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スマートコンタクトレンズに必要な「ある技術」とはーーメニコンとMojo Visionの共創 vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。 スマートコンタクトレンズの開発を進める「Mojo Vision」と昨年に共同開発契約を締結したことで話題となったメニコン。前半ではMojo Visionがメディア向け説明会にて明かしてくれた開…

取材に応えてくれたMojo Visionとの協業を進めるメニコンチーム

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

スマートコンタクトレンズの開発を進める「Mojo Vision」と昨年に共同開発契約を締結したことで話題となったメニコン。前半ではMojo Visionがメディア向け説明会にて明かしてくれた開発の状況についてまとめました。後半となる本稿では、共同開発研究のパートナーとして名乗りを上げたメニコン側のストーリーを紐解きます。

なぜメニコンだったのか

Mojo Visionとメニコンの提携で、この件に注目する多くの方が不思議に思ったのが「なぜメニコンだったのか」ではないでしょうか。確かに国内ではトップクラスのコンタクトレンズメーカーとして業界を牽引する同社ですが、グローバルサイズでみるとまだまだ大手の競合他社が存在しているのも確かです。

こちらの調査会社の昨年10月の発表概要によれば、世界のコンタクトレンズ市場は2020年に74億米ドル(2021年1月時点の日本円換算で約7,800億円)規模という試算がある一方、国内市場は2,889億円(※)で、ここにもジョンソン&ジョンソンやアルコン、ボシュロムといった外資メーカーが食い込んできているという状況があるようです。

日本コンタクトレンズ協会の公表データより

この点についてメニコンの担当チームに尋ねたところ、創業期から大切にしてきた技術開発へのこだわりが根底にあったとその経緯を教えてくれました。

「今から議論する段階にあるため、詳しいことはなかなかお話しできないのですが、例えば現在、コンタクトレンズといえば「使い捨て」がイメージされると思いますが、AR用途の場合、コストを考慮するとそういうわけにはいきません。些細なことと思われるかもしれませんが、コンタクトレンズをディスポーザブルではない(業界では、コンベンショナルと称する)使用形態を取りますと、ケアシステムへの対応が必要になります。

界面活性剤による洗浄・すすぎ、薬剤による滅菌等のケアシステムへの耐久性を甘く見ると、後々大きな問題となるんです。特に、スマートレンズは、電子デバイスを埋め込んだレンズですので、それらケア用品によるダメージがより深刻化することが懸念されます。

その点、弊社は、ディスポーザブル・リプレイスメントといった使い捨て対応のレンズと同時に、酸素透過性硬質レンズや従来のソフトコンタクトレンズといったコンベンショナルタイプのレンズも得意分野としており、またケア用品もグループ内で開発しておりますので、これらのマッチングを図るためのノウハウも持ち合わせております。

この長所を活かし、スマートレンズだからこそのケア用品並びにケアシステムを提案できることも、弊社の強みと考えています。このように、顕在化した課題から表面的には顕在化していない課題まで、今回タッグを組む2社であればかなり広い技術範囲をカバーしていけると考えております(メニコンチーム談)」。

コンタクトレンズには現在、大きく分けてソフトレンズとハードレンズという分類があります。歴史として古いのはハードレンズでその名の通り硬い素材でできており、元々は眼科医の間で強角膜レンズ(白目の部分まで覆う直径の大きなレンズ)の研究が最初にされていたそうです。

中でもメニコン創業者の田中恭一氏が1951年に独学で開発したのが角膜だけを覆うタイプのもので、これが現在のハードレンズの主流となる、国内における角膜レンズの始まりになりました。

一方、ハードレンズは高い安全性を誇るものの、使用感に劣ることから、「使い捨て」のソフトレンズに徐々に市場を押されていくことになります。メニコンもビジネス的な観点からソフトレンズの展開を進めるものの、決して祖業であるハードレンズの研究開発の手を止めることはありませんでした。

使い捨てレンズと同様に、酸素透過性の高いハードレンズの開発も継続してきたことが、ハードレンズの総合的な技術を必要とするMojo Visionとの協業につながった、というわけです。

田中氏はかつて眼科医の間で大きな直径のレンズが研究されていることを知らなかったそうです。それが今日まで続く「人真似をしない」というメニコンの独自の研究開発精神に繋がっているそうで、このこだわりもまた、共創につながったエピソードのひとつとお話されていました。

話をMojo Visionに戻します。

昨年、2020年のCESでメニコンは衝撃的なMojo Visionの極小ディスプレイ技術に出会います。その時の衝撃をこうお話されていました。

「弊社研究開発のトップが展示会でMojo Vision社のコンタクトを手に取らせていただいたのがきっかけです。とにかくディスプレイのインパクトがすごかった。このトップが強い思い入れを持ち、一方、本件とは関係なくそもそもコンタクトレンズの応用技術として、スマートレンズの開発を志していた研究員の思いが繋がったのが非常に大きかったと思います。

