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スタートアップバブル考:この熱狂に根拠はあるか?

編集部注:本稿はプロジェクト・オーシャン代表取締役の早川智也氏の寄稿記事。早川氏は大和証券SMBC(現大和証券)の公開引受部にて複数のインターネット企業のIPOを実現させた後、2006年に独立。独立後も証券会社時代と同様に、インターネット企業を中心にIPOコンサルティングやM&Aアドバザリー等の財務助言をおこなっている。直近ではフリークアウト、イグニスのIPOに関わった。 「俺たちがおっさ…

tomoya_hayakawa編集部注:本稿はプロジェクト・オーシャン代表取締役の早川智也氏の寄稿記事。早川氏は大和証券SMBC(現大和証券)の公開引受部にて複数のインターネット企業のIPOを実現させた後、2006年に独立。独立後も証券会社時代と同様に、インターネット企業を中心にIPOコンサルティングやM&Aアドバザリー等の財務助言をおこなっている。直近ではフリークアウト、イグニスのIPOに関わった。

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「俺たちがおっさんになったのかな?」

証券会社時代の先輩と今のスタートアップを取り巻くバブルのような状況について意見交換をしていた時のことである。

ここ2〜3年、IPOマーケットやスタートアップ界隈がとても賑わっていると感じている。大きなイベントで講演した起業家の記事や華やかなイベントのレポートが毎日のようにメディアに掲載され、巨額の資金調達を成功させたスタートアップのfacebookにはお祝いのコメントが殺到する。

華々しく株式市場にデビューする会社も少なくない。

米国に比べてスタートアップにリスクマネーの供給量が圧倒的に少ないことは長年、日本の大きな課題として指摘されてきた。この課題を解決するべく積極的に活動してきたのが、2000年や2005年前後に成功を収めた起業家、意識の高い独立系ベンチャーキャピタルたちだ。

その成果がここ数年で現れ、日本でもスタートアップが二桁億円の増資に成功する事例が多数出てきた。また、米国のYCombinatorのプログラムが日本でも取り入れられ、資金と事業立ち上げのノウハウを創業間もない会社に授けて育成するインキュベーターも多数立ち上がってきた。

大規模な増資の成功事例とインキュベートプログラムによる出資の事例が次々と積み重ねられてきたことで、新たな起業ブームが巻起こっている。それに呼応するようなタイミングでアベノミクスにより株式市場が復活し、特にIPOマーケットは2004、5年以来の活況となっている。

私が懸念しているのはIPOマーケットの復活とスタートアップブームの再来により、VC(ベンチャー・キャピタル)間の出資競争や証券会社による主幹事争いが加熱している部分だ。

例えば、資金提供側もこれまでの金融機関系VCだけではなく、エンジェルや独立系VCが台頭してきているし、事業会社もCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)として大量に参入してきている。結果として、これまで経験したことがないようなカネ余り状態が発生しつつあるのだ。

こうなると何が起こるかというと、出資を受ける側であるスタートアップのバリュエーションの高騰である。

今となっては二桁億円の増資は珍しくなく、むしろ数千万円の増資の方が珍しくなりつつある。これ自体は問題ない。問題は、こういった大型増資に踏み切ったスタートアップのイグジット先が、これらのバリュエーションを受け止める寛容さを持ち合わせていないことにある。

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広く知られていることだと思うが主幹事証券会社はVCの引き受けた株価に関係なく公開価格を決定する。主幹事証券会社が提示してきた公開価格が、VCへの増資時より安い株価だったということは頻繁にあることだし、IPOできる利益規模であってもVCの投資スタンスによっては、公開価格が低いためIPOさせてもらえないこともある。

確かにIPOマーケットは人気化し、初値では説明が付かない株価をつけることがある。しかしほとんどの銘柄は一時的な需給の逼迫により株価が高騰しているだけで、いずれ適正な価格に落ち着いていく。

それを分からずに高騰した株価で株を購入した個人投資家が大きなヤケドを負う、いわゆる「上場ゴール」と呼ばれる銘柄は非常に多い。こうなると株式市場は少しずつリスク回避の動きに移っていく。

もう一方のM&Aによるイグジットは、日本特有の「のれん会計」の存在によって上場企業による大規模買収がやりにくくなっている。

特にインターネット、モバイル関連のスタートアップは大きな資産を持たないため純資産額が小さい。しかし、高い成長期待から良いバリュエーションをつけざるを得ない。するとのれん額が多額になり毎年の償却額が大きくなる。また、そもそもマザーズ等の新興市場に上場している銘柄はさほど手元資金を持ち合わせていない。

これはIPO時にさほど資金調達が出来ていないからである。無理をして大きなM&Aを仕掛け、買収後に期待した収益をあげなければ致命傷を負うことになる。買収後に株を売却した経営幹部が次々と退社し、買収前のような業績をあげられなくなったという例も多い。これを恐れてどの企業もなかなかM&Aに踏み切れないでいる、というのが実情なのだ。

イグジット先がこのような状況であっても、VCや主幹事証券同士の競争の激化によって、スタートアップのバリュエーションはかなり高騰している。知名度の高いスタートアップや有名起業家が参画しているスタートアップには、時には上場企業よりも高いバリュエーションがつけられる。

VCもプロであり銘柄の選別はしており、業績の先行指標になるKPIが大きく伸びていたり、世の中に大きなソーシャルインパクトを与えられるような銘柄に投資をしている。しかし、売上規模が小さく、利益もまだまだ出ていない銘柄が多いのは事実だ。

そして、証券会社は目線が高くなったスタートアップに対して新規上場時の想定時価総額に相当な金額を提案している。

これは激しい競争下では仕方がないのかもしれない。自分もVCや証券会社に属していたら同じことをしていると思う。しかし、これこそがバブルの最中の行動パターンではないだろうか。バブルは弾けてみないと分からない。

規模こそは異なるが、投資銀行間の激しい収益競争のため、せっせとサブプライムローンをパッケージして販売していたあの頃の欧米の投資銀行と同じことをしていないだろうか。イグジット先である株式市場にブラックスワンが舞い降りた途端、一気に全てが崩れ落ちるのではないか。

「スタートアップに値を付ける人たち」はもう少し冷静になる必要があるし、スタートアップや起業家、特にメガベンチャーと言われる会社は自らがブラックスワンにならないように、成長一辺倒ではなくガバナンスやコンプライアンスの強化にも取り組む必要があると思う。そうしないと、多くのリスクマネーが供給されるようになったこのエコシステムが足元から崩れ落ちることになる。

私もスタートアップ業界で長年仕事をさせてもらっていのるので、この業界が発展して欲しいと強く思っている。

VCが高い株価で投資を積極的におこない、スタートアップの起業家が華やかなイベントに登場し、彼らを取り巻く金融関係者がちやほやする。「いつか見た景色」と思っているベテランキャピタリストやベテラン証券マンも多いのではないだろうか。

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