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コロナ禍でデジタル化の先頭を走るエストニアから、日本のDXを考える〜福岡「ASCENSION 2020」から

福岡市は、2020年11月27日にスタートアップに特化した国際交流オンラインイベント「ASCENSION 2020」をオンライン開催した。 本稿は、ASCENSION 2020 で行われた、「GLOBAL STAGE」のエストニアセッションについてまとめた。GLOBAL STAGE では、福岡市がパートナーシップを結ぶ世界各地域の最新のスタートアップやテクノロジーの情報や海外展開に関する最新動向が…

左上から時計回り: Ait Oliver 氏(駐日エストニア大使館)、宗原智策氏(NordicNinja)、日下光氏(xID)、斎藤アレックス剛太氏(SetGo)

福岡市は、2020年11月27日にスタートアップに特化した国際交流オンラインイベント「ASCENSION 2020」をオンライン開催した。

本稿は、ASCENSION 2020 で行われた、「GLOBAL STAGE」のエストニアセッションについてまとめた。GLOBAL STAGE では、福岡市がパートナーシップを結ぶ世界各地域の最新のスタートアップやテクノロジーの情報や海外展開に関する最新動向が語られた。

本セッションは、駐日エストニア大使館商務官の Ait Oliver 氏、行政の DX(デジタルトランスフォーメーション)支援を行う xID(クロスアイディ) CEO の日下光氏、NordicNinja のベンチャーキャピタリスト宗原智策氏をパネリストに迎え、xID や日本企業のエストニア進出支援を行う SetGo の斎藤アレックス剛太氏がモデレーターを務めた。

(文:馬本寛子、編集:池田将)

繋がりの強い小さなコミュニティの「強み」

エストニア・タリンの街並み
Image credit: scanrail / 123RF

エストニアで xID を創業した日下氏は、「コミュニティは小規模だが、中の人同士の繋がりが強い」と話す。

国内市場が小さく、多くのスタートアップは海外展開を前提に事業を立ち上げるため、様々な国の市場について情報を共有する環境があるのではないか。(日下氏)

また、エストニア政府の一員でもある Ait 氏は、政府と民間の距離が近く、包括的なスタートアップエコシステムがつくられていると特徴を述べた。ICT 教育を強化し、小学校教育から、プログラミングを教えるなどの取り組みが行われていることからも、政府の熱量がうかがえる。それらの特徴に加え、資金調達やメンタリングシステム、ネットワーキングを行う環境は、比較的整備されていると話した。

宗原氏は、エストニアスタートアップエコシステムの雰囲気について触れた。

日本人である私はエストニアでは「外国人」という立場だが、スタートアップシーンをつくりあげていく一員として、(エコシステムに)所属していると実感できる。国外からも参加しやすい、居心地の良いコミュニティだ。(宗原氏)

パネリストの全員が、官民連携の強さやコミュニティが小規模ながら繋がりの強さを指摘した。2011年にマイクロソフトに買収された「Skype」の創業や経営に携わっていたメンバー(Skype マフィア)や、ユニコーンをつくりあげた起業家が身近にいることから、良いメンターに巡り合える可能性も高いと言える。

コロナ禍で浸透が進んだデジタル化

Image credit: Government of Estonia

「コロナ禍における、エストニアのビジネスシーンが受けた影響」について、Ait 氏は、行政面とスタートアップ面のそれぞれの変化について話した。

エストニアでは、2001年頃から政府のデジタル改革が進められており、コロナ禍において、これらの取り組みは功を奏した。国民一人ひとりにデジタル ID が与えられ、インターネット投票なども行われている。デジタル化に伴う、法的整備も進んでいたことから、法的文書のデジタル署名なども問題なく進められた。

コロナ禍以前にもデジタル署名は使用できたが、コロナ時代に突入してから、デジタル署名の使用率は5割上昇した。また、サイバーセキュリティや IT サービスを取り扱ったスタートアップなどが多いことから、多くの企業が売上も良好で、コロナ禍でも資金調達のニュースが多かったという。

