PLGモデルで躍進、日程調整プラットフォーム「Jicoo」がエンプラ市場参入を本格化

Image credit: Jicoo

元スペースマーケットの鈴木真一郎氏らが、2020年に立ち上げた日程調整プラットフォーム「Jicoo(ジクー)」が、エンタープライズ市場参入を本格化させている。2021年12月の前回取材当時には、Jicoo は個人事業主やスタートアップ向けにフォーカスした。あれから約2年間、日本のビジネス環境はコロナ禍を経て大きく変化し、企業の DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が加速。そんな中、Jicoo は独自戦略で成長している。

エンタープライズ市場への進出

BRIDGE とのインタビューで、Jicoo CEO の鈴木氏は、エンタープライズ市場への進出について次のように語った。

かつて、スタートアップでのトレンドだった日程調整ツールが、コモディティ化してエンタープライズにも導入されるような流れがあります。そんな中で、我々も急成長している状況です。

鈴木真一郎氏

実際、Jicoo はリクルートの関連会社やトヨタモビリティ東京をはじめ、日本を代表する企業での導入実績が増えている。この背景には、企業内の DX 推進の一環として、日程調整ツールを BtoB の Web マーケティングに活用する動きがあるという。従来、個別に行われていた日程調整作業を自動化することで、営業担当者の業務効率化と顧客対応の迅速化を同時に実現できるからだ。

Jicoo カスタマーサクセス担当の庄司智氏は、エンタープライズ市場でのニーズについて次のように分析する。

日程調整ツールを使うことで、問い合わせがあった際の調整業務を自動化でき、効率よく商談の設定ができます。また、調整業務が不要になることで、事前リサーチや商談自体に集中できるため、生産性向上の観点でも導入を検討する企業が増えています。

庄司智氏

さらに、受付が24時間365日対応が可能になることで、営業時間外の問い合わせにも即座に対応できるようになり、リードの温度感を維持したまま商談を設定できるメリットもある。これは特にグローバルに事業を展開する企業や、新規顧客の獲得に力を入れている企業にとって大きな魅力となっているという。

Jicoo の成長は数字にも表れている。現在の利用チーム数は3万3,000で、累計の受付予約数は79万件に達している。鈴木氏は「前年比で2倍ぐらいの成長速度」と表現し、拡大が急速に進んでいることを強調した。この成長率は、利用チーム数や予約数、売上高など、複数の指標で見られるという。

この成長の背景には、日本の DX 市場の拡大がある。富士キメラ総研のデータによれば、日本の DX 市場の規模は2023年度見込で4兆197億円だったのが、2030年度予測で8兆350億円にまで拡大する見通しだ。庄司氏によれば、日程調整ツールは、手軽に導入できるDXソリューションとして位置付けられており、口コミでの広がりも相まって普及が進んでいるという。

特に注目すべきは、大企業での採用が増えていることだ。従来、大企業ではセキュリティの観点から新しいツールの導入に慎重な傾向があったが、Jicoo のセキュリティ対策や使いやすさが評価され、導入のハードルが下がっているようだ。

Jicoo の強み

Jicoo が他の日程調整ツールと異なる点として、機能の豊富さとデザイン性が挙げられる。例えば、担当者自動割り当て機能では、優先度の指定や複数名の同時割り当てが可能だ。こうした機能により、チーム内での業務分担が効率化され、顧客対応のスピードアップにつながっている。

また、API の提供により、既存システムとの連携も容易になっている。この点は特に大企業にとって重要で、既存の顧客管理システムやカレンダーシステムとシームレスに連携できることが、導入の決め手となっているケースも多いという。

デザイン面では、2023年にグッドデザイン賞を受賞。日程調整ツールとしては初の受賞となった。直感的で使いやすい UI は、ユーザからの高い評価を得ており、社内での普及を後押ししている要因の一つだ。

