官民協働で推進する日本のスポーツ国際交流・協力事業「スポーツ・フォー・トゥモロー」(以下「SFT」)。独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC:JAPAN SPORT COUNCIL)は3月6日(水)、令和5年度スポーツ庁委託事業「ポストSFT推進事業」の一環として、そのシンボルイベントである「SFTカンファレンス2024」を開催しました。
○「SFTカンファレンス2024」イベントレポート(PR TIMES)
○「SFTカンファレンス2024」サマリー動画(SFT公式YouTube)
「次世代リーダーによる未来討議」で締めくくられた本カンファレンスは、これからのスポーツ国際交流・協力を担う若々しいエネルギーに満ち溢れていました。参加者は本カンファレンスをどのように受け止めたのか。筑波大学大学院スポーツ国際開発学共同専攻(IDS)に所属する大学院生・阿部祐佳(あべ・ゆうか)さんが、参加した「思い」やそこでの「学び」について語ってくれました。
スポーツ国際開発に特化した人材養成機関「IDS」とは
阿部さんが所属する筑波大学大学院スポーツ国際開発学共同専攻(IDS:Joint Master’s program in International Development and Peace through Sport)は、筑波大学、鹿屋体育大学、日本スポーツ振興センター(JSC)の三機関が共同して、スポーツを通した国際開発と平和に関する実践的能力を養う教育プログラムを提供する、スポーツ国際開発に特化した人材養成機関です。
IDSによれば、スポーツは社会開発のための重要なツールとして国際社会において認識されており、教育、ジェンダー、貧困、健康、平和構築など社会課題の解決に、スポーツを通じた活動が広がるなか、より高度な知識と能力を備えた人材が必要とされています。
IDSが掲げる4つの教育目標・ 国際情勢と政策および国際的な開発課題に対する知識と分析力の獲得、使命感の育成
・ グローバルな俯瞰力と実践現場で発揮できるリーダーシップ能力の習得
・ スポーツ・体育・健康に関する基礎的知識と実践力の向上
・ 国際貢献のためのコミュニケーション力とマネジメント力の向上
JSCでは毎年、IDSの大学院生が実践的に学びを深め、その後のキャリア開発につながる経験やコネクションを得るための機会を提供しており、SFTは提供されるプログラムの一つに位置づけられています。スポーツ分野における我が国唯一の独立行政法人であるJSCならではの活動フィールドや実践的知見、人的交流の機会が提供される点に特長があります。
阿部さんは、JSCプログラムを履修した一人。SFTにおけるASEANパラゲームズへの日本人審判員派遣(SFT公式YouTube)のフォローアップとして2023年9月に実施された、カンボジアのパラスポーツ関係者を対象とした国内招へい事業の運営にも携わりました。
カンボジア国内招へい事業の運営に参加する阿部さんの様子
実は以前からスポーツ国際交流事業の「実践者」でもある阿部さん。SFTカンファレンス2024での国際動向セッションやスポーツ庁長官表彰団体の事例発表を、自身の経験に照らしてどのように受け止めたのでしょうか。
カンファレンスに参加して再認識した「スポーツでつながる」価値
阿部祐佳さん: スポーツを通じた地域発展事業、ルワンダやインドでのスポーツ交流の経験から、私がスポーツを通じた国際貢献・交流事業において特に重要視しているのは「人とのつながりの創造(ソーシャルキャピタル)」、そしてそこから生まれる「主観的ウェルビーイングとコミュニティへの帰属意識」です。スポーツ庁長官表彰を受賞したSeeds西野さんの発表では、「サッカーを通じて世界のつながりの総量を増やしていく」ことをビジョンとして掲げていたのが印象的でした。発表の中で、「スポーツという共通項で世界のつながりを感じることができるようにする、またそのつながりが平和構築につながる」という言葉がありました。これは私が感じていた国際交流における「貢献の実践価値」と類似していて、それを実践の場で実現していることを知り、「スポーツでつながる」価値の再認識につながりました。
ルワンダの子供たちにハンドボールを教える阿部さん
(写真提供:阿部祐佳さん)
――― 阿部さんは、Seeds西野さんの取組には、スポーツを通じた交流だけではなく、学校訪問など、他国の文化を知ることのできる活動も含まれおり、西野さんがその中での「ごく普通の『違い』を経験する」ことを強調していたことにも注目。「スポーツ国際交流事業は、何か特別なことではなく、異なる文化や背景の中で育った人々がスポーツという共通項でつながり、お互いの違いを経験するというシンプルなことで、しかし、そのシンプルなつながりが異文化理解や平和構築につながること、そのつながりを作るのにスポーツが有効であるということを改めて認識できた」と話しました。
スポーツの無形価値をどのように可視化し、表現していくか
――― 普段は筑波大学IDSでスポーツ国際開発を理論面から学んで研究をしている阿部さん。国際動向セッションで英国からオンライン登壇した、マンチェスターメトロポリタン大学経営学部スポーツマネジメント領域教授の井上雄平さんのプレゼンテーションも得るものが多かったとのこと。
