エンタメ領域に特化した世界有数のベンチャーキャピタルGalaxy Interactiveは、web3事業に特化したDMMグループの子会社、DM2C Studioと戦略的パートナーシップを締結しました。
DM2C Studioは昨年、「Seamoon Protocol」というデジタル経済圏構想を掲げて3.4億円の資金調達を完了しました。 Seamoon Protocolでは今後、ゲームを中心に様々なエンターテインメントを提供していく予定です。(ホワイトペーパーはこちら)
初回ラウンドのリードインベスターとなったGalaxy Interactiveを代表するパートナーのRyan You氏、インベスターのDevin Maa氏に、今回の投資に至った背景やDM2C Studioの魅力についてお伺いしました。
ー お二人は、DM2C Studioへの投資でどのような役割を担っていましたか?
Ryan:私はGalaxy Interactiveにおけるゲーム領域の投資リードを務めています。DM2C Studioへの投資ではメインパートナーとして取引を担当し、一連のプロセスに積極的に関わりました。
Devin:ゲーム・コンテンツ分野への投資プロジェクトでRyanをサポートしています。DM2C Studioへの投資における役割は、デューデリジェンス、ゲームの先行プレイテスト、マーケット分析、ディール締結と多岐にわたります。
◆Galaxy Interactiveとは
ー Galaxy Interactiveは世界でも名だたるVCです。改めて会社のミッションとコンセプトを教えてください。
Ryan:Galaxy Interactiveのミッションは、没入感のあるバーチャルワールドの実現にあります。そのため、来たるバーチャル世界において人々の自己実現を可能にするプロジェクトが私達の投資の対象です。具体的な分野としては、コンテンツ、ソーシャルコマース、テクノロジーの3つです。
まず「コンテンツ」ですが、今後バーチャル世界と現実世界の統合が進む中で、ゲームはバーチャル世界の基盤になると考えています。また、web3を含む「ソーシャルコマース」はバーチャル世界と現実世界の経済的価値の架け橋になりますし、「テクノロジー」はバーチャル世界への没入体験を実現するために必要な要素となります。
ー Galaxy Interactiveの強みを教えてください。
Ryan:コンテンツ、ソーシャルコマース、テクノロジーの3分野に精通したグローバルな専門家がチームにいることが強みです。お互いの専門知識を持ち寄ることで、他の企業にはない相乗効果を生み出すことができます。
例えばゲーム会社に投資をする際には、AIエンジニアやweb3スペシャリストがそれらの技術の活用方法についてアドバイスをします。一方web3の会社には、web3技術の特性を最大限活かせるようなゲームデザインやコンテンツについてのノウハウを提供します。
ー 投資の際はどういった判断基準で意思決定をしていますか?
Ryan:投資先の選定基準としては、他社が簡単には真似できないユニークな特徴を持っているか、が一番に挙げられます。勿論、投資のためのチェックリストには他の項目や基準もありますが、その会社しか届けられない何かがあるかどうか、が最も重要です。ゲームに投資する際は、そのゲームがプレイヤーに特別な体験を与えられるか、を投資基準にしています。
また、我々の長期的なweb3へのビジョンを実現できるか、という点もあります。
web3は、将来的にはゲーム開発者とプレイヤーの双方に利益をもたらすポテンシャルがあると考えています。それがどのように実現するのかはまだ証明されていませんが、我々のこの仮説を実現してくれると期待できる企業へ投資を行っています。
◆DMMグループには、web3事業を成功させるための要素が揃っている
ー 昨年12月、Galaxy InteractiveはDM2C Studioと戦略的パートナーシップを結び、リードインベスターとして注目を集めました。DM2C Studioを知ったきっかけは何ですか?
Ryan:日本を代表するゲーム特化型ブロックチェーンのOasysと、私が投資責任者を務めた別のweb3会社からDM2C Studioを紹介されたのがきっかけです。昨年のGDC(Game Developers Conference:毎年アメリカで開催される世界最大級のゲーム開発者会議)でDM2C Studioチームと初めて顔合わせをしました。
ー 投資家として商談を重ねる中で感じた、DM2C Studioの魅力は何ですか?
