THE BRIDGE

タグ IVP LP Summit 2013 Winter

IVPが開設した北京のインキュベーション・スペース「TechTemple」を訪ねて(3/3)——百度、小米、今年の中国テックシーンをにぎわせた面白スタートアップ

SHARE:

Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)が北京市内に開設したインキュベーション・スペース「TechTemple(科技寺)」の訪問記を三回に分けて書いてきたが、いよいよ最終回だ。 今回は、中国で勢いのあるスタートアップ・ニュースサイト「36気(36kr)」の CEO 劉成城(CC Liu)氏が直々に教えてくれた、中国で人気を博す面白スタートアップと、百度(Baidu…

baidu_entrance

Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)が北京市内に開設したインキュベーション・スペース「TechTemple(科技寺)」の訪問記を三回に分けて書いてきたが、いよいよ最終回だ。

今回は、中国で勢いのあるスタートアップ・ニュースサイト「36気(36kr)」の CEO 劉成城(CC Liu)氏が直々に教えてくれた、中国で人気を博す面白スタートアップと、百度(Baidu)とXiaomi(小米)の訪問についてお伝えする。

ただ一人の女性にしかバラを贈れない「Roseonly

第一話で触れた11月11日の「独身の日(光棍節)」をはじめ、カレンダーに記念日を見つけては商いの種にするのは、ビジネスに長けた中華民族のDNAが成し得る技かもしれない。中国の七夕は旧暦で祝われるため8月26日。バレンタインデーを「情人節」と呼ぶのに対し、8月26日を「中国情人節」と呼んで、恋人にプレゼントを送る年に二度目の日とされているらしい。そして、この好機を中国のeコマースサイトが見逃すわけが無い。

THE BRIDGE では、以前この記事でも紹介したが、Roseonly は今年9月にオープンしたばかりのオンラインフラワーストアだ。料金は1,000元(約1.7万円)とかなり高級志向だが、贈る相手を指定すると、イケメンが相手の元まで BMW でバラを届けてくれる。

このサイトが面白いのは、サインアップの際、男性ユーザが身分証を登録する必要があり、バラを贈る相手の女性が一人しか登録できないことだ。つまり、二股三股をかけている男性はこのサービスを使えず(正確に言うと使えるが、その中の一人にしかバラを贈れない)、一度登録した相手の女性は基本的に変更ができない。つまり、Roseonly にサインアップしたときに付き合っていたガールフレンドと break up した場合、新しく付き合うガールフレンドには Roseonly からバラを贈れないことになる。

前述の「中国情人節」の日に、Roseonly は実に1,100万人民元(1億8,700万円)を売り上げた。ざっくりで、1.1万人の男性がこの日に Roseonly を使った計算になる。この実績をもとに、Roseonly はさっそく、Tencent(騰訊)から、シリーズBラウンドで1,000万ドルを調達した

バラの次には、特定の女性に対してのみ、チョコレートを贈れるサービスを計画しているとのことだ。おそらく、来年の2月14日を見据えた動きと考えて間違いない。Roseonly のサービスでバラやチョコレートを受け取る女性からしてみれば、相手の男性は「自分にとって本命」ということを担保できるのかもしれないが、残念ながら、このサービスを受けた女性のコメントを取る機会は無かったので、彼女達の真意は今のところ不明である。

いつでもどこでも、アヒルの首を30分でお届け「哈哈鏡鴨脖(Magic Mirror Duck Necks)

hahajing_screenshot

中国では、アヒルの首の肉がごちそうらしい。哈哈鏡(中国語で、「ハーハージン」)は、中国全土に1,600店舗を有するアヒル肉専門のチェーン店で、オーダーするとどこでも30分以内(おそらく田舎は無理)に料理を届けてくれる。日本でピザのデリバリーを頼むのより速いかもしれない。

哈哈鏡は営業開始から4年目だが、年商は実に7億元(約120億円)に達する。ちなみに、日本の宅配ピザ最大手のピザーラは535店舗、TO THE HERBSなども加えた全事業で、年商570億円に成長するまでに20年かかっていることを考えると、哈哈鏡のスピードがいかに速いかがわかる。

とはいっても、日常的にアヒルの首を食べている人を見かけるわけではないので、まだまだ筆者も中国体験が浅いと思っていたら、哈哈鏡のターゲット層は、週末に家から外出しない中国のオタク族なのだと教えてくれた。彼らは、Tokyo Otaku Mode優酷(Youku)でSNH48の動画を見ながら、今日もアヒルの首をほおばっているに違いない。

