メタバース都市「Oasis」が創造するものーーコインチェックが仕掛けるNFT+メタバースの裏側【天羽氏インタビュー】

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

暗号資産取引所「Coincheck」を展開するコインチェックは2022年に入り、メタバースを中心とする取り組みを立て続けに発表しています。1月に発表された、The Sandboxとのメタバース都市「Oasis TOKYO」共同開発を皮切りに、日本人アーティストMIYAVIや日本発のジェネラティブNFTプロジェクト「NEO TOKYO PUNKS」などとのコラボレーション、世界的なNFTコレクティブル「Board Ape Yacht Club(BAYC)」のメタバースプロジェクト「Otherside」の土地販売開始など、その動きを活発化させています。

この中心となるのがメタバース都市「Oasis TOKYO」の存在です。ここまでの発表を俯瞰すると、コインチェック独自で仮想空間のプラットフォームを作るのではなく、広がりつつあるトークノミクスされたさまざまな仮想空間上にオリジナルの「ハブ都市」を作り、その上で様々なコラボレーションを展開する計画のように見えます。

では、ユーザーはそこで何をすればよいのでしょうか?また、その体験はどのようなものになるのでしょうか?

MUGENLABO Magazine編集部では、このOasis TOKYOプロジェクトのキーマンである、コインチェック常務執行役員、およびコインチェックテクノロジーズ代表取締役の天羽健介氏にインタビューを実施しました。(太字の質問はすべて編集部。回答は天羽氏、敬称は略させていただいています。)

メタバース都市「Oasis TOKYO」

メタバース空間「Oasis」の展開が始まりました。開始の経緯から教えていただけますか

天羽:去年の後半辺り、Meta社の社名変更も伴って話が出てきて、年末年始にいろいろ考えたんです。それで会社の封筒の裏にばーっとOasisの構想を手書きで書いて、やっぱりこれはやらないといけないとなったのが1月3日です。4日の仕事始めに年頭所感みたいなのを社内のSlackで出すんですけど、そこで展開してから発表したのが1月31日です。そこからデモ画面を作ったり、リーガルの確認をしたりして爆速で進めてきました。

その時はメタバースを自分たちで作るのはやっぱりちょっと遅いかなっていうのがあって、じゃあどうなったら強みを発揮できるかなと。ポジショニングの観点で言うと、メタバースのハブになりうるポジションがいいなと思ったんです。次代のSNSがメタバースだとすると、今までのSNSと違う点は、Facebook、Instagramといったところが一強状態でやっていたのが、主要なSNSが残ってブロックチェーンで相互に連携し、Interoperability(相互運用性)を担保しながら進んでいくっていう構造なのかなと。そうなった時に、主要になりうるメタバースの仕様や勝ち筋をちゃんと把握している事が強みになるだろうと考えました。

今のWeb2.0のプラットフォームでもやっぱりYouTubeやInstagramの勝ち筋をどこまで知っているかが結構大事だと思っていて、そういう意味でメタバースのハブになろうと思ったんです。そのために、主要となりうる、つまりNFTとかブロックチェーンをすでに採用しているメタバースが当時はDecentralandとThe Sandboxだったので、まずはその2つに飛び込むというのをもう勢いでやったっていう感じです。そこで、The Sandboxに 「Oasis TOKYO」、Decentralandに「Oasis KYOTO」をそれぞれ制作することしました。

具体的なユーザーの参加方法を教えてください

天羽:接点の持ち方は2つあって、1つはOasisそのものに来てもらうということと、もう1つはOasisで土地を買って何をするかです。後者の方はそこで何かコンテンツを作ってもらうきっかけにしてほしいと思っています。前者に関してはそのユースケースを作ろうとしている状況です。NFTと相性が良い、たとえば音楽とかアートとかスポーツとかの事例について爆速で動いてる状況で、成熟状況を踏まえながら何らかのユースケースを作ろうとしています。

狙いは?

