日本のデジタル格差をなくせ!ーー日高村とチェンジ、KDDIが一般社団法人「まるごとデジタル」設立

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

高知県日高村、チェンジ、KDDIは、8月に地域におけるデジタルデバイド(情報格差)解消と地域住民の生活の質向上を目的とした「一般社団法人まるごとデジタル」の設立を発表しました。地域における課題のひとつにデジタルデバイドがあります。

少子高齢化を背景とする効率化の必要性から自治体運営のデジタル技術活用が求められる中、一部の地域ではデジタルとの接点を持つ地域住民が少ないという課題がありました。

高知県の日高村はその一例で、スマートフォンの普及率が約65%(2020年5月時点)と、デジタルとの接点を持たない住民への対応が必要でした。そこで、日高村、チェンジ、KDDIの三者は2021年5月に包括的連携協定を締結し、住民説明会や「スマホよろず相談所」の設置などを行い、普及率を約80%(2022年6月時点)へと向上させることに成功しました。

この成功を受け、三者は取り組みで培ったナレッジを社会に還元することを目的に、新たに自治体横断でデジタルデバイド解消に取り組む「一般社団法人まるごとデジタル」を設立しました。同社団法人では、自治体や企業間での情報共有や事業創出に取り組んでいく予定です。

例えば、日高村では、スマートフォン普及率を100%にするための「普及事業」や、地域通貨といったデジタルサービスを導入する「生活の質向上事業」など、複数の施策を進めています。本稿では立ち上げに参加したKDDI経営戦略本部、地域共創推進部の高井奈月さんと木村恵子さんに立ち上げの背景などのお話を伺いました。

左から:KDDI 経営戦略本部 地域共創推進部 高井奈月氏、KDDI 経営戦略本部 地域共創推進部 木村恵子氏

設立に至った経緯について教えていただけますでしょうか?

高井:日本の自治体ではじめてスマホ普及率100%を目指すということで2021年5月に包括連携協定を結ばせていただき、様々な事業の取り組みを経て、もともと65%だったスマホの普及率が、80%ほどにまで上昇しました。他の地域の統計の数値と比較しても、私たちの取り組みはかなり迅速なペースで進展できたと考えています。

実際に住民の方々の生活の利便性が向上するなど、良い変化が現れたことから、この取り組みの知見を広く他の地域にも共有することで、社会課題の解決やデジタルデバイドの克服に貢献できるのではないかと考えたのが、設立に至るきっかけです。

具体的にはどのような取り組みを実施するのでしょうか?

木村:設計中の部分もあるのですが、そもそも日高村の取り組み自体が「スマホ普及率100%」を基盤にしつつも、ただ持ってもらうだけではなく、ちゃんと使ってもらってデジタルの有用性を理解してもらうという取り組みでした。

その為、適切な順番でそれが伝わるようなメニュー化ができれば良いかなと思っています。情報共有の機能やデジタルデバイド解消のプロジェクト組成のお手伝い、さらに外部リソースも活用して展開するために企業とのマッチングの場等もアレンジしたいと考えています。これらが全体の地図のように配置されるようなイメージです。

情報共有の部分では自治体と企業が交流できる場に加え、自治体間だけがクローズドにやり取りできるコミュニケーションの場も設けることで、成功だけでなく失敗事例等も含めた生の声が伝わるような情報交換ができればと思っています。

同じ価値観を持つ仲間が集う安心感のある組織にしたいと考えているので、企業から自治体への直接的な営業行為はお控えいただく予定です。その代わり、自治体側からのこんな企業さんともう少しコミュニケーションしたいよというオファーには本社団法人の事務局が間に入りつつ、対応できるような仕組みを用意する予定です。

一般社団法人まるごとデジタルのメンバー

スタートアップの方々も参加されていますが、具体的にどのような連携をされたのかおしえていただけますか?

高井:日高村で村まるごとデジタル化事業を行っていく中で、派生事業として「みらくるプロジェクト」というものが生まれました。

これは日高村でのスマホ普及率が大幅に上昇したことを背景に、シニア向けサービス等を提供するベンチャーさんや、先進的な自治体との取り組みを進めたいスタートアップさんを募集し、日高村との取り組みを協議の上、実際に実行するまでの枠組みとなります。応募いただいた各社さんのうち、いくつかの方々にはこの枠組みの中ですでに実証事業等を実施いただきました。

一例で言うと、日高村では「まるけん」という健康アプリを6社共同で開発しています。これは日高村で歩いた分だけポイントが貯まり、そのポイントが地域通貨として、地域社会に還元される仕組みなんですが、例えば参画した一社のLiquitousさんは、行政の施策に対して住民が意見を投稿できるプラットフォームを提供していらっしゃるんですが、住民の皆さんにスマホを使ってどのような健康アプリが望ましいかという声を投稿してもらい、その声を基に開発を進めたりもしました。

もう一社、Helteさんは海外で日本語を学びたいと考えている方々と、コミュニケーションを求める日本のシニアの方々をビデオ会話で結び、会話を通じてつながるサービスを提供しているベンチャー企業なんですが、これまで強くアプローチしてこなかった中山間地域のシニアの方々にも利用していただきたいという意向から、日高村のスマホ教室と連動した取り組みも実施しています。

これらのスタートアップとは社団法人になったあとでも取り組みは続くのですか?

