セールスフォースでスタートアップ支援部門を率いた冨田阿里氏、資金調達管理効率化SaaSのスマートラウンドにジョイン

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2019.8.14

スタートアップシーンが醸成されるにつれ、スタートアップの成長を支援する仕組みは多様化しつつある。ベンチャーキャピタルから始まり、エンジェル投資家という存在が現れ、現在では、世界的にもインキュベータやアクセラレータの数は増加の一途だ。ミドルステージ以降のスタートアップの大企業連携やビジネスのスケールアップに特化した「スケーラレーター」といったビジネスモデルも現れた。

時々自分のことを忘れがちになるが、スタートアップのメディアを運営するのも、幾分はスタートアップの成長に寄与しているだろう(…と信じたい)。大企業の中でスタートアップとの連携に心血を注いだり、大企業の中からスタートアップを起こすイントラプレナーと呼ばれる人たちもいる。スタートアップの成長を支援するスタートアップも数々生まれている。選択肢が増えることは素晴らしい。

日本のスタートアップシーンに身を置く人なら、冨田阿里(とみた・あんり)氏のことを知らない人はいないだろう。2016年セールスフォース・ドットコムに入社、2017に7月にスタートアップ戦略部を立ち上げ、以来、約2年間にわたりセールスフォースとスタートアップとの連携に奔走するだけでなく、多くのイベントやミートアップなどの開催を通じて、オープンイノベーションの活性化に携わってきた。そんな彼女がセールスフォースを離れ、新たなスタートアップにチャレンジするという。

スタートアップの名前はスマートラウンド。創業者の砂川大氏は商社やベンチャーキャピタルでのキャリアを経て、位置情報スタートアップのロケーションバリューをイグジットさせたシリアルアントレプレナーだ(「お金アンサー」に出資するなど、エンジェル投資家としての顔も持つ)。今年3月には、エンジェル投資家20名などから5,500万円を調達(日本政策金融公庫からの借り入れを含む)したのは記憶に新しい。今回、6名からなるスマートラウンドのチームに、執行役員 COO として参画するという。

冨田氏が自身のキャリアパスとしてスマートラウンドを選んだ理由や、スタートアップを通して、他のスタートアップの成長を支援する考えに至った経緯を聞いた。

スマートラウンドのメンバー。最前が冨田阿里氏で、その直後が代表の砂川大氏。
Image credit: Smartround

セールスフォースを辞められて、スマートラウンドに入られるとお伺いしました。おめでとうございます(と言うべきかな)。

ありがとうございます!

2017年7月に、セールスフォースでスタートアップ戦略部を立ち上げて、これまで約2年ほどスタートアップとのリレーションを活動をやってこられたわけですけど、お辞めになられる理由は?

身体が2つあったら辞めたくなかったのですが、どうしても今、スマートラウンドの事業に挑戦したくなりました。

スマートラウンドについて教えてください。

スタートアップに対して資金調達業務と株主コミュニケーションの円滑化を、投資家に対しては投資事業におけるソーシング、クロージング、モニタリングの効率化を、それぞれ実現するファイナンス・マネジメント・プラットフォームです。

初めての資金調達をする起業家も、スマートラウンドを使えば、ガイドに沿って入力するだけで、資金調達計画を作成できます。これから少しずつ、起業家の役に立つ知識もシェアしていきます。

スタートアップを支援したいという思いを実現するには、いろんな方法がある思います。投資家になってもいいし、VC に就職してもいい。アクセラレータや、スタートアップを支援する事業形態も多様化しました。数ある選択肢の中で、スマートラウンドを選んだのはなぜでしょうか?

これまでも大企業の中で新規事業に挑戦したり、スタートアップを手伝うことは沢山ありましたが、立場は数万人規模の会社の一社員。自分が今すぐ VC やアクセラレータに行くよりも、先に自分ごととしてスタートアップを経験する方が、より起業家の気持ちが分かるし、役にも立つと考えました。

これまで2年ほどスタートアップや起業家と接してこられて、日本のスタートアップコミュニティに足りないもの、もっとこうだったらいいのに、と思うことは何でしょうか?