さまざまなエストニアスタートアップの投資に関わる宗原氏は、コロナ禍で成長した投資先企業として AI を利用したオンライン ID 認証システムを提供する Veriff、配車サービスの Bolt、オンデマンドデリバリの ZITICITY の3社を挙げた。

例えば、これまで配車サービスに注力していた Bolt は、コロナ禍で電動スクーターや電動バイクなどのマイクロモビリティ事業が成長し、公共交通システムに変わるサービスになりつつあるという。乗降車のオペレーションシステムが評価され成長が加速しているそうだ。

DX の鍵を握る「データマネジメント」

DX の局面で発生するトラブルやそれらの解決方法については、データマネジメントが DX の鍵を握る。アナログデータからデジタルデータに移行することをデジタル化の定義とし、データ活用事例とデータを取り巻く現在の課題についても議論がなされた。

デジタルデータは収集が容易であり、集めたデータを分析することでユーザー理解を深め、マーケティング戦略の構築に活用できるが、課題もある。UberEats やDoordash などのフードデリバリサービスのようなプラットフォーマーに顧客データの詳細が集中するため、実際に食べ物を提供する飲食店などのサプライヤーに情報が届かなくなり、商品開発にデータを活かせないという課題が浮上する。

近年、欧米では Cookie でのデータ取得が難しくなりつつある状況も踏まえ、今後はデータをどのように収集し、取り扱っていくかというデータマネジメント上の課題の解決方法が鍵となるだろう。

政府のデジタル化を進めた3つのポイント

エストニアの電子 ID システム
Photo credit: e-Estonia Showroom / CC BY 2.0

2001年からデジタル化に乗り出したエストニアが、政府の電子化を実現した背景について Ait 氏は、3つのポイントを挙げた。

1. デジタル化を進めるために、政府は具体的な目標を掲げた。

エストニアの政府戦略は、明確な目標が設定されており、具体的な目標数値、KPI、目標のために実行されることが国民に対しても明示されている。

2. デジタル化を進めるためのツールがしっかりと用意された。

デジタルIDの取得はエストニア国民の義務とされているため、全ての国民がデジタルIDやIDカードなどを保有している。これらの「義務化」は重要な役割を果たした。

3. 導入されることによって、政府・企業・国民のそれぞれが便利になり、国民の理解が進みやすいサービスからデジタル化が進められた。

一番はじめに、税金関連の仕組みからデジタル化が進められた。もし、投票システムを足掛かりにはじめていたら、デジタル化はここまでスムーズに進まなかっただろう。

モデレータの斎藤氏は Ait 氏が挙げたこれらのポイントに加え、、エストニア政府の透明性について触れ、「政府も、スタートアップ的な視点で行政を執り行っていると感じる」と話した。

日本のスタートアップに必要な視点「BLT」

加賀市とxID(当時、blockhive)が連携協定を締結(2019年12月)
Image credit: xID

石川県加賀市や茨城県つくば市と行政のデジタル化に取り組む日下氏は、日本国内におけるデジタル化を取り巻く課題について話した。

日本国内のスタートアップの多くは、法的な課題にぶつかる。日本でスタートアップとして新しい事業を行っていくには、BLT(ビジネス・リーガル・テクノロジー)の3つの全てをバランスよく理解せねばならない。

そのような問題を解決する方法のひとつとして、大企業との協業という選択肢を挙げた(編注:xID は加賀市のプロジェクトで、トラストバンクと連携)。協業先と共に法務的な面からサービスを考えたり、力を借りたrしながら法規制に働きかけるなどして、問題解決に取り組める可能性を示唆した。

また、国と地方自治体では、規制や法律が大きく異なることについても指摘した。実際に xID では加賀市で、デジタルIDアプリとマイナンバーカードの連携を行い、行政のデジタル化を進めているが、これらの導入においては、日下氏らが加賀市に1ヶ月間滞在し、ワークショップなどを行ったという。

パネリストは日本の行政などの DX 化に向けて必要なことを挙げ、本セッションは締めくくられた。

このチャンスを活用することで、誰もが便利で意味のある仕組みが作れるのではないか。コロナ禍の今こそ、大きく前進するチャンスだ。(Ait 氏)