Image credit: Jicoo

エンタープライズ市場向けには、セキュリティ面での対応も強化している。ISMS の取得や、IP 制限、アクティビティログなどの管理機能の提供により、企業のセキュリティ要件にも対応できるようになっている。これらの機能は、情報セキュリティに厳しい金融機関や医療機関などでの導入を可能にしている。

Jicoo は今後、単なる日程調整ツールからミーティング分野のプラットフォームへと進化を目指している。

顧客管理ができるCRM機能を提供し、顧客単位での議事録やメッセージ機能を充実させていく予定です。チーム単位のサービスから、全社で利用できるサービスへと進化させていきます。(鈴木氏)

この展開は、Jicoo が単なるツールからビジネスプロセス全体を効率化するプラットフォームへと進化することを意味する。顧客とのコミュニケーション履歴や商談内容を一元管理することで、営業活動の質を向上させることができる。

また、AI 機能の強化も計画している。現在提供しているチャット形式の日程調整・スケジュール改善相談機能に加え、メッセージの自動作成やメール情報からのスケジュール自動登録、音声による操作などの機能を開発中だという。これらの AI 機能は、ユーザの作業負荷をさらに軽減し、より戦略的な業務に時間を割くことを可能にする。

Jicoo の特徴的な点は、そのビジネスモデルにもある。

我々はエクイティで調達しているわけではなく、純粋に PLG(Product-Led Growth)モデルで、プロダクトを磨き上げて頑張っています。そこでエンタープライズにも導入されているのは、日本国内では珍しいパターンだと思います。かなりスモールチームでやっている割には大きくなってきています。(鈴木氏)

このアプローチは、製品の品質と顧客満足度を重視し、そこから生まれる口コミと紹介で成長を遂げるというものだ。実際、Jicoo はインサイドセールスに頼らず、主にオンラインマーケティングでユーザを獲得している。さらに、カスタマーサポートも AI が一次対応を行うなど、効率的な運営を実現し、少人数のチームで大規模な顧客基盤を支えることが可能になっているという。

一方、日程調整ツール業界における Jicoo のポジションについて、庄司氏は次のように分析する。

ITreview のデータによると、Jicoo は満足度で4.7という最高位を獲得しています。認知度では他社が強い部分もありますが、機能性などの点で Jicoo が最も評価されている状況です。ユーザからのフィードバックを積極的に取り入れ、継続的に機能改善を行っていることが、満足度の高さにつながっていると思います。

エンタープライズ参入本格化に向けて

「Jicoo AI」
Image credit: Jicoo

Jicoo が今後取り組む課題として、全社的な導入を促進するためのエンタープライズプランの拡充が挙げられる。ある部署が使っているのが社内で広まり、他の部署に波及して、全社導入に至るケースが増えているそうだ。この動きに対応するため、Jicoo では部門横断的な利用を促進する機能や、大規模組織向けの管理機能の強化を進めている。

例えば、部門ごとのカスタマイズや権限設定、統計データの提供などが検討されている。また、セキュリティ面での要件にも対応するため、IP 制限や行動履歴の長期保存など、エンタープライズ向けの機能強化も進めている。これらの機能は、特に規制の厳しい業界や大企業からの要望が強く、導入の際の重要な判断基準となっている。

さらに、ミーティングプラットフォームとしての進化を目指す中で、議事録データの取り込みや集約など、ミドルウェア的な役割も担っていく方針だ。Jicoo では、単なる日程調整ツールから、ビジネスコミュニケーション全体を効率化するプラットフォームへと発展することを目指している。

Jicoo は、日程調整ツールから出発し、エンタープライズ市場に進出、さらにはミーティングプラットフォームへと進化を遂げようとしている。鈴木氏が掲げる「予約領域で『決済における Stripe』のようにインフラとなり、個人の時間の効率化、ネット予約ビジネス全体の利用を押し上げていくプラットフォームにしていく」というビジョン実現に向けて、Jicoo の今後の展開が注目される。

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