Devin:まず魅力に感じたのは、DM2C Studioの親会社であるDMMグループの事業の多様性とその規模です。DMMグループは、web3と親和性の高いFXや暗号資産取引事業、そしてゲーム事業を成功させてきた歴史があります。これらの事業を統合してシナジーを生む土台があるというのは非常に魅力的でした。
さらに、DMMグループには IP・デジタルコンテンツ等のアセット、4,000万人以上の会員が参加する独自のエコシステムというユニークな武器もあり、マスアダプションを引き起こす大きな可能性があると感じました。
Ryan:また、グループ創業者である亀山会長ご自身がweb3の可能性を信じ、長期的な視野を持っているというのも大きな決め手でした。多くのweb3プロジェクトは、短期的な利益に囚われてしまいます。ですが、プロジェクトを成功させ、多くの人にサービスを届けるためには、様々な市場の変化に長く耐え続けることが必要です。
web3の本質的な価値を理解し、事業を長い目で育てていこうとしている亀山会長の元でなら、プロジェクトの成功も可能であると感じました。
ー DM2C Studioは、web3で新しいエンタメ体験を創造し、web2ユーザーにも届けようとしています。この試みについてはどうお考えですか。
Devin:DM2C Studioは現在多くのweb3プロジェクトが抱えている課題を解決し、成功できるのではないかと考えています。
web3ゲームについていえば、現在多くのプロジェクトが「なぜweb3でなくてはならないのか」という問いに答えられていません。web2でも実現できることに無理やりweb3を当てはめているのが現状です。また、短期で終了してしまうプロジェクトが多いことも事実です。
web3の価値は、コンポーザビリティ(異なる要素から新しいものを構築する能力)と、所有権の民主化にあります。現在のweb3ゲームの多くは、これらの要素を活かしきれていません。
コンポーザビリティを実現させるためには、コンテンツへの愛情・感情が鍵になります。この点において、DMMグループも得意とする日本のアニメ・ゲーム領域はとてもユニークです。アニメを例にとると、特定のキャラクターへの情熱と愛情を持ったユーザー達がコミュニティを形成し、それらのコミュニティ内では同人をはじめとした創作媒体のコラボレーションも盛んです。これは web3 の重要な要素であるコンポーザビリティを体現していると言えますし、web3によって更に強化されるものだと考えています。
同様に所有という文脈においても、キャラクターへの愛情を通して「心から所有したいと思えるか」という問いが重要になります。
一方で、現在のweb3コンテンツの多くは、愛情の有無ではなく利用価値があるか、金銭的価値があるかだけが注目されてしまいます。これは従来のゲームプレイヤーにとって魅力的には感じられないでしょう。ゲームの提供価値がアイテムの金銭的価値向上やうわべだけの所有権・交換可能性に留まる場合、投機的性質のみが重視され多くの人が興味を失ってしまいます。
そのような中で、DMMグループの持つゲーム・アニメ事業での知見やIP・コンテンツは、キャラクターに対する熱量の高いファン活動をグローバルに促進し、web2ゲームの純粋な楽しさをweb3全体に浸透させることに大きく寄与します。これは、多くのweb2ユーザーがweb3ゲームを始めるきっかけになると考えています。
◆Seamoon Protocolは日本発のハイレベルなweb3ゲームの第一波となる
ー 昨今のグローバルにおけるweb3市場、主にGameFi市場について、どうお考えですか?
Devin:web3が大衆化するかどうかは未だ証明されていません。試行錯誤を繰り返すことにより、web3が提供できるユニークな機能・価値は何なのか、そしてそれらを真に持続可能な形でゲーム等のコンテンツに組み込むにはどうすればいいのかを模索していく必要があります。
Ryan:拡大し続けられるweb3ゲームの構造を見つけなければいけないですね。
web2ゲームに限っては、世界的にもプレイヤー母数やゲームの供給数が右肩上がりに伸びています。しかし、ゲーム関連の株式は最近伸び悩んでいて、実体経済と金融市場の乖離が課題となっています。これが要因で投資家がゲーム業界に参入せず、当領域での資金調達が困難になっています。投資家が短期的な経済性のみにフォーカスしてゲーム業界への投資を避けてしまっては、業界の成長が鈍化します。
web3においても同様です。トークンの価格が上がればトークンホルダーが一時的に喜ぶかもしれませんが、長期的な価値の創造に焦点をあてる必要があります。
ー 日本に拠点を置いていることは、DM2C Studioにとって有利に働きますか?