名実ともに、中国の Google となった百度(Baidu)

baidu_lobby1

TechTemple でのピッチの合間を縫って、百度(Baidu)の本社を訪れることができた。百度は、中国のIT企業が軒を連ねる中関村軟件園(ソフトウェアパーク)の一角にある。筆者は中関村を十回以上訪れているのだが、想像以上に中関村と呼ばれるエリアが広いことを、今回初めて知った。北京の北西部概ね半径3キロ位はあるだろうか。最初に訪れた頃から膨張しているように思われ、もはや「村」という表現は合わないような気もする。

玄関を入ると、1Fのロビーには、中国全土からいかにアクセスが寄せられているかを示す地図が表示されていたが(写真下)、ここでシャッターを切ったのを最後に、多くの大手ネット企業等と同じく撮影禁止ということで、オフィス内の写真は無い。CEO の李彦宏(Robin Lee)氏が創業して今日に至るまでの、百度の経緯が説明された部屋に案内されるので、北京を訪問する予定のある読者は、ぜひ百度にも足を運んでみることをお勧めする。創業者・李彦宏氏については、以下のスライド「李彦宏の百度世界」が詳しいので参考にしてほしい。

百度では、日本でもサービスを展開する Hao123 の説明を受けたが、Hao123 についてはこの拙稿に詳しいので、ここでは省略する。

本社前の通りには、社員の通勤送迎をするバスが所狭しと並んでいた。北京市内は地下鉄が発達しているものの、通勤ラッシュは日本と同等かそれ以上に混雑がひどく、おそらく、バスは優秀な社員に百度で働き続けてもらうための一つの手段でもある。その光景はどこかで見た記憶が…そうだ Google だ。どこまでもが Google に似ているが、Google を超える日も近いかもしれない。

baidu_lobby2

ファンコミュニティを形成し、中国人の日常に浸透しつつある小米(Xiaomi)

xiaomi_entrance

小米(Xiaomi) は、以前、金山軟件(Kingsoft)というソフト会社を経営していた雷軍(Lei Jun)氏が創業した、スマートフォンメーカーだ。先月末、小米が微信(WeChat)を使って、15万台のスマートフォンを10分間で完売したという話は、記憶に新しい。2012年の販売実績は、スマートフォン719万台で売上は126億元(約2,140億円)。ちなみに、2013年は第一四半期だけで既に703万台/132億元(2,240億円)を売っているので、急激な成長曲線を描いているのは間違いないだろう。

世界のスマートフォンメーカーが、ハードウェアをモデルチェンジし続け、新機種を客に買ってもらうことで需要を創出しているのに対し、小米には基本的にその考え方が無い。その現れとして、45機種あるすべての小米のスマートフォンに対し、週に一度はファームウェアのアップデートを配信している。これまでに通算で163回のアップデートを実施したそうだ。典型的なスマートフォン・メーカーやキャリアとは、明らかにビジネスモデルが違うのである。

これ以外にも、小米社区と呼ばれる掲示板では、ユーザーから寄せられたすべての質問について小米社員が回答している。また、小米の名前になぞらえて「小米爆米花全国行(Xiaomi Popcorn All-China Tour)」と呼ばれるファンイベントを、これまでに中国全土で26回にわたり開催している。昨年の重慶で行われたイベントの様子が上がっていたので(下)、これを見ればイメージが湧くだろう。いずれにせよ、小米と小米ユーザの距離が非常に近く、常にユーザファーストで物事が進められている。概して、中国企業はユーザ・ホスピタビリティが低いとされる中、筆者の目には非常に意外に映った。

最近では、ブロードバンド回線を使った Apple TV のようなサービス「小米盒子(Xiaomi Hezi)」、写真やメッセージがやりとりできるクラウドサービス「小米雲(MiCloud)」、メッセージアプリ「米聊(Miliao)」など、小米のサービス多角化展開には目を見はるものがある。その規模やサービスの完成度から言えば、十分に中国国外にも展開を始めてもよさそうなもので、十分に日米欧の同業他社と張り合えるレベルだが、それをやらないのは、現時点では、同社が中国国外に大きな関心が無いからかもしれない。

xiaomi_smarttv


今回の訪中を受けて、改めて頭の中を整理してみたのだが、中国のスタートアップやインターネット企業は2つに大別できると思う。中国国内に市場を求めるサービスと、中国国外に市場を求めるサービスだ。

