連続起業家が初回起業家に語る極意、〝試合〟に勝つための攻略法〜IVS 2021 Fall in 那須から

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本稿は、11月17〜19日に開催された、IVS 2021 Fall in 那須の取材の一部。

イベント1日目の17日の午後には、5つ会場で合計14に及ぶパネルディスカッションやワークショップが進行された。本稿では、この中から、筆者の興味をひいたセッションのひとつ「強くてニューゲーム?連続起業家が語るスタートアップ裏攻略法」を、ポイントをかいつまんで簡単に紹介してみたい。このセッションのスピーカーは以下の通り。モデレータは、グロービス・キャピタル・パートナーズの代表パートナー高宮慎一氏が務めた。

(以下は発言の要旨をまとめたものであるため、言い回しなどは発言の通りでない場合があります。)

一度目の起業と比べ、二度目以降の起業はうまくできているか? 初回起業家より連続起業家は有利か?

Fril(フリル)は黒字だったので、VC から調達しなくても事業を回すことができていた。赤字を掘ってトップラインを伸ばすという経営を以前はしてこなかった。競合(メルカリのこと)が出てきて、自分のやってきたサービスがコモディティ化してくると、兵隊の数で試合が決まるということを学んだ。いかに資金を調達して、兵隊の数を確保して試合に勝つか、ということが重要。(堀井氏)

1回目の経験を2回目以降の事業に活かすことができているものはあまり無いかもしれない。採用はこういうことをするとミスする、といったようなことはわかる。また、毎度、起業をする毎に、知り合いから資金調達できるスキームができてきたことは非常にありがたい。

投資家にとっては、投資を検討している起業家が投資家を損させない気概をどの程度持っているか、イグジットの際に起業家がどう動くかは、気にはなることではあるがよくわからなかったりする。以前の起業で投資に参加していれば、それがわかるので投資をしやすいというのはあると思う。また、投資家と起業家は立場の違いから意見の相違が生じることもあるが、ブレずに合理的な判断に基づいた意見を出し合うことが重要。合理性があれば、互いの立場を理解し尊重しあえる。合理性なく「あの時は、あんなに仲良く一緒にやったのに」と言われると辛い。

前の事業を一緒したチームが、そのまま次の起業の時のチームに入ってくれると、前の組織での失敗を引き継ぐことができ、コミュニケーションの擦り合わせコストを減らせるのは大きい。(古川氏)

信頼をフックにして、人とお金を調達できるのは大きい。今の事業も半分くらいは以前の事業からのメンバーだし、VC との付き合いもあったので、スマートバンクで昨年10億円を調達した時には、プロダクトはまだ無かったが、ほぼピッチ資料だけで調達できた。投資家には信頼してもらえる分、プレッシャーも大きいが。信頼残高をフックにし、最初のひと転がしのところから、お金を使ってブーストができるのは大きい。足りないリソースは、だいたいお金で解決できる。フリルの頃はとにかく赤字が怖かったが、今はどれくらいお金が必要かを最初に見極めて、それを調達し勝負するということができる。

お金は集めるのが難しいが、使うのも難しい。調達する人と、事業にそれを張っていく人が会社の中で別の方がいいと思う。その方が調達した資金を積極的に事業に投資していけるから。エンジニアをはじめ、フリルの時の創業メンバーがそのままスマートバンクに入ってくれたので、会社のカルチャーが変わらなかったのは大きい。(堀井氏)

アメリカで VC に就職し、その日本支社を立ち上げる過程で日本の VC 各社に会っていたので、最初の起業をするときの資金調達もやりやすかった。VC の経験から投資契約書(タームシート)の内容も熟知していたので、自分の力で資金調達を実行することができた。ただ、ロケーションバリューの時にはエンジニアを採用するのに苦労したので、スマートラウンド起業の前には誘われていたグーグルに入社し、入社時の挨拶では、3年後にはグーグルのエンジニアを引き連れて辞め起業することを公言した。これは戦略的なものだった。

一度目の起業でイグジットしているので、今の事業からは給料をとっていないものの、仮に失敗しても生きていけるという心の余裕があるのはよい。また、複数回起業をしていると、多く失敗をしているし「この光景、前にも見たことがある」というデジャブで遭遇することがよくある。そういう点で経験は生かされる。また、起業家と投資家を経験した自分の場合は、その両方を経験していないとわからないペインポイントをサービスにしているので、すごく有利だった。(砂川氏)

一度目の起業に戻ってやり直せるとしたら、何をしたいか?

堀井翔太氏

自分の応援団をどれだけ作れるかを意識したい。応援団の人数で事業規模が決まるから。現在は数が増えたが、当時は100億円規模のファンドを持つ VC の数も限られていた。そういった VC を軒並みおさえていきたい(編注:VC は利益相反を避けるために、原則として同業は一社にしか投資しない。自社が投資を受けられれば、その VC は競合には投資しないことになり、自社が投資を受ける著名 VC 各社を味方につければ、必然的に競合が資金調達できる VC は選択肢が限られることになる)。(堀井氏)

もっとかわいくありたい。自分は性格が尖っているので敵を作りがち。スタートアップは、みんなに育ててもらうんだという感覚が必要。リソースも何も無いところから作っていくので、みんなに助けてもらってこそ、何かができるようになる。そのためにはかわいさが必要。しかし、人間はそんなに簡単には変われない。自分はかわいい人間にはなれないので、そういう皆に愛される人(COO の冨田阿里氏)にパートナーとして加わってもらった(砂川氏)

