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米国で本格ラーメンEC「Ramen Hero」ーー 日本人起業家が目指す「世界的ブランド」確立への道(前編)

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鳴り物入りで登場したラーメン屋が、今やラーメンの域を超えてまでの成長を見せようとしている。 日本人起業家の長谷川 浩之氏が立ち上げた「Ramen Hero」は誰でも10分で本格ラーメンを作って楽しめる料理キットを販売するEコマース企業。2017年から米国カリフォルニア州で販売を開始し、現在は48州展開。2019年の注文数は6,000件超、売上は前年度比283%成長した。 いわゆる「ラーメン・スター…

Ramen Hero創業者、長谷川浩之氏

鳴り物入りで登場したラーメン屋が、今やラーメンの域を超えてまでの成長を見せようとしている。

日本人起業家の長谷川 浩之氏が立ち上げた「Ramen Hero」は誰でも10分で本格ラーメンを作って楽しめる料理キットを販売するEコマース企業。2017年から米国カリフォルニア州で販売を開始し、現在は48州展開。2019年の注文数は6,000件超、売上は前年度比283%成長した。

いわゆる「ラーメン・スタートアップ」がRamen Heroだ。誰もが一見すると、スタートアップが避けるべきオフラインコストのかかる事業だと感じる。ただ、市場機会は明るい。近年は毎年17%前後でラーメン店舗数が増えているという米国。

市場規模は42億ドルほどだが、同市場は未だ旧態依然としている。多くの店が業務用のスープを薄めて提供するスタイルを採用しており、どの店も同じ味になっていたり、見様見真似でラーメンとは呼べないようなものを出していて、クオリティの高い店鋪は全米の中でもごくわずかだ。日本のラーメンチェーンがニューヨークやロサンゼルスなど一部の大都市で店舗展開をし、本格ラーメンを提供するケースもあるが、提供地域は限定的で、EC化も進んでいない。

スタートアップの成長志向の考えが行き渡っていないため、イノベーションが起こっていないのが現状と言える。そのため十分に市場寡占できる可能性を秘めるのがラーメン市場であり、ここに目をつけたのが長谷川氏である。

本記事では長谷川氏への取材をもとに、Ramen Heroのビジネスを紐解いていきたい。

Ramen Heroの提供価値は「ハイクオリティ + 手軽さ」

画像提供:Ramen Hero

元々Ramen Heroは、真の日本ラーメン店へアクセスできない、「アクセシビリティ」の課題解決を目指し立ち上がった。アクセシビリティには2種類存在する。1つは文字通り、店舗へアクセスできない問題だ。

長谷川氏:米国市場では、味千ラーメンや一風堂といった大規模チェーン、最近ではAFURIや凪といった東京で人気を博し、海外にも出店を進めているグループが展開しつつあります。また、都内でラーメンファンに人気の個人店が国内展開もほどほどに、米国に出店するケースなども少しずつ出てきました。

しかしラーメン店のほとんどが都市部にあります。特にニューヨークが激戦区です。ただ、店舗数は限られ、行列が長くあり、時間をかけないとラーメンを楽しめません。そもそも、米国人口50%超の1.75億人が住む郊外では本格ラーメンを楽しめる機会はほとんどありません。また、仮に店舗が近くにあっても、忙しかったり、小さい子供がいる家族層はなかなか足を運べません。

もう1つのアクセシビリティはスキルだ。続けて同氏は次のように語る。

長谷川氏:米国のラーメン店では専門店はごく一部。日本食やアジア系のレストランを中心にラーメンが提供されているのが大半です。ですが多くの場合、ラーメン作りの経験がある人が厨房にはいません。往々にしてベンダーが作っている濃縮スープなどのラーメン商材を使って提供されています。

家賃や回転率など、様々な事情から構造的にそうせざるを得なくなっているのですが、種類が限られているためどの店舗へ行ってもだいたい似たような味が提供されます。色々と食べ歩いてみましたが、日本で食べられるような本格的なラーメンを楽しめる場所がほとんどありませんでした。

そこでRamen Heroはソリューションとして、高品質、かつ手軽に調理できるラーメンをEC販売することにした。ラーメンの調理経験がなくとも全米のどこに住んでいても本格ラーメンを気軽に楽める機会を提供し、新たなアクセシビリティを生み出しているのだ。

画像提供:Ramen Hero

長谷川氏がRamen Heroを説明する際、すぐに理解してもらうために「ラーメン・ミールキット」のフレーズを用いていた。しかし本質はそこにはない。確かに業態はミールキットであるが、提供価値は違うところにある。まず、従来のミールキットに関して次のように語る。