Devin:日本には、政府や大手企業が主導するトップダウンのイノベーション文化があり、ユーザーもこれに順応しています。特に日本政府がweb3や暗号通貨に関する規制緩和を進めている現状は、DM2C Studioにとって大きな追い風になるでしょう。
さらに、2024年にはSeamoon Protocolからリリースされるゲームを筆頭に、日本の名だたる開発者からのweb3ゲームのリリースが予定されています。このハイレベルな web3 ゲームリリースの波も、DM2C Studioにプラスに働くはずです。
また、日本のアニメ・ゲームコンテンツに対する世界的な人気は年々高まるばかりです。DM2C Studioのグローバル競合力の強さは、日本のIPを利用したweb3プロダクトを世界へ届けるために必要なコンテンツ力とビジネススケールの両方を兼ね備えていることです。
ー web3が今後のエンタメ市場に与える影響や今後の展望について、何か思い描いている未来はありますか?
Ryan:トークンエコノミーの導入は、従来の金融市場に加えて、ゲームの実体経済を評価する別の方法を提供できると考えています。適切な仕組みが整えば、ゲームの潜在的経済力を推し量ることしかできない従来の経済指標と比較して、トークンはゲームの実体経済をより直接的に評価することができます。
また我々は、ゲームが発展していくと、やがて今より一層没入感のあるバーチャルワールドに進化すると考えていますが、web3ゲームはこの発展を押し進めると思います。
バーチャルワールドには「経済圏」と「各アイテムの所有権を明確にするプロトコル」が不可欠ですが、web3はまさにこれらの要素をゲームに取り入れていくからです。
バーチャルワールドの到来は、ゲームがプレイヤーに楽しく魅力的な体験を提供できるという前提に基づいています。現段階のweb3ゲームの多くは、プレイヤーの体験を損ねたり、投機的なユーザーのみをターゲットにしています。DM2C Studioのような業界を引っ張っていくプレイヤーが、将来的に理想的なweb3ゲームモデルを見つけ出すことを期待します。
Devin:web3がエンタメに及ぼすもう1つのインパクトは、コミュニティを強化し、ファンからの応援をダイレクトに報酬として還元できるということです。web3プロジェクトの多くが、マーケティング手法としてNFT配布やエアドロップをリリース前に行い、コミュニティに参加してくれたお礼としてトークンを配布しています。今までのマーケティングでは、一部のインフルエンサーにのみ報酬が支払われていましたが、web3ではコミュニティメンバー全員に還元することも可能なのです。
ー 最後に、今後のDM2C Studioの可能性、そして戦略的パートナーシップの展望について教えてください。
Ryan: DMMグループには、web3事業を行う上で強い武器となる要素が多数揃っています。熱狂的なファンコミュニティを抱えるコンテンツや、金融業をはじめとした様々な事業の成功体験、さらにはweb3事業を成功させるという強い意志があります。これらを活用すれば、DM2C Studioは世界のweb3市場で成功を収められるでしょう。
今後のパートナーシップの展開ですが、弊社のグローバルネットワークをフル活用し、世界規模でDM2C Studioの存在感を高めていきます。DMMグループのブランド、そしてコンテンツプラットフォームの強みを海外の投資家や提携先に浸透させます。
また、web3ゲームと従来のゲームの両方の観点から、日本市場は我々の投資戦略において非常に重要です。DM2C Studioのような優秀な現地パートナーと協力し、最先端のコンテンツと体験を創造していきます。
Devin:DMMグループは、過去数十年にわたる様々な事業の成功経験によって裏打ちされた、ユニークで革新的な会社です。自社保有のIP・コンテンツはweb3の核となる要素との親和性が非常に高く、市場参入戦略、エンゲージメント、コミュニティに関する独自のノウハウを持っています。我々Galaxy Interactiveはこのパートナーシップに大きな期待を寄せており、DM2C Studioのエコシステムに長期的な付加価値をもたらすことができるよう、密に