小さく成功したくらいでは喜ばず、逆に大きな挑戦に失敗しても笑ってくれるような株主を入れること。そうすると、チャレンジ量が多くなるので、よかったなと思う。以前の事業のとときは、なんとか形にしなくてはいけないというプレッシャーが大きかったので、事業としては小さくまとまってしまっていたかもしれない。大きな戦略を描くよりも戦術を考える方に社内の意識が向いてしまうと、うまくいかないように思う。(古川氏)

連続起業家から初回投資家へ。何をやるべきか、何をやるべきではないか。

砂川大氏

自分が初回起業家であっても、周りに連続起業家は多くいるだろうから、連続起業家から教わることが大事。コーチされる力、コーチする側にコーチしてあげたい、と思わせる力が必要。いわゆる「coachability」が備わっている人なら、初回起業家だからと言って、連続起業家よりも不利とは限らない。(砂川氏)

初回起業家が連続起業家を相手に戦うときは、その戦場を自分たちにとって有利な戦況にするのがセオリー。たとえば、連続起業家はお金を持っている場合は「彼らはお金で解決しようとしているけど、我々は顧客を大事にするという戦略です」みたいなポジションを取られると、連続起業家はやりづらくなる。同じ土俵で戦うのでなく、「これだったら負けない」という一番になれる要素を持っておき、常に有利な戦況を作ること。やるべきでないことは、その逆のこと。(古川氏)

チームの最初の10人の質を良好に保つこと。最初の10人は企業文化の土台になる人たち。特に黎明期は混沌としたり仕様が変わったりすることが続く時期なので、良い人を集めることに注力する。逆に自分が失敗したなと思うのは、事細かく仕様を作ったり、カスタマサポートに来たメールの返信を続けたりしたこと。自分の代わりになる人を早く採用し、早く権限を移譲すべきだった。マイクロマネジメントせず、一通り役割を任せられる形で人を採用し、起業家は採用か調達に集中して動けるようにすべきだ。(堀井氏)

連続起業家の立場から、初回投資家に「これやられたら嫌だなぁ」というのは何か。

(前述もしたが)国内のトップティア VC を先におさえられること。改めて起業して思うのは、特に C2C サービスは成長にどういうドライバが有効か、どういう優先順位で何を伸ばせばいいのか、最初は手探りで進めることになるが、こういうポイントは精通している人に話を聞いた方が早い。ボードメンバーに自分が戦っている領域に強い人に早く参画しもらうことが大事。特に、競合は精通した上で攻めてくる。今までは、痛手を追いながら自ら学んできたが、週に一度とかのペースで精通している人に業務委託で入ってもらうだけでも、相当無駄な遠回りを回避できる。競合に自分のプロダクトを完全コピーされて、資金を倍集められるのは最も嫌。(堀井氏)

怖いもの知らずの若者が一番怖い(言い換えれば強い)。我々はすでにいろいろ経験してしまっているから用心深く行動することがあるが、それがディスアドバンテージになる可能性はある。投資先の起業家で、結構な金額を資金調達したのに、それを全部、広告に突っ込んで、しかし、蓋を開けてみたら、結果、上手くいったいう事案があった。自分がスタートアップを始めた頃は一回失敗すると NG だったが、今はうまく失敗するとむしろプラスに働く(評価される)ので、恐れずに突っ走るのはアリだと思う。日本のスタートアップシーンの成長のためにも、他人のプロダクトの完全コピーはやめた方がいい。(砂川氏)

通常であれば、ニッチで張らなさそうな領域に、初回投資家が張って成功されたら非常に怖い。市場のメインセグメントではないが、あるターゲットを絞り込んでリソースを集中とかすると、それが正解だということもある。ビジネスモデルを完全コピーされて、行儀の悪いこと(競合優位のために相場より高い金額で需要を取り込み、結局、短期間のうちにその事業をやめてしまうようなこと)、戦略無しでやられて、それで早々に潰れられたりするようなことがあると非常に困る。市場が荒れる。(古川氏)

最初の起業の時、急に数字が伸びてきて成長するなと確信した瞬間は?

「Fril(フリル)」では、読者モデルの人が使ってくれて、ブログに書いてくれたらユーザ数が伸びて、また、読者モデルの人が使ってくれて、ブログに書いてくれたらユーザ数が伸びて、というのが連鎖して続いたことがある。(堀井氏)

ロケーションバリューが提供していた「おてつだいネットワークス(2011年にロケーションバリューから独立分社化、2012年にフルキャストホールディングスが買収)」は、「ワールドビジネスサテライト(テレビ東京)」でローソン本社店舗での実証実験風景が取り上げられ、それをまた別の放送局が取材してくれる、という連鎖が起こった。一局出る毎に採用者が増える事象が繰り返され、最終的には全国のファミリーマートでアルバイト要員欠員時の人材確保手段に採用するまでになった。(砂川氏)

スタートアップにとって、応援されることは大事ということだが、そのためには応援されるための人脈が必要。その人脈はどう築いたか?

古川健介氏

応援されている人の周りは 応援力の高い人が多い。自分の場合は、キングコングの西野亮廣氏に応援してくれるように口説きに行って、その結果、西野氏を応援している人が自分のプロジェクトを応援してくれるようになった。対照的に、斜に構えている人の周りには、斜に構えている人が多いと思う。(古川氏)

自分の場合は、穐田誉輝氏(クックパッド元代表執行役兼取締役)や馬場功淳氏(コロプラ創業者・代表取締役)といった、プロダクトを作る姿勢が自分と近い経営者が、メンター兼投資家として応援してくれた。「ゼロから作った実績があれば、またゼロから作れるよ」と言ってもらえたことはよく覚えている。自分とバックグラウンドが近い人を見つけて口説くのは大事。(堀井氏)

どうやったらベースが作れるかではなく、どうやったらそのキーパーソンを捕まえられるか。自分にかわいげがあれば、向こうから寄ってきてくれるようになる。(砂川氏)

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