日本と台湾のスタートアップエコシステムの連携強化に向けた取り組みが加速している。17日に東京都内で開幕した「日本・台湾イノベーションサミット2024」の冒頭、「未来を切り開く:台湾と日本における市場と投資のトレンド」と題されたパネルディスカッションでは、台湾の主要投資家や証券取引所幹部らが登壇し、日台のスタートアップ協力の現状と展望について熱のこもった議論を交わした。
このセッションに登壇したパネリストは、
Ryan Kuo(郭大経)氏 | President, CDIB Capital Innovation Advisors (中華開発資本・開発創新管理顧問 総経理) |
Kay Lin(林桂光)氏 | Managing Partner, Darwin Venture Management (達盈管理 合夥人暨総経理) |
Hui-Chuan TU 氏 | SEVP, Taiwan Stock Exchange (台湾証券交易所 資深執行副総経理) |
David Weng(翁嘉盛)氏 | CEO, Taiwania Capital (台杉投資 総経理) |
モデレータは、Startup Island TAIWAN のマネージングディレクター Amanda Liu(劉宥彤)氏が務めた。
パネルディスカッションの冒頭、Liu 氏は「スタートアップの道のりは、簡単なものではない」として、参加者にスタートアップへの拍手を求めた後、まず、CDIB の Kuo 氏への質問から始めた。
台湾から日本に進出した企業にのみ投資されているのか、それとも日本の企業にも投資されているのですか。
台湾を代表する金融グループである CDIB は昨年、東京・市ヶ谷にアクセラレータ(CCIA)の Tokyo Innovation Hub を開設するなど、日本のスタートアップシーンとの関わりを急速に深めつつある。Kuo 氏は、同社が今年設立した新たな日台ファンドについて言及し、その戦略的意義を強調した。
以前は主に台湾と他国への投資が中心でしたが、昨年から日本に新拠点を設け、アクセラレータプログラムも立ち上げました。新ファンドは、投資を通じて台湾と日本のスタートアップを結びつけ、より大きなエコシステムを作ることを目指しています。この取り組みが単なる資金提供にとどまらず、日台のスタートアップ間の実質的な協力関係構築につながることを期待しています。
Kuo 氏はまた、台湾と日本のスタートアップシーンの類似点と相違点について詳細な分析を展開し、この違いを活かした相互補完的な関係構築の可能性を示唆した。
台湾のスタートアップは主にソフトウェアやテクノロジーサービスが中心で、市場規模の制約から海外展開が課題です。一方、日本のスタートアップは国内市場が大きいため海外展開の必要性は低いが、いざ海外に出る際には、台湾が持っている経験が生きてくるでしょう。また、資金調達、人材確保、規制対応など、日台のスタートアップが抱える問題は似通っている部分が多いと思います。
また、Darwin Ventures の Lin 氏は、同社の日本企業への投資実績を具体的に紹介しながら、日台のスタートアップ協力の現状と将来性について語った。
2018年から日本での投資を開始し、2023年以降は7つの日本のチームに投資しています。日本の製造業や、材料分野における深い研究開発力に注目しています。日本の大学発ベンチャーに投資し、台湾の半導体サプライチェーンに紹介したことで、短期間で大きな商業的成長を遂げた事例があります。これは、日本の技術力と台湾の市場アクセス力を組み合わせることで生まれたものです。
Lin 氏は続けて、日本の大学発ベンチャー、とりわけ、ディープテック分野への投資に対する見解を述べた。
日本には世界レベルの研究開発能力があり、特にハードウェアや材料科学の分野で優れた技術を持つスタートアップが多い。これらの技術と台湾の製造能力、さらにはグローバルな販売ネットワークを組み合わせることで、大きな価値を生み出せる可能性があると思います。日台の強みを組み合わせたグローバル展開の可能性に期待したいと思います。
台湾証券取引所の TU 氏は、日本企業の台湾市場上場への期待を表明し、台湾資本市場の魅力を詳細に説明した
台湾の資本市場は投資家にも企業にも非常にフレンドリーな環境です。2021年に開設した「イノベーションボード(創新板、東証におけるグロース市場のようなもの)」は、当初はあまり期待されていませんでしたが、産官学の協力により、現在までに28社が申請し、19社が正式に上場しています。年末までに、上場社は20社以上になる見込みです。