長谷川氏:米国で展開されるミールキットサービスは一通り試しました。BlueApronのように食材とレシピが一緒に届くもの。Freshlyのようにパッケージ化されてレンジに入れればすぐに出来上がるものまであります。どちらも大きく成長しています。ただ、味は特別美味しいというわけではありません。

そもそもミールキットの配達が大変である問題もあるため、完成度はまだまだこれだと感じたのが正直なところです。まだ発展途上であり、これからに期待といったところなので逆に言えば、味のレベルがそこそこのものであっても事業として成立し、上場できるほど寛容で巨大な市場があります。

それではなぜ市場は寛容性を保っているのかと考えました。答えとして、ミールキットの本質的な提供価値に行き着きました。それは「面倒さの代行」です。買い物に行く面倒や、レシピを考える面倒を解決するのが従来のミールキットであるため、味は二の次。そのため、例え食品自体の完成度がそこまで高くなくても支持されているのです。

従来のミールキット事業者は、様々な競合を迎える必要がある。生鮮食材配達の「Instacart」や「GoodEggs」のようなプレイヤーや、食品配達の「UberEats」「DoorDash」、在宅が増えて自炊する機会が増えれば、自前の料理とも競合することになる。「面倒さの代行」の代わりの手段はいくらでも出てくるレッドオーシャン市場だ。

一方、Ramen Heroの「高品質な食品へのアクセシビリティ」の代替手段はほとんど存在しない。日本のラーメン学校で学んだ日本人起業家が立ち上げた、在宅で楽しめるラーメンブランドは皆無、つまりブルーオーシャン市場を選んだのだ。自炊しようが食材配達サービスを使っても穴埋めできない価値だ。

それゆえ、一見してミールキットサービスに見えるRamen Heroは、全く違う領域で市場を攻略しようとしている。ニッチに見えて北米のラーメン市場は4,000-5,000億円規模。これを寡占できる巨大な商機を独り占めできる非常に理に沿った、賢い戦略を採用しているのだ。

画像提供:Ramen Hero

また、ターゲット領域として「Speciality Food」のポジションを狙っていくのだという。日本で言えば、成城石井のような高級スーパーで扱われている食品がまさに該当するだろう。現在はフローズンフードが伸びている同市場は1,500億ドルほどの規模があるという。小売市場全体で見れば「Luxury Commerce」と呼ばれる領域だ。

Speciality FoodのEC化は2.5%程度で、市場規模は30億ドルほど。長谷川氏はEC化が10-15%まで伸びると踏んでいるとのこと。このEC領域を狙う。

少し値段は張るが、満足度の高いEC食品プロバイダーとしての認知をこれからも目指すという。近くの中途半端なラーメンしか出さない、中途半端に高い日本食レストランに行くのと同じ予算間であるならば、冷凍で長期保存ができ、食べたい時にさっと取り出して10分ほどで高品質なラーメンを作れるRamen Heroを楽しもう、といった選ばれ方を目指す。(後半に続く)

日本人起業家がラーメンで米国市場を制す!「Ramen Hero」が米国著名アクセラレータ「AngelPad」卒業を発表

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2019年3月7日、長谷川浩之氏がサンフランシスコで創業した「Ramen Hero」が米国著名アクセラレータ「AngelPad 」のプログラムを卒業したことを発表した。日本人起業家で同アクセラレータ・プログラムを卒業するのは初である。 Ramen Heroは2018年から本格展開を始めたラーメンスタートアップである。米国ミールキットサービス「BlueApron」同様に、冷凍処理されたラーメンキット…

Image Credit: Ramen Hero

2019年3月7日、長谷川浩之氏がサンフランシスコで創業した「Ramen Hero」が米国著名アクセラレータ「AngelPad 」のプログラムを卒業したことを発表した。日本人起業家で同アクセラレータ・プログラムを卒業するのは初である。

Ramen Heroは2018年から本格展開を始めたラーメンスタートアップである。米国ミールキットサービス「BlueApron」同様に、冷凍処理されたラーメンキットが毎週配達される。「本物のラーメンを届ける」ことをミッションに置く。

味噌ラーメンから豚骨ラーメンまで、現在メニュー数は9種類に及ぶ。展開エリアはカリフォルニア・オレゴン・ワシントン州の3州。2018年の合計売上高は10万ドル、注文数は1,900を達成した。2018年第4四半期の売上高は第1四半期比で約7倍へと成長(数値はカリフォルニア州のみ)。

