カーボンクレジットのバイウィル、地銀など25機関と地域脱炭素推進のコンソーシアムを発足——中小企業への訴求狙う

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コンソーシアムに参加する地銀など2325機関の皆さん、来賓の皆さん、バイウィルの皆さんら
Image credit: Masaru Ikeda

<10日23時更新> 参加した組織の数を23機関から25機関に訂正。

カーボンクレジットを軸にした、企業のグリーントランスフォーメーション(GX)推進事業やブランドコンサルティングの提供を行うバイウィルは10日、都内で「地域脱炭素推進コンソーシアム」の設立総会を開催した。これは、同社が5月の資金調達時に明らかにしていたものだ。設立総会には、全国の地方銀行、金融大手、地方メディアなど全国の2325の機関が参加した。

設立総会では、前環境事務次官の中井徳太郎氏、環境省地域政策課長の近藤貴幸氏、経済産業省 GX 推進企画室長の荻野洋平氏らが来賓として出席し祝辞を述べた。専門家による基調講演に続いて、バイウィル代表取締役 CSO(最高戦略責任者)の伊佐陽介氏は、コンソーシアムの目的と概要について説明した。伊佐氏は、地域脱炭素の重要性が高まる背景として、日本の脱炭素への取り組みの現状と課題を指摘した。

日本の脱炭素は進んでいるものの、中小企業の取り組みが課題

設立総会の冒頭で挨拶をするバイウィル代表取締役 CEO の下村雄一郎氏
Image credit: Masaru Ikeda

伊佐氏によると、日本は経済先進国の中で2050年カーボンニュートラルに向けて最も順調に脱炭素が進んでいる国の一つだという。アメリカや EU が目標に対して超過やショートの状態にある中、日本は現状でオントラックの状態にある。

しかし、このまま2050年のカーボンニュートラルが順調にオントラックのままでニュートラルまで行き着くかというと、一概にそうとも言い切れない。(伊佐氏)

2030年までの削減目標が非常に高い野心的なものであり、現状の取り組みだけでは達成が困難な可能性があるためだ。日本の脱炭素に向けた取り組みとしては、企業の自助努力による削減、再生可能エネルギーの導入拡大、ネガティブエミッション技術の開発などが進められている。しかし、伊佐氏は以下のような課題を挙げた。

  • 自助努力による削減
    日本の産業構造は製造業の割合が高く、すでにかなりの削減努力が行われているため、今後さらに大幅な削減を行う余地が少なくなっている可能性がある。
  • 再生可能エネルギーの導入
    日本の再生可能エネルギー導入率は他の先進国に比べて遅れている。ポテンシャルはあるものの、事業性を考慮すると不確実性が高い。
  • ネガティブエミッション技術
    2050年までに社会実装が期待される技術であり、2030年までの短期的な削減への寄与は限定的である。

これらの課題を踏まえ、伊佐氏は「(大企業だけでなく)中小企業を含む地域の脱炭素化が重要になってきている」と指摘した。日本の二酸化炭素排出量の約2割を中小企業が占めているが、大企業を中心とした脱炭素の取り組みがまだ十分に波及していないためだ。

地域脱炭素の重要性と課題

コンソーシアムの説明をする代表取締役 CSO 伊佐陽介氏
Image credit: Masaru Ikeda

地域脱炭素の重要性が高まる一方で、その実現には課題も多い。環境省が進める「脱炭素先行地域」の取り組みでは、これまでに73の提案があったものの、さまざまな課題が明らかになっている。伊佐氏は主な課題として、環境要素への対策、事業性の確保、実施体制の整備を挙げた。

伊佐氏は、中小企業への3年前と最近のアンケートをもとに、脱炭素への取り組みについて、ほぼ進んでいないと指摘し、このような背景を踏まえ、「地域脱炭素推進コンソーシアム」の目的を「脱炭素を地域経済活性化と地域課題解決の起爆剤として取り組む」ことだと説明した。

具体的には、「地域のやりがいを引き出すような、魅力的な地域事業モデルの創出」「金融機関によるファイナンスの重要性」「クレジットの経済的効果を活用した地域活性化」の3つを重視するという。この3つの重点課題に呼応して、コンソーシアムでは、3つのワーキンググループを設置し活動を進める。

  • 地域経済循環創造ワーキンググループ
    リーダー:鹿児島銀行
    目的:地域脱炭素と地域経済活性化を同時に実現するモデル事業の創出と社会実装
  • 新領域技術創出ワーキンググループ
    リーダー:山陰合同銀行
    目的:「地域脱炭素」と「地域経済活性化」を同時実現できる金融機関としての商品・サービス・ソリューションの具体化
  • 政策トレンド形成ワーキンググループ
    リーダー:バイウィル
    目的:コンソーシアムの社会実装を加速し、「地域脱炭素」と「地域経済活性化」を同時に実現するルールメイクおよび世論形成

伊佐氏は、これらのワーキンググループを通じて「最初の一歩の壁」「仕組みや世論の壁」「技術ソリューションの壁」という3つの壁を打ち破り、具体的な成果を出していきたいとの意気込みを示した。また、地域脱炭素を推進していく上で金融機関の役割が極めて重要だと強調した。

地域のリアルな声を我々が聞けているのは、皆様(金融機関)が我々を繋いでいただいているからです。金融機関がリードして地域を元気にしていく志を持って、一緒に進んでいきたいと思います。(伊佐氏)

Image credit: Masaru Ikeda

脱炭素と経済活性化の両立に向けて

伊佐氏は、地域の中小企業に脱炭素へのモチベーションを持ってもらうことが重要だと指摘した。しかし、単に脱炭素の重要性を説明したり、排出量の算定から始めるアプローチでは効果が限定的だという。経済的合理性を生み出すために、中小企業には「脱炭素って儲かるんだね」という感覚を持ってもらうことが重要だと伊佐氏は主張する。

脱炭素という切り口を利用すれば、これまで停滞気味だった地域経済に刺激が生まれて、ここに収益とか事業性とかいうものが乗っかってきて、それだったらやってみようかなという感覚を持ってもらうことが大切だ思います。

誰もが重要性を認識しながらも、いまだ成功事例の少ない地域脱炭素であり、地域経済活性化です。だからこそ、地域金融機関様が中心となってリードし、あるべきモデルを創出し、地域から日本を牽引していきましょう。(伊佐氏)

地域脱炭素推進コンソーシアムの設立は、日本の2050年カーボンニュートラル目標の達成に向けた重要な一歩となる。バイウィルのこれまでの取り組みと、地域金融機関との強固な連携基盤を活かし、産官学の協力体制をさらに強化することで、具体的な成功事例を積み重ねていくことが期待される。

特に、カーボンクレジットを活用した地域経済循環モデルの構築は、このコンソーシアムの大きな特徴と言える。地域で創出されたカーボンクレジットを地域内で活用し、その経済的価値を地域に還元することで、脱炭素と経済活性化の好循環を生み出すことを目指している。

また、金融機関が主導的な役割を果たすことで、地域の中小企業に対する効果的な支援や、新たな金融商品・サービスの開発が進むことも期待される。環境価値と経済価値を両立させるビジネスモデルの創出は、地域の持続可能な発展にとって不可欠な要素だ。コンソーシアムを通じた情報共有や相互学習の仕組みは、各地域の取り組みを加速させる触媒となる可能性が期待できるだろう。

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