TU 氏は続けて、台湾市場の魅力について解説した。
コーポレートガバナンスを重視しており、PER も魅力的な水準にあります。また、取引も活発で、投資家にとって魅力的な市場となっています。本来、自社の産業特性に合わせて上場先を選ぶべきだが、台湾市場は人材・資金・技術を結びつける補完的な役割を果たせると思います。日本のスタートアップが台湾で上場することにも期待したいと思います。
日本企業にもたらす具体的なメリットについてですが、台湾市場は、アジア地域への事業展開を目指す日本企業にとって、重要な足がかりとなる可能性があります。台湾の投資家は、アジア市場に対する深い理解と豊富なネットワークを持っており、これらを活用することで、日本企業のアジア展開を加速できるでしょう。単なる資金調達の場にとどまらない、戦略的価値を持っているわけです。
Taiwania Capital は8月、日本のアクシル・キャピタルと共同で、TaiAx Life Science Fund という2億米ドルファンドを組成した。このファンドは、バイオテクノロジー、製薬など医療健康分野への投資に特化していて、台湾の行政院国家発展基金、みずほ証券、Mega International Commercial Bank(兆豊国際商業銀行)などが出資した。
Taiwania Capital の Weng 氏は、日本企業との協業の具体例を挙げながら、今後の展望を多角的に語った。
最近、日本の金融機関が我々の東南アジア経済ファンドに興味を示していて、日本の機関投資家との連携の可能性も考えられます。台湾と日本は補完性が高く、技術とスタートアップを結び付け、資金を組み合わせれば、世界展開を加速できます。日本の創業投資会社と台湾の投資家がアメリカ企業に共同投資し、投資先の技術を日本の製薬会社にライセンス供与するような事例が考えられます。
半導体分野では、台湾の半導体製造能力と日本の材料技術を組み合わせることで、次世代半導体の開発・生産で世界をリードできる可能性があるでしょう。すでにいくつかの共同プロジェクトが進行中ですが、今後はさらに深い協力関係を築いていきたい思います。
パネリストらの発言からは、台湾と日本のスタートアップエコシステムの連携が、資金提供や技術移転にとどまらず、双方の強みを生かしたグローバル展開や新たな価値創造につながる多様な可能性が示唆された。特に、台湾の国際展開の経験と日本の技術力・研究開発力の組み合わせは、日台のスタートアップにとって大きな機会となりそうだ。
一方で、言語や文化の違い、規制環境の差異など、日台の協力を進める上での課題も浮き彫りとなった。これらの障壁を乗り越え、実際のビジネス成果につなげていくためには、今回のようなサミットを通じた継続的な対話と、具体的なプロジェクトの積み重ねが重要になるだろう。特に、スタートアップ支援策の情報交換や、日台規制当局間の連携など、エコシステムレベルでの協力も求められる。
言語の壁については、Lin 氏が「AI 技術の発展により、リアルタイム翻訳の精度が飛躍的に向上している。これらの技術を積極的に活用することで、日本語と中国語間のコミュニケーションをより円滑にできるのではないでしょうか。」と述べ、テクノロジーを活用した課題解決の可能性を示唆した。
規制環境の違いについては、TU 氏が「日台の規制当局間で定期的な対話の場を設けることが重要です。特に、フィンテックやヘルステックなど、規制の影響を受けやすい分野では、早い段階から日台の規制当局が協力することで、スタートアップにとってより予測可能な環境を作れるのではないでしょうか。」と応じた。
モデレータを務めた Liu 氏はパネルディスカッションの最後に、日本・台湾イノベーションサミットのスローガン「Together, Go Big(共に大きくなろう)」を掲げ、日台のスタートアップコミュニティに向けてメッセージを送った。
交流は理解の第一歩であり、将来の協力はより大きな価値を生み出すでしょう。このサミットを単なるイベントで終わらせるのではなく、具体的な協力プロジェクトにつなげていくことも重要です。今回の議論を踏まえ、日台のスタートアップ、投資家、支援機関が協力して、具体的なアクションプランを策定していくことが次のステップとなるでしょう。
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