IVPが開設した北京のインキュベーション・スペース「TechTemple」を訪ねて(3/3)——百度、小米、今年の中国テックシーンをにぎわせた面白スタートアップ

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Infinity Venture Partners(以下、IVP と略す)が北京市内に開設したインキュベーション・スペース「TechTemple(科技寺)」の訪問記を三回に分けて書いてきたが、いよいよ最終回だ。

今回は、中国で勢いのあるスタートアップ・ニュースサイト「36気(36kr)」の CEO 劉成城(CC Liu)氏が直々に教えてくれた、中国で人気を博す面白スタートアップと、百度(Baidu)とXiaomi(小米)の訪問についてお伝えする。

ただ一人の女性にしかバラを贈れない「Roseonly

第一話で触れた11月11日の「独身の日(光棍節)」をはじめ、カレンダーに記念日を見つけては商いの種にするのは、ビジネスに長けた中華民族のDNAが成し得る技かもしれない。中国の七夕は旧暦で祝われるため8月26日。バレンタインデーを「情人節」と呼ぶのに対し、8月26日を「中国情人節」と呼んで、恋人にプレゼントを送る年に二度目の日とされているらしい。そして、この好機を中国のeコマースサイトが見逃すわけが無い。

THE BRIDGE では、以前この記事でも紹介したが、Roseonly は今年9月にオープンしたばかりのオンラインフラワーストアだ。料金は1,000元(約1.7万円)とかなり高級志向だが、贈る相手を指定すると、イケメンが相手の元まで BMW でバラを届けてくれる。

このサイトが面白いのは、サインアップの際、男性ユーザが身分証を登録する必要があり、バラを贈る相手の女性が一人しか登録できないことだ。つまり、二股三股をかけている男性はこのサービスを使えず(正確に言うと使えるが、その中の一人にしかバラを贈れない)、一度登録した相手の女性は基本的に変更ができない。つまり、Roseonly にサインアップしたときに付き合っていたガールフレンドと break up した場合、新しく付き合うガールフレンドには Roseonly からバラを贈れないことになる。

前述の「中国情人節」の日に、Roseonly は実に1,100万人民元(1億8,700万円)を売り上げた。ざっくりで、1.1万人の男性がこの日に Roseonly を使った計算になる。この実績をもとに、Roseonly はさっそく、Tencent(騰訊)から、シリーズBラウンドで1,000万ドルを調達した

バラの次には、特定の女性に対してのみ、チョコレートを贈れるサービスを計画しているとのことだ。おそらく、来年の2月14日を見据えた動きと考えて間違いない。Roseonly のサービスでバラやチョコレートを受け取る女性からしてみれば、相手の男性は「自分にとって本命」ということを担保できるのかもしれないが、残念ながら、このサービスを受けた女性のコメントを取る機会は無かったので、彼女達の真意は今のところ不明である。

いつでもどこでも、アヒルの首を30分でお届け「哈哈鏡鴨脖(Magic Mirror Duck Necks)

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中国では、アヒルの首の肉がごちそうらしい。哈哈鏡(中国語で、「ハーハージン」)は、中国全土に1,600店舗を有するアヒル肉専門のチェーン店で、オーダーするとどこでも30分以内(おそらく田舎は無理)に料理を届けてくれる。日本でピザのデリバリーを頼むのより速いかもしれない。

哈哈鏡は営業開始から4年目だが、年商は実に7億元(約120億円)に達する。ちなみに、日本の宅配ピザ最大手のピザーラは535店舗、TO THE HERBSなども加えた全事業で、年商570億円に成長するまでに20年かかっていることを考えると、哈哈鏡のスピードがいかに速いかがわかる。

とはいっても、日常的にアヒルの首を食べている人を見かけるわけではないので、まだまだ筆者も中国体験が浅いと思っていたら、哈哈鏡のターゲット層は、週末に家から外出しない中国のオタク族なのだと教えてくれた。彼らは、Tokyo Otaku Mode優酷(Youku)でSNH48の動画を見ながら、今日もアヒルの首をほおばっているに違いない。

名実ともに、中国の Google となった百度(Baidu)

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TechTemple でのピッチの合間を縫って、百度(Baidu)の本社を訪れることができた。百度は、中国のIT企業が軒を連ねる中関村軟件園(ソフトウェアパーク)の一角にある。筆者は中関村を十回以上訪れているのだが、想像以上に中関村と呼ばれるエリアが広いことを、今回初めて知った。北京の北西部概ね半径3キロ位はあるだろうか。最初に訪れた頃から膨張しているように思われ、もはや「村」という表現は合わないような気もする。

