注目されるインダストリアル・メタバースとは:Unityが「Unity Simulation Pro」発表

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ゲームをはじめとする3Dコンテンツの制作・運用プラットフォームを提供する米国サンフランシスコのUnityは、11月10日、AIによる複雑なシステムのモデリング、テスト、トレーニングを改善する「Unity Simulation Pro」と「Unity SystemGraph」を発表した。

サプライチェーンや製造業におけるロボットの利用が増加している中、効率的で安全なオペレーションを実現するためには、このようなソフトウェアが不可欠だ。

Unityの人工知能担当上級副社長であるDanny Lange氏は本誌VentureBeatの取材に対し「Unity SystemGraph」はノードベースのアプローチを用いて、電気・機械システムに典型的に見られる複雑なロジックをモデル化したものと回答した。

「これによりロボット工学者やエンジニアは、小さなシステムを簡単にモデル化することができ、それらをより大きく複雑なシステムにグループ化することができます。実際のハードウェアにアクセスすることなくシステムのプロトタイプを作成し、その動作をテスト・分析し、最適な設計決定が可能になります」(Lange氏)。

Unityの実行エンジンであるUnity Simulation Proはヘッドレスレンダリングを実現しており、各画像をスクリーンに投影する必要がないため、シミュレーションの効率を最大50%向上させ、コストを削減することができるという。

ロボティクスへの使用例

Unity Simulation Proは、分散レンダリングを実現するためにゼロから構築された製品だ。複数のGPU(Graphics Processing Unit)が同じUnityプロジェクトやシミュレーション環境を、ローカルまたはプライベートクラウド上で同時にレンダリングすることを可能にしていると同社は述べている。これにより数十、数百、数千のセンサーを搭載した複数のロボットを、現在のUnity上でリアルタイムよりも高速にシミュレーションすることができる。

Lange氏によるとロボット工学や自律走行、ドローン、農業技術などの市場のユーザーは、100万平方フィートの倉庫、数十台のロボット、数百台のセンサーを備えた環境、センサー、モデルを含むシミュレーションを構築しているという。これらのシミュレーションでは現実的な仮想世界でソフトウェアをテストしたり、ロボットのオペレーターを指導・訓練したり、実際に導入する前に物理的な統合を試したりすることができる。これらはすべて、より速く、よりコスト効率よく、より安全に、メタバースの中で行われる。Lange氏は具体的な使用例として「Unity Simulation Proを使用して屋内外の環境におけるロボットシステムの共同マッピングやミッションプランニングを検討することが挙げられる」と語った。

例えばユーザーの中には、より広大な森林地帯の中に4,000平方フィートの建物をシミュレートし、ドローン、オフロードの移動ロボット、歩行ロボットを組み合わせて環境をマッピングする方法を模索している人もいるそうだ。同社はメカトロニクスシステムのセンサーやシステムを、クリエイターが構築してモデル化し、シミュレーションで実行できるようにしてきたと伝えている。

Unity SystemGraphの主な用途は、物理的に正確なカメラ、LiDARモデル、SensorSDKを使ったシミュレーションの構築を検討している人が、SystemGraphが用意したインスタントなモデルのライブラリを利用して、特定のケースに合わせ、簡単にそれらを設定できるようにすることだ。

Unityは現在のシミュレーションコストの数分の一で、大規模なシミュレーション、迅速な反復、より多くのテストを実施し、インサイトを得ることができるようになったと述べている。UnityはこれをVolvo CarsAllen Institute of AICarnegie Mellon Universityなどの顧客が採用し、すでに成果を上げているとしている。

ロボット工学や合成データ生成などのAIアプリケーションに特化したシミュレータを構築している企業はいくつかある。Unityは、オーサリングツールの使いやすさにより、RobloxやAarki、Chartboost、MathWorks、Mobvistaなどのライバル企業の中でも際立っていると主張している。Lange氏によると、このことはUnityのエディタツールを使用している150万人以上のクリエーターという既存のユーザーベースの大きさにも表れているという。

Unityの技術は、企業が最先端のシミュレーションに挑戦し続けるインダストリアル・メタバースに影響を与えることを目的としている。

「環境の大きさや環境で使用されるセンサーの数、環境で動作するアバターの数など、これらのシミュレーションが複雑になるにつれ、当社の製品に対するニーズが高まると考えています。Unity Simulation Pro独自の分散レンダリング機能により、クラウドやオンプレミスのネットワーク上でお客様が利用できるGPUリソースが増加していることを利用し、このシミュレーションをリアルタイムよりも高速にレンダリングすることができるのです。これは、多くのオープンソースのレンダリング技術や、基本的なUnity製品では不可能でした。このようなシナリオ配下では、こういった製品のリアルタイム性は50%以下になってしまいます」(Lange氏)。

AIを搭載したテクノロジーの未来

2022年に向けてUnityは2つの重要な要素により、AI搭載技術の採用が急拡大すると予想している。Lange氏は次のように語っていた。

「ひとつはUnityのような企業が、参入障壁を下げるのに役立つ製品を提供し続け、より広い範囲の顧客がこれらを採用することになるでしょう。これはコンピュート、センサー、その他のハードウェアコンポーネントのコストが低下していることと合わせて考えられます。そしてもう一つ、労働力不足の拡大と業務効率化の要求があります。こういった課題が導入を促進する重要なトレンドとなっており、これらすべてが一体となってAI搭載技術の導入を加速させることにつながると考えています」。

Unityはシミュレーションユーザーのための専用製品の開発に力を入れており、各種センサーや複数のアバター、エージェントを使って環境をシミュレートすることで実世界を模倣し、低コストで大幅なパフォーマンスの向上を実現しようとしている。これによって顧客が産業用メタバースへの第一歩を踏み出すことができるようになるとしている。

Unityは11月18日に開催される「Unity AI Summit」において「Unity Simulation Pro」と「Unity SystemGraph」を詳細なセッションを通じて紹介するそうだ。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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