松竹とOliveが共創、感情可視化技術がもたらすエンタメビジネスの可能性

左から:間中雅俊氏(松竹 事業開発本部 イノベーション推進部 新事業共創室 兼 松竹ベンチャーズ 執行役員)、竹内 精治氏(Olive CEO)

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

Oliveは、ヒトの感情を可視化する技術基盤「La Cause(ラクーズ)」を提供するスタートアップです。心拍情報、体動、呼吸等の生体データをさまざまなセンサーから収集・蓄積し、これらのデータを独自アルゴリズムとAIにより感情や状態に向けた解析を行います。

松竹の CVC である「松竹ベンチャーズ」は、スタートアップと松竹グループの事業共創を行うアクセラレータプログラム「Shochiku Accelerator2022 Entertainment Festival」を開催し、Olive が採択されました。

2022年秋から2023年春までのプログラム期間内、そして、プログラム終了後から秋にかけての計1年間で、両社が取り組んだ共創プロジェクトの内容やそこから生まれる新たなビジネスの可能性について、松竹の間中雅俊さんとOliveの竹内精治さんに話を伺いました。

OliveさんがShochiku Accelerator2022「Entertainment Festival」に採択されたポイント、Oliveさんが挑戦してみようと思った経緯について教えてください。

間中:松竹ではこれまで、エンタメを中心に、お客様の感情を揺さぶることができるコンテンツを作るために挑戦を続けてきました。お客様は、弊社が提供するコンテンツや体験についてどのように感じていらっしゃるのか、どこをどんな風に感じ取っていただけているのかを定量的に確認する手段はこれまでなかったのですが、Oliveさんの感情推定技術を使って、そこにチャレンジできるかもしれないということがわかり、今回、アクセラレータープログラムで採択させていただき、共創の機会をいただきました。

竹内:我々は「感情の可視化」、正確に言えば感情に加えて、集中、覚醒、興味、関心など「状態の可視化」を提供しています。松竹さんと始めるまでは、従業員や生徒の関心の可視化など〝真面目な領域〟に注力していました。ただ、感情はエンタメでも活用できる要素だと考えています。

楽しい、怖い、嬉しいなど、こういった感情はやはりエンタメ業界を牽引している企業にとって重要だと思いました。それで、松竹さんがアクセラレータープログラムを実施すると聞き、速攻で申し込みました。

「LA CRUISE」の仕組み(ここでは、小売業に適用した例を紹介している)

松竹さんとしては感情を可視化したい、あるいは分析したいニーズがあったということでしょうか。どのような機会に活用されたのでしょうか。

間中:前述の通り、弊社が提供するコンテンツについて、お客様の感情にどのような変化を与えられているのか、定量的に確認したいというニーズはあり、何度か実験レベルでの取り組みは行いました。

今回のアクセラレータープログラムでは、松竹芸能というグループ会社のライブイベントで活用しました。

ライブエンタメに感情推定技術を用いて新たな試みを行ったことがなかったため、試してみる価値があると考えました。取り組みを通じて、お客様に感情推定技術を活用したライブイベントを楽しんで頂けているのか、その感想を収集することが最初のステップでした。これはアクセラレータープログラムの、まだ世の中にないサービスの開発に挑戦し、情報を収集するという本来の目的にも合致するものであると思います。

この分野は先端技術のため、すべてを予測することは難しいと思います。ですから、まずは挑戦し、結果を見てみる姿勢が大切だと考えました。これがのちに、松竹で今年の8月に実施した、実際の映画館でホラー映画を活用した、Oliveさんとの次の取り組みにつながったと思います。

松竹芸能のライブでは、客席全体の感情データから「癒し」ネタNo.1を決める企画や、出演中の芸人の感情がリアルタイムでわかる企画なども実施されましたね。

間中:はい、Oliveさんから実際にライブで活用したいというご意向があったので、それに沿って実証実験を行いました。芸人の感情をお客様にリアルタイムで伝えたら面白いのではないかという発想から、新たな企画にも挑戦しました。竹内さんにも参加いただき、アイデアを練る過程から共同で取り組みました。