前者は国内の莫大な人口がポテンシャルユーザであるため、語弊を恐れずに言えば、基本的に中国国外への世界展開には興味がない。これは、アメリカのスタートアップがサービスのグローバル化にはあまり関心がなかったり(たまたま、アメリカ市場向けに作ったものが、世界のユーザにフォローされるケース)、日本のスタートアップが海外展開に積極的ではなかったり(国内に相応規模の市場があるケース)するのと、事情は似ているかもしれない。対照的に、韓国や東南アジア諸国など、国内に十分な市場が無い地域のスタートアップは海外進出が前提条件である。

一方、後者は、外国人がローンチしているサービスが多い。第二話で紹介した AppAnnie などはその典型であろう。政治的な諸問題や PM2.5 に代表される社会不安がありながらも、「中国は第二の故郷」と言って本拠地を北京に据える彼らは、ネガティブな側面にまさる可能性をこの国に感じているのだろう。

THE BRIDGE のパートナーでもある Technode も、北京の798芸術区に「The Node」というコワーキング・スペースを開設するなど、北京のスタートアップ・シーンは以前に増して活況を呈している。今後も THE BRIDGE では中国のスタートアップの最新情報をお伝えしていきたい。

最後に、今回の TechTemple 訪問をはじめ、貴重な機会への帯同を許可いただいた、Infinity Venture Partners の皆さんに紙面を借りて謝意を表する。

----------[AD]----------

IVPが開設した北京のインキュベーション・スペース「TechTemple」を訪ねて(2/3)——中国のスマホシフトを牽引する、新進気鋭スタートアップ

SHARE:

Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)は先頃、北京市内にインキュベーション・スペース「Tech Temple(科技寺)」したが、筆者は11月11日~13日の3日間、IVP の LP Summit に帯同する形で、Tech Temple(科技寺) を訪問する機会を得た。前回に引き続き、その際のピッチの模様をお届けする。 今回ピッチした8社のうち、後半の4社は特にモ…

beijing-skyline

Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)は先頃、北京市内にインキュベーション・スペース「Tech Temple(科技寺)」したが、筆者は11月11日~13日の3日間、IVP の LP Summit に帯同する形で、Tech Temple(科技寺) を訪問する機会を得た。前回に引き続き、その際のピッチの模様をお届けする。

今回ピッチした8社のうち、後半の4社は特にモバイル、特にスマートフォンに特化したソリューションを提供するスタートアップが多数を占めた。古くは山寨機(シャンザイキ)、最近では小米(Xiaomi)がスマホベンダーとして台頭するなど、これからの世界のスマホ業界を牽引するのは Saumsung や HTC ではなく、中国のスタートアップかもしれない、そんな思いを新たにさせられる、一連のセッションだった。

安米網(Appbyme)

appbyme_screenshot

安米は、アプリの開発やデザインの経験の無い人たちに、自らアプリを作る環境を与えてくれるクラウドサービスだ。アメリカにも、InvisionFlinto など、スマートデバイス・アプリのプロトタイピングを実現してくれるサービスは存在するが、安米ではアプリ開発を完結し、マネタイズまで支援する。

中国国内には、DiscuzphpwindWordPress などPHPのよるCMSを使って、BBS(電子掲示板)を運営しているウェブマスターが多数存在する。BBSには既にユーザがついているので、スマートデバイスのネイティブアプリ 化をすると、そのままアプリのユーザになってくれるわけだ。ウェブマスターはテンプレートを選択して簡単に アプリが作成でき、プッシュ通知、ローカル広告、位置情報ゲーム、ソーシャルメディアによる共有機能、共同購入などの機能が自動的に追加できる。

appbyme-zhao-jian_at_techtemple
安米網CEO 趙健氏

安米の共同創業者である趙健(Zhao Jian)氏は、安米を始める前、中国のケータイ向け検索エンジン「YICHA(易査)」の技術責任者を務めていた。あらゆるサービスがモバイル化されていく中で、モバイルではコンテンツが検索しにくくなることに問題を感じており、モバイルでも十分に機能する検索のしくみを作りたいというのが、彼のビジョンだ。

これまでに、安米には5,400人のウェブマスターが登録していて、ここから5万件を超えるアプリがリリースされている。そのアプリを使うユーザの数は計3,000万人。同じ分野には、中国の AppCan追信(Zhuixin)などが存在するが、ユーザ数やアプリの数の点で、安米は他の群を抜いている。ビジネスモデルは、広告、開発者とのレベニューシェア、大規模デベロッパ向けのサブスクリプションの3つだ。

