JR東日本、インキュベーション/アクセラレーションプログラムの第2期デモデイを開催——23チームが採択、6チームが入賞、18チームはPoCへ

by Masaru IKEDA Masaru IKEDA on 2018.11.29

JR 東日本スタートアップは29日、インキュベーション/アクセラレーション・プログラム「JR EAST STARTUP PROGRAM」の第2期デモデイを開催した。これは JR 東日本とスタートアップのオープンイノベーションを促進するためのプログラムで、概ね起業10年以内の企業を対象とする「アクセラレーションコース」と、起業しているか起業後まもない個人を対象とする「インキュベーションコース」の2つのコースが用意されている。

応募のあったスタートアップ182社のうち、アクセラレーションコースには18チーム(実証実験中心)、インキュベーションコースには5チーム(事業提案中心)が採択され約半年間におよぶプログラムに参加、この日のデモデイを迎えた。アクセラレーションコース採択チームを中心に、JR 東日本の駅構内などを使って実際のサービスが試験提供(PoC)される。一部のサービスは、12月3日〜9日に大宮駅西口イベントスペースなどでデモが公開される予定。

本稿ではデモデイでのピッチの結果、審査により入賞した6社を中心に紹介する。

デモデイで審査員を務めたのは、以下の6人の皆さん。

  • 東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授 伊藤元重氏
  • グロービス・キャピタル・パートナーズ マネージング・パートナー 仮屋薗聡一氏
  • コラボラボ 代表取締役社長 横田響子氏
  • 守屋実事務所 代表 守屋実氏
  • JR 東日本 常務取締役 事業創造本部長 新井健一郎氏
  • JR 東日本 常務取締役総合企画本部長 喜㔟陽一氏

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【スタートアップ大賞】PicoCELA

副賞:100万円

PicoCELA は、無線 LAN のマルチホップ技術を用いて、足回りに LAN ケーブルを必要としない、無線 LAN 環境の構築を可能にする。スキーリゾート「GALA 湯沢」のゲレンデや八甲田山などで、PicoCELA を使った面におよぶ無線 LAN サービス提供の実証実験を行う。GALA 湯沢では、通常敷設時に比べ LAN ケーブルを85%削減でき、工事費は10分の1にできたという。

新幹線など電車内における無線 LAN 環境の構築においても、車内のケーブル敷設を省略できることから、導入が容易でコストを圧縮することができる。広域 WiFi 空間での AR ゲームの実現、工事現場でのエッジコンピューティングによる業務改善、車内でのエッジコンピューティングによるリッチコンテンツの提供なども可能になる。WiFi を通じて集まるデータから、人流のビッグデータ事業も視野に入れる。

【最優秀賞】Metro Engines(アクセラレーションコース)

副賞:50万円

メトロエンジンは、AI を活用した需要予測を行うことで、ホテルなどに(料金の最適化により最大の利益をもたらすことを意図した)ダイナミックプライシングを提供するスタートアップだ。現在、ホテルチェーン30社などで利用されている。同社はこのしくみを、新幹線や列車の需要予測に使えないかと考えている。東北新幹線「やまびこ」で実験を行ったところ、250席中で15席以内という低誤差で予測する成果を上げた。このしくみの応用により、旅行客には閑散期により安い価格で旅に出かけられる可能性を提供できる。

また、メトロエンジンは JR グループの駅ナカコンビニ「NewDays」とコーヒーショップ「BECK’S COFFEE SHOP」でも売上予測の実験を行った。NewDays では売上150万円に対し誤差6万円以内(97%)、BECK’S COFFE SHOP では売上25万円に対し誤差4.5万円以内(82%)、という良好な結果が得られた。これらの小売業では正確な売上予測が可能になることで、発注量の適正化が行え、食料品や食材の廃棄抑制や損失減少にも貢献できる。メトロエンジンでは、JR 東日本が手がける複数事業分野で協業を図りたい考えだ。

【最優秀賞】ANSeeN(インキュベーションコース)

副賞:50万円

AnSeeN は、静岡大学発の X 線カメラを使った内容物調査技術を開発するスタートアップだ。従来の X 線カメラに比べると、高精細で内容物の形状を把握しやすく、波長情報により色をつけられるため、部位毎の材質の違いも見分けやすい。人工知能と併用し、検査員不要で手荷物検査が実現できるしくみの開発を目指す。

