デジタルフリマ「elu」開始2カ月・5,000人が2,500万円売買の好発進、クリエイターエコノミーは新たな局面へ

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eluではイラストを中心としたデジタルデータが購入できる

ニュースサマリ:デジタルデータを出品・販売できるマーケットプレイス「elu」が好調なスタートを切ったようだ。リリースから約8週間時点で出品数約6,500点、流通総額(GMV)にして約2,500万円の売買が成立した。本誌取材に運営するアル創業者の古川健介(けんすう)氏が明かしてくれた。

けんすう氏によると販売数は3,700件、出品者の数は5,000人を超えた。現在eluは招待制で、本オープンを前にしている。彼からもらったデータを参考に本誌でグラフを作成したところ、5週目あたりから出品数に対してのGMVが大きく伸びていることがわかる。出品数に対する販売数か、もしくは単価が変わったことが予想される。

eluはイラストや音声、動画などのデジタルデータを固定価格で販売できるフリマサービス。JPG、PNG、MP4、MOV、MP3、WAV、PSD、AIのファイル形式に対応しており、出品者はTwitterアカウントでログインし、必要情報を入力した上でデータをアップすれば販売を開始することができる。手数料は売上に対して6.8%と振込手数料がかかる。成人コンテンツについては15%が必要になる。

モールのような商品検索ができる場所はなく、出品したユーザー本人がソーシャルメディアなどで直販する。elu公式アカウントで出品されているコンテンツの情報が確認できる。

話題のポイント:アルは漫画発見アプリ「アル」や、クリエイターソーシャル「00:00 Studio」などを通じて漫画家などのクリエイターエコノミーを底上げするプロダクトをリリースし続けています。そういう意味でeluの登場は必然というか、おそらくタイミングだけだったのだろうなと予想するわけです。

ちなみに開始8週で累計出品数6,500点という数字ですが、メルカリは2013年7月のiOSアプリリリース後5カ月で累計出品数は100万点、この時点で1日1万点が出品されていました。家電やファッションなどあらゆるカテゴリ、かつ重複(同じようなケーブルがいっぱい出品されるケース)もあるので単純な比較は無意味ですが、オリジナリティ溢れるデジタルデータに特化した動きとみると十分に手応えを感じる数字ではないかなと思います。

また、eluと同様に単純にデジタルデータを販売できるサービス、というだけであればBASEやSTORES、カラーミーショップなどのコマース系サービスであれば販売が可能です。

マンガサイトのアル

しかし前述した通り、アルはここまでずっと漫画やクリエイティブに特化したサービス展開を続けてきました。今回イラストなどを制作するクリエイターたちが一気に出品をしたことからも、クリエイティブ・コミュニティにおけるアルの認知度、信頼度の高さがわかる結果となっています。

アルがこの順番でサービスをリリースしてきたことの意味がよくわかります。

クリエイターエコノミーをめぐる動き

そしてなぜeluの動きが重要なのか。

それはここ1年ほどで活発に動き始めている世界的なクリエイター支援のトレンドがあるからです。ソーシャルメディアTikTokが今年7月に発表したクリエイターファンドは10万再生以上のクリエイターに対して総額2億ドル(約220億円)の資金を用意し、そのパフォーマンス活動を支援しています。同様にYouTubeは「YouTube Short Fund(1億ドル・110億円)」を、Facebookは10億ドル(1100億円)をこれに投じるとしています。

そもそもクリエイターエコノミーとは何を指すのでしょうか。国内でこの活動を支援するため8月に設立されたクリエイターエコノミー協会の言葉を借りると「個人の情報発信やアクションによって形成される経済圏」を指します。漫画やアニメなどのイラストレーションはもちろん、前述したTikTokやYouTubeに出演して自己表現する幅広い人たちの活動が対象です。

協会の調査によると、クリエイターエコノミーの総市場規模は約1,042億ドル(約11.4兆円・2021年5月時点)と推定されており、クリエイターであると自認している人は世界で5,000万人、少なくとも200万人以上がフルタイム以上の収入を得ているそうです。

この中にあってeluよりもかなり先行してデジタルデータを販売しているのがそう、Gumroadです。

Gumroadたちとの世界戦

インターネット老人会に所属している人であれば「ああ!確かにあった!」と思い出す衝撃的なマーケットプレイス、それがGumroadでした。デジタルデータをアップして販売できるというモデルは登場した2011年当時にはあまりにも眩しく「・・・これってデータコピーしまくりだよね?」などという声は、単なる未来が見えない愚か者の考えだったように思います。

それぐらいアグレッシブだったのです。

法人になる前、プロジェクト時代のBASEには石の画像が販売されていた

そして時を同じくして出現したのがBASEでした。そう、彼らはこのGumroadと同様、デジタルデータも最初から販売できていたのです。そう思えば今、BASEがクリエイターエコノミー協会設立メンバーにいるのも納得です。

さて、このGumroadですが落日どころか復活しています。彼らはこの記事にある通り、シリーズAラウンドで700万ドルの獲得に成功するのですが、2015年になると投資家の関心は薄れ、当時、20名ほどいた従業員の大半を解雇するハメになります。会社再建です。

しかしこの創業者のSahil Lavingiaさんは諦めません。ここからなんとか盛り返し、2020年には920万ドル(約10億円)を売り上げ、利益は100万ドルに到達しているそうです。前年が460万ドルということなので、倍成長していることになります。

現在、彼らはエクイティ型のクラウドファンディングでの増資を実施し、AngelList創業者のNaval Ravikant氏とBasecampの共同創業者Jason Fried氏から100万ドル、全体では600万ドルを調達したそうです。現在のステータスでは1月の実績として、Gumroadは2万人のクリエイターがデジタルデータを販売しています。競合にはPatreon(評価額は40億ドルのユニコーン)やTeachableなどがあります。

eluの機能面だけで考えれば初期のGumroadと変わりありませんが、前述した通り、彼らにはコンテンツを生み出すクリエイターコミュニティがしっかりとついています。けんすう氏の考えはYouTubeなどで再生回数を稼いで数千円を手にするより、作品を評価してくれる10人に1万円で販売できた方が幸せではないか、というものです。

NFT(非代替性トークン)などによるデジタルデータの価値担保については2011年当時と比較して技術も進歩しており、デジタルコンテンツの販売はまた異なるフェーズに足を踏み入れていますが、まずは彼らがはじめたクリエイターエコノミーの支援活動がどのような局面につながるのか、引き続き情報が届いたらお伝えしたいと思います。

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