消費量が落ち込む日本酒、パッケージングの工夫と共創で新たな需要を切り拓くAgnavi/【MUGENLABO Café・推しスタ】

Agnavi 代表取締役 玄成秀氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

MUGENLABO Magazine編集部では定期的に開催している「スタートアップ×大手企業」のマッチングイベント「MUGENLABO Café」にやってきてくれたスタートアップをピックアップしてご紹介しています。今回は、珍しい一合サイズの缶入りパッケージで日本酒の新たな可能性を切り開くAgnaviさんです。

日本酒の消費量は1975年から77%も減少し、現在は当時の4分の1にまで落ち込み、その結果毎年約40近くの蔵(醸造元)が廃業に追い込まれているという深刻な事態に陥っています。その理由はいくつかあり、酒税法の制約のために業界のイノベーションが起きにくいこと、他の飲料や酒類ではメジャーなアルミ缶への対応が遅れているなどが挙げられます。

ビールの多くが瓶からアルミ缶に移行したことからもわかるように、アルミ缶にはいくつかのメリットがあります。定められたゴミ箱か適切なカテゴリのゴミに出せば確実にリサイクルされること、紫外線による品質劣化を防ぎ品質保持力が優れていること、軽量で持ち運びが便利であることなどです。

しかし、小規模な経営が多い日本酒の蔵にとって、新たに缶の充填設備に投資することは困難です。Agnaviではこうした課題を解決するため、2020年に日本酒の充填・販売サービスをスタートさせました。蔵元から日本酒を仕入れ、自社の充填設備でアルミ缶に詰めて販売します。酒税法などの規制をクリアしつつ、蔵と小売をつなぐ役割を果たしています。

「ICHI-GO-CAN」

日本酒協会に加盟する蔵は1,200〜1,400あり、銘柄は1万以上あると言われています。Agnaviでは150を超える銘柄を取り扱い、気軽に日本酒を楽しめる1合(180ml)サイズの缶ブランド「ICHI-GO-CAN」はこれまでに40万本以上の日本酒一合缶を国内外に出荷しています。さらに日本酒を身近に感じられる機会を提供し、新たな層にファンを広げていることで注目を集めています。

コロナ禍に全国56蔵を支援するクラウドファンディング「日本酒応援プロジェクト」を実施しました。このときは4合瓶(720ml)で販売していましたが、4合瓶だと「量が多い」「場所を取る」「重い」「いろんな種類を楽しめない」という声が寄せられ、国内8割のシェアを持つ缶メーカーの東洋製罐さんと相談させていただいて、日本酒の缶流通を本格的に始めました。(玄氏)

Agnaviではさまざまな企業と連携し、日本酒の認知度向上を目指しています。デザインの優れたICHI-GO-CANは、新たな販路開拓や宣伝効果が大きいことから、航空会社や鉄道会社などとも提携を進めています。ANAグループのAirJapanでは、成田=バンコク線と成田=ソウル(仁川)線の機内で、ICHI-GO-CANの提供を開始しました。

JR九州商事とは、人気列車のデザインをモチーフにした4種類のICHI-GO-CANを2023年2月に発売しました。長崎、大分、佐賀、福岡の蔵元で製造された日本酒が使われています。また2023年3月には、JR東日本スタートアップと連携し、山形新幹線E8系・E3系をデザインしたICHI-GO-CANを発売しました。こちらは山形県の蔵元「東の麓酒造」が製造した日本酒が使われています。

JR九州商事とコラボした「ICHI-GO-CAN」

世界各地で使い捨て容器の規制が強まる中、リサイクル性に優れたICHI-GO-CANへの需要は高まることが期待されます。実際にヨーロッパでは、2030年までにリサイクル性の低い容器の輸入を禁止する動きが出てきました。こうした世界的な潮流と日本酒の需要拡大を的確にとらえたAgnaviの事業展開から、日本酒業界の明るい未来が見えてくるかもしれません。

Agnaviの当面の目標は年間生産本数を100万本以上に増やすこと。長期的には数千万本の日本酒缶を世界中に届けることを目指しています。背景にあるのは、日本酒の潜在的な市場が約6,000億円とも試算されていることです。かつてビール業界が缶詰め化でビール市場を2.5兆円以上拡大した事実を前例として、同様の可能性を日本酒業界にも見出しています。

昨年の生産本数は25万本でした。今年は50万本、そして将来は数千万本を目指します。現在は海外の出荷先の多くは東南アジアで、2024年に入ってからは、イギリスでの販売も始まりました。缶であればリサイクルにも適しているということで、欧米にもっと拡大させていきたいと思っています。(玄氏)

Agnaviはこれまでに、JR東日本スタートアップ、三菱UFJキャピタル、東洋製罐グループホールディングスからの資金調達と、日本政策金融公庫からの融資を受けています。「サプライチェーンのアップデートをしている」ので、資金調達に頼らず、日本酒業界を応援できる長期的な視点を持つパートナーと手を組んで事業を進めていきたいとのことでした。

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