リアルタイム会話を実現したAI「LLaMA-Omni」中国科学院の研究者たちが開発ーーAI関連海外スタートアップまとめ(9月9~13日)

TechDaily は筆者が毎日実施しているテックニュースの斜め読みをまとめたもの。グローバルで気になる資金調達、テックトレンド、スタートアップニュースをまとめて共有する。しばらく不定期更新でお送りします。

Crunchbaseの調べによると、8月には、新興企業8社がユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場企業)の仲間入りを果たし、合計で250億ドルの価値をunicorn boardに追加したそうだ。Huawei Technologiesのスマートカー子会社Yinwang Smart Technologyが160億ドルの評価額を獲得したのを筆頭に、Story Protocol、Codeium、Ather Energyなど、交通、Web3、コーディング支援、電気自動車といった多岐にわたる分野の企業が10億ドル以上の評価を受けた。

興味深いのはこのうち、Codeium(AIコーディング)Agrovision(農業系AI)DevRev(AIカスタマーサポート)EliseAI(不動産系AIコミュニケーション)と実に半数がAI銘柄を謡っている点だ。

今、グローバルのテックトレンドをAIがけん引していることは疑いの余地がない。そこで、このグローバルの調達についてもしばらくはAIを中心に情報を共有することにした。

先週も複数のAI企業が新たな資金調達を次々と発表している。AI翻訳プラットフォームのSmartcatが4300万ドル、AI駆動の会計・財務サービスを提供するFinallyが5000万ドル、財務リスク管理プラットフォームのDatricksが1500万ドルの資金調達に成功した。さらに、B2Bマーケティング向けのAI駆動型プラットフォームAudiencePlusが700万ドル、AIを活用したマーケティングプラットフォームを開発するLandbaseが1250万ドルの資金調達を完了するなど、AI関連企業への投資が途切れることなく続いている。

これらの企業は、自然言語処理、機械翻訳、ビジネスインテリジェンス、データ分析、マーケティング自動化など、幅広い分野でAI技術を応用し、企業の業務効率化や意思決定支援に貢献することが期待されている。また、CybeverやVerseのようなAIを活用したクリエイティブツールの登場も、コンテンツ制作やゲーム開発の分野に新たな可能性をもたらしている。

では先週目に留まった11社の動向について、領域別に整理したので概要をおさらいしてみたい。

自然言語処理 (NLP) と機械翻訳の分野で、SmartcatとLLaMA-Omniが進展を見せている。

AI駆動の翻訳プラットフォームを提供するSmartcatは、企業の多様な翻訳ニーズに応えている。大規模言語モデル(LLM)を駆使し、高品質な翻訳を実現するこのプラットフォームは、AI翻訳と人間の編集を組み合わせたハイブリッドアプローチを採用している。効率性を高めつつ翻訳品質を維持するこの手法により、約280言語をサポートする多言語対応を実現している。最近、Smartcatは4300万ドルのシリーズC資金調達を完了した。Left Lane Capitalが主導したこの資金は、プラットフォームの更なる発展と事業拡大に投じられる予定だ。

目を引いたのはこのリアルタイム会話の生成AIだ。

中国科学院の研究者たちが開発したLLaMA-Omniは、音声AI技術の新たな可能性を示している。MetaのオープンソースLlama 3.1 8Bモデルを基盤とするこのシステムは、リアルタイムの音声対話を可能にした。実際のデモ音声は報じているVentureBeatの記事にあるので確認してもらいたいが、特に注目したいのが「反応速度」にある。人間の会話速度に匹敵する226ミリ秒という低遅延を実現したこの技術は、カスタマーサービスやヘルスケアなど、様々な産業分野での応用が検討されているという。

筆者がかつて、ロボットとの音声会話に挑戦した国内スタートアップをいくつか取材した際、彼らが口をそろえて語っていたのがこのレスポンス速度だった。実は、会話はその回答そのものの内容よりも、どう返してくれるかという部分で人間らしさが決まってくる。相槌やオウム返しもその一つで、そのタイミングひとつで人は「人と会話している感じ」を得られるのだという。

音声指示を処理し、テキストと音声の両方で同時に応答を生成できる点も特徴的で、実用化が期待される。

ビジネスインテリジェンスとデータ分析の領域では、複数の企業が新たなAIソリューションを開発し、資金調達に成功している。

Finallyは5000万ドルのシリーズB資金調達と1億5000万ドルのクレジットラインを獲得した。中小企業向けにAI駆動の会計・財務サービスを展開する同社は、帳簿管理、会計、財務サービスを統合したプラットフォームを通じて、企業の財務管理を効率化している。

AIを活用した経費管理、法人カードの提供、給与処理など、多様な機能を特徴とするFinallyは、最近、AI駆動の元帳とビジネスバンキング機能も追加した。この高度なAI元帳は、取引の自動分類や財務報告の生成能力を持ち、さらにリアルタイムの現金流予測やAIを用いた予算策定支援機能も備えている。

Datricksは1500万ドルのシリーズA資金調達を完了した。AIを活用した財務リスク管理と法令遵守のプラットフォームを開発する同社は、「リスクマイニング」と呼ばれる独自のAI技術を使用し、企業の財務ワークフローを自動分析する。SAP、Oracle、Salesforceなど主要ビジネスシステム全体で財務フローを分析し、不正や法令違反のパターンをリアルタイムで検出するこのシステムは、自律的プロセス発見、完全性露出検出、完全性インテリジェンスという3つの主要コンポーネントで構成されている。

