Buddycare株式会社(以下バディケア)は、2021年4月に起業したスタートアップ。創業の想いは一つ、「世界中の愛犬が、1日でも長く健康に暮らせる社会を実現する」こと。
技術を活用してペットの幸せに寄与する「ペットテック(Pet-Tech)」企業として、未だ世界中のどの企業も実現できていない、愛犬のパーソナライズド・ヘルスケアの提供に取り組んでいる。
創業メンバーは、自分の「家族」である愛犬を幸せにするために、大企業でのキャリアを捨て、一念発起して起業した。
どのような背景で起業に至ったのか、その想いを代表取締役CEOの原田和寿氏に聞いてみた。
(聞き手:合同会社 I see 並田ともみ)
<バディケア社 代表取締役CEO 原田和寿さん>
Q. 原田さんは、総合商社の丸紅の海外子会社でCFOの要職も務め、総合商社でも順風なキャリアを歩んできたとお見受けします。キャリアを大きく転換し、バディケア社を立ち上げられた背景や経緯をお聞かせください。
私は生まれてから高校を卒業するまで、鹿児島県の薩摩川内市で過ごしました。実は子供のころからずっと犬が大好きだったのですが、親の仕事の関係で、自分の家では残念ながら一緒に暮らすことが叶いませんでした。でも、従妹の家にいたミックス犬のミルと大親友になって、ミルには犬を心から愛することを教えてもらいましたね。遊びに行った時はいつも、ミルと離れたくないと言って親を困らせていました。手に残るミルの匂いが消えるのが嫌で、手を洗いたがらなかったほどです。(笑)
大学院を経て、犬とは無縁の総合商社へ就職しました。15年に亘るキャリアの中で、財務経理や事業開発、ベンチャー投資といった、事業を作るためのスキルや経験を積むことが出来ました。“モノ”を持たない商社では、さまざまなパートナー企業と共有できる大きな戦略や事業プランを作り、その実現に向けて仕事を進めていくことが主な仕事です。仕事を通じて多くの戦略策定案件やプロジェクトマネジメント案件を担当し、また海外でMBAを取得する機会も頂き、本当に良い経験をさせてもらったと感謝しています。
商社では、投資額100億円を超えるようなプロジェクトや、シリコンバレーのTechスタートアップ企業への投資など、どれも刺激的で面白いプロジェクトにも恵まれました。
一方で、スキルや経験が増えていくにつれ、自分の中での仕事に対する違和感も大きくなっていきました。「自分が人生をかけて取組みたいと思えるテーマに取り組めているだろうか?」、そう自問することが増えていきました。
そんな中、念願の愛犬、ミニチュアダックスフンドのロッティとの生活が始まったことが、大きな転機になっています。愛犬と暮らしたことのある方には納得していただけると思うのですが、一緒に暮らし始めた当初は、楽しいな・かわいいな、という気持ちがほとんどでしたが、共に時間を過ごすうちに、ロッティへの愛情はいつの間にか膨らんで、ペットではなく、自然と家族の一員になっていました。
一方で、犬は人間の4倍から6倍のスピードで生きると言われています。それを考えた時に、愛犬の一日という数字にとてつもなく大きな意味を感じるようになりました。犬にとっての一日は、ある意味で人の一日よりも重みがあると思うのです。だからこそ、一日でも長く元気に暮らして欲しい、という想いが強くなっていきました。
しかし、愛犬が一日でも長く元気に暮らすために具体的になにをすれば良いのか、調べれば調べるほど、犬のヘルスケアについては、まだまだ科学的に明確でないことが多いことが分かってきました。それであれば他の誰かにそれを任せっぱなしにするのではなく、自分たちが自らアクションを起こして一日でも長く元気に暮らす方法を明らかにし、ロッティの「一日」を少しでもより豊かなものにしたい。そんな想いに突き動かされ、愛犬のヘルスケアを改善するための会社として、バディケアを創業しました。
