注目のSakana AIが300億円調達、2011年創業のSchooは上場承認ーー国内スタートアップ11社資金調達振り返り(9月16日~20日)

国内スタートアップの調達状況をまとめてお届けする。先週は11社のスタートアップが資金調達を公表した。グローバルの振り返り含め、資金調達関連の話題はまとめも含めてこちらでも確認できる。

先週に最大の注目を集めたのはやはり、 AI 基盤技術開発の Sakana AI による300億円規模のシリーズ A 調達だ。この調達には、シリコンバレーの有力 VC に加え、三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループなどの大手金融機関、さらに NEC 、 KDDI 、富士通といった大手事業会社が参加し、 AI 技術への期待の高さを広く示した。

その他の領域への投資も引き続き活発で、 AI 英会話アプリのスピークバディやカーボンアカウンティングの Zevero 、微生物技術の Symbiobe が8億円を調達するなど、テクノロジーからサステナビリティまで11件の幅広い領域で資金調達が公表された。 B2B SaaS 領域では、 EC 購入後体験プラットフォームの Recustomer が5億円、採用支援の Haul が5億円、 B2B 卸・仕入プラットフォームの gooooodsが4億円(同一ラウンドでの累計10.7億円)を調達し、企業の DX ニーズについても話題が続いている。

教育・人材開発分野では、オンライン学習の Schoo (スクー)が東証グロース市場への上場を発表し、想定時価総額67.3億円規模での新規株式公開を予定。また、スポーツ関連人材支援の Ascenders が2.3億円を調達し、スポーツ産業における新たなビジネスモデルの可能性を示した。

注目の Sakana AI

AI ・テクノロジー領域では、複数の企業が大型の資金調達に成功し、業界の急速な発展を示している。

最も注目を集めたのは、 Sakana AI によるシリーズ A ラウンドでの約300億円の調達だ。この資金調達には、シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルに加え、日本を代表する金融機関や大手企業が参加した。 Sakana AI は、自然からインスピレーションを得たアプローチで最先端の基盤モデルを開発しており、複数の基盤モデルの連携自動化や、 LLM を使用した LLM のより効率的なトレーニング方法の発見など、革新的な技術を実現している。

特筆すべきは、同社が開発した「 AI サイエンティスト」と呼ばれる技術で、これは LLM を用いて研究開発プロセスそのものを自動化する革新的なものだ。この大型調達により、同社は研究開発をさらに加速させるとともに、日本企業との事業連携を強化していく。

AI 英会話アプリ分野では、スピークバディが累積調達額18.5億円を達成した。同社のアプリ「スピークバディ」は、第二言語習得理論と最新の AI テクノロジーを組み合わせたサービスを提供している。 AI を相手に練習できるため、ユーザーの心理的ハードルが低く、いつでもどこでも英会話を学習できるのが特徴だ。

Image credit: SpeakBuddy

豊富なカリキュラム、パーソナライズされたレッスン、キャラクターを活用した UX により、初心者から上級者まで幅広い層に支持されている。アプリは累計350万ダウンロードを突破し、企業や自治体・学校法人等の法人による導入も100社を超えている。今回の調達資金は、主力サービスである AI 英会話「スピークバディ」の海外展開、特にアジア地域への進出の準備に活用される予定だ。

AI セキュリティ分野では、 ChillStack がシリーズ A ラウンドで資金調達を実施し、累積調達額が約3.5億円に達した。同社は AI を活用した不正検知サービスやサイバーセキュリティサービスを提供している。主力製品の一つである不正経費自動検知クラウド「 Stena Expense 」は、 AI を活用して高精度な不正検知を行い、企業の経費管理業務の効率化と不正防止を支援している。

近年、電子帳簿保存法の改正により経費管理のデジタル化が進む中、経理担当者の負担増加や不適切な経費申請の増加が課題となっているが、 ChillStack のソリューションはこれらの問題に対応している。今回の調達資金は「 Stena Expense 」の機能開発やサイバーセキュリティ対策サービスのカバレッジ拡大、人材採用に充てられる予定だ。