中国のBBSコミュニティには、北京や上海などの中央からは完全に独立したエコシステムが存在するようだ。趙氏によれば、地元の情報が手に入る地方都市のポータルがホットで、中でも、浙江省のある都市のポータルなどは非常に人気が高い。そこには、中央のウェブサイトにはないビジネスが存在し、安米は地方のウェブコミュニティに眠るビジネスチャンスを着実にマネタイズしていこうとしている。今後は、サービスを英語、日本語、韓国語にも対応させ海外展開を図る。

SayHi!(日本名:スマとも)

sumatomo_screenshot
SayHi!(スマとも)は、世界に展開している出会い系アプリで、デイリーアクティブユーザ(DAU)は65万人に上る。ユーザ はサウジアラビアなど中東に多く、そのほか、日本を含むアジア地域など。中国で開発されているアプリだが、 中国ではサービスしていない。市場の需要やマネタイゼーションの関係で、中国で開発しながら国外にのみ展開しているサービスが少なくない。

スマともでは、GPS 連動でユーザは近隣の他ユーザとチャットすることができるが、チャットするにはポイントが必要で、男性陣が人気のある女性とチャットするときには、1時間 につき1ポイントが徴収される。月額6,000円のVIP会員になれば、時間を気にせずチャットを楽しむことができる。

開発元の易思卓(Easyroid)CEO 史岩(Shi Yan)氏によれば、現在、iOSAndroid、Windows Mobile 向けにアプリを提供しており、画面全体にアニメーションが動く機能などによって、他のメッセンジャーアプリ等とも差別化を図っており、売上ベースで全体の29%が日本市場からもたらされているとのことだ。

sayhi_at_techtemple2
ピッチする、易思卓(Easyroid)CEO 史岩氏。

同様の機能を持つメッセンジャーアプリとしては、中国では Momo(陌陌)遇見などが強いが、世界的に見ると、BadooSkout などがより収益を挙げている。今後、SayHi! はエンターテイメント機能、ゲーム機能を追加し、ライバルアプリとの差別化を図りたい意向だ。

微世界(vWorld)

vworld_snapshot微世界(vWorld)の CEO を務める高嵩(Gao Song)氏は、かつて、金山軟件(HKG:3888、Kingsoft)のゲーム部門だった上水軒で、最高責任者を務めた人物だ。高氏によれば、中国のスマートフォンユーザは、主に学生とホワイトカラーからなる3億5,400万人に上るという。彼らには共通する特性がある。

  • 幼い頃からゲームに親しんできたので、ゲームのクオリティにはうるさい。
  • ソーシャルメディアを使ったシェアに慣れている。
  • 競争心が強い。

微世界は、リアルな場所の陣地取りをモバイルで楽しめるゲームアプリだ。Foursquare でチェックインの数を競ってメイヤーになるのではなく、ユーザ同士がゲーム上で戦い、その結果勝てれば、その場所のリーダーになることができる。勝ち進めるごとにポイントも上がって行く。

ゲーム上で北京市内のさまざまな場所を攻めて陣地を確保できたら、次は上海に行って攻める、というような世界感を提供したいと考えている。アプリはGPSと連動していて、高徳(Autonavi)のAPIを使って実在の場所と紐づく仕掛けになっているため、ゲームを使ったO2O(online to offline)サービスでマネタイズすることを展望している。

vworld_at_techtemple
vWorld CEO 高嵩氏

近日、映画のプロモーションをアプリ上で行い、アプリの中でチケットの購入まで行えてしまうサービスのテストを実施する予定だ。現在はまだオープンベータ版によるテスト中だが、来年の春節(1月31日)までにユーザ数100万人、DAU(デイリーアクティブユーザ数)10万人にまで持って行きたいとしている。

App Annie

THE BRIDGE ではモバイルアプリを紹介する際、頻繁に App Annie の値を引用するので、読者の多くにとっては、App Annie のサービスがどのようなものであるか、改めて説明は不要かもしれない。初めてこの名前を目にする人のために説明すると、モバイルアプリのダウンロード統計プラットフォームだ。iOS / Android / BlackBerry / Windows Mobile などのモバイルアプリについて、どのアプリがどの市場で人気で、どの程度稼いでいるかを知ることができる。