天羽:どういう人たちと連携していくのかという話と関連するんですけど、マス・アダプションが必要だと思っています。今はどうしてもNFTと暗号資産を買う人はそれらに対して抵抗感の低い人だけに留まっているんです。でも暗号資産やNFTを知らないけどこの芸能人は知っている、という話が膨らんで一気に流入してくるのかなと思っています。

(コラボ連携の)問い合わせ自体はもう1,000件を超えるレベルで来てるんです。ただ、誰でもいいからコラボするみたいな感じになると質の担保が難しくなる。だからとても心苦しいのですが丁重にお断りしながら、本当にカテゴリーの第一線で活躍する人だけとコラボしているという感じですね。

どういう基準でコラボレーションを決めていますか?

天羽:薄い表現になっちゃうんですが、定性的にちゃんとイケてると思われるかどうかっていうのが大事だと思っています。芸能人、タレント、スポーツ選手に関しては、Oasisの世界観がマッチしており、何かのカテゴリで第一想起を取れる方。NFTのプロジェクトはやっぱりNFTそのものがナラティブな価値、情緒的な価値をしっかりと持っているところに暗号資産とは違う面白さがあります。

たとえばNEO TOKYO PUNKSは2050年の東京からタイムスリップしたりとか。Oasis TOKYOが2035年の東京なのでそこにストーリー、つまり体験の価値みたいなものをちゃんと感じてもらえるようなところとコラボしていく感じですね。

NFTプロジェクトに対して購入していない一般ユーザーがどう参加するのか、どのようなイメージを持っていますか?

天羽:プロジェクトごとによって様々ですが、たとえばNEO TOKYO PUNKSは今まさにそれを作り上げているところで、Oasisに何かしらのタッチポイントを設けて仕掛けを用意しています。現実世界のSNSだったり、プロジェクトのストーリーだったり、時空感を超えていくような動きであったり。

ユーザーが一緒にコミュニケーションしてそのプロジェクトのストーリーに入り込んで一緒に育てていきます。そのコミュニティの一員になるような体験をするっていう感じですかね。

物語に没入できるイメージ

天羽:初めはアテンションになるようなきっかけ作りが必要だと思っています。ただ、本当の意味では、コミュニティの中でコラボする人たちとそれぞれがどういうストーリーを作っていくか。さらに、それらをマージした時にOasisとしてどういう世界観や体験価値を作るのかというところですね。

だから、ちょっと小洒落た建物があって有名な人が入っていればいいのかっていうと、そういうわけではないんです。それはきっかけでしかなくて、どういう体験をしてもらうのか。我々だけじゃなくて、外部のいろんなストーリーを持ったプロジェクトや人とコラボしていくという考え方です。

Board Yacht Ape Club(以下、BAYC)が売り出した話題の仮想世界、Othersideの土地「Otherdeed」を販売しましたね

天羽:Othersideの「Otherdeed」は20万個発行でそのうち5万5,000個が売られています。5万5,000個といっても、本人確認をしていて、1人2個とか3個しか買えないんです。

これすごいことなんですよね・・・・

天羽:コインチェックはThe Sandboxと1年間やってきましたが、その親会社のAnimoca Brandsを通じて(コラボしているBAYCとの)交渉をしたんですよ。CoinbaseもBinanceも今回の土地は仕入れられておらずコインチェックだけなんです、現状まとまった土地をたくさん保有してるのは。ただ販売するだけでなく、また土地の上に色々と仕掛けていきます(近日中に発表予定)

裏話ありがとうございます。少し話を変えます。現在、コインチェックではNFTマーケットプレイスを運営されています。グローバルでも数多く競合となるサービスが立ち上がっていますが、そのポジショニングをどう考えていますか

天羽:もちろん、走りながら考えているという前提ではあるんですけど、まずマーケットプレイスの中のポジショニングで言うと、我々は日本居住者向け暗号資産販売所・取引所のCoincheckと、NFT取引所のCoincheck NFT(β版)を運営しています。

