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世界企業を日本から生むためにも米国のコピーはしないほうがいいーーキヨのシリコンバレー探訪記・WSGRヨーカム氏インタビュー

キヨのシリコンバレー探訪記は連続起業家の小林清剛氏がシリコンバレーでみつけた「気になる」スタートアップをインタビューする不定期連載です。毎回おひとりずつ、小林氏がみつけたスタートアップのサービス紹介とファウンダーの素顔に迫ります。 今回は米国でのスタートアップに欠かせないパートナーの法律事務所、Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiでコーポレート・パートナーを務め…

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キヨのシリコンバレー探訪記は連続起業家の小林清剛氏がシリコンバレーでみつけた「気になる」スタートアップをインタビューする不定期連載です。毎回おひとりずつ、小林氏がみつけたスタートアップのサービス紹介とファウンダーの素顔に迫ります。

今回は米国でのスタートアップに欠かせないパートナーの法律事務所、Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiでコーポレート・パートナーを務めるTaku Yoichiro(本文中は同氏のニックネームであるヨーカムとします)氏。国内大企業から本誌でも注目している国内スタートアップの北米進出をサポートしているヨーカム氏の貴重なアドバイスをキヨが聞いてきました。(本文中の敬称略)

キヨ: まず最初に自己紹介と仕事内容について教えて頂けますか?

ヨーカム: 私はTak Yoichiroと申します。主にテック系企業を顧客に持ち、業界を牽引する法律事務所である Wilson Sonsini Goodrich & Rosati でコーポレート・パートナーをしています。

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キヨ: ヨーカムは日本の多くの企業を担当しているとのことですが、担当している企業を一部教えてくれませんか?

ヨーカム: ちょうど、日本のどの企業と仕事をしているかの一覧表を作ろうとしていたんですよ。それぞれ異なるカテゴリー別に分けてね。その中の一つに、シリコンバレーで活動している日本の上場企業というものがありました。例えば、ディー・エヌ・エーが実施した買収のうち数件は私が担当しましたし、クックパッドの最近の買収についても一部担当しました。アドバンテストの買収も手がけました。

おそらく2008年頃のEvernoteを含むNTTドコモの投資案件も以前担当しました。セガがスピンアウトしたときもそうです。特定の案件に関してはサイバーエージェントとも仕事をしています。このように日本の上場企業でアメリカで活動するケースは、これから更に面白くなりそうです。

キヨ: なるほど

それから投資サイドからは、伊佐山元氏が創立したWiL Fundを最近つくりましたし、Tak Miyata(宮田拓弥)氏のScrumVenturesの創設にも関わりました。その他のカテゴリーには、デラウェア州に親会社を持つ日本企業があげられます。しかしながら、彼らの本拠地は東京かもしれません。資金集めで最近報道をにぎわしているGengoやPeatix、Kaizen Platformといった企業がこれに該当します。

他にも、Tokyo Otaku ModeやBeatroboのように日本を活動の主要拠点としている企業もあり、これらのタイプの企業リストは大変数が多いため長くなくなります。

もう一つのグループは、シリコンバレーにいる日本の起業家たちです。例えば、AnyPerkの福山太郎氏、Sunny Tseng氏、Hapyrusから名称変更したFlyDataの藤川幸一氏、それから車椅子の会社であるWHILL、あるいはDrivemodeの古賀洋吉氏 などがいます。 日本企業の中には、日本の親会社を持ちながら、アメリカに進出しているMercariのような企業もあります。

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キヨ: ほとんどカバーしていそうですね(笑)どうして、ヨーカムは日本の企業やスタートアップを積極的に支援するのですか?

