AI先生「atama plus」51億円調達の衝撃、世界戦に向けグローバル機関投資家が出資

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atama plusチームは250名体制を目指す

ニュースサマリ:学習塾向けAI教材「atama+(アタマプラス)」を展開するatama plusは21日、シリーズBラウンドでの増資を公表する。調達した資金は約51億円で、出資したのは既存投資家のDCMベンチャーズ、ジャフコ グループ、新規投資家としてテマセク・ホール ディングス傘下のPavilion Capital、米資産運用のT. Rowe Priceなどが参加した。評価額などの詳細は非公開で、同社の増資額は2017年4月の創業から累計で82億円となる。

atama+はAIを活用した教材で、基礎学力の習得にかかる時間を大幅に短縮できる。学習時につまづきの元となる箇所を個別に発見してくれるティーチング部分をシステムに任せ、つまづくタイミングを先生に教えることで的確なコーチングも実現しているのが特徴。高い学習効果が見込めることから導入が相次ぎ、駿台グループやZ会グループなど2500以上の教室で利用されている。

また、昨年7月からはオンライン模試の提供や、12月には立命館と共同でatama+の学習データを入試に繋げる研究会も発足させるなど、応用の幅を広げている。調達した資金で現在、160名ほどの体制を250名規模にまで引き上げ、事業拡大を狙う。

話題のポイント:創業からたった4年でここまで大きく景色を変えてしまったスタートアップはどうでしょう、メルカリ以来じゃないでしょうか。ポイントは投資家の顔ぶれと、彼らがこれから戦うであろう、ものすごく強いプレーヤーのインパクトです。AI先生の凄さや彼らを最強のチームにしたカルチャー投資については過去記事をぜひご覧ください。

海外機関投資家が投資するワケ

さて、まず今回投資をした顔ぶれから。シンガポールの政府系ファンドのテマセクや米資産運用のT. Rowe Priceですが、まず、日本国内のプライベート企業(上場前)に出資するケースはレアで、これまでにあったのはスタディストやSUPERSTUDIO(共にPavilion Capital )、freeeやSansan(こちらはT. Rowe Price)など数件が記録されています。

2021年の海外(主に米国中心)投資はこちらの記事にある通り、上半期だけで2,880億ドル(約31.7兆円)が投資されており、前年同時期の1,100億ドルを大きく更新するモンスター市場です。テマセク(今回出資したPavilion Capitalはこのグループ)はこの中にあって2021年上半期だけで47社に投資しており(トップはTigar Global Managementの144社)、T. Rowe Priceの出資額は50億ドル(5,500億円)に上ります。

繰り返します、2021年上半期だけです。

では、彼らはなぜこれまで日本のスタートアップにあまり目を向けなかったのでしょうか。これは別件で別の国内投資家と意見交換した際の話ですが、やはりどうしても国内案件については市場規模に引っ張られる部分があるそうです。彼らの評価はシンプルに時価総額なので、アップサイドはApple(今日時点の時価総額が2.4兆ドル)になります。

一方、世界でユニコーンと呼ばれる10億ドル規模のプライベート・カンパニーは900社を超えており(半数は米国)、その予備軍が次のAppleを目指して投資家と二人三脚しているわけです。世界戦を戦えない限り彼らが出資することは考えにくく、逆に言えば稲田さんたちは「世界戦を戦い抜ける」と判断されたとも言えます。実際、稲田さんも今回の出資の顔ぶれに海外機関投資家を入れた理由として、海外におけるIPOを視野に入れたものとしていました。

世界トッププレーヤーとの戦い

インドBYJU’sの評価額は1.8兆円

ではこれから稲田さんたちはどのようにステップし、世界戦で誰と戦うことになるのでしょうか。

稲田さんによると世界の教育市場は420兆円の試算があり、国内は25兆円、そこから塾・予備校のところまで落とし込むと1兆円程度になるそうです。矢野経済研究所の調査結果(2019年予測)にも塾や予備校に加え、語学学習や社会人資格などを入れた市場で約2.8兆円という試算があり、売上規模で約4,500億円ほどのベネッセがこの業界トップで、その他はおおよそ数百億円規模の売上事業者が全国に散らばっている、という状況になっています。

一方の世界戦で教育市場のユニコーンはこちらのリストにある通り、アジア勢の躍進が目立っています。特にトップを走るインドBYJU’s(評価額165億ドル・1.8兆円)と、中国のYuanfudao(評価額155億ドル・1.7兆円)は明確にatama plusが世界戦で戦う相手になります(2017年創業でatama plusと同級生)。ちなみに国内最大手のベネッセの評価額は2700億円(記事執筆時点)ほどです。

稲田さんたちの考えるファーストステップはまず、国内の塾・予備校(約5万教室ほど)を中心に導入を進め、確実なトッププレーヤーの位置を取りつつ、並行して現在進めているオンライン模試や立命館との共同事業など、塾・予備校の教材以外にも事業を拡大していくというものです。元々、atama+にはオンボーディングに時間がかかるという課題がありましたが、現在はスリム化が進み、塾・予備校への導入は以前に比べてスムーズになっているという話でした。

稲田さんの分析では中国やインドの教育市場はまだ途上にあり、教材の質というよりは、そもそも教育自体を提供することに課題があるそうです。大きく膨れ上がっている評価額もマーケティング中心に成長を加速させるパワープレイが要因で、プロダクトの質という点では十分に勝てるとお話されていました。

青柳さん参加の意味

左=メルペイ代表取締役CEO 青柳直樹氏、右=atama plus代表取締役CEO 稲田大輔氏

今回の調達に先立って、atama plusではメルペイ代表取締役の青柳直樹氏がアドバイザーに就任しています。この意図について稲田さんは、世界規模でスタートアップする際の戦い方を教えてもらうため、としていました。ここ10年、日本からテック・スタートアップで世界に挑んだ起業家はそこまで多くありません。

年齢も近く、かつグリーや現在のメルペイなど、大きな組織に成長させる経験を持った青柳さんの知見は、確かに今の稲田さんたちにとって非常にプラスに働くと思います。同社は今回の調達で250名規模に組織を拡大させるそうですが、稲田さんも三井物産での教育事業経験があるとは言え、スタートアップは初めてです。そのあたりは素直にこれから起こるであろう成長痛を事前に知って対応したいとされていました。

atama plusが実施した海外機関投資家からの増資は金額もさることながら、日本からグローバルへという国内スタートアップの悲願に近いケーススタディになる可能性を秘めています。そういった視点からも彼らの展開には注目していきたいと思います。

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