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アートをARで拡張したら社会はどう変わるーー「augART」で共創するTCMとKDDI Vol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディーをお届けします。 前半では、文化芸術体験をxR技術で拡張するThe Chain MuseumとKDDIの取り組み「augART」について、スタートアップサイドの話題をご紹介しました。 後半では、KDDIとして長…

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディーをお届けします。

前半では、文化芸術体験をxR技術で拡張するThe Chain MuseumとKDDIの取り組み「augART」について、スタートアップサイドの話題をご紹介しました。

後半では、KDDIとして長年au Design projectに携わり、本プロジェクトでスタートアップと共に共創に取り組んだ5G・xRサービス戦略部エキスパート、砂原哲さんに話を伺います。文化芸術をデジタル化するとはどういうことなのか、社会実装のビジョンについて語っていただきました。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答は砂原哲さん、文中敬称略)

はじまりはINFOBARを生み出した「au Design project」

AR×現代アートで目指す、新しい体験づくり

なぜ、文化芸術のデジタル化という文脈でThe Chain Museumさんと共創に至ったのか、きっかけはどのようなものでしたか

砂原:私は2002年にKDDIで「au Design project」を立ち上げて以来、デザイナーやアーティストとお付き合いさせていただく機会が多かったんです。デザイン会社として著名なPARTYの伊藤直樹さんもそうした一人で、彼が今回プロジェクトに参加したThe Chain Museumの遠山さんと一緒に「ArtSticker」という取り組みを始められたと耳にし、それからずっとウォッチしていたんです。

アート世界とテック・デジタルの架け橋ですね

砂原:デザインやアートは狭い世界なのでそうした昔からの色々な繋がりももちろんありますが、それ以上にアートとxRあるいは5Gという特性を考えると、KDDIとしてご一緒させていただくことでアートの世界に新しい風を吹かせることができるのではないかと思ってお声がけさせていただいたというのが大まかな経緯ですね。

xRと文化芸術の組み合わせ的にはどういった先行事例があるのでしょうか

砂原:現代アートの文脈でxRを用いたデジタル体験を提供している取り組みは、実際そこまで多くない印象です。先駆者を挙げるとすればロンドンに本拠地を置くAcute Artという会社があります。有名どころでいえばKAWSなどのアーティストと組んで、作品をARで表現することに取り組んでいますね。あとは、ARアート作品のEC販売にも乗り出していて、例えばAR作品を2週間の期間限定で800円程度で販売するなど、ARと文化芸術の商業利用の分かりやすい動きなのではないかと思っています。

augARTでも、今回、彫刻家・名和晃平さんとコラボレーションし、名和さんにゆかりのある場所の中で、auの5Gが繋がる特定のエリアではAR作品が出現したり、LiDARスキャナなど最新のAR技術を用いることでAR作品の質や精度を高めたりと。現代アート作品をAR化するという流れでは、グローバルレベルでも進んだ活動を展開していると思います。

プロジェクトでは「アートをデジタル化する」ことをどのように捉えているのでしょう

砂原:KDDIとしては5Gの流れやxRの技術を利用して、現代アートの文脈で新しい事業を展開できないかという目論見があります。一方で、KDDIは「au Design project」が立ち上がるきっかけにもなったINFOBAR(インフォバー)に始まり、携帯電話の世界においてプロダクトデザインによる価値表現に力を入れてきた歴史がありました。

しかし、5G時代になり優れたプロダクトデザインがもたらす喜びから、5Gを最大限に活用した豊かなデジタル体験がもたらす喜びにシフトすることにしました。

そして、au Design projectで培った経験・精神を受け継ぎ、文化財や現代アート、メディアアートなど文化芸術体験を拡張するクリエイティブプラットフォーマーの役割を目指す、というのが大きな視点です。

5GやxRを活用したアートのデジタル化というのは、具体的にどのような体験になるのでしょうか

砂原:5Gは、屋外、モバイル環境下でのリッチなxR体験を実現可能にするところに大きな魅力を感じていました。そして単に屋外の現実空間にデジタル情報を重ねるというのでなく、場所性を意識したxR体験を構築することが重要です。その町やその場所の歴史的なコンテキストだったりとか、記憶に沿った作品作りをしないと感動するレベルのxR体験には至らないのでないかと思います。

確かに街とデジタルデータの融合は見る人の記憶に刺激を与えそうです

砂原:5GとxRの技術が確立していく流れの中、現代アートをxR化するということ自体は至極当然の流れだと思います。逆に言えば現代アートと、5GやxR技術を結び付けることで、新しい現代アートの体験が生まれることは必然なのではないかと思ってます。