Q. バディケアは、愛犬のための「パーソナライズド・ヘルスケア」事業に取り組んでいますね。これは具体的にはどのような事業なのでしょうか?
先にご説明したとおり、バディケア社として愛犬のヘルスケア改善に取り組むという事は最初に決めました。そこからは、まず何に取り組むべきかを必死に考えました。私と、同じく愛犬家で共同創業者の長井は、前職では同じ会社の同僚で、ちょうど時を同じくして共に米国・ニューヨークに駐在していました。長井と共に、日本で立ち上げる事業の準備を米国で行うという、なかなか貴重な経験をしています。
<共同創業者の長井さんと>
「愛犬のヘルスケア」に関する調査をひたすら行ない、時差を有効活用して、米国での業務終了後、米国では深夜の時間帯に、日本の専門家や獣医師にヒアリングをする中で、愛犬のヘルスケアで改善するべき点が少しずつ見えてきました。
犬は、「どういう生活環境や健康管理方法であれば健康でいられるか」ということについて、人間に比べて分からないことが多いのです。その根本にある原因は、健康管理に関するデータが、犬の場合まったく蓄積されていないことでした。そのため、どのような生活習慣や健康管理方法がどのような病気に繋がるのかが明確に分からない、だからこそ予防や未病ができない、という問題点が見えてきました。
近年、愛犬の長寿命化に伴い、愛犬の死因のほとんどが、ガンや心臓病など、生活習慣に関連する病気です。人も同じですが、そのような病は、かかってから治療するだけでなく、なるべく発症しないための適切な生活習慣を送り、病気を「予防」し、「未病」対策を行うことが重要になります。その実現のために必要なのが、愛犬の生活習慣データです。このデータは今、世界のどの会社・組織も十分に蓄積できておらず、だからこそ犬については本当の意味での予防や未病対策が出来ていません。バディケアを、世界でそれをやる最初の会社にしようと決意しました。
このような経緯で、愛犬の健康管理データをしっかりと蓄積しつつ、それらのデータを分析し、それぞれの愛犬に適した包括的なヘルスケアソリューションを提供する、というバディケアの方向性が定まりました。「それぞれの愛犬に適した包括的なヘルスケアソリューション」を、私たちは「愛犬のパーソナライズド・ヘルスケア」と定義しています。
パーソナライズド・ヘルスケアという大きな課題に取り組んでいくため、データの蓄積や分析、活用をどこまでも深く突き詰めていく必要があります。だからこそ、現時点ではバディケアは「犬」専門のヘルスケア会社としてヘルスケアソリューションの拡大を進めています。「犬」に特化していることが、私たちの最大の強みです。
そして、ソリューションの第一弾として、生活習慣に占める重要性が最も高い、「食事」から取り組むことにし、愛犬用のごはん、バディフードを2021年9月に発売しました。
Q.バディフードは、発売以来、順調にお客様に浸透していると聞きました。バディフードはどのような想いを持って作られたのでしょうか?
家族であるロッティのために、ほんとうに安心できるごはんが欲しい、その想いが一番の原動力でした。
私たちが開発したバディフードは、「フレッシュフード」と呼ばれる全く新しいジャンルのごはんですが、米国に住んでいたときにその存在を知りました。ペット領域のサービスにおいて、米国は日本に比べて5~6年先行していると言われます。フードにおいても同様で、米国では2021年時点で、ドッグフード市場の約20%がフレッシュフードに置き換わっていると言われているほど、フレッシュフードは身近な存在でした。米国では愛犬のことを“Buddy(相棒)”と呼びますが、フレッシュフードの普及率からも、家族と愛犬の距離感の近さ、家族化が進んでいることを実感します。
一方で日本を見てみると、フレッシュフードの普及率はせいぜい1%程度ではないでしょうか。依然として所謂“ドッグフード”が主流です。
これまでの、所謂“ドッグフード”は、いかに飼い主が犬を飼いやすいように作るか、という、飼い主が主役の製品作りだったと考えています。長く保存がきき、安く作るため、強い加工や加熱によって水分を飛ばし、防腐剤などの添加物が含まれるものも普通に販売されています。人間が食べない部位が使われることは広く行われていますし、表示義務は食品に比べて緩く、原料などについての情報は不透明なものも多く、その結果として飼い主が不安に感じる製品が少なくありません。その不安がゆえに、手作りをする人も増えていますが、犬の食事において満たすべき栄養素はなんと40種類にもおよび、それらを手作りでしっかりと満たすことはほぼ不可能なため、一般的に動物病院では手作りを推奨しません。
また、ブリーダーさんやペットショップから、「なるべく同じドッグフードを食べさせるように」と指導されることもあり、毎食毎食、同じ“ドッグフード”を食べるのが普通のことになっています。しかし本来、イヌは、食事の時間をとても楽しみにしている生き物です。ドライフードとフレッシュフードを並べると、ほとんどの犬は一目散にフレッシュフードを食べます。それだけ、犬たちも美味しいものを食べる楽しみを感じているということです。
<バディフード 黒毛和牛レシピ>
愛犬ロッティのために、安心な食材で作られて、科学的なエビデンスに基づいて栄養バランスもしっかり整っていて、なおかつおいしくて食事の楽しみも最大化できる、そんな「ほんとうに安心して食べさせてあげられるごはん」を作りたい。そしてこれは、同じ愛犬家として、多くのご家族の皆さんに共通の想いだと考えました。バディフードの骨格が固まります。