高井:そのまま一般社団法人に参加していただけるかはまだ確定しておらず、9月21日に自治体と企業向けにもう少し詳細な説明会を実施する予定です。様々なプロジェクトを進行させるためにも外部のリソースをどのように活用し、取り組みを新しく楽しいものにするかは非常に重要な点だと考えています。

地域の資源も人口減少の影響で減少傾向にありますが、外部からのパワーや特にベンチャー企業などの新たなアプローチや推進力は、地域の方々にとっても刺激となる要素だと思います。

どういった企業が求められているのでしょうか?

高井:自治体が抱える課題の解決に近いサービスやソリューションを持たれている企業はやはり求められていると思います。ざっくり一般的な話で言うと、防災や健康、医療、子育て、買い物支援など、地域の住民さんが汎用的に必要とする領域については、行政の方でしっかりと整えて改善していくべきミッションを持っているため、こうした領域に関しては比較的行政が主導しやすいと考えています。とはいえ、先ほどお話させていただきました通り、価値観の共有が前提となりますので、本社団法人の取り組みを通じ、日本をより良くしたいと考える企業の方をお待ちしております。

日高村内に設置されたスマートフォンのよろず相談所

どういった企業が求められているのでしょうか?

木村:最初はスマホの普及率100%を目指す取り組みでしたので、成果としてスマホ普及を強調していました。しかし、事業の当初設計の通り、スマートフォンの普及は本質的には出発点に過ぎず、住民の生活の向上にも焦点を当てるべきだと考えるようになっていきましたね。

日高村の住民のみなさまも当初はスマホの使用に苦手意識を抱く方々もいらっしゃったので、常設の相談所を設置しました。ここを拠点に健康や地域通貨、地域経済循環、防災アプリなど、生活を支えるさまざまなアプリの設定や利用方法の支援を実施しました。

結果、多くの人々がこれらのアプリを活用し、いまではスマホがない生活に戻れないという声もいただけるようになったんです。私たちが広げたいのは、生活を変えていくところ、そのデジタル社会の基盤構築のところなんですよ、とは常々お伝えしているところです。

プロジェクト推進にあたって一番難しかったことは何ですか?

高井:自治体がデジタルデバイドの解消に取り組むスキームとして一般社団法人を立ち上げていますが、このような枠組みがなかったので、どこから始めるべきか、どのような組織構造が適切かについては試行錯誤の連続でした。当初日高村さん、チェンジさん、KDDIで検討を重ねていましたが、主な価値提供先は地域の自治体のみなさんです。彼らとの価値創造をないがしろにしてしまっては元も子もないので、そういった部分を組織の設計に反映させることが重要でした。

そうした流れで自治体を横断するスキーム的な組織を構築して機能や内容について検討を行うため、今年の4月に全国の自治体に組織設計の共同検討への参加を呼びかけました。9つの自治体に集まっていただき、毎週のようにミーティングを実施して機能設計の方針や進め方について意見交換しました。結果、参加した自治体の内7自治体についてはそのまま準備委員会から一般社団法人の正式な賛助会員として参画いただいています。

今後、参画する自治体や企業のメリットはどのあたりにありそうですか?

木村:まず自治体会員についてです。今回、日高村、チェンジ、KDDIからこれまでデジタルデバイド解消に取り組んできたメンバーを一般社団法人の社員として兼務出向させて、参画自治体における様々なプロジェクトの企画と実行支援を行います。これは、日高村で得た事業運営のノウハウや知識を提供しながら実施されることになるはずです。

また、様々な自治体が全国から集まって勉強会なども開催する予定です。つまり、情報収集の場を提供し、実際のプロジェクトに関しても支援を受けられるというメリットがあると考えています。

企業会員の方々に対しては、自治体との接点を提供できることが大きな魅力かと思います。勉強会などを通じて、企業が提供するサービスや取り組みを紹介し、自治体からのフィードバックを受けることもできますし、適切なマッチングが実現すれば、双方のプロジェクト展開にもつながる可能性があると思います。

最後に意気込みをお願いします

高井:利便性だけを重視するとどうしても東京に一極集中してしまう傾向があると思うんですが、日本にたくさん存在するそれぞれの地域には、それぞれに独自の魅力や住みやすさがあり、住む場所や働き方に制約や制限がなく、誰もが豊かで充実した生活を送れる社会を目指すことが大切だと思っています。デジタルの力でさまざまなデバイドの解消を実現し、いろんなモノや人が繋がり、様々なコミュニケーションの場が広がる世界になればいいですし、これに向けて取り組んでいきたいですね。

これまで一般社団法人まるごとデジタルのお話をさせていただきましたが、2023年9月21日に賛助会員としての参画に興味をもっていただける自治体・企業向けの説明会を実施予定です。ご検討頂ける方はぜひ以下のURL先より、事前の参加登録を実施頂ければと思いますので、よろしくお願いいたします。

木村:私も4月から一緒に関わっていますが、自治体の方々との会話を通じて東京にいるメンバーや企業で働く人とは異なる感覚を感じることがありました。auPAYなどのサービスは、東京にいる私たちにとっては当たり前に使えるものですが、地域に行くとその利用が難しい場合もあります。このような違いを感じると、私たちが普段当たり前に感じている利便性や便利さが、彼らにはなく、それがとても勿体ないと感じるんです。この課題を解決し、地域の生活を豊かにする手助けをしたいと思います。

ありがとうございました。

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