阿部祐佳さん: 井上さんの「スポーツにおける社会的インパクト評価の枠組み」の発表はとても大きな学びと発見がありました。昨今、スポーツの価値が謳われている中で、私はスポーツの価値が「無形」の部分に大きく存在していると考えています。スポーツを通じた開発の研究分野に携わる身としては、それをどのように可視化し、表現していくかがとても重要であると感じていました。今回発表のあった「社会的インパクト」はまさに、私がスポーツにおける大きな価値だと考えているものです。これらを評価する枠組みを学べたことは、今後の研究や自分自身がスポーツを通じた活動を実施していく中で非常に参考になりました。この枠組みを用いた評価に取り組むことは、今後のスポーツ国際開発分野の学術面の発展につながることが予想されますし、井上さんの発表にもあったとおり、スポーツへの投資の重要性の根拠を示すことで、「sport for all」の実現と発展にもつながると思います。
ユースセッションに登壇した同世代との交流と対話
――― 阿部さんが本カンファレスに参加して得たもう一つの収穫は、カンファレンス会場での同世代との交流。特に、第3部の「ユースセッション」に登壇した、スポーツ国際交流・協力活動を実践する次世代リーダーたちからは大きな刺激を受けたようです。
阿部祐佳さん: 「ユースセッション」があったのは良かったです。次世代を創るユース年代の人々がこのような場でつながり議論を広げることは、この先のスポーツ分野の発展に大きな意味を持ちます。ユースセッションで登壇された同年代の方の活動を知れたことで、対話のきっかけが生まれました。同じ分野であってもなかなか交流することが少ない中、とても貴重な機会と思い、積極的に声をかけました。特にA‐Goalの平塚さんとは、現在の活動や国際交流に向けた今後の展望などについて意見を交わすことができ、同年代の同じ専門分野の方と新たなつながりを作ることができました。
今後は、意見交換する場、横のつながりを創出する場をもっと増やすことができたら、より活発なスポーツを通じた開発につながっていくと感じました。今回は参加者同士のコミュニケーションは休憩時間に委ねられていたと思いますが、プログラムとして交流の機会の創ってもよいかもしれません。私はこれまで、SFTのセミナーや交流会に参加して、普段交わることのできない人々と交流することの重要性や、参加者から話を聞くことの必要性をとても感じています。ただ参加者全員がスポーツを通じた開発分野に精通しているわけでなく、高校生などその分野についてまだ知見が多くない方や、事業を行ってない方にとっては、交流を図ることが難しいかも知れません。例えば、簡単なリクリエーションやスポーツ国際開発の問題についてチームで考えるなど、交流のきっかけとなる場を作ることを一参加者として提案したいと思います。
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日本スポーツ振興センター(JSC)が運営を行うスポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)コンソーシアム事務局では、国内スポーツ関連団体や地方公共団体、民間企業、大学、NGO/NPO など、SPORT FOR TOMORROWの活動を共に推進いただける方、スポーツを通じて世界とつながり、社会の課題と向き合う「次世代リーダー」を応援していただける方のご参加をお待ちしています。
スポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)の詳細はこちら
https://www.sport4tomorrow.jpnsport.go.jp/jp/
◆SPORT FOR TOMRROWとは?
スポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)は、スポーツを通じた国際交流・協力を通じて、開発途上国をはじめとする世界のあらゆる世代の人々にスポーツの価値やオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを広げることをめざした取組です。2014年から2021年の8年間、官民連携のコンソーシアムを形成して活動を行い、204か国・地域における1300万人を超える人々とスポーツの価値を分かち合うことができました。
国際的には、UNESCOのカザン行動計画(2017)や持続可能な開発目標(SDGs)への貢献など、スポーツの力を活用して、持続可能な社会や共生社会の実現に向けた国際的な取組が進められており、日本はこのような国際的な動きをリードする立場から、様々なスポーツを通じた国際交流・協力に一層取り組むことが期待されています。
SFTは、東京2020大会のスポーツ・レガシーを継承・発展させながら、これまでの取組を通じて認識された国内外のスポーツや社会におけるニーズや課題に向き合い、官民連携によるスポーツを通じた国際交流・協力をさらに推進していきます。