まだまだ起業家の非効率的な作業を減らせると思います。生産性を高める SaaS を提供するスタートアップも、資金調達など自社が多くは経験しないことに対しての生産性は棚にあげているように感じます。

起業家は皆同じことをしているにも関わらず、それぞれにとって初めての体験であるため、自分の周りのツテを辿って、みんなが同じ本や記事を読んで一から勉強しています。

そして、悲しいことに同じような失敗や苦労をしている人が少なくありません。だからこそ、スマートラウンドではそのような体験をシェアできるようなコミュニティも立ち上げます。

「smartround」のダッシュボード
Image credit: Smartround

スマートラウンドではどのような仕事に就かれるのですか? スマートラウンドに参画された上での、ご自身の達成したいミッションみたいなのってありますか?

COOとして、起業家と投資家の声を聞きながらプロダクトを作っていきたいです。

スマートラウンドがあることで、スタートアップエコシステムがより良くなって、世界を良くするプロダクトや良い企業がたくさん出て来たら幸せですね。

THE BRIDGE の読者の中には、冨田さんファンも大勢いると思います。今後、冨田さんに会うには、どこに行けば会えますか?

そんなことはないと思いますが、そんなニーズがもしあれば、オフィスに来てください! 今は東京駅直結の「xBridge-Tokyo」というシェアオフィスに入っています。

また、いくつかイベント登壇を予定していますし、起業家の方に向けたオフライン&オンラインのイベントやコミュニティを企画しています。Twitter をフォローいただけるととても嬉しいです。

可能な範囲で、今後思い描くキャリアパスみたいなのを教えてください。特に、まだまだ女性の少ない日本のスタートアップシーンにおいて、オープンイノベーションの先陣を切ってきたような冨田さんのような存在は、この分野で仕事する後進の女性たちへの示唆にも富んでいると思います。例えば、5年後にどうなっていたいとか?(普通の主婦になりたい、とかでもいいけど)

ふわっとしていますが、5年後は今よりももっと人々の役に立ちたいです。

2年前のインタビューで目標を聞かれたのですが、そのときも明確なキャリアパスはなく、少しでも昨日より成長したいし、私がいることで誰かをちょっとでも幸せにしたい。って話しているのですが、全く変わってないです。

ありがとうございました。


スマートラウンドの直接的な顧客は、ポートフォリオの効率的な管理が課題になる VC のようだが、その根底にはスタートアップの資金調達業務をもっと効率化したい、という思いがあるようだ。資金調達はすべての起業家にとって頭を悩ますテーマであり、この問題を解決することは、自ずから、スタートアップや起業家の成長に寄与することになる。

スマートラウンドの Web サイトを見てみると、多くの VC やエンジェル投資家らがパートナーやサポーターとして名を連ねている。スマートラウンドは彼らに、旗艦サービスである SaaS の「smartround」を使ってもらうことで、使い勝手や機能についてフィードバックをもらい、それらをサービスへと反映していっている。ファーストユーザに意見をもらうことで市場に受け入れられるサービスを効率よく作り上げることが可能になる。

この分野には世界中に約20ほどのサービスが存在するが、中でも有名なのが Andreessen Horowitz らが使っている Carta だろう。今年5月に3億米ドルを調達した Carta は、この半年でバリュエーションが約2倍の17億米ドルとなり、ユニコーンクラブ入りを果たした。従来であれば、この種のポートフォリオ管理ツールは VC が内製的に開発していたのかもしれないが、日常業務に必要な機能を網羅したツールが SaaS として提供されるようになったことで、VC にとっても好都合なわけだ。この流れはいずれ日本来る日が近いと、スマートラウンドは考えている。

オープンイノベーションが賑やかなこの国では、大企業とスタートアップの両方を経営した人材は貴重な存在だ。誰しも未来のことはわからないけれど、もともと、船乗りを目指していたという冨田氏の新たな船出に賛美の辞を送りたい。

<参考文献>

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