ペーパーレスからスマートエネルギーまで、台湾「NEXT BIG」スタートアップが挑む日本のESG市場

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本稿は、「Startup Island TAIWAN」による寄稿転載「台湾特集2024」の一部。Startup Island TAIWANは、9月17日から東京で「日本・台湾イノベーションサミット」を開催した。

日本は、世界的な圧力と国内規制の変化により、環境・社会・ガバナンス(ESG)ソリューションの優先順位を高めている。日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを約束し、パリ協定によって設定された世界的な気候変動目標に歩調を合わせている。世界有数の経済大国である日本は、2021年に12億トンを占めた温室効果ガス排出量を大幅に削減しなければならない。

東京証券取引所は2022年に上場企業に対する ESG 開示要件を導入し、持続可能なビジネス慣行への需要をさらに高めている。日本は2021年現在、エネルギーの90%近くを化石燃料に依存していた。日本のエネルギー転換の課題は、再生可能エネルギー、エネルギー効率、廃棄物管理における革新的ソリューションの重要な必要性を生み出している。

このような規制の枠組みや市場原理が整備されたことで、先進的な ESG ソリューションの採用に対する日本企業の関心が高まっている。ESG イノベーション、特にグリーンテクノロジーやソーシャルガバナンスといった分野に注力するスタートアップは、日本企業にとって不可欠なパートナーとなりつつある。さらに、日本では持続可能性に関する消費者の意識も高まっており、調査によると日本の消費者の60%以上が、購買の意思決定をする際に ESG 要素を考慮している。

AI を活用したワークフローとデータソリューションを提供する Kdan Mobile(凱鈿行動)と、IoT エネルギーソリューションを提供する NextDrive(聯斉科技)という台湾の NEXT BIG スタートアップ2社は、日本にオフィスを構え市場を拡大している。

オフィスのワークフローをペーパーレス化する Kdan Mobile(凱鈿行動)

Kdan Mobile 創業者兼 CEO Kenny Su(蘇柏州)氏
Image credit: Kdan Mobile(凱鈿行動)

Kdan Moble は2009年に設立された台湾の SaaS スタートアップで、国際的な存在感のある台湾有数のソフトウェア・サービスプロバイダに成長した。生産性とコンテンツ作成ツールに特化した Kdan Mobile は、戦略的投資とパートナーシップのおかげで、世界的な足跡をさらに拡大する態勢を整えている。全世界で1,200万人以上のユーザと2億件のダウンロード数を誇る Kdan Mobile は、リモートワークと生産性を促進するクラウドベースのサービスに重点を置き、デジタル変革に不可欠なツールを企業に提供している。

Kdan Mobile は、モバイルアプリ時代の初期にクラウドベースのサービスの可能性を見出した Kenny Su(蘇柏州)氏によって設立された。彼は当初、母親の台所で個人消費者向けのアプリを開発していたが、やがて需要が企業向けソリューションにシフトしていることに気づいた。このシフトにより、Kdan は3つのコア製品——デジタル・コンテンツ作成の「Creativity 365」、PDF ソリューションの「Document 365」、電子署名サービスの「DottedSign」——に集中することになった。

2021年、Kdan Mobile は Dattoz Partners、Taiwania Capital(台杉資本)、三菱 UFJ キャピタルがリードしたシリーズ B ラウンドで1,600万米ドルを調達した。これらの戦略的投資家により、同社は米国やアジアを含む主要市場での地位を強化している。Su 氏は、近いうちに株式公開する意欲を表明している。

Kdan Mobile は当初、個人ユーザを対象としていたが、その後、企業顧客に重点を移している。同社で最も人気のあるソリューションのひとつがクラウドベースの電子署名サービス「DottedSign」である。DottedSign は、リモートワークや電子署名ソリューションのニーズが急増しているアフターコロナの時代において、特に重要な役割を担っている。

Kdan Mobile とマイクロソフトの協業により、DottedSign は2億7,000万人以上のアクティブユーザを持つ「Microsoft Teams」に連携され、その利用範囲も拡大した。この提携により、Kdan は企業ユーザにシームレスな体験を提供しながら、グローバル市場をより効果的に開拓することができる。Microsoft Dynamics 365 との連携により、DottedSign の機能(特に顧客関係管理)がさらに強化されることが期待される。

グローバル展開と国境を越えたコラボレーション

「DottedSign」
Image credit: Kdan Mobile(凱鈿行動)

Kdan Mobile の成功は、当初からグローバルな考え方に基づいている。台湾、アメリカ、日本、ヨーロッパの各地にチームメンバーがいるため、Kdan はさまざまな地域のニーズに製品を適応させることができる。韓国の Hancom Group や日本の LINE といった企業との提携は、国境を越えた成長へのコミットメントを浮き彫りにしている。これらの提携により、Kdan はサービスをローカライズすることができ、日本や韓国の企業が同社のソリューションを採用しやすくなった。