昨今、新幹線の車内などで事故や事件も起きており、安全性確保の観点から乗車前の手荷物検査の必要性は叫ばれる一方、航空機搭乗前の空港での手荷物検査を鉄道改札に導入したのでは、検査による時間の問題から混雑が生じてしまい現実的でない。AnSeeN では、新幹線の自動改札が切符を投入してから2秒で通過可能であることを念頭に、同社の手荷物検査装置により4秒間での改札と手荷物検査通過が可能にしたいと考えている。

【優秀賞】AISing(アクセラレーションコース)

副賞:50万円

AISing(エイシング)は、10年以上にわたり機械制御に AI を活用してきたスタートアップだ。同社では今回、2つの JR 東日本が抱える課題に対して、それぞれのソリューションを提案した。

一つは、降雪地帯の新幹線路線などにおける散水消雪機の最適稼働だ。JR 東日本の設置する散水消雪機では加熱を施して散水、溶けた水の戻り(返送水)の温度を監視している。一度溶けた雪や撒いた水が凍らないために、この返送水が摂氏1℃程度で戻ってくるのがムダ(余剰熱)の無いベストな状態だが、実際には温度制御が難しい。AI を活用することで最適な温度で散水を行い、消費燃料の抑制を行い、上越新幹線で年間7億円かかる燃料の15%程度のコスト削減を目指す。

もう一つは、AI を使ったブレーキの異常検知だ。現在は毎朝、人が目視などにより点検を行っているが、人と並行して、データに基づいて異常検知することで、問題が起きる可能性を抑え、安全性向上を図る。将来的にはホームドア、架線、エスカレータなど、鉄道インフラにまつわるあらゆる部分に、人とデータの二重系での点検/異常検知のしくみを提案していきたいとしている。

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【優秀賞】Origin Wireless Japan(アクセラレーションコース)

副賞:50万円

Origin Wireless Japan は、メリーランド大学発のスタートアップで、WiFi 電波反射波分析により、アルゴリズムと AI で空間認知ができるエンジン「Time Reversal Machine(TRM)」を開発している。WiFi 電波だけで、スマートホームやスマートオフィス、生体情報検知などのセンシングのほか、GPS が届かない屋内で誤差50㎝以内のポジショニングを実現する。

センサーやビーコンをつけにくく、電源も確保しづらい工事現場では、不審者侵入は専ら人による定期的な巡回に頼らざるを得なかった。Origin Wireless では、電池駆動可能な WiFi ルータを置くだけで、人の有無をリアルタイムで監視できるほか作業員の位置把握も可能になる。これまでに JR 東日本の都内の駅で実証実験を行ったほか、今後、品川新駅のホームでも実証実験を予定。JR 東日本の非鉄道事業でも協業を目指す。

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【青森市長賞】Fermenstation(アクセラレーションコース)

副賞:道の駅なみおか「アップルヒル」から、青森のりんご1箱

Fermentstation は岩手県に本拠を置く、発酵技術を中心とした技術開発会社だ。休耕田だった田んぼでコメを作ってもらい、それを発酵・蒸留してコメ由来のエタノールを精製し、化粧品を作って販売している。精製過程で発生した絞りカスは、田んぼに返すことでムダのないサステイナブルな事業を構築した。

Fermenstation の今回の取り組みは、これをリンゴにも応用しようというものだ。青森県の A-FACTORY にあるシードル工房からは、年間リンゴの絞りカスが16トン排出される。これまで絞りカスは廃棄処分するしかなかったが、この絞りカスを発酵することでリンゴのエタノールを作り、商品化と事業化の検証を行っている。

アロマディフューザーなど、日本のものづくりの発信・支援プロジェクト「KOKOLUMINE」のバイヤーの意見を聞きながら、リンゴのエタノールを使った商品を開発しており、地域再発見プロジェクトコンセプトショップ「のもの」の東京店で年内に試験販売を予定。さらに、この「(シードル製造時に生まれる)リンゴの絞りカス」から生まれた、さらなる絞りカス(発酵したものの残り)には消化しやすい繊維質が多く含まれ、嗜好性が高いことが判明しており、ニワトリや牛への餌に利用されている。

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