他のNFTのマーケットプレイスと違う点は、やはり暗号資産の取引のライセンスを持っているところです。世界的なNFTプロジェクトは、ほとんどがNFTとクリプト(暗号資産)を掛け合わせて設定がなされていて、そこにさらにOthersideやOasisといったメタバースを作ろうとしているんです。

NFTとクリプトとメタバースを組み合わせたときにどういうコミュニティになるのか。

コインチェック単体としてもコミュニティ戦略をこれから作り込んでいかないといけない中、世界的に見ると同じような方向かもしれないけど、BAYCにしろAxieにしろ、まず全体を包み込むトークンホルダーがいて、そこに独自コインだったり、独自チェーンがど真ん中にくる。さらにそこに(メタバースやゲームのような)プロダクトがまとわりついていくようなイメージ。

その中にはいろんなコミュニティの属性があると思っていて、暗号資産が好きな人やゲーム好きな人もいれば、NFT好きな人、Oasisで何かやりたい人もいる。それぞれのコミュニティに対して適切なコミュニケーション設計が必要でそれを全体として束ねる。クリプト・メタバース・NFTを持ちながらも、機能としてはコミュニティの運営体みたいなポジションなのかなと思います。

なるほど、コインチェックはこれまで取引所がメインではあったけれども、さらにそれを包み込むような形で上位レイヤーにコミュニティができる

天羽:最終的に(暗号資産)ライセンスを持ってるということはウォレットをしっかり管理するんです。基本的にWeb3はウォレットからいろんなDAppsにシームレスに接続していくという世界観があるので、そのナレッジがあることはコインチェックにしか出せない強みだと思います。

クリプト界隈には詐欺などの話が絶えず、コミュニティにはより強い見極め能力が求められるようになると考えています。その点はいかがでしょうか

天羽:暗号資産をどう取り扱うのかに似ている部分があります。基本的にコインチェックは世界中の通貨発行元、プロジェクトとは全部、直接話しています。アナログなんですけど、トリッキーな解決策はなくて、ちゃんと対話することが第一にあって、NFTも同じなんですよ。

基本的にはちゃんと話すということが大事で、話す中で、たとえば表向きは2つのプロジェクトがあっても、1つはデジタルアート売り切りで副業でやってますみたいなパターンもあれば、もう一方はまだプロジェクトロードマップの10%しか終わってないんですよみたいな。裏側の話が聞けるんですよね。

NFT自体がどこか1つの国に留まろうとしてる感じでもなかったりするので、ちゃんと俯瞰して見ているのは法令に抵触していないか、細部にまで神を宿らせているかを見ています。日本だと今のままだと賭博になるからダメですよとか、そういうことを言ってちゃんと仕様を変えてもらうところまでやる。単に取り扱う流通業者ではなく事業パートナーなんです。そういうことを繰り返しながら、ちゃんと建設的な意見ができるかどうかも見ていたりします。

コインチェックがメタバースを手がけるということでお話を伺いましたが、仮想空間といえばFortniteなどのパターンもあります。Oasisはどこまで広がりますか

天羽:考え方としては今、スコープを3つのまとまりに分けていて、1つはGAFA系ですね。2つめはFortniteにMinecraft、Robloxみたいなところ。3つ目がクリプト系のThe SandboxにDecentraland、Otherside。

僕らはまずNFT、ブロックチェーンのところから攻めてるんですけど、考え方としてはメタバースのハブになることが全部なんです。まあ、Meta社はもうNFTやるって言ってますし、Fortniteは経済圏がかなり大きいので、今はあえてNFTを採用する理由があまりない。

でも今の状況を見ている限りどこかのタイミングで来ざるを得ない。単独の経済圏であれば別にいらないと思うんですけど、いくつかのメタバースが繋がっていくとなったときに、NFTをちゃんと外に持ち出せるような状態に切り替えてくると思っているので、そこはめちゃめちゃ見てますね。

ありがとうございました

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