韓国発のAI家庭教師アプリ「クァンダ(콴다)」、テスト問題の解き方を即座に見つけられる機能で日本や東南アジアの教育市場を席巻

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過労薄給、世界が教師不足に直面しているのも無理はない。

UNESCO 統計研究所によると、今後20年間に世界は2,400万人以上の小学校教師と4,400万人以上の中学校教師という大量の教師を必要とすることになる。特に南アジアは2030年までに1,500万人の教師を必要とするようになり、世界で2番目の教師不足に直面することになる。

この問題に対処するため、エドテックと人工知能が情勢を変えようと参戦している。中国では4校に1校が生徒の作文に成績をつけるために AI を使う試みを行っており、教師の仕事量を削減している。そしてもしエドテックのスタートアップ Mathpresso(매스프레소)が思い描く通りになれば、一人ひとりの生徒が学外の講師を持ち、数学の問題の答えをポケットの中で得ることができるようになる。

「クァンダ」
Image credit: Mathpresso

韓国を拠点として2015年6月に設立された Mathpresso は、数学と理科の授業で生徒を補助するよう設計されたアプリ「クァンダ(콴다、iOS / Android )」の制作者である。2015年10月にクァンダがローンチされたとき、このアプリはその多くが国内の一流校から集められた講師に生徒が連絡を取れるプラットフォームという位置づけだった。ユーザは学校の勉強についてプラットフォーム上で質問することができ、講師は10分から20分以内に返答をする。

しかしながら、同様の Q&A タイプのアプリが韓国に現れ始め、市場は過剰供給に陥った。Mathpresso の共同 CEO 兼共同設立者の Lee Jong-heun(이종흔)氏と Lee Yong-jae(이용재)氏はかつて家庭教師をしていたため、多くの生徒が同じ質問を繰り返し尋ねているということに気づいていた。

そこで、競合他社との差別化のために、Mathpresso は抜本的な変化を選択した。生徒と講師を結ぶ単なるメッセージアプリの代わりに、クァンダは生徒が一般的な数学の質問の答えを数秒で見つけることができる、いわゆる「解答検索」プラットフォームへと発展を遂げたのだ。

クァンダの今のやり方は非常に明快だ。ユーザがしなければならないことは、スマートフォンでカメラアプリを立ち上げ、数学の問題の写真を撮るだけである。アプリは光学式文字認識(OCR)技術を通じて画像を検知および分析し、データベース内を検索し、段階的な形式で答えを提供する。解答がデータベース内にない場合は、クァンダは自動的にユーザを人間の講師へとつなぐ。

ユーザの質問もデータベースに加えられる。これによって、同じ疑問を持つ他の生徒も検索エンジンを通じて正しい解答を見つけることができるようになる。質問が増えれば解答も増え、Mathpresso の検索 AI の速度と正確性も時間と共に向上するはずだ。

Mathpresso によると、クァンダが4年近く運営を続けている韓国では、検索エンジンは10回のうち9回は正解を見つけることができるとしている。現在データベースは2億件以上の質問を蓄えており、この中には検索や疑問も含まれている。

さらに、Mathpresso は韓国、日本、ベトナム、インドネシアにおける同社のサービスは高校までの全カリキュラムを含んでおり、英語のサービスは大学レベルまでの質問をカバーしていると述べている。

クァンダの OCR 技術は新しいものではない。実際、この技術の当初のバージョンは Google Cloud の Vision API を基にしている。しかしながら Mathpresso のチームはこの技術を向上させ、文章や画像のスキャンをより良いものにしている。一方で検索技術はゼロから作られたものであり、Mathpresso が知る限り、エドテック業界では誰も類似のものを持っていない。

弊社が日本と韓国の両方で第1位にランキングされている理由は、弊社の解答検索プラットフォームのためです。

Mathpresso のグローバルディレクターである Joyce Choi(최혜원)氏はそう説明する。競合のアプリはユーザと教師をつないで問題の解決を手助けするが、そのプロセスには20分以上かかることもある。

それに比べると、Mathpresso が提供するのは瞬間的な体験で、Google のような検索エンジンを使うのと同じようなものである。Choi 氏はこのように明かす。

弊社は学習コンテンツの Google になりたいと考えています。教育市場では弊社以外の誰も、検索ソリューションサービスを持っていません。弊社は生徒の勉強方法を完全に変えてきました。

教育ママとパパ

学校外教育」とも呼ばれる塾や家庭教師は大きなビジネスだ。市場調査会社 Global Industry Analysts は、世界的な学外教育の需要は2024年までに2,607億米ドルに達すると予測しており、アジア太平洋地域を「世界でも最大かつ最速の成長をしている市場」としている。また同報告は中国と韓国で、世帯収入のそれぞれ30%と25%という著しく大きな額を教育に費やしていることも見出している。