若い世代に対してデジタル化による恩恵について伝え、エンパワーメントしていくことが必要だ。(宗原氏)

デジタルIDは、行政のデジタル化において重要な役割を果たすと思う。デジタルIDを浸透させるためには、国民を安心させるほどの透明性の確保が重要だ。(日下氏)

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日本企業とイスラエルスタートアップ、協業成功の秘訣とは〜福岡「ASCENSION 2020」から

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福岡市は、2020年11月27日にスタートアップに特化した国際交流オンラインイベント「ASCENSION 2020」をオンライン開催した。 本稿は、ASCENSION 2020 で行われた、「GLOBAL STAGE」のイスラエルセッションについてまとめた。GLOBAL STAGE では、福岡市がパートナーシップを結ぶ世界各地域の最新のスタートアップやテクノロジーの情報や海外展開に関する最新動向が…

Image credit: 左上から時計回り:寺田彼日氏(Aniwo)、田中克典氏(Sentinel One)、岡本敏氏(住友化学)

福岡市は、2020年11月27日にスタートアップに特化した国際交流オンラインイベント「ASCENSION 2020」をオンライン開催した。

本稿は、ASCENSION 2020 で行われた、「GLOBAL STAGE」のイスラエルセッションについてまとめた。GLOBAL STAGE では、福岡市がパートナーシップを結ぶ世界各地域の最新のスタートアップやテクノロジーの情報や海外展開に関する最新動向が語られた。

本セッションには、住友化学(東証:4005)技術・研究企画部 担当部長 岡本敏氏、とセキュリティ事業を営むイスラエル企業 Sentinel One 日本法人リージョナルディレクター田中克典氏をパネリストに迎え、日本とイスラエル間のオープンイノベーション推進などの事業を行う Aniwo CEO の寺田彼日氏がモデレーターを務めた。

(文:馬本寛子、編集:池田将)

イスラエルスタートアップの鍵を握る R&D

イスラエルで起業し、日本企業とイスラエルスタートアップの協業支援を行う寺田氏は、セッションの冒頭でイスラエルのスタートアップエコシステムについての基礎情報について話した。日本の四国と同程度の面積に882万人が暮らすイスラエルだが、国民1人あたりのスタートアップ数や投資額は世界一と言われている。2019年には、約9,000億円(約82億ドル)の投資額を集めている。日本のベンチャー投資額は年間でおよそ4,000億円程度と言われているため、日本の2倍の投資額である。

また、世界中のスタートアップエコシステム を研究・調査する独立系の調査会社 Startup Genome  が2020年の6月に発表した「Global Startup Ecosystem Ranking 2020」では、イスラエルの都市テルアビブが世界6位であることについても触れた。「イスラエルのIT系スタートアップの多くがテルアビブに集中しており、世界中の企業が研究開発を行っている。日本企業も現在増えつつあり、日本とイスラエルの連携は今後より強化されると考えられる」と寺田氏は話した。また、テルアビブの他にも、ハードウェアなどを扱うスタートアップはハイファという都市に集まっており、都市ごとに集中する産業が異なることも特徴のひとつだと述べた。

視点をずらして価値を生む

Image credit: Israel Startup Map

イスラエルスタートアップの基礎情報が共有されたのち、3つのトピックを軸にパネルディスカッションが展開された。「イスラエルのスタートアップはなぜイノベーティブなのか?」というトピックから、イスラエルにおけるイノベーション創出力の源泉とは何か、議論が交わされた。

アメリカやイスラエルを中心にスタートアップとの協業に取り組み続けてきた住友化学の岡本氏は、アメリカと比較しながらイスラエルスタートアップの特徴について話した。

少し、外した視点から物事に取り組む「Out of Box」の精神で、他の企業とは次元が違う取り組みを行えるのがイスラエルの強みだと思う。(岡本氏)

このコメントに寺田氏も共感を示し、これまでの開発の視点と異なる解決法で CPU のパフォーマンスを改良した Intel のイスラエルチームでの開発事例を挙げた。

また、サイバーセキュリティを手がける Sentinel One 日本法人の田中氏は、エンジニアリング力の強さを感じているという。

私が所属する企業から感じることであり、全てのイスラエル企業に共通するとは言えないが、セールスチームの規模がものすごく小さいことに驚いた。(田中氏)

