるのか、把握できていなかったのです。しかし、2021年のコロナ後に初めてサミットを開催し、昨年も継続して開催しました。そして今年、長期的なコミットメントとして東京ハブを開設する予定です。(Liu氏)

2023年の日本・台湾スタートアップサミットの様子
Image credit: Startup Island TAIWAN

台湾スタートアップの強みと、日本市場開拓の難しさ

Liu氏は、台湾スタートアップの強みとして柔軟性を挙げる。

長年、台湾はOEM(相手先ブランド製造)ビジネスで成功してきました。そのため、他国や他社とのパートナーシップに長けています。アメリカ企業は自社のブランドや手法、システムを他国に持ち込むことが多いですが、台湾のスタートアップはより柔軟に、相手方にあわせて、多様なソリューションを提供できます。(Liu氏)

例えば、日本市場向けにソフトウェアをカスタマイズしたり、日本企業のブランドで技術ソリューションを提供したりすることにも可能だと柔軟に対応できる。

共同開発や共同マーケティングなど、さまざまな協力の形があります。これは台湾企業のDNAであり、強みなのです。この柔軟性は、グローバル市場での競争力にもつながっています。(Liu氏)

しかし、一方で、日本市場開拓の難しさは、台湾のスタートアップにとって、並大抵のものではないという。

日本市場で成功したいなら、この市場に対して情熱を持つ必要があります。韓国やアメリカなら1回のイベントですぐに多くの可能性やコミュニケーションチャネルが生まれることもありますが、日本では何度も顔を出して、企業の信頼や理解を得る必要があります。誰もが忍耐強くならなければなりません。(Liu氏)

Liu氏は、日本には「2つの世界」があると分析している。1つはスタートアップエコシステムの世界で、もう1つは伝統的なエコシステムの世界だ。

スタートアップエコシステムの世界では、他の国々と同じようにスムーズにコミュニケーションができます。しかし、実際のビジネスをするには伝統的なエコシステムの世界と向き合う必要があります。企業や政府、組織との終わりのないコミュニケーションが求められるのです。(Liu氏)

2023年11月、Tokyo Innovation Baseのキックオフイベントで、Startup Island TAIWANはパートナーとして協力することが明らかにされた。東京都知事 小池百合子氏の右にLiu氏の姿がある。
Image credit: BRIDGE

PoC(実証実験)プロジェクトの実施も、海外スタートアップにとっては難しい課題だ。日本企業は往々にして「日本での実績」を求めるが、それは海外スタートアップにとってはジレンマとなる。Startup Island TAIWANはこの課題に対し、日本企業の台湾拠点を活用する戦略を取っている。

台湾にある日本企業の支社にソリューションを売り込み、そこで採用してもらえれば、日本本社への推薦につながる可能性があります。例えば、JR東日本は、台湾に「One&Co」という〝出島〟を持っています。こうした台湾に拠点を持つ日本企業とのつながりが重要になってきます。(Liu氏)

また、東南アジアなど第三国市場での協業も、日本企業との関係構築の糸口になるという。例えば、日本企業が東南アジアなどで技術パートナーを探している場合、台湾企業はグローバル市場で比較され採用されることも多い。信頼性の観点から、中国のソリューションよりも台湾のソリューションが好まれる傾向があるそうだ。ただ、特に、B2Cビジネスについては、台湾企業単独での日本市場開拓は難しいと、Liu氏は指摘した。

台湾のB2Cスタートアップが日本で成功するには、必ず日本のパートナーが必要です。例えば、オンライン学習プラットフォームの「HaHow(好学校)」は日本のパートナーと組んで、今年末に日本でサービスを開始する予定です。(Liu氏)

Hahowは2017年、華和結ホールディングスと戦略的業務提携を発表している。華和結ホールディングスは、日本のコンテンツの輸出や海外IT技術の輸入、世界に向けて日本のオンライン教育動画を提供する「JCCD Studio」などを運営している。HaHowが日本で開始するサービスについては正式発表が待たれるところだ。

左から:華和結ホールディングス CEO Alex Wang(王沁)氏、「Hahow(好学校)を運営する思哈 CEO のArnold Chiang(江前緯)氏
Image credit: Kawayui Holdings

こうした課題に対応するため、Startup Island TAIWAN は2024年内に東京にオフィスを開設する計画だ。シリコンバレーに続く、2番目の海外拠点となる。

東京オフィスには日本人スタッフも配置し、橋渡し役を担ってもらう予定です。台湾のスタートアップが日本のパートナーを見つけ、PoCを実施したり、既存システムに台湾のソリューションを導入したりする際の支援をしていきます。(Liu氏)

