株式会社 金乃竹が運営する箱根芦之湯温泉「松坂屋本店」は1662年(寛文2年)創業。江戸時代から温泉宿として360年続く老舗旅館です。
2023年3月、自慢の芦之湯温泉をさらに楽しんでいただくため大浴場の全面リニューアルを行いました。360年の歴史と箱根の大自然に溶け込む、木目調と陽光溢れる空間に生まれ変わり、多くのお客様にお楽しみいただいています。このストーリーでは、当館の女将を務める牧野文江が松坂屋本店リニューアルまでの軌跡を振り返りながら、今後の展望をお伝えします。
◆創業360年を超える箱根の老舗旅館「松坂屋本店」
松坂屋本店は1662年(寛文2年)創業、歌川広重の浮世絵にも描かれ江戸の世から温泉宿として続く老舗旅館です。木戸孝允と西郷隆盛の会見や獅子文六の逗留など、明治の英傑が参集。その後も皇室の方々をはじめ、多くの人々が訪れ続けています。
客室数は全22室、4,000坪の広大な敷地には趣の異なる6つの館に11の露天風呂付客室と5つの貸切風呂があります。芦之湯温泉は、泉質など保養に優れた温泉地が認定される国民保養温泉地に神奈川県下で唯一選ばれた温泉です。当館では、硫黄泉・硫酸塩泉・炭酸水素塩泉の三大美肌泉質をすべて含む効能豊かで稀有な泉質を、毎分200リットル湧き出る「湯の花」舞う100%源泉かけ流しで贅沢にお楽しみいただけます。
◆旅館と共に歩んだ人生の集大成として老舗旅館の女将へ。新しい女将の決意と挑戦
2017年に松坂屋本店は金乃竹リゾートが運営権を得て、グループの仲間入りをしました。そこで新たに松坂屋本店の女将に就任したのが牧野文江です。牧野は熱海にある旅館の娘として生まれ、旅館と共に人生を過ごしてきました。2000年には女将となり、そこから20年近く女将を務めてきましたが、旅館が100年の節目を迎えた2017年、「ここまで十分頑張った、ちょうどキリの良い時期だ」と感じ、旅館業及び女将からの卒業を決意します。
決意を固める最中、箱根にまもなく360周年を迎える旅館があり、運営者が変わり旅館運営を任せる女将を探しているという話を耳にします。その瞬間、100年という節目を言い訳に旅館業・女将業から逃げていたのではないか、360年の伝統ある新天地で新たなチャレンジをしたい!と高鳴る想いが込みあげてきたのです。
そして気づけば、金乃竹グループ代表窪澤との採用面談を受けていました。箱根で生まれ育った窪澤には、松坂屋本店の歴史や文化、従業員を守りたいという強い想いがありました。伝統を守りながら時代の潮流に乗り、松坂屋本店として次の500年へチャレンジしたい、この旅館には金乃竹グループにはない個性があるという窪澤の想いを聞いた牧野は胸を打たれます。窪澤がまるで我が子を育てるような表情で嬉しそうに旅館の未来を語るのを目の当たりにして、 松坂屋本店を次の500年へ向けて育てたい、女将業の集大成として新たなチャレンジをしたいという気持ちが高まり、松坂屋本店の女将になることを決意したのです。
◆コロナ禍で業績悪化。収益改善のための新たな取り組み
牧野が松坂屋本店に着任してから新しいチャレンジとして一番大きかったものは、外国籍スタッフと共に歩むことと、インバウンド旅行客に対するおもてなしでした。言語や作法、文化・風習・宗教も異なりそれ以外にも、日本人同士なら通用する「以心伝心」や「抽象的な表現」なども通じません。そのことでミスコミュニケーションは起き、お客様にもご迷惑をおかけしてしまった事もありました。外国籍スタッフとのコミュニケーションに悩んだ時期もありましたが、「自分が単身で海外のホテルで働いたら?」、「遠く本国で見守る彼らの両親の気持ちは?」と考える様になりそれからは、外国籍スタッフの立場と気持ちに寄り添った物事の考え方とコミュニケーションをする事ができる様になり、牧野と外国人スタッフ間で相互理解が深まり業務も円滑にまわる様になりました。
