イノベーションは不合理から生まれるーー01Booster 鈴木氏が語る「スピンアウト」の必要性

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ゼロワンブースター共同創業者、代表取締役会長の鈴木規文氏

大手企業がスタートアップと共創して事業を生み出す「オープンイノベーション」。2022年に岸田内閣の元で決定されたスタートアップ育成5か年計画にも盛り込まれたこのマジックワードは、2010年代後半から数多くの大手企業を「共創」という現場に駆り立てるきっかけになった。

一方でその言葉が虚しく聞こえるケースもある。主要なCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が118社(12月時点・JVCA加盟企業)と拡大する一方、事業成長がカネで買えるほど甘くないことは、株式市場でしのぎを削る約4,000社のアップダウンを見るまでもない。

では、どこにそのヒントはあるのだろうか?

12月26日、経団連会館にて新規事業創造をテーマにしたカンファレンス「01Booster Conference 2023」が開催される。本誌BRIDGEもメディアパートナーとして当日の取材に参加する予定だ。

大手企業や新規事業に関わる40名を超える登壇者と50社を超えるスタートアップが一堂に会する1日イベントでは、いくつかのセッションとワークショップ、スタートアップピッチなどのステージが用意される。特に今回は大手企業における新規事業の新たな局面として、出向起業やスピンオフ・スピンアウトをテーマにしたセッションも用意されているそうだ。

本稿では開催に先立ち、イベントを主催するゼロワンブースター共同創業者で、現在は代表取締役会長を務める鈴木規文氏に「大手企業における事業づくりの新局面」をテーマに話を聞いた(太字の質問は全て筆者。回答は鈴木氏)。

全てはスピンオフから始まった

ーー今回のカンファレンスで個人的に企業内起業、特にスピンアウト・スピンオフの話題に注目しています。鈴木さんはなぜこの手法に着目したのでしょうか

鈴木:まず、そもそもスピンオフやスピンアウトという言葉は法律用語ではないので、定義が少し曖昧ですが、昔の言葉で言うと分社化やのれん分け、子会社化等も含めて広義にとらえています。新しい概念ではないです。その上で、実は今の日本の多くの大手企業はスピンオフなんです。

ーー興味深い話で、先日のイベントでも日本自動車工業会に加盟する企業の多くはスピンオフとお話されていましたが、確かに各社の沿革って紐解くと元は造船や機織から始まって自動車やバイク製造に変わっているんですよね

鈴木:起業家がゼロから創った自動車メーカーはありません。本田宗一郎もアート商会での蓄積を引き継いで創業されています。工業会ではありませんが、光岡自動車さんが起業家が創業した唯一の会社かもしれません。つまり、アントレプレナーがベンチャーキャピタルなどの金融投資家から資金を集めて、ゼロから事業を立ち上げるケースは本当にごく最近で、日本の歴史に限らず、アメリカにおいても同様です。ベンチャーキャピタル業界が作り上げたものですが、GAFAのような例は非常に稀で、多くのケースでは事業は既存のネットワークや資源を活用しながら進められることが多いのです。

ーー一方でここ最近では目立ったスピンオフのケースってそこまで多くない印象です

鈴木:その点については、戦後にアメリカから導入された株式型の金融資本主義の影響がやはり大きいですね。これで株主を重視する経営が主流になりました。短期的には非合理に見えても、中長期的には合理的になるような決定が難しくなっているんです。これが現在の日本の状態で、その結果、のれん分けのような行動が取りにくくなってしまったんです。

ーーもったいないですよね。大手には資本がいっぱいあるわけだから

鈴木:そうなんです。いわゆるアンフェア・アドバンテージという考え方なんですが、大手から出た企業は圧倒的なアンフェアなアドバンテージで勝ってるんですよ。まずこの事実を認識しなきゃいけない。事業を成功に導く確率を上げるためにはどうやってアンフェア・アドバンテージを得るか、もしくは与えるかっていうことをしないといけないわけです。そして日本の場合は特に大手企業にその資産が山ほどある。

「人的資本」と「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」の重要性

スピンアウト・スピンオフをテーマにしたプログラム「SPIN X10」。キックオフイベントには多くの企業関係者が集まった

ーー目の前に宝の山があるとして具体的にどうすればいいかお聞きしたいのです。新規事業創造にはいわゆる「プログラム」形式のものが2010年代に流行しました。アクセラレーションプログラム等ですね。これはスタートアップのようにゼロから立ち上げるケースではまだY Combinatorのような形式が残っていますが、その他は一時のような勢いはなくなっています

鈴木:新規事業の創造において再現性に重点を置くこと自体にはあまり意味がないと思っています。よく議論される「起業家は育成できるのか」という問題についても、私は育成は難しいと考えています。例えば、「第2のスティーブ・ジョブズを計画的に育てることができるか」と聞かれたら、答えは「できない」となりますよね?