AR×現代アートで目指す、新しい体験づくり

目の前のオブジェクトや人物がリアルタイムに名和晃平の代表シリーズPixCellへと変貌する「PixCell_AR」

今後、現代アート市場がデジタル化されることでアートビジネスにはどのような変化が起こると思いますか

砂原:私たちとしても、まだまだ始まったばかりのプロジェクトですし、かつグローバルなアートマーケットにおいてAR作品の売買が積極的に行われているような状況ではありません。また、今までの現代アートの流れを踏襲するのであれば、当然真贋証明の問題なども解決しなければいけないと感じています。

また、そうした問題が解決したとしても、xR作品のようなものを買いたいと思う人がどれだけいるのか、あるいは買いたいと思うようなアート作品が生まれるのかは別問題で未知数でもありますよね。

商業化はひとつの目標ではありますが、KDDIとしてはxRのアート作品を売買することにフォーカスするというよりは、どちらかというと現代アートにxRを用いた新しい体験をもたらしてマネタイズしていくことの方が大切かなと思っています。今回の名和晃平さんとの取り組みは全て無償で提供させていただいていますが、ゆくゆくはそうした新しいアート体験に対してなんらかの対価を頂けるようになるが理想的な形だと思います。

TikTokやInstagramのようにセミプロがクリエイティブな世界に足を踏み入れることも多くなってきました。こういったインターネットならではとも言える、クリエイティブの民主化のような流れをどう見られてますか

砂原:鑑賞者がクリエイターになっていく、という流れはもちろん今まさに起こっている流れだと思います。ただ、現時点では、まず現代アートとxRが出会った時、どれだけ質の高い体験を実現できるのか、その可能性を探り、示すことが大事だと感じています。まずは提供者として体験価値の向上に重きを置くべきなのだと思います。

その上でクリエイティブ志向のある方はそうした体験から刺激を受けて、新しい作品を作り始めるとか、そういうマーケットの広がり方が理想なのだと思います。現代アートと5GやxRのような先端テクノロジーを融合させた世界でチャレンジしている人は、まだまだ人材としても少ないので、教育プログラムやアワード開催などを通して人材を育てることにもゆくゆくは力を入れられたらと思っています。

最後に、The Chain Museumさんとの取り組みをKDDIが共創し、作り上げることで社会がどのように変化していくことが理想的でしょうか

砂原:(コロナ禍が突発的に発生する前)元々は現代アートの体験を先端技術でアップデートしていきたいというところから始まったのがこのプロジェクト、共創の取り組みです。ただ世界情勢がコロナ中心に動くようになったことで、例えば美術館に関しても数十万人を動員するような企画展が難しくなったりと、美術界にもデジタル化がより一層求められることが浮き彫りとなりました。

事前予約や作品のEC販売ももちろんデジタル化という文脈では進めるべき道のりの一環です。しかし、私たちとしてはこの機会に全くこれまでと違うアート体験を実現できるチャンスであるとも思っていますし、そこから美術界における新たなマネタイズ手法も生まれてくると期待しています。

そのためにも、まずはきちんと持続可能な事業の形を追い求めなければいけないと感じています。サステイナブルなアートの新しい体験の成功事例を生み出し、結果的にマーケットが盛り上がってみなさんがついてきてくれる状態が最高の結果なのではないかなと信じています。(了)

文化芸術を“デジタル化”する方法ーー「augART」で共創するTCMとKDDI Vol.1

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載 課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。文化芸術のデジタル化とはどのようなものでしょうか。今回取り上げる共創事例は、伝統芸能やアートの世界をデジタル・テクノロジーを通じて現実社会に繋ぎ込む、そんな取り組みについてご紹介します。 芸術を技…

写真左:The Chain Museum 取締役COOの田中潤さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。文化芸術のデジタル化とはどのようなものでしょうか。今回取り上げる共創事例は、伝統芸能やアートの世界をデジタル・テクノロジーを通じて現実社会に繋ぎ込む、そんな取り組みについてご紹介します。

芸術を技術で拡張する「augART」プロジェクト

アートのコミュニケーション・プラットフォームなどを手がけるThe Chain MuseumとKDDIは11月24日、先端技術により日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(ARTS & CULTURE PROGRAM)の取り組みを公表しています。また、その第一弾として世界的に注目を集める彫刻家・名和晃平さんとのコラボレーションプロジェクトを発表しました。