Kdan Mobile が拡大を続ける中、企業レベルの SaaSソ リューションへの需要が高まっている日本市場にも照準を合わせている。海外投資家や戦略的パートナーの支援を受け、Kdan Mobile は日本で大きなインパクトを与えることができる。同社はグローバル市場での経験を生かし、日本でのプレゼンスを確立した。

Kdan Mobile の重要な戦略の1つは、製品開発とビジネスモデルの両面における継続的な革新である。サービスにサブスクベースのモデルを採用することで、Kdan Mobile は安定した収益源を確保すると同時に、利用規模を拡大できる柔軟性を顧客に提供している。このモデルは特に Document 365 で成功し、80%の更新率を誇っている。

今後、Kdan Mobile は AI 技術をツールに統合し、顧客によりインテリジェントなソリューションを提供する計画だ。これにより、企業はワークフローのより多くの側面を自動化できるようになり、生産性と効率がさらに向上する。同社はまた、すでに強力な足場を築いている韓国や米国を含む、さらなる市場の開拓も計画している。

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日本の電力会社トップ10と連携する NextDrive(聯斉科技)

NextDrive CEO Chieh-Jan Yen(顔哲淵)氏
Image credit: NextDrive(聯斉科技)

2050年までにカーボンニュートラルを実現するといった野心的な目標を掲げる日本は、エネルギー利用を最適化する革新的なソリューションを推進している。スマートエネルギー管理を専門とする台湾のスタートアップ、NextDrive は、最先端の IoE(Internet of Energy)技術で日本に波を起こしている。元半導体エンジニアの Chieh-Jan Yen(顔哲淵)氏によって2013年に設立された NextDrive が日本のエネルギー市場の主要プレーヤーになるまでの道のりは、粘り強さ、革新性、戦略的パートナーシップの物語である。

NextDrive の主力製品である「NextDrive Cube」は、エネルギー管理への軸足を移す一環として2016年に発売された。当初、NextDrive はスマートホーム向けのIoT製品に注力していたが、同市場ではアップルやグーグルといったテック大手企業が優位を占めていたため、成長の余地は限られていた。しかし、「Computex Taipei 2016」での偶然の出会いが同社の方向性を変えた。日本の電力システムのベテラン専門家である慶野文敏氏は、NextDrive Cube の可能性を見抜き、日本のエネルギー転換に適応させることを提案した。これが NextDrive の日本市場参入の始まりとなった。

コンパクトでプラグアンドプレイの NextDrive Cube は、スマートメーターと接続し、リアルタイムのエネルギー消費データを提供するように設計されている。AI を連携することで、ユーザが電力使用量をモニターできるだけでなく、エネルギー消費を最適化するための知見も提供する。そのため、エネルギー管理の重要なインフラであるスマートメーターが90%以上の家庭に設置されている日本に最適な製品となっている。

競争の激しい日本のエネルギー市場への参入

「NextDrive Cube」
Image credit: NextDrive(聯斉科技)

NextDrive の日本進出は容易なことではなかった。日本企業は厳格な基準と長い審査プロセスで知られている。しかし、NextDrive はわずか1年半の間に、日本の大手電力会社数社から検証を受けることに成功した。この急速な成功は、キューブの技術力と同社の粘り強さの両方によるものだ。

日本では、スタートアップは非常に忍耐強くなければなりません。製品を改良し、その信頼性を証明するのに何年もかかりました。(Yen 氏)

同社の粘り強さは、日本で3番目に大きな電力会社である中部電力との契約を獲得したときに実を結んだ。このマイルストーンは、他のエネルギー大手とのさらなる提携への扉を開き、NextDrive を日本のエネルギー市場で信頼されるテクノロジー・プロバイダーとして位置づけた。

NextDrive の成功は、強力な投資家にも支えられている。最近のシリーズ C ラウンドでは、ARM Holdings、Foxconn Technology Group(鴻海科技集団)、Ta Ya Electric Wire & Cable(大亜電線電纜)、Sino-American Silicon Products(中美矽晶製品)などの著名企業が参加した。これらのパートナーシップは資金面だけでなく、NextDrive の継続的成長のための戦略的資源も提供した。

例えば、Sino-American Silicon Productsは、半導体ウエハーの大手サプライヤーであり、太陽光発電において豊富な経験を有している。NextDrive の IoE 技術と Sino-American の太陽光発電モジュールを連携することで、両社は発電から消費最適化に至る包括的なエネルギー管理ソリューションを提供する好位置にある。

NextDrive の技術は、アジア以外にも応用できる。エネルギー管理技術の80%は地域間で類似しているため、同社はオーストラリアや英国などの市場での成長の可能性を見ている。オーストラリアでは、NextDrive はすでに日本の建設会社と提携し、エネルギー管理システムを立ち上げている。オーストラリアは地理的に広大で、自然災害が頻発するため、NextDrive のソリューションは防災とエネルギー回復力において特に価値がある。

IoE 技術を活用することで、NextDrive は日本のエネルギー目標達成を支援するだけでなく、よりスマートで持続可能な未来への道を開いている。世界的な事業拡大を目指す同社は、今後数年間で世界のエネルギー事情に大きな影響を与える態勢を整えている。

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