IVPが開設した北京のインキュベーション・スペース「TechTemple」を訪ねて(2/3)——中国のスマホシフトを牽引する、新進気鋭スタートアップ

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Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)は先頃、北京市内にインキュベーション・スペース「Tech Temple(科技寺)」したが、筆者は11月11日~13日の3日間、IVP の LP Summit に帯同する形で、Tech Temple(科技寺) を訪問する機会を得た。前回に引き続き、その際のピッチの模様をお届けする。

今回ピッチした8社のうち、後半の4社は特にモバイル、特にスマートフォンに特化したソリューションを提供するスタートアップが多数を占めた。古くは山寨機(シャンザイキ)、最近では小米(Xiaomi)がスマホベンダーとして台頭するなど、これからの世界のスマホ業界を牽引するのは Saumsung や HTC ではなく、中国のスタートアップかもしれない、そんな思いを新たにさせられる、一連のセッションだった。

安米網(Appbyme)

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安米は、アプリの開発やデザインの経験の無い人たちに、自らアプリを作る環境を与えてくれるクラウドサービスだ。アメリカにも、InvisionFlinto など、スマートデバイス・アプリのプロトタイピングを実現してくれるサービスは存在するが、安米ではアプリ開発を完結し、マネタイズまで支援する。

中国国内には、DiscuzphpwindWordPress などPHPのよるCMSを使って、BBS(電子掲示板)を運営しているウェブマスターが多数存在する。BBSには既にユーザがついているので、スマートデバイスのネイティブアプリ 化をすると、そのままアプリのユーザになってくれるわけだ。ウェブマスターはテンプレートを選択して簡単に アプリが作成でき、プッシュ通知、ローカル広告、位置情報ゲーム、ソーシャルメディアによる共有機能、共同購入などの機能が自動的に追加できる。

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安米網CEO 趙健氏

安米の共同創業者である趙健(Zhao Jian)氏は、安米を始める前、中国のケータイ向け検索エンジン「YICHA(易査)」の技術責任者を務めていた。あらゆるサービスがモバイル化されていく中で、モバイルではコンテンツが検索しにくくなることに問題を感じており、モバイルでも十分に機能する検索のしくみを作りたいというのが、彼のビジョンだ。

これまでに、安米には5,400人のウェブマスターが登録していて、ここから5万件を超えるアプリがリリースされている。そのアプリを使うユーザの数は計3,000万人。同じ分野には、中国の AppCan追信(Zhuixin)などが存在するが、ユーザ数やアプリの数の点で、安米は他の群を抜いている。ビジネスモデルは、広告、開発者とのレベニューシェア、大規模デベロッパ向けのサブスクリプションの3つだ。

中国のBBSコミュニティには、北京や上海などの中央からは完全に独立したエコシステムが存在するようだ。趙氏によれば、地元の情報が手に入る地方都市のポータルがホットで、中でも、浙江省のある都市のポータルなどは非常に人気が高い。そこには、中央のウェブサイトにはないビジネスが存在し、安米は地方のウェブコミュニティに眠るビジネスチャンスを着実にマネタイズしていこうとしている。今後は、サービスを英語、日本語、韓国語にも対応させ海外展開を図る。

SayHi!(日本名:スマとも)

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SayHi!(スマとも)は、世界に展開している出会い系アプリで、デイリーアクティブユーザ(DAU)は65万人に上る。ユーザ はサウジアラビアなど中東に多く、そのほか、日本を含むアジア地域など。中国で開発されているアプリだが、 中国ではサービスしていない。市場の需要やマネタイゼーションの関係で、中国で開発しながら国外にのみ展開しているサービスが少なくない。

スマともでは、GPS 連動でユーザは近隣の他ユーザとチャットすることができるが、チャットするにはポイントが必要で、男性陣が人気のある女性とチャットするときには、1時間 につき1ポイントが徴収される。月額6,000円のVIP会員になれば、時間を気にせずチャットを楽しむことができる。

開発元の易思卓(Easyroid)CEO 史岩(Shi Yan)氏によれば、現在、iOSAndroid、Windows Mobile 向けにアプリを提供しており、画面全体にアニメーションが動く機能などによって、他のメッセンジャーアプリ等とも差別化を図っており、売上ベースで全体の29%が日本市場からもたらされているとのことだ。

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ピッチする、易思卓(Easyroid)CEO 史岩氏。

同様の機能を持つメッセンジャーアプリとしては、中国では Momo(陌陌)遇見などが強いが、世界的に見ると、BadooSkout などがより収益を挙げている。今後、SayHi! はエンターテイメント機能、ゲーム機能を追加し、ライバルアプリとの差別化を図りたい意向だ。

微世界(vWorld)

vworld_snapshot微世界(vWorld)の CEO を務める高嵩(Gao Song)氏は、かつて、金山軟件(HKG:3888、Kingsoft)のゲーム部門だった上水軒で、最高責任者を務めた人物だ。高氏によれば、中国のスマートフォンユーザは、主に学生とホワイトカラーからなる3億5,400万人に上るという。彼らには共通する特性がある。