通常、外部とのアライアンスを検討する際は、慎重な意見が出てなかなか結論にたどり着かないのが常ですが、本プロジェクトについては現場から経営トップにいたるまで、なんのストレスもハードルもなく、極めてスピーディに共創することを決定いたしました(メニコンチーム談)」。

スマートコンタクトレンズの研究は、Googleが2012年頃に血糖値を測定できるコンタクトレンズの研究コンセプトを発表したのが大きな話題になりました。メニコンの説明によると、企業スローガンである『より良い視力の提供を通じて、広く社会に貢献する』という見ることへのサポートに活用することを第一に考えており、ユースケースとしてはARコンテンツの表示といったエンターテインメント要素のある使い道には大きな期待があるものの、視力矯正や老眼などの改善を最初に考えたいというお話です。

例えば遠近両用の眼鏡はありますが、これをコンタクトレンズで光学的に再現しようとすると技術的にハードルが高くなるそうです。もしここにデジタルの力を使うことができたら解決の幅は広がります。また、Mojo Visionのユースケースでも示されていた通り、生体情報を常に取得するにはコンタクトレンズは最適な方法です。基礎疾患を持った患者の情報をいち早くデータ化できれば、今、大きな話題になりつつある予防医療の可能性も広がります。

越えるべきハードル

Mojo Visionとメニコンの共創はまだ始まったばかりです。当然ながらMojo Vision側も乗り越えるべきハードルの多さをこう説明していました。

「As you can imagine, there are several challenging aspects of developing the world’s first smart contact lens, and it’s difficult to pinpoint one specific hurdle that outweighs the others. Many of the components in Mojo Lens had to be custom-designed and built. We’ve had to optimize for both power efficiency and size, so the opportunity to find and use off-the-shelf components was rare. Successfully integrating all of these components together into a system small enough to fit inside a contact lens has been one of the biggest technical challenges and really required close design and coordination across many different engineering disciplines.

(ご想像の通り、世界初のスマートコンタクトレンズの開発にはいくつかの困難な面があります。Mojo Lensのコンポーネントの多くは、カスタム設計して作らなければなりませんでした。電力効率とサイズの両方を最適化しなければならなかったので、既製品の部品を見つけて使用する機会はほとんどありませんでした。これらすべてのコンポーネントを、コンタクトレンズの中に収まるほど小さなシステムに統合することに成功したことは、最大の技術的挑戦の一つであり、多くの異なるエンジニアリング分野の緊密な設計と調整を必要としました)」(Mojo Vision)。

特にバッテリー問題はやはり課題の最たるもので、メニコン側もMojo Vision側と更なる協議が必要と断った上で「給電については一層の技術向上が必要。世界的にも極小サイズのバッテリーに関する分野の研究者は少なく、大手企業のこれに特化した開発は少数です。このような状況から、独創的なアイデアをもったスタートアップも探索する必要があるかもしれません」と新たな技術の必要性を語っていました。

今回の共創は「大手とスタートアップ」という矮小化されたタッグではなく、技術と技術のぶつかり合いに醍醐味があります。

「弊社も創業者から脈々と受け継がれている「創造」、「独創」、「挑戦」を企業理念とし、Mojo社に負けず劣らず、意欲的に研究開発を行っており、スマートコンタクトレンズの分野についても、これまでに様々な取り組みを行って参りました。ARのみならずVRやセンシング等を含めると将来、巨大な市場が予想されており、ゴーグル等では得られないユーザー価値を生み出していくことが、約70年の長きにわたりコンタクトレンズに向き合ってきた我々の使命であると思いから、Mojo社との共創は「必然」ともいうべきものだと感じています(メニコンチーム談)」。

メニコンにはハードレンズにおける材料、レンズケア、フィッティングといったプロダクトノウハウがあるだけでなく、会員制のメルスプランをはじめとするビジネスにおける膨大なユーザーデータも保有しています。そもそもコンタクトレンズは医療機器のため、医師の診断が必要になります。この点、もし両社の共同開発が成功し、実際の販売となればこのルートが活かせることになります。

Mojo Visionによると今回の契約で一連のフィジビリティ・スタディを共同で実施し、これが成功した際にはより広範囲な協力関係を検討するとしています。国産の技術とグローバルサイズでのエッジの効いたテクノロジーが融合するのかどうか。両社の話を伺って、次世代のデバイスをめぐる開発共創の行く末がさらに楽しみになりました。