この様に、外国籍スタッフが英語や日本語で旅館のおもてなしを実践できるまでの道のりは大変なこともありますが様々な発見の連続でした。牧野自身、外国籍スタッフやインバウンド旅行客を通して新しい価値観で日本の伝統や歴史を学びそれをお客様へ伝えることができる様になりました。箱根は昔から、外国のお客様をお迎えし成長していった歴史があります。松坂屋本店も第二次大戦中にドイツ兵の受け入れをしていました。このような恵まれた環境の中で、松坂屋本店へ訪れたお客様から「fabulous!」「amazing!」とおっしゃっていただけることが、牧野とスタッフにとっての何よりの喜びです。
その後コロナ禍に突入し、お客様の減少や従業員のコロナ感染などもあり、休館及び部屋数を制限しての営業を余儀なくされました。宿泊者数はコロナ禍前の2019年対比で2021年が65%、2022年が72%と苦しい状況が続きました。
コロナ前は日常当たり前の様にお越しいただいたお客様が、コロナ禍では行動制限からある日突然いなくなりました。またスタッフが感染するなど休業を強いられる期間もあり、不安の日々が続きました。日々不安を感じつつも間もなく2022年に「創業360年を迎える松坂屋本店をここで終わらせるわけにはいかない。」という強い想いを持ち、まず初めに女将の牧野が、明るく元気に楽しく、前向き上向き外向きに振る舞い、今だからこそ出来るチャレンジをする事を心掛け率先垂範に努めました。するといつの日か周囲のスタッフも考え方と行動に変化が生じ、お客様が戻り館内が笑顔溢れる空間となる日々を強くイメージしながら皆でチャレンジできる内容を考え、結果、今あるオールインクルシブサービスなどが始まりました。
コロナが徐々に落ち着き行動制限が段階的に緩和されるにあたり、マイクロツーリズムの概念が生まれ、首都圏近郊からのお客様が少しずつ戻り始めました。また、入国制限の緩和・撤廃により海外からのお客様にも多く来ていただけるようになりました。
そこで、当館の自慢でありお客様に評価されてきた温泉をより多くのお客様にさらに楽しんでいただくため高付加価値化を図り、大浴場の全面リニューアルを行うことになったのです。
大浴場のリニューアルにあたりこだわったポイントは、360年の歴史を積み重ねた風格を残しこれからの時代の潮流に合う内容として、訪れるお客様が心身ともにお寛ぎいただける非日常空間とすることでした。空間全体を箱根の大自然に溶け込むかの様な木目調とし陽光溢れる空間としています。また、内湯から続く露天風呂も新設しています。
また脱衣所には貴重品ロッカーを備え、衛生面で履き物管理も必要と考え大浴場に来たゲストが自分の履き物を鍵付きのロッカーに収納ができる様にして、自分の履き物で大浴場に来て自分の履き物で部屋へ戻れる様にしています。これはインバウンド旅行客などにもお喜びいただいています。
◆インバウンド需要に対応し日本の魅力を伝え続けたい
アフターコロナでは入国規制撤廃や円安の影響から、海外からのお客様の予約が2019年対比で78%増加しています。2022年には日本在住の外国人選定員に「世界に発信したい“日本ならでは”の魅力にあふれている旅館」と認められ「OMOTENASHI Selection2022」で金賞を受賞しました。
訪日旅行需要の回復傾向にあるなかで、松坂屋本店のこれまでの歴史や外観・内観の雰囲気、料理などが海外からのお客様に受け入れられた結果だと感じています。貸切のお風呂やスタッフの外国語対応、アルコールを含めた飲食が無料というオールインクルーシブスタイルも外国人のお客様に喜ばれています。
海外からのお客様にとって「旅館」という宿泊文化は、日本文化を最も身近に体験できる場所だと思います。松坂屋本店は豊富な温泉、伝統的な和食、日本ならではの心に寄り添うおもてなしで、数々の感動を提供します。
今後はネイティブ多言語サイトを公開し、松坂屋本店の魅力をより多くの海外からのお客様へ伝えていきたいです。そして外国人観光客の招致を強化することで、地域経済の活性化にも貢献していきます。