サステナビリティ

サステナビリティと環境技術の分野では、革新的なアプローチで環境問題に取り組む企業が注目を集め、大型の資金調達に成功している。

Zevero は、シードラウンドの1st クローズで620万ユーロ(約9億8400万円)を調達した Zevero は、カーボンアカウンティング(炭素会計)分野で事業を展開するスタートアップだ。同社のプラットフォームは、 AI を活用して排出係数のマッチングやサプライチェーンデータの統合を行い、企業が炭素排出量削減のための具体的な手段を特定できるようサポートしている。

具体的には、企業の活動データを分析し、そこから生じる温室効果ガス排出量を計算。さらに、サプライチェーン全体での排出量(スコープ3排出量)の把握も支援する。また、高度なライフサイクルアセスメント( LCA )手法とカーボンアカウンティングツールを連携させ、製品やサービスのライフサイクル全体での環境影響を評価。

これにより、企業は自社の事業活動が環境に与える影響を詳細に理解し、効果的な削減戦略を立てることができる。 Zevero のツールは、規制対応だけでなく、企業の持続可能性戦略の策定や、投資家向けの情報開示にも活用できる。この資金調達により、 Zevero は日本、アメリカ、オーストラリア、アジア太平洋地域などの主要市場での事業拡大を目指している。

東京リバーサイド蒸溜所で、酒粕やカカオの皮、飲み頃を過ぎたビールなど、さまざまな未活用素材を蒸留したジン。 Image credit: Ethical Spirits

エシカル・スピリッツは、直近のラウンドで3.8億円を調達した同社は、廃棄素材を使用したクラフトジンの生産や、再生型蒸留所の運営を行っている。

エシカル・スピリッツの特徴は、酒粕などの未活用素材を活用したエシカルジンの蒸留・販売にある。同社のシグニチャージン「 LAST 」は、年間3,200トン相当が未活用と言われる酒粕を蒸留した酒粕焼酎から誕生した。酒粕以外にも、カカオの皮や飲み頃を過ぎたビールなど、さまざまな未活用素材を蒸留してジンを製造している。

これにより、食品廃棄物の削減と新たな価値の創造を同時に実現している。今回の資金調達により、2025年春から本格始動する「つくばねグリーンヒル蒸溜所」での生産拡大を図るとともに、世界初となる「木の酒」の製品化・販売プロジェクト「 WoodSpirits 」の開発・生産を行う計画だ。

京都大学発のスタートアップ Symbiobe は、シリーズ A ラウンドで8億円を調達した Symbiobe は、海洋性紅色光合成細菌を用いた二酸化炭素と窒素の固定技術を有しており、「空気の資源化」を目指している。

同社の技術は、大気中の二酸化炭素と窒素を直接取り込み、バイオマスとして固定化する。この過程で使用される紅色光合成細菌は、太陽光エネルギーを利用して二酸化炭素を固定し、同時に窒素も固定する能力を持つ。

Symbiobe は2023年12月に4,000L の紅色光合成細菌培養デモプラントの稼働に成功しており、今後は山口県に実証設備を建設し、さらなる研究開発を進める計画だ。

また、固定化したバイオマスの利用技術も開発中で、タンパク質繊維、農業用窒素肥料、水産養殖用飼料などの試作品のプレミアム化を目指している。例えば、二酸化炭素由来のタンパク質繊維は、従来の化学繊維に代わる環境負荷の低い素材として期待されている。この資金調達により、光合成細菌培養プラントのスケールアップやバイオマス生産能力の拡大、研究開発の推進、人材獲得が進められる予定だ。

バーティカル領域 SaaS

B2B SaaS 領域では、企業のデジタル化ニーズの高まりを反映し、複数の企業が資金調達に成功している。

Recustomer は、シリーズ A ラウンドで約5億円を調達した Recustomer は、 EC (電子商取引)での商品購入後の顧客体験の質向上を実現するプラットフォームを提供している。同社のサービスは、注文追跡・商品の到着予定日を通知する「 Recustomer 配送追跡」、返品・交換・注文キャンセル業務を自動化する「 Recustomer 返品・キャンセル」、自宅でのお試し購入を可能にする「 Recustomer 自宅で試着」などの機能から構成されている。

Recustomer のサービスは、正式ローンチから2年半で導入ブランド数が200を突破し、飲料・食品、ファッション、インテリア、電化製品など幅広い業界で活用されている。今回の資金調達は、プロダクト開発・エンジニア組織の体制強化、セールス・マーケティング、カスタマーサクセスの組織強化に充てられる予定だ。