アメリカの企業では、基本的に大規模なセールスチームがあり、それらをサポートする位置付けとして、エンジニアリングチームが配置されている一方、Sentinel One では、半数以上がバックエンドを支えるエンジニアだそうだ。エンジニアの特徴についても触れ、多くのエンジニアが専門的な知見を持ち、若い20代が活躍していると続けた。

エンジニア同士の横のつながりが強いと感じている。同世代の連携が強いため、密度の高い社外連携が行われている。そうした背景から、ひとつの企業のみでは成り立たないようなエコシステム の醸成がなされているのではないか。(田中氏)

イスラエルの特徴を語る上で「同世代間のつながり」は重要なキーワードである。その背景について、寺田氏は高校卒業後の国民に課される2〜3年間の兵役義務が同世代間のネットワーク醸成に一役買っているのではないかと考察を述べた。軍隊の中には、サイバー攻撃の実践的な内容を教育する部隊も存在しており、学力的にも上位に位置する層がその部隊に集められているそうだ。

ストレートで合理的なコミュニケーション

image via. Flickr

臭気検知 IoT プラットフォームを開発するイスラエルのスタートアップ Nanoscent への出資に携わった岡本氏は、「イスラエル企業との協業は、これまでの他国との協業の事例と比較しても進めやすかった」と話す。その背景として、イスラエル企業とのコミュニケーションが、合理的かつストレートな傾向にあることが挙げられた。

一方で、実際のコミュニケーションの中で発生した問題についても語った。

日本企業との協業は年々増えつつあることもあり、協業には意欲的だが、上層部の承認を得る際に時間がかかるなど日本独自の企業文化に対しては、不安に思われ、指摘されることもある。そうした問題を解決するためにも、協業企業とは正直かつ、こまめに状況の説明を行う必要がある。(岡本氏)

住友化学が2019年12月に出資した後も、2020年5月には同社から Nanoscent に追加で資金提供が行われている。こうしたスピーディーな意思決定を可能にした背景について、寺田氏が尋ねたところ、岡本氏は「泥臭い方法以外ない」と述べ、社内の役員に対して何度も説明を行ったことや、投資先とも頻繁にコンタクトを取り続け、時間を回数で補ったと明かした。

何よりも現地へ赴くこと

テルアビブで開催される年次スタートアップイベント「DLD」
Image credit: Masaru Ikeda

コロナ禍でも、イスラエルスタートアップの買収は行われている。セッションでは、交渉から買収まで全てリモートで行われた最高額の取引例として Intel が交通アプリを開発する Moovit を約960億円で買収した話が話題に上った。

岡本氏は2020年から始まった新規プロジェクトは無かったとし、連携の工夫について次のように話した。

オンラインのみでのコミュニケーションだと齟齬が生まれることもある。オンラインでのこまめなコミュニケーションのみでなく、イスラエルに住む日本人の協力を仰ぐなどしている。(岡本氏)

田中氏は、リモートワークが増え、オフィスから離れた場所で働く人が増えたことで、セキュリティにおける新たな課題が生まれていることについて述べ、誰でも、どこからでも働くためにはセキュリティ環境において全てを信用しないゼロトラスト環境であることを前提にセキュリティを考える必要性があることを指摘した。

また寺田氏が  Sentinel One の魅力について田中氏に問うと、技術力の高さや思慮深さを挙げた。問題が発生した際に、顧客のペインに対して深く議論し、解決法を見出そうとする姿勢に魅力を感じていると話した。

セッションの最後には、イスラエルに実際に赴くことの重要性についても議論された。岡本氏は、大企業の担当者として協業を考える場合について注意すべき点について述べた。

上層部への説明についても考えながら進めていく必要がある。(岡本氏)

また、彼は外注した調査の結果から吟味するのと実際に足を運ぶのでは、新たな発見の数に大きな差があると指摘した。少しでも可能性が見えるならば、それらの企業と会ってみることが大事だとし、イスラエルの雰囲気を肌で感じた上で協業等に取り組むことをすすめた。

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