さらに、中国教育学会の研究によれば、2016年時点で中国には1億8,000万人の学齢児童がいた。このうち1億3,700万人は、放課後の課外授業や学外の塾という形で私的な学習指導を受けていた。この現象によって、1,170億米ドル以上に相当すると目される市場が作り出されている。

一方韓国には、Choi 氏によれば高校生以下の生徒が現在600万人いる。その半分は少なくとも1度はクァンダを使ったことがあり、その中の100万人は毎月このアプリを使っている。実際、システムは毎日約100万件の質問を受けていると同氏は述べる。

2018年11月、Mathpresso は1,900万人の生徒がいる日本でクァンダをローンチした。それ以来クァンダは日本で約60万回ダウンロードされている。トータルでは全世界で140万人のユーザがいると Choi 氏は推定している。

収益の面では、現在クァンダのユーザは月毎のサブスクリプション方式で支払うか、もしくは質問するための「クーポン」を購入することができる。また Choi 氏は、現在韓国では2万人、ならびに日本ではさらに5,000人の講師がクァンダのプラットフォーム上にいるということも明らかにした。

Choi 氏は Mathpresso の収入や利益についての数字は明かさなかったが、同社は2020年から2021年にかけてのどこかの時点で利益を上げるようになると述べた。

それまでの間、チームは他の成長分野に注力している。例えば、クァンダはローンチ以来300万ダウンロードを記録している。2018年には SoftBank Ventures Korea、Samsung Venture Investment、Megastudy といったところから670万米ドルを確保した。直近の2019年7月には、同社はシリーズ B ラウンドに参加した非公開の複数のベンチャーキャピタル企業から1,450万米ドルを調達した。

ズルではないのか?

生徒にとってのクァンダの魅力は明らかだ。日曜の夜の土壇場では、解答集にもなるアプリに人気が集まるのは当然である。しかし講師や学校の教師、そして親はクァンダをどう思うだろうか? このサービスは生徒の怠け癖や、さらに悪いことにカンニングを助長したりしないだろうか?

Choi 氏はこの懸念をよく理解しており、Mathpresso にはプランがある。同氏はこう詳細を述べた。

弊社はデータベースに基づき、より教育的な内容を提供したいと考えています。将来的には解答を提供するだけではなく、似た問題のセットをシェアしたり、ビデオ講義を提供したりしていく予定です。韓国ではすでに生徒の質問に基づいた似た問題のセットを提供し始めています。

同社は韓国でクァンダアプリを通じてビデオを売り込んでおり、日本でも2020年第1四半期に後に続く予定である。同社はこういった教材の製作者に「大勢の生徒に出会うことができるマーケットプレイス」を提供しようとしていると Choi 氏は述べた。

こういったことは生徒が宿題でズルをすることを必ずしも防ぎはしないものの、コンテンツによって生徒が長い目で見たときにより良い成果を得られるように、やる気を起こし、自らを律するようになると Choi 氏は信じている。

拡大への挑戦

誤解への対応以外にも、Mathpresso にとっての重要課題には拡大と関係するものもある。

同社が VC から調達した資金の一部は、シンガポールにおける英語版クァンダのローチに向かっている。Mathpresso は同アプリをベトナムとインドネシアでもロールアウトし、この地域におけるフットプリントをさらに拡大させている。

App Annie のデータによると、同アプリは6月半ばから1ヶ月間、シンガポールで Apple の iOS App Store でトップの教育アプリとなった。しかしながら、その後シンガポールのアプリストアでクァンダの位置は下降し、ベトナムとインドネシアでもランキング入りはできなかった。一方で同社の主な競合である Snapask は、日本と韓国以外ではよくランキング入りしている。

Choi 氏は同社のパフォーマンスを弁護し、シンガポールにおける最初のローンチはユーザの行動のデータ収集とマーケティング戦略のテストに使われ、そのためアプリランキングの急上昇を起こしたと述べた。現在同社は製品を現地に合わせて修正している。

それぞれの国において、ローンチにはユーザ獲得のための支出が伴うが、いずれクァンダは有機的なユーザ拡大とリテンションによって取り返せるようになると Choi 氏は期待している。

新たな市場に参入した際に製品を調整したりマーケティングに取り組んだりすること以外にも、国ごとに言語や授業計画の違いがあるために、クァンダは新たな教材を作る必要もある。

Mathpresso が最初に解答検索プラットフォームを作り上げたとき、同社は14ヶ月かけて講師と1対1の Q&A セッションを行い、質問をデータベースに蓄積して、必要な量のデータを集めた。

この経験は日本で運営を始める際に役立ち、チームはデータ収集のプロセスを手早く済ませることができた。日本語版のクァンダで同様の必要なデータを集めるのにかかったのは、たった4ヶ月だった。

韓国と日本はすでに固まり、東南アジアが Mathpresso の気骨に対する重要なテストになるのかもしれない。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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