竹内:間中さんは本当にアイデア豊富な方で、彼の提案は非常に面白かったです。そのため、この貴重な機会を最大限に活用し、制限を設けるのではなく、アイデアを徹底的に実現したいと思いました。

ライブに参加された芸人さん、観客の皆さんの反応はどうでしたか。

間中:何百人ものお客様にご体験頂き、感想をいただいたわけではございませんが、頂いた感想は非常にポジティブなものばかりでした。未回答を除いて、ネガティブなコメントはほとんどありませんでした。

具体的には、同様の取り組みを実施してほしいというご要望や、芸人さんの感情を活用したライブイベントは珍しいため、新鮮であったというお声が寄せられました。一生懸命に笑いを提供している芸人さんの裏側、つまり緊張などが見えることは非常に面白い要素だという評価でした。

お客様の癒し度を増幅させることができた芸人さんを決めるイベントも行いました。通常の「笑い」とは異なるアプローチで、芸人さんがお客様に新しい価値を提供する試みでした。驚くべきことに、芸人さんのパフォーマンスが癒しを増幅させ、新たな価値創造の可能性が示唆されました。

今回は「癒し」に焦点を当てましたが、Oliveさんの技術は「癒し」以外の感情も取得できるので、お客様のデータを活用した取り組みは、その他にもアイディア次第で検討が可能であり、今夏にホラー映画でも行った「怖がった人1位」を決める取り組みは、まさにその内の1つではないでしょうか。

ライブでの実証実験では、客席に観客の感情を計測するためのセンサーが取り付けられた。

映画館で観客の感情データをリアルタイムで取得し、それをイベントで使用するような取り組みも実施されていましたね。

間中:松竹芸能と取り組んだライブ以降、映画への取り組みが一直線に進んだかというと、少し違います。実際には、5月から6月にかけ、竹内さんに当社の映画館に何度も足を運んで頂き、実験を繰り返しました。松竹芸能のライブ会場と、映画館では不動産としての特性が異なるため、取得方法についての検証などを中心に実験を繰り返しました。

竹内:我々の最も強力で特徴的な点は、計測対象者がデバイスを装着せずに、通常通りの行動をしてもらいながらデータを収集できることです。つまり、計測が行われていることを意識させずにデータを取得することを重要視しています。例えば映画の場合、座席の後ろに赤外線カメラを配置し、観客の生体データを測定しました。

さらに、生体データの取得により、人々が意識的にコントロールできない要素が反映され、面白くない状況でも笑顔を作り出したり、怖くないのに怖い表情をしたりするなどのノイズを排除することができます。事前に映画を拝見して、感情を具体的にどのように見える化できるか、松竹さんにとって何が意義があるのか、観客にとって楽しい体験となるかを考えました。

どの感情を見える化することが、松竹さんを含むすべての関係者にとって有益で、観客にとって楽しいものになるか、その点を吟味しました。これは松竹さんに限らず、今後のプロジェクトでも、感情を可視化する上で、どの感情に焦点を当てるかを検討する際の重要なプロセスだと考えています。

映画館での実証実験でも、客席に観客の感情を読み取るセンサーが取り付けられた。

今後、松竹さんの事業の中に、感情分析を取り入れていかれる計画はあるのでしょうか。

間中:前述した2つのイベントに関しては、ご紹介した感想だけでなく、複数のメディアからも取り上げて頂き、それらの成果からみても、成功だったのではないかと考えております。取り組みからの学びをもとに、お客様に楽しんでいただけるサービスの可能性について、検討を続けております。

今回、Oliveさんが松竹さんと共創された中で、感じられたことはありましたか。

竹内:我々の感情を可視化する取り組みは、正直なところ、どんな企業でも関心を持っていただけるものです。現在、アクセラレータープログラムがたくさん存在していますが、我々は幸運にも多くの企業と連携し、さまざまなプロジェクトを進行中です。

