JR東日本、同社初となるインキュベーション/アクセラレーションプログラムのデモデイを開催——18チームが協業プランを披露、7チームが入賞

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JR 東日本は17日、同社初となるインキュベーション/アクセラレーション・プログラム「JR EAST STARTUP PROGRAM」の第1期デモデイを開催した。これは同社が今年4月に発表した JR 東日本とスタートアップのオープンイノベーションを促進するためのプログラムで、概ね起業10年以内の企業を対象とする「アクセラレーションコース」と、起業しているか起業後まもない個人を対象とする「インキュベーションコース」の2つのコースが用意されている。

応募のあったスタートアップのうち、アクセラレーションコースには11社、インキュベーションコースには8社が採択され約半年間におよぶプログラムに参加、この日のデモデイを迎えた。特に興味深いのは、アクセラレーションコース採択チームを中心に、JR 東日本の駅構内などを使って実際のサービスが提供される点だ。一部のサービスは、11月20日〜26日まで大宮駅構内でデモが公開されるほか、来年には品川駅構内の駅ナカショッピング施設「ecute」などで実証実験が展開される予定。

本稿ではデモデイでのピッチの結果、審査により入賞した6社を中心に紹介する。

デモデイで審査員を務めたのは、以下の6人の皆さん。

  • JR 東日本 常務取締役 事業創造本部長 新井健一郎氏
  • JR 東日本 執行役員 事業創造本部副本部長 表輝幸氏
  • 東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授 伊藤元重氏
  • Plug and Play Japan 日本代表 フィリップ・誠慈・ヴィンセント氏
  • スターフェスティバル 代表取締役社長 岸田祐介氏
  • ロフトワーク 代表取締役 林千晶氏

【最優秀賞(アクセラレーションコース)】サインポスト

2007年設立のサインポストは、コンサルティング、ソリューション、イノベーションという3つの事業を展開しているが、その中でも今回紹介されたのは、イノベーション事業で同社が開発した「Wonder Register」を応用したものだ。Wonder Register はセルフレジ向けのソリューションで、消費者が店頭で何を購入しようとしているかを、商品の形状や色などから人工知能により判定し精算へとつなげる。バーコードを貼り付ける手間も省け、小売店舗にとっては圧倒的に手間が省ける。

サインポストが JR 東日本に対して協業を提案したのは、Wonder Register をさらに発展させた「Super Wonder Register」というもので、レジで商品をスキャンニングするまでもなく、店頭に設置されたカメラやセンサーにより、消費者が何を手にして購入しようとしているかをリアルタイムで自動認識、店舗の出口ゲートを通過する際に現金・カード・電子マネー・ポイントなどにより自動精算が可能となる。

Amazon Go が実現できることと基本的な機能は同じだが、実際にアイデアをエグゼキューションし一般開放しているという点では、Amazon Go よりも先んじているのではないか、とのことだった。11月20日〜26日には大宮駅コンコース内にデモ店舗が設置され、一般利用者がユーザ体験に参加できる予定。同社は将来、Super Wonder Degister をJR 東日本グループが駅中心に展開するコンビニエンスストア NewDays への導入を希望している。

【最優秀賞(インキュベーションコース)】カタリスト

日本各地では主に処分用地の確保の問題から、ゴミの最終処分量を減らす努力が求められており、ゴミの減容化や資源化を図る必要に迫られつつある。カタリストは、遠赤外線と金属触媒により加熱効果を高め、廃棄物を減容化・資源化する装置「ROXs(Reduction of Oxidations)」を開発。遠赤外線と特殊な金属触媒により廃棄物の加熱効果を高め物資中の分子を振動させることで、従来のゴミの最終処分形態である焼却灰を3分の1に減容し、新しい形のセラミックへと再資源化を実現する。

JR 東日本には沿線自治体とのつながりの広さと強さを期待しており、同社が持つネットワークを通じた地方自治体への ROXs システムの導入。また、JR 東日本が持つ用地への ROXs システム設置や、ROXs を使った JR 東日本グループ全体の廃棄物の自前処理化などが提案された。

【優秀賞(アクセラレーションコース)】Huber.

ガイドされたい訪日外国人観光客と、そんな外国人とつながりたい日本人ガイドをマッチングするプラットフォームを運営する Huber.。2016年9月に東急電鉄のアクセラレータプログラム第2期のデモデイで優勝しているが、表面から見えるサービスコンテンツはそのままにビジネスモデルをピボット、日本人ガイドを通じて得られた訪日観光客の興味やニーズ、消費動向を連携企業にレポートする事業で市場の評価を得ているようだ。

東急電鉄とは今年5月、Huber. と資本業務提携を締結している。自社メディアを通じた世田谷・豪徳寺への訪日外国人観光客への誘引キャンペーンを功を奏し、この模様は先月のテレビ東京の番組でも紹介された。

連携する相手として、特にインフラ事業者との相性がいいそうだ。Huber. では東急電鉄が運営を受託する仙台空港のある仙台を起点に、30程度の観光スポット訪問体験を企画し、訪日外国人観光客を誘引・回遊させてみる考え。この活動を通じて、訪日外国人観光客の潜在ニーズや行動パターンの深耕分析を試みる。

また、地方においては、目的地最寄り駅から先の二次交通手段の確保が課題になるが、同社では日本人ガイドによる「ガイド付きレンタカー」を試験的に導入する計画で、法律面や規制面でも経済産業省、国土交通省、観光省から特に問題無いとの了解が得られているとのこと。JR 東日本との連携により、「東北エリアにおける訪日外国観光客向けゴールデンルート」を構築したいとしている。

