文化芸術を“デジタル化”する方法ーー「augART」で共創するTCMとKDDI Vol.1

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写真左:The Chain Museum 取締役COOの田中潤さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。文化芸術のデジタル化とはどのようなものでしょうか。今回取り上げる共創事例は、伝統芸能やアートの世界をデジタル・テクノロジーを通じて現実社会に繋ぎ込む、そんな取り組みについてご紹介します。

芸術を技術で拡張する「augART」プロジェクト

アートのコミュニケーション・プラットフォームなどを手がけるThe Chain MuseumとKDDIは11月24日、先端技術により日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(ARTS & CULTURE PROGRAM)の取り組みを公表しています。また、その第一弾として世界的に注目を集める彫刻家・名和晃平さんとのコラボレーションプロジェクトを発表しました。

発表されたアプリ「AR x ART(エーアールアート)」では、AR技術で目の前のオブジェクトや人物をリアルタイムに彫刻化する「PixCell_AR」や、リアルとバーチャルが交錯するパブリックアートを出現させる「White Deer_AR」などが提供され、これまでの彫刻の概念をテクノロジーで拡張させるものとして新たな体験の提供が期待されています。

アートを社会とデジタルで繋ぐこの取り組みの意義について、スタートアップサイドでプロジェクトに参加するThe Chain Museumの取締役COO、田中潤さんはこのようにお話されていました。

「我々が提供しているArtStickerは現代美術(コンテポラリー・アート)が中心のサービスですが、例えば『歌舞伎』を鑑賞して、その感動をSticker(投げ銭のようなもの)とともに、感想を役者に伝えられたら、そこでコミュニケーションが生まれますよね。一方的な鑑賞から、双方的な体験に変わるというか。また、実はそんなStickerは、昔からある『おひねり』という文化をDX(※)したものと捉えることもできると思います。あとは、チケットや音声ガイドのDXも、すでにArtStickerの機能としてはありますので、withコロナ時代において、そのようなDXを文化芸術全般に広げていくことは必要であり、The Chain Museumがお手伝いできることだと思っています」(The Chain Museum取締役COO 田中潤さん)。

The Chain Museumはアーティストと鑑賞者の新しい関係性を生み出すことを目的としたアート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker(アートスティッカー)」を開発する、2018年7月創業のスタートアップです。今回、KDDIはKDDI Open Innovation Fundを通じて同社に出資し、5GやXRなどの最先端技術を活用した文化芸術体験のデジタル化を共に推進するとしています。

現在、「ArtSticker」の登録アーティストは1,000組を越えるそうです。プラットフォームでは、アーティストに直接支援と感想を送ることができる「Sticker機能」のほかにも、気になった作品やイベントチケットを購入したり、美術館や芸術祭などで、鑑賞者のスマホで作品の情報を聞くことができる「音声ガイド機能」も提供しています。

なお、両社の取り組みは芸術を技術で拡張する「augART」プロジェクトとして推進されます。

このプロジェクトは文化芸術の幅広いジャンルを対象に、KDDIの最先端技術とThe Chain Museumのアートナレッジを組み合わせ、文化芸術領域でのビジネス創出を推進するものです。今後はこういった文化芸術に関心を持つ企業や教育・研究機関などとの協働も検討するそうです。

彫刻家・名和晃平氏とのコラボレーション

今回のプロジェクト発表の目玉はやはり、彫刻家・名和晃平さんとのコラボレーションにあります。

名和さんの作品の特徴は彫刻の「表皮」に着目した、セル(細胞・粒)という概念にあります。2002年に発表した情報化時代を象徴する「PixCell」や、生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係をテーマに、重力で描くペインティング「Direction」など、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出してきた、国内現代アートを牽引する一人です。

augARTでは、名和さんとのコラボレーション作品として、「AR x ART KOHEI NAWA」を展開します。アプリとして提供されるこの作品では、例えば最新のiPhoneなどに搭載されているLiDARスキャナにより、目の前のオブジェクトや人物がリアルタイムに名和さんの代表作「PixCell」に変化したり、作品をARでコレクションする、といった体験を共有することができます。

「White Deer_AR」では、au 5Gエリアにて作品「White Deer」を探す旅を楽しむことができる

田中さんはこのようなコラボレーション活動により、アートがテクノロジーによって社会実装されることで新たな場づくりにつながり、そしてそれがアーティストたちにとって新たな活躍のきっかけになると語ります。

「The Chain Museumでは『デジタルの場』だけではなく、ArtStickerの登録アーティストと共に、ホテルや商業施設にアートをインストールして『リアルな場』も作っています。リアルの場の中で、5GやxRといった最先端技術を使うことでDX=便利になる、だけでない、これまでにない新たな体験も一緒に企んでいます。また、プラットフォームづくりだけでなく、ArtStickerには1,000組を超えるアーティストに登録いただいているので、彼等に5GやxRという新しいメディウムを提供することで、どのような作品ができるのか、そんなコラボレーションもできると思います」(The Chain Museum 田中さん)。

次回はKDDIサイドでこの共創事例に取り組んだチームの話題をお届けします。

※編集部註:DX・・デジタルトランスフォーメーション、デジタル化、業界のデジタルシフトを指す

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