Q. そのような想いで作られたバディフードは、フレッシュフードでは珍しく全国で広く動物病院でも紹介されているようですね。どのような点が評価されているのでしょうか?
まず、「食べ物」としての品質に徹底的にこだわっている点を高く評価して頂いています。ペットではなく、家族が食べるごはんだから、より厳格な基準である食品の基準で作っています。使用する食材は全て私たちが食べられるもののみを使用し、安全性や透明性を高めるため、国産食材を使用し、仕入れ先や産地については全て私たち自身が確認をしています。犬は雑食ですが、肉・魚・野菜・炭水化物などの幅広い食材を1つのエリアで豊富に仕入れることができるため、九州の鹿児島県に拠点を置きました。仕入れを鹿児島県中心に行い、調理は人間の食品と同じ品質を実現できるよう、同じく県内の食品工場で行っています。全て近郊で行うことでより新鮮な状態で流通できるようになり、ビジネスの面でも輸送等の効率化が図れます。同じ愛犬家として、全ての愛犬が不安なく食べられるごはんをつくるため、仕入先や製造工程など、可能な限り全てをWEBサイトでも公開しています。また、初回購入前にWEBサイト上で「フード診断」をしていただく事で、愛犬の年齢や体重、活動量など、その愛犬ごとの推奨カロリー量を提示し、アレルギー食材が含まれるメニューを選べないようにするなど、ご家族の健康管理をサポートする仕組みも導入しました。
また、獣医師の観点からは、栄養設計も非常に重要です。栄養設計は最も苦労した部分で、日本の獣医学部には栄養学を専門的に教えるところがないため、国内で栄養学専門の獣医師を探すこと自体が非常に困難です。バディフードは日本の食材を使用するため、日本の食生活・食習慣に精通している栄養学専門獣医師が必須だと考え、ほうぼうを探し回って、大変運よく、栄養学を専門とする岩切・成田獣医師が立ち上げたDC one dishとタッグを組むことになりました。DC one dishは、全国の獣医師に栄養学のコンサルティングをしており、様々な愛犬1頭1頭に最適な手作りレシピの設計もするなど、豊富な栄養学の知見をお持ちです。「透明性のある、継続可能な“新しい動物の食分野”を確立することが、栄養学に携わる獣医師として、なすべきミッションだと考える」、というDC one dishの想いがバディケアの信念とも強く共鳴しますし、最適な専門家とタッグを組むことができたと考えています。
バディフードは、世界的に認知されているAAFCO(米国飼料検査官協会)が定める栄養基準に沿って設計しています。この中では、実に40種類の栄養素について基準を満たす必要がありました。設計、試作、分析の過程で、その全てを満たしていることを外部の分析機関で確認しています。さらにAAFCOでは、成長期(およそ1歳未満)と維持期(成犬期とシニア期)では異なる栄養基準を定めています。人間に当てはめてみると当然ながら、子供と大人では必要な栄養要求量が異なり、犬も同様なのです。オールステージ(全年齢対応)として提供されるごはんもありますが、実は本来オールステージという基準はAAFCOにはなく、成長期の基準に合わせたごはんをオールステージとして販売するケースがほとんどです。そして成長期用のごはんでは、維持期の犬にとっては栄養過剰になってしまう可能性が捨てきれません。ここでも、「エビデンスに基づいた」栄養設計を重視し、維持期専用の栄養設計にすることを決めました。シニア犬を含む成犬は、一層安心して召し上がって頂けるごはんになっています。
特に栄養設計・年齢対応へのこだわりは動物病院の先生方から大変ご評価を頂いており、その結果フレッシュフードNo.1(※バディケア調べ)の全国600以上(※2023年5月時点)の動物病院と提携させて頂いています。フレッシュフードで、動物病院で紹介されるごはんはとても珍しく、私たちが誇れることの一つです。
Q. バディケアが最初にリリースしたバディフード事業ですが、バディケアが目指す「パーソナライズド・ヘルスケア」を実現するうえで、どのような役割を担っているのでしょうか?
ごはんは、健康管理・維持の上では非常に与える影響が大きいものだと考えています。それぞれの愛犬に対して適切なごはんを、という観点でバディフードの設計を行っています。
バディフードをご購入いただくうえで、無料フード診断を皆様に実施いただいています。ここでは最短1分ほど