変えることができるのは環境の側です。昨日(開催されたイベントで)私は「人的資本」と「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」という言葉を使って事業創造の仕組みをお話しましたが、この二つが、この世の中にイノベーションを生むと考えています。社会関係資本の環境を整えれば、人的資本は自然と集まってくるということです。

したがって、重要なのは社内起業家を育てることではなく、組織そのものを変えることです。会社の「土壌」側の人たちが変わらなければいけないということです。

ーーなるほど、確かにスタートアップの現場でも投資家などを中心にコミュニティをつくり、人や企業などステークホルダーの繋がりを作ることで新たな起業家を呼び寄せることに成功しています

鈴木:イノベーションの素質を持った人々って、この世界には一定量存在していると考えられています。成功する起業家は特定の小さなコミュニティから生まれることが多く、有名な例ですが、ペイパルマフィアのように、一定のコミュニティ内で多くの起業家が生まれるケースは確認されているんですね。どんなに素晴らしい施設を建てても、適切な文化やコミュニティがなければイノベーションは起きません。大手企業には人的資本も社会関係資本もあるんです。

ーー逆にここまで鈴木さんのお話を聞くとなぜできないのか、という疑問が湧いてしまいます

鈴木:大手企業の役員さんなどとの役員会勉強会をやっているんですが、みなさん、大体わかってますよ。イノベーションは必要だってみんなわかってます。イノベーションを積極的にやってる会社ほど利益率業績がいいっていうことも統計データで出てますから。

わかってるにも関わらずできないっていうことを、どう取り除いてあげるかっていうことは考えなきゃいけない。ただ、私も明確な答えはないです。一方で、現在の問題は、みなさんが答えを探しすぎていることにもあると思うんです。

仕組み化やマニュアル化の弊害で、多くの人がどこかに答えがあると信じて探していますが、私は答えなど存在しないと思っています。問いを立てて、常に悩み、議論し続けること自体が価値あることなんです。

常に新しい価値を生み出そうとする取り組みこそが重要で、それは、スタートアップの本質と同じです。ピボットを繰り返しながら、常に新しい問いを見つけることです。しかし、多くの日本人は確立されたオペレーションの枠内で働くことに慣れてしまって、これが新しい発想を生み出しにくい原因になっているんです。

ーー今回、カンファレンスでもテーマになっていますが、こうしたイノベーションのジレンマが明確になり、各社もそれなりに経験を積んだ上で、スピンオフ・スピンアウトの手法がどう打開に繋がるのか、そのあたり教えてください

鈴木:先ほど言った通り、イノベーションっていうのは不合理なわけです。みんなが賛成しないことにこそ価値が存在している。だから合理的に考えたら「やらない」っていう意思決定しかできないわけです。なので、思い切ってやるしかないわけですよね。

結局資源って、大手企業にあるんですよ。最近みなさん出島とか言いますよね。いわゆる大手企業から出島作らないと新規事業が生まれないんだという「出島論」も今、否定されつつあります。これも論文いっぱい出てますから。なぜならば、資源使わなきゃ意味ないじゃないですかっていうことですね。

やはり社内の人たちが、やっぱりこれって大事だよねっていう雰囲気作りをしないといけないわけです。社内のイノベーション人材の意思を尊重しなければいけない。大前研一さんも個人のパーソン・スペシフィックな思い、執念に依存する時代になってるよってことを20年前に言っています。

ただ社内起業をやっていると短期的な成果が出ない、変化はやっぱり恐怖がある、せっかく覚醒して火をつけるんだけれどもみんなが受け入れてくれない。本気でやりたい人ほど辞めちゃうっていうことが起きてますよね。勿体なくないですか。

この「(事業を)外に出す不合理性」をどうやって突破していくかっていうことをやっていきたい。現在、東京都さんと一緒に「SPIN X10」をはじめたのもそれが理由です。

ありがとうございました

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