App Annie は本社を北京に置いているが、同社CEO Bertrant Schmitt によれば、現在、世界6都市のオフィスに130人の社員を擁している。今年の9月、シリーズCラウンドで Sequoia Capital、IDG Capital Partners、Greycroft Partners、Infinity Venture Partners から1,500万ドルを調達したのは記憶に新しいところだ。

appannie-bertrant-schmitt_at_techtemple
App Annie CEO Bertrant Schmitt

Bertrant は、App Annie の成長の経緯よりも、むしろ、世界のモバイルアプリの動向について知見を共有してくれた。現在のモバイルアプリ業界を見てみると、中国では iOS AppStore が成長しているのに対し、中国を除いた BRIC(ブラジル、ロシア、インド)では Google Play が著しい躍進を見せている。一方、売り上げベースで見てみると、やはり大きな数字をたたき出しているのは先進国が中心で、Android アプリの調子がいいのはアメリカと日本、特に Android と iOS の売上がうまくバランスがとれているのが日本市場、ということだ。(いずれも2013年9月現在のデータ)

appannie-index-2013q3

アプリ・デベロッパにとっては、自分のアプリがどの市場でどの程度売れているのか、正確な情報がわからないと開発やデザインの戦略プランを描くことができない。App Annie で市場動向を把握し、さまざまなグロースハック・ツール等を活用することで、デベロッパが〝売れるアプリ〟を試行錯誤するためのプロセスは格段に効率的になった。

App Annie 統計の概要をインフォグラフィックの形で公開して呼び水にし、想定顧客を自社サイトに誘導している。より詳細な情報が欲しい顧客にはプレミアムアカウントで情報を販売する、というビジネスモデルは、マネタイゼーションに苦慮するニュースメディアにとっても、参考にすべきところが多い。


App Annie のピッチが終わると、TechTemple のボールルームはオープニング・パーティーの場と化した。北京は町が大きく、スタートアップは北西の中関村から、北東の三里屯まで随所に分散している。しかし、この日は北京の各地から、起業家や投資家が集まり、筆者も懐かしい顔ぶれと再会の杯を交わすことができた。

ちょうど TechTemple がある北新橋(ベイシンチャオ)のあたりを境に、北京は東側が新興開発地域、西側は北京古来の集落・胡同(フートン)がひしめき合う旧市街となっている。TechTemple から10分も歩けば、池を囲んで飲食店が並ぶエリア后海(ホーハイ)など、生活をカジュアルに楽しめる場も数多いので、スタートアップ文化が盛り上がるには、またとないロケーションだと思う。

最終回となる次稿では、第1部で紹介した中国のテックニュースメディア「36気(36Kr)」が教えてくれた中国の新進気鋭のスタートアップと、今回訪問することができた中国有名ネット企業の動向についてスポットを当てる。

techtemple2
ボードルームに集まる人々。
このスペースを活用して、さまざまなイベントが開催されることになるだろう。
techtemple4
パーティーで談笑する、北京のスタートアップ・コミュニティの人々。
筆者が北京でよく会う起業家や投資家も、もれなく招かれていた。
オープン間もないにもかかわらず、その存在が地元では十分に認知されているようだ。
techtemple3
レセプション兼カフェとなっている一角。
コーヒーが美味しかったので、「請給我一杯咖啡!」と連呼して、結果的にかなり飲んだ。
techtemple1
TechTemple の外観。北京・北新橋(ベイシンチャオ)の
天海商務大厦(ティエンハイ・ビジネスビル)の1F/2F を贅沢に使った空間だ。
----------[AD]----------

IVPが開設した北京のインキュベーション・スペース「TechTemple」を訪ねて(1/3)——スタートアップの梁山泊に集う、中国の星たち

SHARE:

THE BRIDGE では、中国のテックニュースメディア Technode(動点科技) からの配信記事を中心に中国のスタートアップの情報をお伝えしている。筆者も中国には足しげく通っている方だが、それでも中国のスタートアップ・シーンの全容を把握するのは、常々難しいと感じている。 11月11日~13日の3日間、筆者は Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)が開催した…

techtemple_interior

THE BRIDGE では、中国のテックニュースメディア Technode(動点科技) からの配信記事を中心に中国のスタートアップの情報をお伝えしている。筆者も中国には足しげく通っている方だが、それでも中国のスタートアップ・シーンの全容を把握するのは、常々難しいと感じている。