  • 幼い頃からゲームに親しんできたので、ゲームのクオリティにはうるさい。
  • ソーシャルメディアを使ったシェアに慣れている。
  • 競争心が強い。

微世界は、リアルな場所の陣地取りをモバイルで楽しめるゲームアプリだ。Foursquare でチェックインの数を競ってメイヤーになるのではなく、ユーザ同士がゲーム上で戦い、その結果勝てれば、その場所のリーダーになることができる。勝ち進めるごとにポイントも上がって行く。

ゲーム上で北京市内のさまざまな場所を攻めて陣地を確保できたら、次は上海に行って攻める、というような世界感を提供したいと考えている。アプリはGPSと連動していて、高徳(Autonavi)のAPIを使って実在の場所と紐づく仕掛けになっているため、ゲームを使ったO2O(online to offline)サービスでマネタイズすることを展望している。

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vWorld CEO 高嵩氏

近日、映画のプロモーションをアプリ上で行い、アプリの中でチケットの購入まで行えてしまうサービスのテストを実施する予定だ。現在はまだオープンベータ版によるテスト中だが、来年の春節(1月31日)までにユーザ数100万人、DAU(デイリーアクティブユーザ数)10万人にまで持って行きたいとしている。

App Annie

THE BRIDGE ではモバイルアプリを紹介する際、頻繁に App Annie の値を引用するので、読者の多くにとっては、App Annie のサービスがどのようなものであるか、改めて説明は不要かもしれない。初めてこの名前を目にする人のために説明すると、モバイルアプリのダウンロード統計プラットフォームだ。iOS / Android / BlackBerry / Windows Mobile などのモバイルアプリについて、どのアプリがどの市場で人気で、どの程度稼いでいるかを知ることができる。

App Annie は本社を北京に置いているが、同社CEO Bertrant Schmitt によれば、現在、世界6都市のオフィスに130人の社員を擁している。今年の9月、シリーズCラウンドで Sequoia Capital、IDG Capital Partners、Greycroft Partners、Infinity Venture Partners から1,500万ドルを調達したのは記憶に新しいところだ。

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App Annie CEO Bertrant Schmitt

Bertrant は、App Annie の成長の経緯よりも、むしろ、世界のモバイルアプリの動向について知見を共有してくれた。現在のモバイルアプリ業界を見てみると、中国では iOS AppStore が成長しているのに対し、中国を除いた BRIC(ブラジル、ロシア、インド)では Google Play が著しい躍進を見せている。一方、売り上げベースで見てみると、やはり大きな数字をたたき出しているのは先進国が中心で、Android アプリの調子がいいのはアメリカと日本、特に Android と iOS の売上がうまくバランスがとれているのが日本市場、ということだ。(いずれも2013年9月現在のデータ)

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アプリ・デベロッパにとっては、自分のアプリがどの市場でどの程度売れているのか、正確な情報がわからないと開発やデザインの戦略プランを描くことができない。App Annie で市場動向を把握し、さまざまなグロースハック・ツール等を活用することで、デベロッパが〝売れるアプリ〟を試行錯誤するためのプロセスは格段に効率的になった。

App Annie 統計の概要をインフォグラフィックの形で公開して呼び水にし、想定顧客を自社サイトに誘導している。より詳細な情報が欲しい顧客にはプレミアムアカウントで情報を販売する、というビジネスモデルは、マネタイゼーションに苦慮するニュースメディアにとっても、参考にすべきところが多い。


App Annie のピッチが終わると、TechTemple のボールルームはオープニング・パーティーの場と化した。北京は町が大きく、スタートアップは北西の中関村から、北東の三里屯まで随所に分散している。しかし、この日は北京の各地から、起業家や投資家が集まり、筆者も懐かしい顔ぶれと再会の杯を交わすことができた。

ちょうど TechTemple がある北新橋(ベイシンチャオ)のあたりを境に、北京は東側が新興開発地域、西側は北京古来の集落・胡同(フートン)がひしめき合う旧市街となっている。TechTemple から10分も歩けば、池を囲んで飲食店が並ぶエリア后海(ホーハイ)など、生活をカジュアルに楽しめる場も数多いので、スタートアップ文化が盛り上がるには、またとないロケーションだと思う。

最終回となる次稿では、第1部で紹介した中国のテックニュースメディア「36気(36Kr)」が教えてくれた中国の新進気鋭のスタートアップと、今回訪問することができた中国有名ネット企業の動向についてスポットを当てる。

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ボードルームに集まる人々。
このスペースを活用して、さまざまなイベントが開催されることになるだろう。
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パーティーで談笑する、北京のスタートアップ・コミュニティの人々。
筆者が北京でよく会う起業家や投資家も、もれなく招かれていた。
オープン間もないにもかかわらず、その存在が地元では十分に認知されているようだ。
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レセプション兼カフェとなっている一角。
コーヒーが美味しかったので、「請給我一杯咖啡!」と連呼して、結果的にかなり飲んだ。
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TechTemple の外観。北京・北新橋(ベイシンチャオ)の
天海商務大厦(ティエンハイ・ビジネスビル)の1F/2F を贅沢に使った空間だ。
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