発表されたアプリ「AR x ART(エーアールアート)」では、AR技術で目の前のオブジェクトや人物をリアルタイムに彫刻化する「PixCell_AR」や、リアルとバーチャルが交錯するパブリックアートを出現させる「White Deer_AR」などが提供され、これまでの彫刻の概念をテクノロジーで拡張させるものとして新たな体験の提供が期待されています。

アートを社会とデジタルで繋ぐこの取り組みの意義について、スタートアップサイドでプロジェクトに参加するThe Chain Museumの取締役COO、田中潤さんはこのようにお話されていました。

「我々が提供しているArtStickerは現代美術(コンテポラリー・アート)が中心のサービスですが、例えば『歌舞伎』を鑑賞して、その感動をSticker(投げ銭のようなもの)とともに、感想を役者に伝えられたら、そこでコミュニケーションが生まれますよね。一方的な鑑賞から、双方的な体験に変わるというか。また、実はそんなStickerは、昔からある『おひねり』という文化をDX(※)したものと捉えることもできると思います。あとは、チケットや音声ガイドのDXも、すでにArtStickerの機能としてはありますので、withコロナ時代において、そのようなDXを文化芸術全般に広げていくことは必要であり、The Chain Museumがお手伝いできることだと思っています」(The Chain Museum取締役COO 田中潤さん)。

The Chain Museumはアーティストと鑑賞者の新しい関係性を生み出すことを目的としたアート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker(アートスティッカー)」を開発する、2018年7月創業のスタートアップです。今回、KDDIはKDDI Open Innovation Fundを通じて同社に出資し、5GやXRなどの最先端技術を活用した文化芸術体験のデジタル化を共に推進するとしています。

現在、「ArtSticker」の登録アーティストは1,000組を越えるそうです。プラットフォームでは、アーティストに直接支援と感想を送ることができる「Sticker機能」のほかにも、気になった作品やイベントチケットを購入したり、美術館や芸術祭などで、鑑賞者のスマホで作品の情報を聞くことができる「音声ガイド機能」も提供しています。

なお、両社の取り組みは芸術を技術で拡張する「augART」プロジェクトとして推進されます。

このプロジェクトは文化芸術の幅広いジャンルを対象に、KDDIの最先端技術とThe Chain Museumのアートナレッジを組み合わせ、文化芸術領域でのビジネス創出を推進するものです。今後はこういった文化芸術に関心を持つ企業や教育・研究機関などとの協働も検討するそうです。

彫刻家・名和晃平氏とのコラボレーション

今回のプロジェクト発表の目玉はやはり、彫刻家・名和晃平さんとのコラボレーションにあります。

名和さんの作品の特徴は彫刻の「表皮」に着目した、セル(細胞・粒)という概念にあります。2002年に発表した情報化時代を象徴する「PixCell」や、生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係をテーマに、重力で描くペインティング「Direction」など、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出してきた、国内現代アートを牽引する一人です。

augARTでは、名和さんとのコラボレーション作品として、「AR x ART KOHEI NAWA」を展開します。アプリとして提供されるこの作品では、例えば最新のiPhoneなどに搭載されているLiDARスキャナにより、目の前のオブジェクトや人物がリアルタイムに名和さんの代表作「PixCell」に変化したり、作品をARでコレクションする、といった体験を共有することができます。

「White Deer_AR」では、au 5Gエリアにて作品「White Deer」を探す旅を楽しむことができる

田中さんはこのようなコラボレーション活動により、アートがテクノロジーによって社会実装されることで新たな場づくりにつながり、そしてそれがアーティストたちにとって新たな活躍のきっかけになると語ります。

「The Chain Museumでは『デジタルの場』だけではなく、ArtStickerの登録アーティストと共に、ホテルや商業施設にアートをインストールして『リアルな場』も作っています。リアルの場の中で、5GやxRといった最先端技術を使うことでDX=便利になる、だけでない、これまでにない新たな体験も一緒に企んでいます。また、プラットフォームづくりだけでなく、ArtStickerには1,000組を超えるアーティストに登録いただいているので、彼等に5GやxRという新しいメディウムを提供することで、どのような作品ができるのか、そんなコラボレーションもできると思います」(The Chain Museum 田中さん)。

次回はKDDIサイドでこの共創事例に取り組んだチームの話題をお届けします。

※編集部註:DX・・デジタルトランスフォーメーション、デジタル化、業界のデジタルシフトを指す