創業5年50億を売るZ世代「ACROVE」って何者?ーーアトツギ問題も解決”日本版ECロールアップ”のワケ

SHARE:
ACROVE代表 荒井 俊亮さん

ニュースサマリー:ブランドのEC支援などを手掛けるACROVEは11日、シリーズBラウンドの資金調達を公表した。第三者割当増資と融資によるもので、新株を引き受けたのは日本郵政キャピタル、静岡キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、広島ベンチャーキャピタル、りそなベンチャーキャピタル、大日本印刷、ベクトルの7社で、これに融資として静岡銀行、あおぞら企業投資、大和ブルーフィナンシャル、東日本銀行が融資枠で参加した。なお、あおぞら企業投資など一部はワラント(新株予約権)を融資に付けたベンチャーデットでのラウンド参加となる。

調達した資金は11億4,000万円で、株と融資の比率や払込日、株価などの詳細は非公開。同社の増資・調達資金は累計で18億4,000万円となった。なお前回の資金調達では、ニッセイ・キャピタルをリードに、サイバーエージェント・キャピタル(CAC)などが参加したシリーズAラウンドで5億円を調達している。

ACROVEの創業は2018年。1996年生まれの「Z世代」荒井俊亮氏が、プロテイン販売のEC事業を立ち上げたのをきっかけに2020年から企業のECを支援する事業を開始。楽天やAmazonなどのプラットフォームに出店するブランドのEC支援を手掛けるプラットフォーム事業は現在、160社を抱えるまでに拡大している。また、このEC支援基盤で得られたノウハウをもとに2022年からは、ブランド自体を買収してグループ運営する「ECロールアップ」事業を開始。現在までに7社を買収した。

同社によるとこの事業で急成長しており、現在の足元となる今期(10月期)は年商50億円を見込む。今回調達した資金でECロールアップ事業を拡大させ、来期売上120億円規模を目指して、年間5社から10社程度のグループ化を進めるとしている。現時点での従業員数は連結で約160名。

Z世代が集まるACROVE。写真左から:広報部 藤角清香さん、荒井さん、共同創業者 エバンジェリスト 櫻木由紀さん(Z世代が集まるACROVE「心理的安全性」のワケーーカムスタ!チームワークのお話から引用)

話題のポイント:みなさんは数年前、世界最速で「ユニコーン(10億ドル評価)」へと上り詰めたと謳ったスタートアップ、Thrasio(セラシオ)のことを覚えているでしょうか?2018年創業の同社はAmazonを中心にブランドを買い集め、一気に企業価値を膨らませた話題のモデルとして当時注目を集めました。

分かりやすいM&Aモデルは瞬く間に世界中に広がり、PerchやElevate Brands、Una Brands、Mensa Brandsなどなどが各国に生まれていきました。しかし彼らのバリューを支えていた株高環境が終わり、ThrasioはIPOを延期した2021年のシリーズDラウンドの資金調達を最後に話題から遠ざかっていきます。最近のWSJの報道では、20%の従業員カットに加えて破産の危機についても言及がありました。同社はこれまでに34億ドルの資金をVCなどから調達しています。

株高でバンバン調達してブランドを買いまくり、一気に上場してみんなハッピーというストーリーだったのかもしれませんが、市場はそれを許してくれなかったということなんでしょう。

さて、話をACROVEに戻します。荒井さんたちは社員の平均年齢が27歳という「Z世代」なチームです。以前にもお話聞かせてもらったことがあるんですが、眩しいぐらいにフレッシュです。羨ましい。

しかし戦略は極めて地味です。「株高イェーイ!」というお祭りに乗っかることなく、極めて実直にこれまでブランドのEC支援をし続けてきました。これまで160社近くのブランドを支援した結果、かなりのデータが溜まっていて、Amazonや楽天などのモールにおける販売傾向や勝ちパターンを把握できているのだそうです。結果、ここ1年では7社のM&Aを実施していますが、どれも買収のデューデリジェンス(DD)の段階である程度のPLが引けているのだとか。荒井さんはACROVEの強みを次のように語ってくれました。

「Amazonや楽天、ヤフーの支援だけでも160社ぐらいのお客さんがいらっしゃるので、何十万という商品がどれぐらい売れてて、どういったマーケットトレンドがあってというのがわかるようになってるんです。予測のPLがある程度できていて、その時点でDDがほとんど完了する。これに加えて社長さん側に問題を抱えていて、1年以内にどうしても引き継ぎたいという方も結構いらっしゃる。こちらはいつでもチームを支援にアサインできて、実際の引き継ぎの期間でも2カ月とかでできてしまう」。

買収の条件も当然よくなるので、こうなると後は買収する先を探してどんどん、となるわけですが、ここにもACROVEらしさがありました。それが事業者の「後継ぎ問題」とPDCAです。

事業承継問題を解決するPDCA

子会社化したローネジャパンの前代表、下門寛さんと荒井さん

ここ1年ほどのACROVEの買収先7社の内、3社は事業承継に課題を抱えた事業者の方からのM&Aになっているそうです。今年6月に子会社化したローネジャパンはヘアアイロンなどを開発・販売する会社さんだったのですが、前社長の下門寛さんは退任されて事業をACROVEに引き継ぎされています。また、大阪の輸入食品などを扱う創業80年の丸万については、前社長と共同代表という形で7月に子会社化をしました。

ECロールアップのモデルでは、一般的なプライベートエクイティファンドなどと異なり、買った株式をまた別の会社に売却するわけではなく、ACROVEの事業として展開していくことになるので、グループ化した後からが勝負です。そこで気になるのは買収後の成長戦略です。荒井さんはまず、共通化されたEC支援基盤を活用して数値の解像度を上げることから始めるとお話されていました。

「やっぱり一番大事なのは日次で会計をちゃんと締めることなんですよ。(買収先の企業によっては)ECの管理会計を持ってなかったりするんですけど、うちだったら売上と売上原価で粗利を出して、そこから広告費を引いて営業利益といった、当然のものをちゃんと日次で出せるようにします。同じ管理会計の仕組みで全部管理することができると日次で今日は黒字だ、どれぐらい儲かったとわかるようになる。赤字なんだから頑張ってどこを変えようという議論が生まれて、結果的にPDCAを回す」。

特に事業承継系の売却では、事業を手放す創業者や経営陣の方の思い入れのようなものも乗っかってきます。そういう意味で事業をこの先も伸ばせるという期待感は、売却の価格以上に魅力になるかもしれません。あと荒井さんのお話では、事業承継系だとやはり代表・創業者の方が60代前後というケースが多く、自分の息子世代にもなる彼らに手渡せるというのは心情的にも楽なのかなと思ったり。

買収する企業の規模としては年商で1億円から10億円の規模のものが多いそうです。現在は毎月、4、50件の売却相談がプロバイダーなどから提供されており、現在もデータと目視で一件ずつDDを走らせているというお話でした。

ここまで地味に拡大を続けてきたACROVEですが、一気に独自のECロールアップモデルで浮上してきました。日本にはいいものを作っている・売っている事業者の方はたくさんいらっしゃいますから、これらを冷静なデータで見極めて、どんどんロールアップしていっていただければと思います。

会員限定の有料記事ですが本日は無料公開いたします

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する