玄関を入ると、1Fのロビーには、中国全土からいかにアクセスが寄せられているかを示す地図が表示されていたが(写真下)、ここでシャッターを切ったのを最後に、多くの大手ネット企業等と同じく撮影禁止ということで、オフィス内の写真は無い。CEO の李彦宏(Robin Lee)氏が創業して今日に至るまでの、百度の経緯が説明された部屋に案内されるので、北京を訪問する予定のある読者は、ぜひ百度にも足を運んでみることをお勧めする。創業者・李彦宏氏については、以下のスライド「李彦宏の百度世界」が詳しいので参考にしてほしい。

百度では、日本でもサービスを展開する Hao123 の説明を受けたが、Hao123 についてはこの拙稿に詳しいので、ここでは省略する。

本社前の通りには、社員の通勤送迎をするバスが所狭しと並んでいた。北京市内は地下鉄が発達しているものの、通勤ラッシュは日本と同等かそれ以上に混雑がひどく、おそらく、バスは優秀な社員に百度で働き続けてもらうための一つの手段でもある。その光景はどこかで見た記憶が…そうだ Google だ。どこまでもが Google に似ているが、Google を超える日も近いかもしれない。

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ファンコミュニティを形成し、中国人の日常に浸透しつつある小米(Xiaomi)

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小米(Xiaomi) は、以前、金山軟件(Kingsoft)というソフト会社を経営していた雷軍(Lei Jun)氏が創業した、スマートフォンメーカーだ。先月末、小米が微信(WeChat)を使って、15万台のスマートフォンを10分間で完売したという話は、記憶に新しい。2012年の販売実績は、スマートフォン719万台で売上は126億元(約2,140億円)。ちなみに、2013年は第一四半期だけで既に703万台/132億元(2,240億円)を売っているので、急激な成長曲線を描いているのは間違いないだろう。

世界のスマートフォンメーカーが、ハードウェアをモデルチェンジし続け、新機種を客に買ってもらうことで需要を創出しているのに対し、小米には基本的にその考え方が無い。その現れとして、45機種あるすべての小米のスマートフォンに対し、週に一度はファームウェアのアップデートを配信している。これまでに通算で163回のアップデートを実施したそうだ。典型的なスマートフォン・メーカーやキャリアとは、明らかにビジネスモデルが違うのである。

これ以外にも、小米社区と呼ばれる掲示板では、ユーザーから寄せられたすべての質問について小米社員が回答している。また、小米の名前になぞらえて「小米爆米花全国行(Xiaomi Popcorn All-China Tour)」と呼ばれるファンイベントを、これまでに中国全土で26回にわたり開催している。昨年の重慶で行われたイベントの様子が上がっていたので(下)、これを見ればイメージが湧くだろう。いずれにせよ、小米と小米ユーザの距離が非常に近く、常にユーザファーストで物事が進められている。概して、中国企業はユーザ・ホスピタビリティが低いとされる中、筆者の目には非常に意外に映った。

最近では、ブロードバンド回線を使った Apple TV のようなサービス「小米盒子(Xiaomi Hezi)」、写真やメッセージがやりとりできるクラウドサービス「小米雲(MiCloud)」、メッセージアプリ「米聊(Miliao)」など、小米のサービス多角化展開には目を見はるものがある。その規模やサービスの完成度から言えば、十分に中国国外にも展開を始めてもよさそうなもので、十分に日米欧の同業他社と張り合えるレベルだが、それをやらないのは、現時点では、同社が中国国外に大きな関心が無いからかもしれない。

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今回の訪中を受けて、改めて頭の中を整理してみたのだが、中国のスタートアップやインターネット企業は2つに大別できると思う。中国国内に市場を求めるサービスと、中国国外に市場を求めるサービスだ。

前者は国内の莫大な人口がポテンシャルユーザであるため、語弊を恐れずに言えば、基本的に中国国外への世界展開には興味がない。これは、アメリカのスタートアップがサービスのグローバル化にはあまり関心がなかったり(たまたま、アメリカ市場向けに作ったものが、世界のユーザにフォローされるケース)、日本のスタートアップが海外展開に積極的ではなかったり(国内に相応規模の市場があるケース)するのと、事情は似ているかもしれない。対照的に、韓国や東南アジア諸国など、国内に十分な市場が無い地域のスタートアップは海外進出が前提条件である。

一方、後者は、外国人がローンチしているサービスが多い。第二話で紹介した AppAnnie などはその典型であろう。政治的な諸問題や PM2.5 に代表される社会不安がありながらも、「中国は第二の故郷」と言って本拠地を北京に据える彼らは、ネガティブな側面にまさる可能性をこの国に感じているのだろう。

THE BRIDGE のパートナーでもある Technode も、北京の798芸術区に「The Node」というコワーキング・スペースを開設するなど、北京のスタートアップ・シーンは以前に増して活況を呈している。今後も THE BRIDGE では中国のスタートアップの最新情報をお伝えしていきたい。

最後に、今回の TechTemple 訪問をはじめ、貴重な機会への帯同を許可いただいた、Infinity Venture Partners の皆さんに紙面を借りて謝意を表する。

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