ヨーカム: 私は実は日本生まれなんです。17歳ぐらいまでは日本のパスポートを持っていました。シリコンバレーの人たちの大半は、私が実は日本語が上手に話せることを知りません。目立った日本人や日系アメリカ人の起業家が、シリコンバレーにいないことは日本人として残念です。いつかはそういう成功した人たちにお会いしてみたいですね。だから、私は個人的に日本の企業やスタートアップに関心を持っていて、応援しているわけです。

キヨ: なるほど。早速なのですが、スタートアップが弁護士と付き合う際の日本と米国の違いについて質問させてください。日本と米国ではどのような違いがあるのでしょうか?例えば、米国では日本と異なり、スタートアップの相当初期の段階から弁護士を雇うのが当たり前ですよね。

ヨーカム: シリコンバレーでは、スタートアップは開業初日から弁護士に連絡をします。起業家がスタートアップを始めようと考えている時点から相談しに行くことになる相手の1人が、弁護士であることは間違いありません。日本の場合は、多くの起業家は1人も弁護士のツテを持っておらず、紹介してもらうだけでひと苦労ということもあります。日本では、スタートアップと仕事をしようという弁護士の数は非常に限られているのです。

一方、シリコンバレーやシアトル、テキサスのオースティンのように重要なテクノロジーのハブを持った特定都市においては、スタートアップと仕事をするノウハウを持ち合わせたインフラやサービスプロバイダーがたくさん存在します。GoogleやFacebookの従業員が、退職するよりも以前に、起業しようかなと考え始めた時点で会うであろう人たちの1人が、私たちのような弁護士なのです。

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キヨ: とても興味深いですね。日本人が米国でスタートアップをするときは、どのように弁護士を選べばよいのでしょうか?弁護士の良し悪しを見極めるための違いは何かあるのでしょうか?

ヨーカム: 一般的に言うと、シリコンバレーにもスタートアップと仕事をするたくさんの弁護士がいます。ですから、評判の良い弁護士事務所に所属する弁護士を選べば、おそらく大丈夫だと思います。多くの場合、個人的なやり取りやフィーリングの問題だと思います。弁護士とうまくやっていけるか?得られたアドバイスを気に入ることができるか?

私がスタートアップや起業家に話をする時は、なるべく多くの弁護士と話をしてみて、その人たちから受けるアドバイスが、自分の中にすっと入ってくるかどうかを見極めるように勧めています。

キヨ:中でも大切なポイントはどこにありますか?

長期的な観点からいうと、シリコンバレーで資金調達をするのであれば、信頼できる助言を与えてくれる人たちを交流を持ったほうがよいと思います。それは、投資家の立場からすれば「私の弁護士事務所はWilson Sonsiniです」というのと同様に、一種の安心材料になります。「私の担当は離婚弁護士のフレッドおじさんです」なんていったら大変なことになりますよ(笑)。

あなたの価値は、あなた自身を取り巻く人たちがどんな人であるかによって判断されています。スタートアップ企業の多くが良いアドバイザーをもつことによって、「あぁ、そうなんですよ、私のアドバイザーは○○氏なんです」と言うことができるのです。

キヨ: ありがとうございます。それでは次の質問ですが、日本人が米国でスタートアップをする際に気をつけなければならない点はどのようなものがあるのでしょうか?

ヨーカム: この2、3年前からに始まったと思うのですが、日本の起業家でシリコンバレーに進出して、スタートアップをしたいという方に数人お会いするようになりました。おそらくAnyPerkの福山太郎氏が代表的な例だと思います。Open Network Labを卒業後、シリコンバレーに来ることを決意し、Y-Combinatorに参加して資金を調達して、今では大変優良な企業を経営しています。

おそらく最大の試練は、シリコンバレーで最も価値のあるものの一つとされている人脈形成です。仕事をする、投資家を探す、そして人間関係を築くなどの様々な観点から、大勢の人々と知り合いになることは大変重要です。

日本のスタートアップができる最も大切なことは、人脈を広げることです。英語が話せれば、他の起業家や創業者とも付き合いができます。シリコンバレーでは、頭が良くてエネルギーに満ち溢れた人たちがいる中で、このようなことが価値を持つとされているのです。

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キヨ: 日本の起業家にとって英語が重要であるということを、ヨーカムはよく指摘していますよね。英語が流暢に話せることが、なぜ日本のスタートアップが米国で活動をする上で大変重要なのかを具体的に教えてくれますか?