11月11日~13日の3日間、筆者は Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)が開催した LP Summit に帯同する機会を得た。LP Summit は年に数回、IVP が LP(ファンド出資者)を対象に投資先スタートアップを直接紹介する機会だが、先頃、IVP が北京市内にインキュベーション・スペース「Tech Temple(科技寺)」をオープンさせたので、今回はその披露を兼ねて特別に招待を受けたのだ。

Tech Temple を訪れた一行は、中国で勢いのあるスタートアップ8社からピッチを受けた。大勢の聴衆を対象にしたショーケース・イベントのピッチとは異なり、今回のそれは、スタートアップにとっては、出資してくれている投資家を前に、自分達の実力や可能性をアピールする好機だ。したがって、筆者も中国スタートアップの最近の情勢について深い知見を得ることができた。

中国の急進スタートアップが何を考え、どこを目指しているか、3回に分けてお伝えする。

36気(36Kr)

ccliu_snapshot
36気 CEO 劉成城氏

原子番号36とは、クリプトンのことだ。スーパーマンの出身地を連想させる名を持つこのテックブログは、CEO の劉成城(CC Liu)氏が、北京大学在学中の2012年に仲間と始めたものだ。現在では、編集部のチーム構成は約50名、1日に30本程度の記事を掲載しており、うち5〜6本はスタートアップに関するニュースを取り上げている。月平均2,000万ページビュー(モバイルを含む)、中国国内や国外の中華圏からのアクセスが中心だ。他の中国のテックブログの多くが中国国外のニュースや、騰訊(Tencent)や新浪(Sina)などの大手企業をフォローしているのと対照的に、36気は中国国内のスタートアップに主眼を置いた作りとなっている。

これまで、中国国内各地やアメリカ、香港などで2ヶ月に一度のペースでスタートアップ・イベントを開催してきた。直近の 11/10 に開催した杭州(上海から南西に100km、美人が多く Alibaba の本社があることでも有名)のイベントでは1,400人の参加者が集まったそうだ。後の調査によれば、そのうちの約3分の1が起業家だった。

今年はこれまでに800社を超えるスタートアップをカバーしており、ニュースサイトと並行して、(THE BRIDGE のそれにも似た)スタートアップのデータベースを構築中だ。現在の登録件数は15,000件、一日に50件以上のペースで登録プロジェクトが増えている。

ccliu_at_pitch
36気の創業当初の写真を示しながら、これまでの経緯を説明する劉成城氏。
当時、彼はまだ北京大学に通う学生だった。

データベースを開発しなければ、メディアとイベントで既にブレークイーブンなのだそうだが、そこを敢えて赤字覚悟で、データベース開発にリソースを投入している(全社員50名のうち、約20名がデータベースの運用開発に従事しているとのことだ)。

特にこのデータベースで目指したいのは、「どのスタートアップがどのVCから資金調達しているか」というだけでなく、そのVCの後ろにいる投資家が誰かとか、そのような情報を収集することで、スタートアップ・コミュニティの LinkedIn のようなものを作り上げ、投資家個人レベルで、どのような分野に興味があるのかを可視化したい。こうすることで、実際に資金調達が実行される前の、投資家と起業家の動きをアポを取る段階からフォローできるようになる。

2013q2-china-investment-piechart
36気が発行するレポートに含まれるグラフ。興味深いのは、実際に投資を行われた実績のみならず、投資実行前の投資家がどの分野のスタートアップに関心を抱いているかを定点観測している点だ。この報告は http://vdisk.weibo.com/s/unlAA-7mlFz02/1376620660 からダウンロードできる。

劉氏は、これらの活動を通じて、マネタイズよりも、スタートアップ文化圏の形成に役立つことを重視したいと考えている。将来的には、スタートアップのためのワンストップ・サービス——中国でスタートアップしたいと思った起業家が、必要な情報、モノ、人脈をすべて揃えられる場所、一例としては、Creww Marketplace や e27 の Bundles のようなサービスが考えられる——をビジネス化したいのだそうだ。

Goyoo

jerrywang_snapshot
Goyoo の CEO 王灏氏

中国では、どの街にもネットカフェ(網吧)が多く存在する。ブロードバンドやモバイルが一般家庭にまで普及した現在でも、中国でネットカフェが人気なのは、学生が家でネットしていると親に咎められるのに対し、ネットカフェなら人目を気にせず、下校時に友達と立ち寄って気楽にゲームを楽しめるからなのだそうだ。そんなネットカフェが中国には10数万店舗存在するが、そのうち、約3万店舗は Goyoo のシステムが導入されたネットカフェ「i8」だ。