その中で、アクセラレータープログラムの課題の一つは、採択されることはあっても、その後どれだけ担当者が熱心にプロジェクトを推進してくれるかという点です。実際、アクセラレータープログラムに採択された後、あまり進展しないケースが多いのも現実です。

今回、間中さんがOliveの担当としてパートナーになってくれたことは、非常に幸運でした。実際、松竹さんのアクセラレータープログラムに採択されたのは去年の秋でした。あれから1年、間中さんにずっと担当いただいていて、松竹の中で我々のテクノロジーをどのように活用していただけるかをずっと考え続けています。

松竹さんはアクセラレータープログラムにおいて、短期的だけでなく、中長期的な視野で取り組むベンチャー企業を採択することをおっしゃっていましたが、それがまさに実現しているのが、松竹さんのアクセラレータープログラムの強みだと思います。

アクセラレータープログラムの第1期を終えられました。スタートアップとの共創で課題を感じられることはありますか。

間中:共創する各部署やグループ会社で働く方々にも日々の業務がございますので、そこから大きく離れたことを行うには、丁寧なご説明が必要ですし、負担がかかりすぎないように、CVCの担当者が汗をかく必要があります。とはいえ、行う実験があまりにも小さい内容ですと、今度はスタートアップの方々に対し価値を提供できない可能性があるため、大きなことを描きつつ、目の前のことを1歩ずつ行っていくことが大切であり、難しいところだと思います。

また、あくまでわたくし個人の考えとして、お話します。私の父は自営業だったのですが、自分でビジネスを運営する人の苦労を間近で見て育ちました。自分で挑戦をしている方々の常日頃からの緊張や、大変な状況の中で挑戦していることを頭にいれて、敬意を持って、共創パートナーと接する必要があると思っています。

Shochiku Accelerator 2022 Entertainment Festival

最後に、今後の展望をお聞かせください。

竹内:感情の可視化に関して、これまで我々ほど積極的に取り組んできた企業はほとんど存在しないと思います。一方で、多くの企業やサービスはデータ分析などを行っていると思います。ユーザもそれを試したり経験したりしているでしょう。

しかし、その際に不満や意見があった場合、それを伝える手段があまり簡単ではないことが多いです。アンケートは手間がかかりますし、あとで「ああ、これは良くなかったな」と感じたとしても、その意見を直接企業に伝える人はそれほど多くはないでしょう。

ユーザからの感情がダイレクトに企業に伝われば、それを受けた企業はユーザの感情を理解できるようになり、結果として社会全体がより良くなる可能性があると思っています。したがって、サービスや商品を提供する企業であれば、ほぼどんな分野でも、我々のソリューションが付加価値を提供できると考えています。

そういうことに興味や関心を持っている企業であれば、どの企業とでも協力したいと思っています。また、将来的には海外展開も考えており、日本発の感情の可視化技術を世界に広めたいと考えています。

余談かもしれませんが、日本人は空気を読む能力や行間を読む能力に優れた民族だと言えます。それを技術に結びつけて日本発の企業が展開する技術は、非常に興味深いと思います。それを実現させたいです。

間中:我々はまだ、Oliveさんとの実証実験について1年間で数回しかできていないんです。そして、そこから得られた学びもまだまだ少ないです。ですが、これを急いで単発の打ち上げ花火にせず、複数の取り組みからどんな情報が得られたのか、それらを今後の取り組みに生かせるよう検討を続けております。一歩一歩着実に前進していく姿勢で取り組んでいきたいと思っています。

また、共創により、松竹グループの発展に貢献する側面と、もう一つには、松竹に限らず、エンタメ業界全体が事業を前進させるきっかけになれば嬉しいと思います。松竹としてやるべきことは、これら2つの側面を精査しながら進めつつ、竹内さんがおっしゃったようなビジョンをさらに推進できるよう、ご支援していきたいと思います。

ありがとうございました。

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