ヨーカム: 前に挙げた人脈形成に立ち返りますが、人脈を構築するためには、少なくとも周囲の人から話しかけられるだけの英語力を持つ必要があります。米国で投資を受けたいのであれば、少なくとも、自分たちの事業をプレゼンできる能力がなくてはならないと思うのです。

また、米国で顧客を獲得するには、商品を売り込めるだけの十分な英語が必要なのです。さらに、自分たちのチームや従業員を管理するために、英語でコミュニケーションをできなければなりません。このように、早い段階から日本の起業家が英語を学ぶ重要性の背景には、たくさんの理由があります。

キヨ: 僕も実感しています(笑)。一般的に、日本人の起業家はあまり英語が得意ではありませんよね。英語がある程度上達してから米国に来たほうがいいのか、それとも、米国に来てから能力を磨いたほうがよいのか、どちらが良いと思いますか?

ヨーカム: 英語を上達させたければ、米国に来ることは一般的に良しとされています。単に、語学学校に行く人もいます。一方、起業家にはそれぞれ個性があって、その個性や得意分野を使って、たくさんの人々と会いながら英語を磨く人もいます。

キヨ: 一般的に、米国でスタートアップが最も失敗する原因はなんですか?

ヨーカム: 端的に言うと、それは粗悪なプロダクトです。大概のスタートアップは失敗するんですよ。それが日本の起業家だからとか、それともただ普通の人だったからとかではなく。それは単に、プロダクトが粗悪だったからか、市場のニーズにフィットしていなかったからだと思われます。

私の考えでは、日本のスタートアップの多くが、あまり技術面に力を入れていないようにみえます。基本的に色々なインキュベーターや若いスタートアップが、モバイルやウェブのアプリをつくってしまっていて、しかもそれは技術的にはさほど困難を要しないものなのです。こちらにあるY-Combinatorのようなインキュベータの下でDemoDayと、東京でのピッチイベントと比較した場合に、企業やプロダクトの全体的な質には劇的な違いがあるのです。

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キヨ: ヨーカムは、数多くの日本のスタートアップを顧客として抱えていますが、日本のスタートアップが米国展開をする際へのアドバイスはありますか?

ヨーカム: 日本と米国のスタートアップを一般的に比較するのは難しいですが、一つあるとすれば、より強靭なマネージメントチームがあったら良いと思います。より多くの起業家が、様々な企業におけるシニアレベルの役職経験を持っているといいですね。

例えば、今ではディー・エヌ・エーやグリー、 サイバーエージェントといった企業がありますが、例としてサイバーエージェントで副社長レベルだった人たちが会社を去って、自分自身のスタートアップを新たに立ち上げるというようなことです。このような大企業の役員経験のある起業家がもっと沢山いて、大企業で働いていたときに培ったマネジメントスキルを持っていたらよいと思うのです。

キヨ:確かに。

私が希望しているもう一つのことは… 日本企業の多くが米国のアイデアのコピーをしているようにみえてしまうのです。日本版◯◯といえば全体的に良いビジネスなのでしょうが、次世代のグローバル企業を担う存在が日本の企業だったらいいなと思うのです。

1960年代のソニーを思い返してください、主要ブランド名が日本発で出てから随分と時間が経ってしまいましたよね。多くの人がまだディー・エヌ・エーやグリーといった名前を耳にしていないかもしれません。次世代のグローバルブランドが日本から輩出されるためにも、日本企業が米国のアイデアをコピーしないことは良いことではないでしょうか。

キヨ: 日本のスタートアップが、米国で資金調達をする際の注意点は何でしょうか?そして、それは日本での場合と何が異なるのでしょうか?