DigitalExは企業のAI支出を追跡・最適化するプラットフォームを提供している。AWS Bedrock、Azure OpenAI、OpenAI、Groqなど、複数のLLMプラットフォームにわたる支出を一元的に可視化するこのソリューションは、AIプロジェクトごとのコスト配分やAIへの投資対効果の分析機能を備えている。

企業独自のAIモデル微調整もサポートするDigitalExは、詳細なコスト割り当て、予測、異常検出、コストパフォーマンスのトレードオフ分析など、幅広い機能を提供している。さらに、リクエスト単位、トークン単位、モデル単位のコストなど、ユニットエコノミクスの詳細な分析も可能にしている。

StampliはAI駆動の購買発注(PO)マッチング自動化ソリューションを発表した。「Cognitive AI」と名付けられたこのツールは、複雑な企業財務プロセスを模倣し、97%という高い成功率でPOマッチングを自動化する。大規模言語モデル(LLM)と構造化されたビジネスロジックを組み合わせ、経験豊富なAP専門家の複雑な推論と意思決定能力を再現するこのソリューションは、Oracle NetSuite、Sage Intacct、SAPなど主要な財務システムのアドオンを実現している。さらに、請求書を中心としたランディングページを作成し、すべての会話、文書、承認を一箇所で管理する機能を提供することで、従来は断片化していた支払いプロセスを簡素化している。

マーケティングとカスタマーエンゲージメントAIの分野では、AudiencePlus、Landbaseが新たなソリューションを開発している。

B2Bマーケティング向けのAI駆動型オーディエンスエンゲージメントプラットフォームを提供するAudiencePlusは、700万ドルのシード資金調達を完了した。企業の自社ウェブサイトをコンテンツ配信チャネルとして活用可能にするこのプラットフォームは、ブランドが自社のデジタル資産を使ってオーディエンスとの長期的な関係を構築できる点が特徴だ。

ファーストパーティデータの収集と活用に焦点を当て、オーディエンスターゲティングとコンテンツ最適化を実現するAudiencePlusは、AIを使ってコンテンツ作成の効率化、アウトリーチの最適化、オーディエンス理解の向上も図っている。

Landbaseは1250万ドルのシード資金調達を完了し、AIを活用した新たなマーケティングプラットフォームを発表した。「エージェンティックAI」と呼ばれるアプローチを採用するLandbaseのプラットフォームは、GTM-1 Omniと名付けられたAIモデルを中核に据えている。このモデルは、パフォーマンスフィードバックに基づいて行動を起こし、マーケティングと営業の成果を向上させる。

企業の固有データを含む独自の知識グラフを活用する点がLandbaseの特徴で、これにより公開データのみで訓練されたモデルよりも、より正確な予測と推奨が可能となっている。さらに、データサイロの解消と意思決定プロセスの統合を目指すLandbaseのプラットフォームは、オールインワンのワークフローツールとしても機能する。

クリエイティブAIとコンテンツ生成の分野では、VerseとCybever、Xsollaが新たなプラットフォームを開発している。

Z世代ユーザーを主なターゲットとする新しいAI駆動型クリエイティブアプリ、Verseがリリースされた。表現力豊かなコンテンツの設計と公開を支援するこのアプリは、AIアシスタントの支援を受けながら、インタラクティブなキャンバス上でマルチメディアコンテンツを作成できる点が特徴だ。ユーザーは、ムードボード、グリーティングカード、招待状、ストアフロント、ファンページ、ブログなど、さまざまな目的のためのミニウェブサイト(Verseと呼ばれる)を作成可能。

写真、ステッカー、ビデオ、リンク、GIF、テキスト、背景、楽曲など多様な要素を組み合わせられるVerseのプラットフォームは、Verse内に別のVerseをリンクする機能も備えている。さらに、コンテンツクリエイターやインフルエンサーがリンク・イン・バイオ形式でオーディエンスとつながり、情報を共有するための方法も提供している。

Xsollaはゲーム業界向けのAI駆動型ツールスイートを発表した。ゲーム開発者の効率的な収益化とグローバル市場展開を支援するXsollaの新ツールには、Instant Game Sales、Instant Launcher、Instant Cloud Gamingが含まれており、これらはゲームの直接販売と配信を数時間以内に可能にする。

さらに、Xsollaは複数のクラウドプラットフォームにわたるゲーム開発のためのバックエンドソリューションも提供している。クロスプラットフォーム開発とクロスプレイ機能をサポートし、開発プロセスの効率化を図るこのソリューションに加え、Xsollaは最近、モバイルゲーム向けのSDKも発表し、アプリ内決済の合理化とアプリストア外の代替配信をサポートしている。

CybeverはAI駆動の3D世界作成プラットフォームのベータ版をリリースした。3Dコンテンツ開発のプロセスを効率化し、クリエイターや開発者がより簡単に3D世界を構築できるようにすることを目指すこのプラットフォームは、AIを活用してレイアウト、マップ、地形をスケッチや文章説明から生成し、町や森などの要素を自動的に配置する。

マーケットプレイスから3Dアセットを取得し、3Dシーンに統合する機能も備えたCybeverのプラットフォームは、スケッチから3Dプレビューの生成、高度なシーン生成、アセットの多様性、天候効果、地形と環境の編集、拡張ユーザーエクスペリエンスツールなど、多様な機能を提供している。また、Cybeverはライセンスされたアセットの使用を確保するため、3Dアセットマーケットプレイスと提携しており、倫理的なAI実践にも取り組んでいる。

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