保育の新たな価値創出へ、資本業務提携で目指す「あすいく」とJR東日本の挑戦

左から:JR東日本スタートアップ 代表取締役 柴田裕氏、grow&partners代表取締役 幸脇啓子氏、grow&partners取締役 石井望氏、JR東日本スタートアップ アソシエイト 古川詩乃氏
Image credit: JR East Startup

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

2017年12月に創業したgrow&partnersは、体験型保育サービス「あすいく」を提供しています。LINEを使って、一時保育の空き情報を検索し、予約、決済、保育施設とのコミュニケーションが可能で、子供を持つ親に子育てストレスの軽減、ひとり時間の確保、子育てをより楽しくする機会を提供します。

grow&partnersは、「駅や鉄道を活用した預けたくなる保育」というプランで、JR東日本スタートアップが運営する「JR東日本スタートアッププログラム2022」に採択され、このプログラムのデモデイで審査員特別賞を受賞しました。2023年12月には、JR東日本の子会社であるJR東日本スタートアップとgrow&partnersが資本業務提携を締結しました。

この資本業務提携が決まるまでの裏側、そして、この提携をを受けて、両社はどのような事業を共創していくのかについて、grow&partners 代表取締役の幸脇啓子さんとJR東日本スタートアップ アソシエイト 古川詩乃さんにお話を伺いました。

上野駅を〝保育園〟にする

grow&partners代表取締役 幸脇啓子氏

幸脇さんは、保育園の運営や一時保育のマッチングサービスを手がける同社の事業を通じて、育児中の母親たちの”罪悪感”という課題に直面していました。

子どもを預けること自体に抵抗を感じている母親が多くいました。預けることで自分の時間が手に入り、育児ストレスが軽減されるというメリットはあっても、『育児は母親がするもの』という価値観から罪悪感を感じ、利用に踏み切れない状況がありました。(幸脇氏)

そんな中で幸脇さんが着目したのが、「子どもが夢中になれる体験」の提供でした。預かっている時間を、子どもが心から楽しめる時間にすることで、母親の罪悪感を和らげ、心おきなく一人の時間を作り出せるのではないか。そう考えた幸脇さんは、保育における新たな価値創出を目指すことになります。

一方、JR東日本では、社会課題解決や新規事業創出をミッションに掲げ、2018年にスタートアップ共創プログラムを開始しました。アソシエイトの古川詩乃さんはそのメンバーとしてプログラムに関わっています。

JR東日本スタートアップ アソシエイト 古川詩乃氏

弊社グループの子育て支援施策はテナントへの保育施設誘致などハード面の整備から始めていましたが、スタートアップと協業することで、我々の持つ鉄道というアセットを全く新しい形で活用する可能性に気づかされました。(古川氏)

一方、幸脇さんは投資家/メンターから古川さんを紹介され、当初は上野駅周辺での一時保育と上野駅見学をセットにした企画を実施するつもりでしたが、打ち合わせを重ねるうちにより革新的なアイデアが浮かびました。上野駅自体を保育園のように見立てることで、子どもにとって最高の体験になるのではないかというものです。

駅では、走行する電車が見える会議室を保育スペースにしたり、駅構内を散策したり、駅員と触れ合ったりと、鉄道に囲まれた非日常的な環境で遊ぶことができます。まさに子どもの夢がひと時実現するプログラムでした。

JRさんに子どもが夢中になれるコンテンツを提供していただけるなら、母親の罪悪感を和らげられるのではないか。私たちにはないリソースを活用できると感じました。(幸脇氏)

駅構内を散策する様子

2022年秋、grow&partnersはJR東日本のアクセラレーションプログラムに採択され、上野駅での実証実験の機会を得ました。実際に会議室を一時保育スペースとして活用し、鉄道の駅を舞台にさまざまな体験を提供しました。

お母さん方から「子どもが夢中になれてよかった」「このおかげで1人の時間が作れた」といった嬉しい言葉をたくさんいただきました。(幸脇氏)

2023年6月に実施された「駅いく」には定員の4倍を超す申し込みがあり、利用者からの満足度は非常に高いものでした。社員の反響も上々で、子どもたちと触れ合うことで士気の向上にもつながったといいます。

発想の転換が生んだイノベーション

会議室の保育スペースを利用する様子

今回の取り組みでは、発想を転換することで全く新しい価値を生み出せたことがポイントでした。子どもを〝預かる〟のではなく、子どもが〝夢中になれる体験〟を提供するという視点の変化が、斬新なサービスを生んだのです。

保育という既存の概念に捉われずに、母親が本当に求めているものは何かをgrow&partnersさんから教えていただきました。その上でJRの持つリソースをどう活用するかを一緒に考えられました。 (古川氏)

JRさんがお持ちのリソースには目からウロコでした。私たちの知らない世界の中に、子どもが喜ぶ要素がたくさんあったのです。(幸脇氏)

異なる強みを持つ両社が出会い、お互いのリソースを最大限に活用し合うことで、イノベーションの種が生まれました。保育という既存の概念にとらわれずに発想の転換を図り、ニーズを的確につかんだことが成功の鍵となりました。

上野駅や小海線統括センターといった鉄道関連施設に加え、アトレ恵比寿、ルミネ横浜、フェザン盛岡といったショッピングセンターでの実証実験の成果を受け、JR東日本グループ内から「私たちの拠点でもやりたい」との声が次々と上がりました。

駅だけでなくJR東日本グループ全体のアセットで定期的に実施機会を設けることができれば、お母さん方にも予定を立てやすくなります。一過性のイベントに終わらせずに、継続的な事業として展開していきたいと思います。 (古川氏)

互いの理解を深め、課題を乗り越える

grow&partnersはスタートアップです。大企業や鉄道会社であるJR東日本と協業する上では、いくつかのの制約などから乗り越えるべき課題もありました。

日々の売上が会社の存続に直結するスタートアップと大企業とでは、意思決定のスピード感など、様々な違いがあります。幸いなことに社員は過去に大手企業で働いていた経験者も多く、お互いの考え方や意思決定のプロセスを理解し、尊重できたことが助けになりました。(幸脇氏)

駅での実施にあたっては、駅社員は交代制の勤務なので、打合せから下見、実施まで常に同じメンバーをそろえることが難しい面もありました。この点については、上野統括センターの全面的な協力があって乗り越えられることができました。(古川氏)

今後の展開について両社は力強い決意を見せています。JR東日本グループが持つさまざまなアセット、JR東日本以外の鉄道会社や私鉄なども連携できないか模索していくそうです。保育という切り口から生まれた、地域密着型の新事業の行方に、今後も期待が高まります。

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