3万店舗という数字をイメージしてもらうために、有名なチェーン店舗の数字と比較してみよう。

  • KFC … 世界に1.5万店舗、中国に3,500店舗
  • マクドナルド … 世界に3万店舗、中国に1,500店舗
  • セブンイレブン … 世界に4.2万店舗、中国に1,000店舗
  • スターバックス … 世界に1.7万店舗、中国に500店舗

これらの数字からもわかるように、中国国内だけで3万店舗という数字は群を抜いている。対人口比では、1万人に1軒の割合で i8 が存在することになる。(参考までに、ネットカフェ=PC방が多いとされる韓国では、2,500人に1軒の割合だ)

CEO 王灏(Jerry Wang)氏の説明によれば、Goyoo のしくみは、ネットカフェでユーザが使うパソコン上のランチャー、ゲーム、カフェ内のルータ、ゲームを蓄積するサーバなどで構成される。同社では、ネットカフェのユーザ画面に広告を流す AdPro というアドネットワークを運用しており、これが主な収入源だ。最高で1日に1.5億インプレッションを達成しており、この数字は AdPro のローンチから4ヶ月で達成したのだそうだ。ネットカフェのユーザを魅了する動画やゲームは、Goyoo のセンターサーバから各店舗の蓄積サーバに配信されており、その量は毎日約3GBに及ぶ。

adpro_image

AdPro が既存のアドネットワークと大きく違う点は、個人の属性がこの上なく細かく特定できることだ。Cookie などを使う方法とは異なり、ネットカフェでは利用に際して身分証明書の提示を求めるため、極端に言えば、誰がどのサイトを見ているかを把握でき、広告主は誰にどの広告を見せるかをより細かく選択できる。サイトを横断してユーザの動きをトラッキングすることも可能だ。

Goyoo は百度(Baidu)のパートナーDSPとしては世界最大で、現在のユーザカバレッジは約2,500万人。同社ではインプレッション、カバレッジ共に、2014年の春節(1月31日)までには、ほぼ倍の数字に達すると見ている。

今後はユーザのスマートフォン・シフトにあわせて、新サービス LeWifi を展開し、これを i8 以外のネットカフェやファーストフード店などに無料で配布する計画だ。LeWifi は、シスコのルータ Meraki に似て、完全にクラウド側でルータを管理制御することができ、トラフィックに連動して、このルータを配置してくれた店舗にはレベニューシェアする計画だ。2014年の売上目標は3,000万ドル、1日あたりの利用ユーザ数1億人を見込んでいる。LeWifi のルータは、中国全土 5万〜20万店舗に配置する。

lewifi_image

喜宝動力(Xibao)

alexfarfurnik_snapshot
喜宝CEO Alex Farfurnik氏

中国随一のEコマースサイトは、言わずと知れた「淘宝(Taobao)」だ。Amazon がアメリカのEコマース全体に占めるシェアが15%であるのに対し、淘宝は中国のEコマースの80%のシェアを持ち、その取引量は中国の全GDPの2〜3%に匹敵する。

淘宝は、プラットフォーム上に店舗を開設するための出店料がビジネスモデルと思われがちだが、実際には、その収入の多くを、店舗が自らのオンラインショップにユーザを誘導するための、サイト上に掲出した広告の料金から得ている。先頃、Yahoo! Japan が出店料を無料化したが、淘宝はこの流れに先行しているという見方もできる。

「淘宝村」と呼ばれるEコマースで生計を立てる街が中国各地に生まれるなど、多くの人が淘宝上にショップを開設しているが、彼らの多くは淘宝でモノを売るノウハウを持っていない。淘宝の広告プラットフォームを使うのが効果的だが、喜宝はそのためのソリューションを店舗オーナーに提供しており、システムによる最適化で広告出稿先の管理を支援する。

ロシア人とイスラエル人の両親を持つ、エネルギー感あふれる共同創業者 Alex Farfurnik によれば、料金は毎月定額制で、出稿する広告予算にあわせてパッケージを3つ用意している。料金は、フリーミアムが0〜100人民元(約1,700円)、スタンダードが1,000人民元(約17,000円)、VIPが15,000人民元(約25.2万円)+成果報酬。ローンチから17ヶ月が経過したプロダクト「超級車手(Super Driver)」は、有料プランを選ぶ顧客が4万社を超え、これまでに喜宝を経由して淘宝に支払われた広告料金は1.5億ドル(約150億円)にも上る。

tmall-1111
「独身の日(光棍節)」の11月11日を中国のネット業界はEコマースの日と位置づけている。この日だけで、淘宝傘下の天猫は350.19億元(約5,603億円)の売上を達成。楽天の優勝セール時の売上(1,426億円)の3倍以上である。写真はその際の天猫のモニタリングルームの様子。