ヨーカム: 米国に比べて、日本では有望な投資家の数が限られています。それが少数のエンジェル投資家なのか、あるいは10から15の起業関連のベンチャーファンドであるかは、皆さんもそれが誰なのかはご存じだと思います。ITのコミュニティでは、誰もが皆顔見知りです。例えば、有名な起業家がスタートアップを立ち上げ、投資家と会い始めると、誰もがITのコミュニティがいかに小さいかを感じるのではないでしょうか。

ITのコミュニティというものは、私たちが考えるよりも、はるかに小さいものなのです。シリコンバレーで活躍する日本の起業家に関して言えば、日本の起業家の何人かは立地条件という観点から問題を抱えていると思います。それはなぜかというと、ベンチャーキャピタリストの中には単に「おや、日本に本社がある企業のデューディリジェンスだなんてどうすればいいんだろう?」と毛嫌いする人もいるのです。こうなると難しいですね。

私は今のところ、日本の起業家によるスタートアップの大半はジャパンマネーによって資金繰りがされているのだと考えています。 シリコンバレーのベンチャーファンドが生粋の日本人起業家あるいは日本人、東京に拠点を持つ企業などに資金提供を行ったケースは非常に少ないと思います。

これは大変珍しいことです。しかし、その企業に十分な力あれば、ベンチャーキャピタリストたちは興味を持つのです。質問に対する答えになっているかどうかはわかりませんが、こういうことです。

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キヨ: 日本のスタートアップは、米国で従業員を雇用するのに苦労しているケースが多いと聞きます。この問題に関して何かアドバイスなどがあれば教えてくれませんか?

ヨーカム: シリコンバレーには、実際に日本人ではないけれど日本語を話す人たちがいます。単に日本語を十分に話せて、電話応対などもできるからといって、その人を採用したいかというと、そうはいきません。

私が思うに、ミーティングでも通用する十分な日本語を話せて、十分なスタートアップの技量を兼ね備えているといった願ったり叶ったりな人、こんな組み合わせはありえないですよね。それは良いチームや共同創始者を探そうとしているスタートアップなら、どこでも同じことです。自分の人脈を頼りに、必要な人材を探すというのはなかなか簡単なことではありません。

キヨ: 最後に、日本のスタートアップに向けて、一言お願いします。

ヨーカム: 私は1993年からWSGRで働いています。ここ数年、日本のスタートアップと日本人起業家の活発な動きを目の当たりにしてきました。それは、私のWSGRの全在職期間の中で最も顕著なものだったと思います。これは日本のスタートアップにとっては、良い兆しだと思います。

私の記憶では、日本でインキュベーターが広まったのはおそらく3年ほど前からでした。Open Network Labも発足して3年目ぐらいだったでしょうか。サムライインキュベートもそうでしたし、MOVIDA JAPANも数年経過しています。そして、スタートアップがいくつかのメディアの表紙を騒がせた頃は、人々がスタートアップをすることは多少は容認されていました。

しかし、今でもディー・エヌ・エーやグリーといった企業を未だにベンチャービジネスと呼ぶ人がいます。これはおかしいと思います。もし、あなたの会社が野球チームのオーナーだとしたら、あなたの会社はベンチャービジネスではありません… 楽天はベンチャービジネスでしょうか?

日本でも、今ではより多くのスタートアップが形成されてきています。私の考えでは、日本におけるスタートアップが増え続ければ…例えば300社としましょう、そしてそのうち10%が帰国子女や英語が十分話せる人を雇っていて「ねぇ、シリコンバレーに行こうよ」、こう言ったとしましょう。

そうするとその300社のうちの10%が英語の話せる創業者をもつ企業なのかもしれません。その30社のうちの10社が、シリコンバレーに来ようというクレイジーな考えを持っていてもおかしくありません。

もしより多くの成功した日本の起業家がいるとしたら、人々はおそらく「ねぇ、その起業家たちが、そんなに成功しているって言うんだったら、私にだってできるよ」というでしょう。こういう反応はいいことです。

キヨ: 貴重なお話ありがとうございました!

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