Liu氏は、日本市場での成功には時間がかかるとしながらも、長期的なコミットメントの重要性を強調した。

正直なところ、1年や2年で急速に成功するとは約束できません。しかし、海外拠点を設立することは重要な戦略的一歩です。日本のステークホルダーとの関係を深め、台湾と日本のスタートアップをつなぐ機会を増やしていきたいと考えています。(Liu氏)

東京オフィスの開設は、Startup Island TAIWANの日本市場に対する本気度を示すものだ。Liu氏は、日本市場により強いプレゼンスを確立し、以前は見つけられなかったことを見つけられるようになるだろうと期待を寄せた。

NEXT BIGプログラムとTech Solution Day

2023年の「NEXT BIG」プログラム授賞式には、蔡英文総統も参加した。
Image credit: Startup Island TAIWAN

Startup Island TAIWANの活動は、単なるスタートアップ支援にとどまらない。Liu氏は「台湾全体のイノベーションエコシステムを代表するブランド」としての役割を強調する。

私たちは技術関連のスタートアップを中心に支援していますが、長期的にはより多様な分野のスタートアップを支援していく計画です。(Liu氏)

Startup Island TAIWANの取り組みの一つに「NEXT BIG」プログラムがある。これは、すでに成功を収めた台湾のスタートアップを集めたグループだ。Liu氏によれば、このグループにはKKDay(酷遊天)、iKala(愛卡拉)、Next Drive(聯齊科技)など、すでに日本に拠点を持つ企業も含まれているという。

また、「Tech Solution Day」と呼ばれる技術プレゼンテーションイベントも各国で開催している。

Tech Solution Dayは、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポールなど、さまざまな国で開催しています。短期間のイベントですが、スタートアップの技術ソリューションに焦点を当てたプレゼンテーションを行います。単なるデモンストレーションイベントではなく、企業とのマッチングも重視しています。(Liu氏)

2023年11月、シンガポールのスタートアップウィーク「SWITCH」期間中に開催された「Tech Solution Day」
Image credit: Startup Island TAIWAN

未来への展望——日台イノベーション協力の深化

Startup Island TAIWANの活動は日本市場にとどまらない。今年末にはシンガポールで開催される「SWITCH」イベントに参加し、日本企業も交えて東南アジア市場の開拓を目指す。Liu氏は、日本のスタートアップの台湾進出支援はもとより、台湾が日本のスタートアップにとってのパイロット市場になる可能性についても言及した。

台湾のスタートアップや日本のスタートアップ、台湾企業や日本企業が協力して東南アジアでビジネスを展開する機会を探っていきたいと考えています。

台湾は非常にオープンな市場です。インターネットの普及率が高く、市場規模は小さいものの、コミュニケーションのスピードが速い。アジアでソリューションを試したい日本のスタートアップにとって、台湾は最適な選択肢になるでしょう。(Liu氏)

実際、Startup Island TAIWANは東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)と協力し、日本のスタートアップソリューションを台湾に紹介する取り組みも始めている。Liu氏によれば、今後、こうした日本のアカデミア出身やディープテック系のVCが台湾の大学などと連携し、日本のスタートアップが台湾でパイロットプログラムを実施するなどの展開が期待されるという。

日台のスタートアップエコシステムの連携は、まだ始まったばかりだ。しかし、Startup Island TAIWANの取り組みは、両国のイノベーション促進と経済関係の深化に寄与する可能性を秘めている。

Liu氏は、今後の展望について次のように語った。

産業界とのエンゲージメントを深め、グローバル規模での協力を促進していきたいと考えています。台湾の技術力をショーケースとして世界に示すことで、より多くのチャンスが生まれるはずです。(Liu氏)

7月に台北の「One&Co」で開催された、東大IPC、日本や台湾スタートアップのミートアップの案内
Image credit: Startup Island TAIWAN

東京オフィスの開設を機に、Startup Island TAIWANの活動はさらに加速すると見られる。日本市場での経験を積み重ね、日本企業とのパートナーシップを深めていくことで、台湾のスタートアップエコシステムはより強固なものになっていくだろう。

同時に、日本のスタートアップにとっても、台湾は魅力的な市場となる可能性がある。Liu氏が指摘するように、台湾はアジア市場進出の足がかりとして、また新しいソリューションのテストベッドとして機能する可能性を秘めている。

Startup Island TAIWANの取り組みは、単なる一方向の市場開拓支援ではない。日台双方のスタートアップが互いの強みを生かし、共に成長していく環境を作り出そうとしている。この取り組みが成功すれば、アジアのイノベーション地図が大きく塗り替えられる可能性もあるだろう。

今後、Startup Island TAIWANがどのような成果を上げ、日台のスタートアップエコシステムがどのように発展していくのか、その動向が注目される。

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