Haul は、直近のラウンドで Archetype Ventures とジェネシアベンチャーズから5億円を調達した。 Haul は採用支援ソリューションを提供しており、今回の資金調達に合わせて、採用プロセスの質向上を支援する SaaS プロダクト「 RekMA (リクマ)」を正式にローンチした。

Image credit: Haul

RekMA の特徴は、採用の成果向上に焦点を当てたソリューションである点だ。 AI を活用することで、優秀な採用担当者やリクルーターがこれまで行っていた、採用成果に直結するものの人的負荷の高いアクションを標準化・自動化する。具体的には、面接の前後に行われる候補者とのコミュニケーションから面接の準備、採用のオファーに至るまで、一連のプロセスの質を向上させる。

これにより、企業は採用プロセスの効率化と質の向上を同時に実現できる。 Haul は他にも、採用コンサルティング事業「 RekPro (リクプロ)」や、企業が活用する技術スタックのデータベース「 what we use 」も運営している。今回の調達資金は、 RekMA のセールス強化、新たなソリューションの開発、新規事業の立ち上げ、採用・組織体制の強化に充てられる予定だ。

gooooodsは、2024年4月に開始したラウンドの2nd クローズで4億円を調達し、このラウンドでの合計調達額は10.7億円に達した。 gooooodsは、卸売・仕入れ業務の DX を推進する B2B コマースプラットフォーム「グッズ」を運営している。このプラットフォームは、新規取引先の発見と受発注・請求業務の自動化をワンストップで実現する。

マーケットプレイス機能により、従来のアナログな取引慣習が残る卸売業界において、信頼できる新たな取引先をオンラインで発掘することが可能になる。また、バックオフィス業務自動化機能により、受発注・請求業務を自動化し、業務効率化とコスト削減を実現する。これにより、ブランド企業はコア業務である商品開発や販売促進により注力できるようになる。

2011年創業の Schoo が上場承認

教育・人材開発領域ではやはり2011年創業、 Schoo (スクー)が東京証券取引所グロース市場への新規上場申請を実施し、承認された件が目を引く。 Schoo は、個人・法人向けオンライン動画学習サービスを提供しており、主力の「 Schoo WEB-campus 」で、リカレント教育分野でのオンライン学習を展開している。また、法人向けサービス「 Schoo for Business 」では、デジタルリテラシーやビジネススキル向上を目的とした研修プログラムを提供しており、これまでに4,000社以上の法人が利用している。

Schoo の上場は、オンライン教育市場の成熟と投資家の関心の高さを示している。同社の発行済株式総数は1,160万9,200株で、想定価格580円から算出した企業評価額は67.3億円規模となっている。2023年9月期の通期売上高は20億800万円、経常損失は6億7,200万円となっており、成長性と収益性のバランスが注目される。主幹事は野村證券が務め、上場予定日は10月22日~10月28日のいずれかの日となる。

上場承認されたSchoo/Image credit: Schoo

Ascenders は、シリーズ A ラウンドの2nd クローズで2.3億円の資金調達を実施した。 Ascenders は、スポーツ業界の専門職人材の支援などを手がけるスタートアップだ。同社は、スポーツに携わるフリーランスの専門職(トレーナー、栄養士、コーチ、マネージャー、マーケター、クリエイターなど)と、アスリートや企業をつなぐプラットフォーム「 Ascenders Partners 」を運営している。また、スポーツの世界で仕事をしたい人々に対し、スポーツ専門職特化型のフリーランス養成スクール「 Ascenders College 」も提供している。

さらに、 Ascenders はオーナーが保有するジムや寮、施設といったスポーツ関連アセットを専門人材と運用するアセットマネジメント事業も展開。加えて、アスリートのパフォーマンスを各領域の専門家がオーダーメイドでサポートする「 Ascenders Athlete 」というサービスも手がけている。今回調達した資金は、組織体制の強化、アセットマネジメント体制の拡充、 SPC (特別目的会社)やファンドの設立、 M&A 戦略の推進に活用する予定だ。

また来週も調達の振り返りをお送りする。

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