「EC化率7%」の潮目と変化

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国内電子商取引市場規模(BtoC及びBtoB)・2020年7月、経済産業省

ここ最近、取材などをを通じて改めて気になったキーワードがあります。それが「EC化率」です。

ざっくり国内の個人向け電子商取引の市場規模は19兆円あり、この内訳が物販(10兆円)サービス(7兆円)デジタル(2兆円)になっています。この物販というのはリアルに店舗で販売しているモノもありますので、その全体に対する電子商取引の割合を「EC化率」としているわけです。

これが現在、約7%(正確には6.76%)で、項目としては食品、生活家電、書籍、化粧品、雑貨、衣類、自動車、事務用品、その他の9項目に分かれています。割合が大きいのが食品と衣類、家電でおおよそそれぞれ1.9兆円ずつある感じです。

調査の推計によると国内における物品購入の総額は149兆円あるとされていて、これは横ばいだそうです。一方、電子商取引の市場は年次で8%(2018年から2019年)の成長で伸びていっています。

利用するユーザーの環境もインターネット化率はここ数年70%から80%台だったのが2019年になって90%近くまで一気に上がっています。利用端末の割合はやはりスマートフォンで63%がここからのアクセスになっています。

つまり、まとめるとこうなります。

  • 私たちは年間で149兆円のモノを買っている
  • ECで購入しているのは19兆円、年8%成長
  • 物販が10兆円、サービスが7兆円、デジタルが2兆円
  • 物販にはリアル販売もあり全体からのEC化率は7%
  • 6割を超える人たちがスマホでアクセス

このEC化率に関するレポートは2003年から発行されていて、あらゆる国内インターネットサービスに関わる人たちの基本的な指標になっている情報です。なので新鮮味はなく毎年「伸び代大きいよね」ぐらいの感想しか持っていなかったのですが、ここ数カ月、この7%にインパクトを与えるのではなかろうかという出来事がいくつか続きました。

  • 全産業デジタル化への波(DX)
  • BASE躍進とメルカリShops
  • スニダンとatama plusへの海外資金流入

市場の変化と資金の流れの二点で軽く考察してみます。

鍵を握る「SMB」と「食料品」

メルカリがECプラットフォーム参入ーーソウゾウが1900万人リーチの「Shops」開始へ

ビッグバンは言わずと知れたコロナ禍です。様々な数字が出ていると思うのですが、例えばここ最近で話題になったメルカリShopsの立ち上げ背景に大きく変化したユーザー動向というものがありました。メルカリは新型コロナウイルス感染症の拡大以降、在宅時間の増加から月間利用者数が約250万人増加しているそうです。

一方、販売側の小規模事業者はコロナという突然の出来事にオンライン化を模索し、その数字が2020年前半のBASEの数字に表れています。同社の四半期のGMV(流通総額)は2020年通期で951億円、2021年1Qが257億円という結果です。2020年1Qが125億円でその次の2Qが310億円と跳ね上がり、その後は250億円前後で推移するという状況になっています。

BASE決算における2020年の1Qから2QへのGMV跳ね上がりはそれを反映させたものです。BASEのIRで6月時点のショップ数が150万店、ここ直近では50万店舗が増加するなど、コロナ禍における小規模事業者のオンライン化が如実に現れた結果になっています。

「BASE(ベイス)」のネットショップ開設数が150万ショップを突破 直近1年で50万ショップが新規開設!

参考までにメルカリは2021年3QだけのGMVで2086億円、ユーザー数は1904万人に到達しています。国内における個人間売買の市場は1.7兆円(2019年)で、9.5%の成長率です。

これらの数字の動きはちょうどコロナ発生と前後しているのでイコール物販の方々がECを始めたものと考えてよいでしょう。消費者側はいわゆる巣ごもり需要です。

この特徴的な動きの中にあって注目すべき数字が、物販系ECのカテゴリとそれぞれのEC化率です。前述した通り10兆円は9項目に分類されるのですが、中でも食料品のEC化率(1.8兆円で2.9%)の低さは際立っています。

当然ながらこの数字の低さは随分前から注目されており、楽天と西友が2018年からネットスーパーを開設していますし、Amazon  Fresh(2017年開始)、この分野の国内草分けとして粛々と準備してきたオイシックス・ラ・大地は2021年1月にコロナ禍を理由とした上方修正を発表しています。幅広い小売のデジタル化を支援する10Xなどもこの流れとみてよいと思います。

ただ、ここにはこれまで伸びなかった理由として人口一人当たりのリアル店舗数が挙げられていて、要は歩けばコンビニ・スーパーあるよね、というアレです。

国内における20人以下の小規模事業者の数は305万者です。中小企業全体で約360万者で、このボリュームゾーンの解像度を上げて、どの業種にどのような課題が発生しているのかを調べてみるとチャンスが隠れているかもしれません。また、3%を切っている食品EC化率がどのように推移するのか、こちらも数字が大きいだけに全体のEC化率の向上に寄与する割合は大きそうです。

毎日発表される億ドル調達と海外資金

評価額240億円、スニダンは62億円調達してアジア戦へーーライバル・モノカブも買収

EC化率の話題と並んで、今後のパラダイムを大きくシフトさせる予兆を感じたのが海外資金の流入とグローバルで発生しているイノベーションへの資金流入です。

7月にはatama plusとスニーカーダンクを運営するSODAがそれぞれ50億円超の資金を調達しました。金額もさることながら、注目は出資者です。詳細はそれぞれの記事に記載しているのでそちらを参照いただきたいのですが、共に国内市場だけを期待していないことが明言されています。

元々、国内で実績ある投資家と話をした際、なぜ海外資金が流入しづらいのかを聞いたことがあるのですが、単純に時価総額の問題だそうです。国内は人口の面でもある程度需要があるので一定規模の市場(TAM)が期待できますが、グローバルではやはり見劣りします。彼らのアップサイドはAppleなので、どこまでそこに近づく案件に投資できるかが勝負になります。

これは2021年のグローバル投資額のリサーチ(CrunchBase調べ)なのですが、2021年の上半期だけで日本円にして約32兆円の資金がイノベーションに流入しています。評価額10億ドルの「ユニコーン」は上半期だけで250社誕生し、その総数は900社以上に上るそうです。ここでランキングに並ぶテマセク系やT. Rowe Price、ソフトバンク系は前述のスタートアップに投資しています。

Global Venture Funding Hits All-Time High In First Half Of 2021, With $288B Invested

2020年から2021年は反動があったのかもしれませんが、前年同期比で投資額が跳ね上がっている様子がよくわかります。現在も増資の話題をチェックしているのですが、日本円にして数百億円から数千億円が「毎日」発生している状況です。

2007年にiPhoneが生まれ、そこからおおよそ7年周期でモバイル・スマホシフトという大きなパラダイムシフトが発生しました。ゲームやソーシャルメディアが発達し、その後、SaaSブームで様々な業務がデジタル化されていきます。そして7年後の2021年、パンデミックの収束を前に徐々に数字や消費者の動きが顕在化してきているのが今だと思います。

かつてスマホシフトの際、メーカーの部品調達を調べて確実にガラケーからスマホに移行すると確信し、スタートアップの事業を仕込んだ起業家がいました。こういう潮目の変化は微妙なところから始まりますが、今回は別格です。それだけにどこにどのような動きが潜んでいるのか、現場も含めて解像度を上げることが求められます。

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