もともとは中小企業を対象に始めたサービスだが、淘宝の広告パートナーとして最大規模となった現在、淘宝からの要望もあって、大手企業にもサービスを提供するようになり、男性ファッション大手の Jack & Jones は広告予算ゼロだったのが、喜宝経由で淘宝に広告を出稿するようになり、アウトドア用品の探路者(ToRead)は広告予算6,000万円相当全額を、喜宝に委ねて広告出稿を管理するようになった。現在、騰訊(Tencent)、奇虎(Qihoo)、京東商城(JD.com)、百度(Baidu)と提携関係にある。

淘宝でモノを売る店舗に消費者を誘導する場合、淘宝上に広告を出稿するのが一般的だが、例えば、淘宝のB2Cプラットフォーム天猫(Tmall)では、天猫に広告を出稿するより、奇虎に広告を出稿して消費者を誘導した方が(つまり外部のトラフィックを買った方が)、50倍コストパフォーマンスが高いというケースがあった。トランザクション、広告ROI など、すべての値を見ながらよい出稿先を制御するようにしている。

2014年には2つのアプリをリリースし、フリーミアムアカウント10万件を獲得したいとしている。

xibao-staff
11月11日の夜、TechTemple に泊まり込んで、サービスの運用を続ける喜宝のスタッフ。毎年この日は、昼夜臨戦態勢とのことだ。

課程格子(ClassBox)

litianfang_at_pitch
課程格子(ClassBox)のピッチをする、CEO李天放氏

学生が受講している講義の時間割を管理する上で、iPhone にデフォルト搭載されたカレンダーでは機能が十分ではない。どの講義をいつ受けるか、時間割を確実に捕捉するのは至難の技だ。そう考えた CEO の李天放氏が10日間かけてアプリのプロトタイプを作ったところ、3,000人が使ってくれたのが「課程格子」の始まりだ。

2012年9月にバージョン2をリリース。このバージョンでは UI を改善し、ウェブスクレイピングで、中国国内ほとんどの大学のサイトから講義の時間割を自動取得できるようにした。この機能を実装してから多くのユーザが使ってくれるようになった。同様のアプリは他にも存在するが、「課程格子」では講義情報の取込と登録が1分で完了する。それが有効に働いて、他アプリとの差別化につながったようだ。

リリースから1ヶ月で、中国全土500大学の100万人の学生が使うようになり、彼らが1,000万件の講義情報を登録するようになった。こうして、次第に「課程格子」は講義の時間割を管理するだけのアプリから、大学生のキャンパスライフをコーディネイトするアプリへと変貌を遂げて行った。

中国の大学では毎年9月に新年度を迎えるが、それに合わせて今年9月にはバージョン3をリリースし、大学生の将来のビジョン形成を助けるような取り組みを始めた。700大学には「課程格子」のファンコミュニティが存在し、彼らは勝手連的にアプリのことを宣伝してくれている。その結果、「課程格子」は中国で大学生に効果的にアプローチできるメディアとして認識されるようになり、ファッションコマースの凡客誠品(Vancl)や Evernote が資金を提供する形で、各大学に課程格子のポスターを掲出することができた。

「今、講義を受けていなくて、同じ大学の暇な学生は誰?」

「明日はどの講義が比較的空いている?」

次なる展開は、そんな検索をアプリ上で簡単に実現できるようにすることだ、とCEO の李氏は語った。

classbox_poster
凡客誠品(Vancl)や Evernote の提供で、課程格子(ClassBox)が中国全土の大学に掲出したポスター。

ここまで4社のスタートアップを紹介したが、いかがだっただろうか。TechTemple に集まっているスタートアップは、売上やユーザ数の規模において、我々がよく目にする日本のスタートアップの指標よりも一桁大きい。今回のピッチに聞き入っていた人々からも、紹介される数字に度々圧倒される様子が見て取れた。

次稿では、引き続きピッチを繰り広げたスタートアップ各社の紹介と、TechTemple に集まる起業家から聞いた、北京のコミュニティの最新動向を中心に取り上げたい。

第2部に続く)

working-at-techtemple

----------[AD]----------