【優秀賞(アクセラレーションコース)】WAmazing

WAmazing は、訪日外国人に無料 SIM カードを配布して情報を提供するサービスだ。外国人観光客は WAmazing のウェブサイト上で旅に出発する前に自分の個人情報を登録、新東京国際空港(成田空港)・中部国際空港(セントレア)・関西空港・仙台空港・青森空港・富士山静岡空港に設置された SIM カードを提供するマシンで、日本到着後に無料 SIM カードを受け取ることができる。現在、台湾や香港からの観光客向けにサービスが提供され、近日中に中国からの観光客にもサービスが展開される予定。

B Dash Camp 2017 Spring in Fukuoka で優勝東急電鉄のアクセラレータが第3期プログラムのデモデイでも優勝に相当する東急賞を獲得した。

同社は、宿泊施設やレジャー施設の数から見ても、東北地方は北海道にまさるインフラが整っているにも関わらず、訪日外国人観光客のうち東北に滞在する人々が1%に過ぎないことを指摘。旅の前、旅の途中を通じて、東北地方への観光客誘引を展開する企画を提案した。

統計によれば、東北を訪れる訪日外国人観光客のうち約2割が仙台空港を利用しており、残りの人々は主に成田空港や羽田空港を経由し、東北新幹線へ東北を訪れているそうだ。同社では、空港到着時より前に列車の切符を購入してもらい、バウチャーを使って空港で列車切符を発券することにより、より効果的に東北に訪日外国人観光客に誘引できると仮定。そのテストマーケティングを一部空港で実施する。

また、より効果的な東北地方の観光地としてのマーケティングのため、WAMazing はウインタースポーツに特化した情報ポータル「WAMazing Snow」を立ち上げる予定だ。同社は JR 東日本グループ傘下のガーラ湯沢スキーリゾートらとも協力し、WAmazing の SIM カードを持つ訪日外国人観光客の効果的な東北誘客を狙う。

【優秀賞(インキュベーションコース)】慶應義塾大学経済学部 藤田康範研究室

慶應義塾大学の学生2名からは、同大学の学生を訪日外国人観光客に対するガイドとする計画が発表された。外国人観光客にとっては、電車の乗り換えが難しい、旅行先の選択肢が少ない、言語の壁があるなどのペインポイント、一方、大学生にとっては受験英語には慣れ親しんでいるものの、外国語によるコミュニケーション能力の不足が指摘されており、双方をつなぐことでメリットが生まれるだろうという仮定に基づくものだ。

前出の Huber. との連携で学生がガイドをすることで、大学にはその活動を実践的な英語学習を習得したと見なしてもらい、大学の単位として認めてもらおうというもの。ガイドをする学生にとっては、より高いモチベーションが生まれる。将来的には慶應義塾大学のみならず、日本全国の大学生が訪日外国人観光客におもてなしができるようにしたいと、抱負を語った。

【優秀賞(インキュベーションコース)】チャレナジー

チャレナジーは、台風のような強風状態でも安定して発電ができる風力発電機を開発するスタートアップだ。自然エネルギーを利用したサステイナブルな発電方法として注目を集める風力発電だが、一方で一般的なプロペラ型風力発電機は、強風や乱流に弱く、バードストライク、低周波騒音などの問題があり、また日本における年間故障率は40%〜60%と問題も大きい。これが原因で、日本の風力発電による潜在的年間発電能力は 1,900GW に上る中、実際には 3GW しか発電されていないのが現状だ。

チャレナジーはマグナス効果を活用した特殊形状の風力発電機を独自に開発。この発電機では、強風や乱流、風向きがどの方向に変化したとしても安定的に電力を発生させることができる。発電機としての安全性が担保されるため、人が住む街中に設置することが可能で、同社では、都心駅屋上などへの設置や、電車沿線に風力発電機を並べて設置することで「発電防風林」を構築できる可能性を検証したいとした。

【審査員特別賞(アクセラレーションコース/インキュベーションコース共通)】ecbo

東京・大阪・京都・福岡・北海道・沖縄などで、コインロッカーに代わる手段として、主に訪日外国人観光客を対象に、カフェやレンタサイクルショップの空きスペースを活用した荷物預かりサービス「ecbo cloak」を展開する ecbo

JR 東日本グループ傘下の高級スーパー紀ノ国屋の一部店舗でも、ecbo cloak のサービスをスタート。また、東京駅丸の内口などの手荷物預かり所や空きスペースなどの駅ナカにおいても、ecbo cloak のアプリで予約し QR コードを見せるだけで荷物が預けられる新機能を追加する。今後、年間利用者1万人の達成を目指すそうだ。

ピッチでは、預けた荷物をそのまま宿泊先などへ届けてくれる「ecbo delivery(仮称)」の構想を初披露。京都市内のバスなどでも訪日外国人観光客の大きな荷物の搬入が問題となっているが、ecbo cloak にデリバリ機能を追加することで、空港から到着後そのまま手ぶらで街へ遊びに行けるユーザの利便性が向上する上、交通機関の駅ターミナルや車内混雑防止という観点でも大きなメリットがあるとのことだった。


晴れて入賞とはならなかったものの、本プログラムに採択された全てのチームに関する情報は、JR 東日本のウェブサイトから閲覧することができる。

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