米国市場におけるラーメン店舗数は2006年の235から2016年には1,200にまで成長したという。年間出店成長数は15〜20%の高い成長率を誇る。

前述の通り、米国を中心にラーメンは寿司と並ぶほどの市民権を獲得し始めている。しかし米国ではラーメン店舗が増え続けている一方、クオリティの高い店舗は限りなく少なくそういった店舗では1〜2時間の行列が当たり前に発生、非常にアクセスしづらい問題が発生していた。そこでRamen Heroはこの市場ギャップに目をつけEC特化のラーメン屋の立ち上げを決めた。

Image Credit: AngelPad

AngelPadはニューヨークとサンフランシスコに拠点をアクセラレータ。2010年の立ち上げから約140社のスタートアップを輩出した。代表的な輩出企業にはオンデマンド配達サービス「Postmates」やSNS予約投稿サービス「Buffer」が挙げられる。

半年に一度、約2,000通の応募の中から15社を選出してプログラムを実施。2016年から「Y Combinator」や「Techstars」と並び、アクセラレータカテゴリー最高クラスのプラチナム・プラスの称号を得ている

他社が比較的大規模にプログラムを展開する中、AngelPadは小規模でみっちりとスタートアップを育てるスタイルを貫き、メディアや投資家からはしばしば「アンチ Y Combinator」と呼ばれる存在になっている。

長谷川:大学時代には週5日以上新しいラーメン屋開拓をするほど幼い頃からラーメンが好きでした。しかし米国ではラーメン市場が盛り上がっている反面、クオリティの高い店が少なく、数少ない良い店は大行列で美味しいラーメンにアクセスしづらい。日本とは大きなギャップのある実情を見てラーメン事業のアイデアを思いつきました。

アイデアが浮かんでからすぐに日本のラーメン専門学校に修行へ。再帰国後にオフィスケータリングやホームパーティーでラーメンを提供しながらお客さんからフィードバックをもらいました。

試作を作り続けていくなかで商圏に制限のないミールキットサービスを試してみようと考えました。すぐにKickstarterで小さなキャンペーンをローンチ、2日経たずに成功したことからニーズが確実にあると実感。そこから本日のRamen Heroに至ります。

将来的にはB2B向けの展開も考えておりRamen Heroブランドのラーメンが食べられる店舗を全米に展開、誰もがクオリティの高いラーメンに手軽にアクセスできるネットワークを増やしていきたいと考えています。これはBlueApronのような分野横断型のミールキットと異なり、Ramen Heroが単一カテゴリに特化しているために取れる戦略です。

米国では必ず“Ramen”は次の“Sushi”となると確信しています。この市場トレンドに乗っかり米国No.1のラーメンブランドを作りたいと思っています。

筆者がサンフランシスコにいた頃、創業者の長谷川氏とは一緒のシェアハウスに住んでいた。当時は投資家が手軽にスタートアップへ投資できる全く別のアイデアを家で話していた記憶があるが、ある日突然Ramen Heroを思い付き、一時帰国をして香川県のラーメン専門学校へ修行の旅に出掛けて行ってしまった。

正直に言うと、当時はなぜラーメン事業にポテンシャルがあるかもピンと来なかった。また、0からミールキットサービスを立ち上げるには食料の調達から物流まで、あらゆることをこなさなければならない困難が待ち受けることが容易く想像できた。

いわゆる本屋に並ぶ起業家向けビジネス書に倣えば、スタートアップが立ち入るべき領域ではなかったのは明らかであった。しかし、サンフランシスコで出会ってから数年越しに彼の記事を執筆していると、筆者が持っていた「スタートアップのテンプレート」が全く通じないことに改めて気付かされる。

たしかにSaaS分野とは違い時間はかかるかもしれない。しかしシンプルに顧客の課題解決を目指せば、たとえリアルビジネスであっても成長の芽を摘むことなくスタートアップとして大きく成長できると思わされる。急成長を遂げられる「ティッピングポイント」をいずれは迎えられる好例になるに違いないと感じさせられる。

AngelPadのプログラム卒業は、長谷川氏の完全な逆張りと諦めずにオペレーション確立を数年をかけて着実に行ってきた成果がようやく実を結び始めた証左であろう。

この半年ほどでサンフランシスコに渡った同世代の起業家たちの嬉しいニュースをたくさん聞くようになり、徐々に国外で活躍する日本起業家たちが大きな台風の目を作りつつある。Ramen Heroもその一翼になることは本件で確実になるはずだ。